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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
すべてのおわりに
32/35

崩壊 前篇

玄関から静かに2人で手を取り合って人目を避けよるように、

周囲を見渡しながらイリスの部屋へと入ってゆく。


「アルバートの野郎…… 」


カイルが恨めしそうに呟く。

確かにみんなで「彼女作ろうぜ」と話し合ったがまさか一番奥手なアルバートが幸せになっていたらさぞ悔しいことだろう。

かくいう俺も年下が童貞を捨てるであろう場面を見て何も思わないわけではない。


非常にうらやま妬ましいです。

何かいたずらでもいた方がいいのでしょうか。


「もうそういう想像しかできないよね。」


「どういうことにゃ?」


「いや……、カイルが詳しいらしよ?」


ノルンの無垢な質問に俺は言葉に詰まってカイルに話題を投げつけた。

ほら俺が説明するときれいなモノを穢してしまう気がして。


「そうなの?」


「おい、答えにくいからって俺に振るなよ。俺から伝えたらただの変態じゃないか。

むしろルナの方が同性同士で話しやすいだろ。」


確かに。今の姿のことをすっかり忘れてたよ。

「仕方ないな」とため息をつくと俺はノルンにそっと近づくと耳元で事の成り行きと、

おそらく今しているだろうことについて話した。


ノルンは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにイリスの部屋を注視して固まっていた。

しばらく沈黙が続きイリスの部屋から微かに物音が聞こえ始めて気まずくなった俺は口を開く。


「ね、ねぇ部屋で話すんでしょ? なら行こうよ。」


「お、おう。そうだな……」


「にゃ」


==================================================================


いつの間にか寝てしまったようで起き上がると目の前にすやすやと寝息を立てたノルンがいた。

彼女を起こさないようにそっと布団をかけて自分はベッドに腰かける。

自身の服装を見れば普段着のスカートを着たままだ。


(何してたんだっけ? )


周囲を見回して徐々に眠る前の記憶が蘇る。

あれから俺の部屋にカイルとノルンが集まって食べたり飲んだりと駄弁っていた。

部屋の中は宴会があったことを示すようにゴミが散乱している。


カイルはやけになっている様で途中からお酒が登場し始めて完全に飲み会状態だった。

皆俺より年下だから酒は飲めないと思っていたが、よくよく考えればみんなこの世界で成人を迎えているんだよな。

すっかり忘れてたよ。


変な時間に起きてしまったから目が覚めてしまったようだ。

意識が明瞭になっていく。月明かりが窓から差し込んで部屋をやさしく照らしている。

これなら明かりをつけずともちょっと掃除くらいできそうだ。


そしてベッドから足を地面に置いて立ち上がろうとすると何かを踏んだ。

なんか大きな物体を踏んだように思う。

しかも結構固いような。


真下を向くと―――――


(あっ、カイル……)


「う、うう。」


下にはカイルが大の字で寝ていた。

俺の足はちょうど彼の腹のあたりを踏みつけていて慌ててどかす。

てかこいつもここで寝てたのかよ。


仕方ないとカイルの顔の方を見ながら大きな障害物を飛び越えるために、

大きく足を広げて下で寝ている男を踏まないように慎重にゆっくりと大股を広げて乗り越える。


左足を前に踏み出してちょうどカイルを仁王立ちで見下ろすような態勢になり足元に気を付けながら反対の足を運ぶ。


「ん?」


あとちょっとで障害物を超えられると思ったら下にいる物体が急に動いたので驚いて立ち止まる。

身長が低くなったから大股でゆっくり動くのは結構大変だったんだぞ?

そもそも結局起きるなら最初から起こしてどかした方が楽だったような……

俺の気遣いが徒労に終わりやるせない気持ちをぶつけるべくきょとんとしているカイル目が合ったので俺は言った。


「なんで今起きるんだよ!」


「え、いや。あー、う~ん。」


曖昧な視線が俺をはっきりと捉えはじめるとどこか顔を真っ赤にしてばつが悪そうに唸る。


「何唸ってるの?」


「いやパンツが見えてるぞ。」


「ななな、なに見てるの!」


ばっとスカート抑えて隠すと、急に恥ずかしくなって早くこの場を離れようと右足を移動する。


「ピンク……」


ぼそっと気恥ずかしそうに呟くとはっとなって両手で目隠ししてそっぽを向くと言った。


「わわざとじゃないぞ? 起きたら目の前に、その。あったんだ。」


「それ以上言うな。」


不可抗力だったんだと言い訳を始めた奴に蹴りを入れて黙らせる。

これ以上先ほどのことを思い出したくない。


「ぐあ。」


どこか軽い声で短く唸っている。

軽く蹴ったが痛みはあるようで体が防御しようと反応した。

すると足が俺の膝に当たってバランスが―――――


「うわわあ。」


咄嗟に倒れまいと踏ん張るが完全にバランスを崩していたようで成す術もなく倒れてしまう。

カイルの上に覆いかぶさるように倒れたようで大した痛みはない。


「大丈夫?」


俺を気遣うカイルをよくよく見ればカイルが俺の肩を抑えてくれている。

どうやら痛くないように自分の上に落ちるように誘導してくれたみたいだ。

自分が蹴ったせいで今の結果になってしまったので罪悪感が胸を刺す。


「ごめん。私は大丈夫。カイルは?」


「よかった。俺も大丈夫だよ。」


「でも私がそのまま倒れちゃったから痛かったでしょ?」


「ふふん。好きな女の子を守れたんだ。男としては誇らしい限りだよ。」


カイルはどこか誇らしげにそう言うとしきりに俺の方を見る。

さらっとイケメンなセリフを言ったつもりだろうが、

そんな甘い言葉を言われてもうれしくなんてないんだからね!


心の中でよくわからないツンデレな発言に「何を言ってるんだ俺は」と思いながら、

カイルがもぞもぞしている事に気が付き言った。


「うん? どうしたの?」


「いや、その身体が……」


身体がなんだって? よく聞こえなかった。

その時だった日常ではまず聞きえない、

まるで世界がこの音と共に壊れてしまうのではないかと思うほど轟音が鳴り響く。


「なんだ?」と俺が疑問を口にして立ち上がろうとすると、

カイルが転がるように俺を床におろしてその上に覆いかぶさる。

まるで俺を守るように自身の身体で俺を包み込む。


何をしてるんだ、動けないじゃないか。

そう言おうとして横をみると布団ごとずり落ちたノルンが横にいた。

どうしてそこに? と考えてカイルの左手が布団を離して身を屈めている。


咄嗟に俺だけでなくノルンも守ってくれているようだ。

急に布団ごと地面に落とされたノルンは目を白黒させて何事かと動転している。


そして窓が揺れたと思ったら甲高い音と共にガラスが飛び散り、

下から突き上げるような感覚の後に世界が水の上に浮かぶ葉の様に左右に揺れ始めた。


部屋がメシメシと音を立てて軋み今にも崩れそうだ。

戸棚から引き出しが開いては閉じて物が飛び出てしまう。


「もう大丈夫みたいだ。」


しばらくして揺れが収まり安全を確認するとカイルは立ち上がる。

それに続いて俺とノルンもゆっくりと起き上がる。


「カイルありがとう。」


「ありがとにゃ~」


「ごめん、ノルン。咄嗟だったから少し雑にだったかも。」


「急に落ちて、びっくりした。でも感謝してるにゃ~」


ぶんぶん頭を振ってカイルにお礼を言うノルン。

それを見てホッと胸を撫で下ろすとカイルは言った。


「アルバートたちは大丈夫かな。」


「そうだね、でもその前に装備しっかりと取っておいた方がいい。」


「そうだな。」


ただ事でないのは間違いない。ならば準備はしておいて損はないだろう。

俺たちは手短に必要最低限の装備を手にすると1階へと向かった。

もちろん戦えるように俺は刀を帯刀してカイルは盾と剣を装備している。


道中花月荘は床が抜けていたり家具が倒れていたりとボロボロになっていた。

さっきの揺れは地震だったのだろうか。いや何か違う気がする。

地震なら揺れて音がするはずだ。だが今回は逆だった。

どちらかというとミサイルか何かで町が壊れてその衝撃波が襲ったような……

だがこの世界にミサイルはない。ならば何が。

今考えても仕方ないことだとぶんぶんと頭を振って思考を中断する。

そして階段を下りるとアルバートとイリスが部屋の前にいた。


「あっ、カイルたちも無事だったんだね。」


意外にもいつも小心者のアルバートが今日はなぜか落ち着いている。

こんな状況なら慌てふためいてパニックになっていそうなイメージだが、

守るものを得た男というのは"違う"のかもしれない。


「ああ、俺たちは大丈夫だ。」


アルバートが俺たちを発見すると心配そうに1人1人を順に見てこちらの状況について聞く。

代表してカイルが全員無事である旨を伝えると続けて言った。


「そういえばレイチェル先生は無事なのか?」


「ごめん、僕たちもまだ部屋を出たばかりだからわからない。」


「じゃあ見に行こう。」


「花月荘が……」


イリスが不安そうに声を震わせて言った。

するとアルバートがイリスの肩を抱いて言った。


「大丈夫。寮はボロボロだけどみんな生きてるし、落ち着いたらまた直せばいいんだよ。ね?」


「そうだよね……」


アルバートが励ましながらレイチェルが住む家へと向かう。

イリスの部屋から真っすぐ直進してドアを開ければ寮母宅だ。

学生寮と寮母宅をつなぐドアを開けようと引っ張るが家全体が歪んだせかビクともしない。


「うーん。ドアが馬鹿になってるな。」


「開かないな。じゃあ―――」


カイルがそう言うと魔力を拳に溜めてドアにぶち込んだ。

大きな音と共にドアは吹き飛び道ができる。

そしてカイルは振り返ると頭を掻きながら言った。


「緊急事態だしレイチェル先生も許してくれるだろう。さぁ、行こう。」


「そうだな。」


俺たちがレイチェルの部屋に入るといつもみんなで食事をしていた広間に出る。

そこで目に入ったのは―――――――――






















「レイチェル先生……

きゃああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


イリスの悲鳴が木霊する。

アルバートが絶句して事切れたレイチェルを見下ろして立ち尽くす。

大きく穴の開いた壁から差し込む月明かりが彼女がまるで舞台の主人公のようにスポットしている。


「ひぃ」


ノルンも小さく声を上げると今にも泣きだしそうな表情で地面にへたり込む。

カイルも呆然と気が抜けている。


みんなまさか身近な人間が死ぬとは思っていなかったのだろう。

俺も元の世界にいたころそんなことを考えたこともない。

でも―――――


今の俺はこの状況を冷静に分析してしまう。

レイチェルは何かに貫かれたのか腹部に大きな穴が開いている。

顔色や血の色と量からしてもう息がないのは間違いない。

だが死因は何だ? 何が刺さっていたのだろう?

あったはずのものがない。それに抵抗したのか部屋には戦闘をした形跡がある。

不自然な壁の傷、大きく穴の開いた壁、湿り気のある床がそれを指し示している。


こういう光景に見慣れている俺はすぐに周囲を確認していると、

広間の隣にあるキッチンに黒い人型が動くのを発見する。

すぐさま魔法を詠唱する。


「先生!」


イリスがレイチェルに駆け寄ろうとする。

俺は片手でそれを制止する。


「ルナ! なんで止めるの!!!」


怒りを滲ませて俺に怒鳴る。

だが俺は彼女の問いに答えず敵を見据えて言った。


「ファイアアロー」


皆にもわかるようにあえて大きな声で宣言するとキッチンを指さし無数の炎の矢を放った。

修行で詠唱速度が速くなり魔法自体も強化さた。

かつてとは攻撃力が一回りも二回りも違う魔法が隠れる影キッチンごと貫くように炎の矢が飛ぶ。


被弾するとすぐにキッチンに火の手があがる。

あの様子なら隠れていることはできないはずだ。


「何をしてるの!!!!!!」


イリスが意味がわからないと俺に掴み掛ってくる。

俺はその手を払いのけると言った。


「敵がいるんだ。今はそれに集中しろ。」


「今なら先生を治せるかもしれないじゃない。」


イリスは冷静さを欠いているようで俺に突っかかってくる。

先ほどの攻撃で敵がいると認識できていないようだ。

俺は警戒を怠らないように気を付けながらイリスを諭すように言った。


「無理だとわかるだろう。イリス。この中じゃお前が一番治癒魔法がうまいはずだ。

受け入れるんだ。先生は死んだ。もう今からじゃ何もできない。」


「なんでルナはそんなに冷静なの! 先生が、先生が死んだんだよ。

あなたも先生にお世話になったはずなのになんでそんな冷静にいられるの。何も思わないの!」


「ルナ右だ!!!!!!!!!!」


そう叫ぶ声に従い横を向くと黒い人型のモノが殺意を持ってこちらに向かってくる。

どう対処するか考えて硬直しているとカイルが咄嗟に盾をぶつけて人型の物体を吹き飛ばす。

居間の中央で膝をつくと"ソレ"からは所々赤い血がにじみ出ている。

人外の姿をしつつも人と同じ血を流してる姿が余計に不気味さを醸し出す。


「黒い人間?」


カイルは得体のしれない存在に恐怖を覚えたのか止めを刺そうと一歩踏み出したがすぐに後ずさっている。

俺はその様子を見て即座にイリス避けて縮地で距離を詰めると膝まづく黒い人型の首を刀で撥ねた。


「痛いいたいイタイ痛いイタイいたい痛いいたいイタイ痛いいたいイタイ痛いイタイいたい」


首が落ちた後もしばらく苦痛に悶えて呪詛のように「痛い」と言い続ける。

やがて静かになり事切れたことを確認すると刀の血を払うと鞘に納めた。


「化け物!! 人だったかもしれないのに。なんで、なんで殺したの!!!!!!」


イリスがそう叫ぶと先ほどよりも幾分落ち着いたアルバートが制止する。

そしてアルバートがイリスを包むように抱くと言った。


「駄目だよ。イリス、そんなひどいこと言っちゃ。

冷静に考えればレイチェル先生は亡くなってるのはすぐにわかる事だし、

近くに敵がいてそいつが先生を殺したのかもしれない。

動揺していたらこちらが殺されてしまう。だからルナさんは平静であるように行動したんだ。

身近な人が死んで悲しくないわけないだろう!」


愛する人の言葉だからか。それとも筋の通った話だったからか。

イリスは徐々に落ち着きを取り戻した。そして言った。


「ごめんなさい。ひどい事言って。

そうよね。ルナが落ち着いて行動してくれなければあそこで全員死んでたかもしれないのに……」


「いや気にしなくていいよ。俺も緊急事態だからってぶっきらぼうな態度だったから。」


「さぁ、仲直りしたんだったら外の状況を確認に行こう。

まずは何が起きてるか把握しないと。」


カイルの後に続いて俺たちは寮を後にした。

その背中を追うように歩く。

そのとき俺は見た。

カイルが悔しそうに拳を握りしめるのを。


そして外に出た俺たちは驚愕する。

なぜなら――――――――――――――――








最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。


# 年内の更新は今回がラストかもしれません。

# 余裕があればあと1話投稿予定。

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