表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
すべてのおわりに
30/35

平穏な時

「にゃにゃ、にゃっと。」


陽気な掛け声と共に何かが移動する音がする。

そして俺の額にひんやりと冷たい何かが置かれた。

聞きなれた声がノルンのものだと気が付くのに少し時間を要した。

なんだかぼーっとする。


少しずつ頭が回転し始めた頃カイルが語り出した。


「それにしてもこうして見ると孝也がルナだったんだな。」


「そうにゃ。」


「やっぱりノルンは知ってたのか。」


「ごめん。言わなくて。」


ノルンのショボンとした気持ちを表すように語調が尻つぼみになる。


「いやそう言うつもりで言ったんだじゃないよ。ちゃんと本人から聞けたしね。」


そんな姿を見たカイルが慌てて訂正する。

きっとそれを聞いたノルンは安堵しているだろう。

そして一息つくとノルンが言った。


「それでカイルはどうする、にゃ?」


「どうするって? ああ。ルナとの関係か。

あれから考えたんだが、俺、孝也と比べて頭悪いからな。

どうでもいいんだよ。孝也とルナが同一人物とかさ。

それよりルナって人間が確かに存在していた事が嬉しいかな?」


「そんざい、ってあたりまえじゃ?」


本当だよ。人を幽霊か何かと勘違いしてるのだろうか?


「ルナってどこかフワフワしてる印象の子だったんだよね。

目の前にいるのにまるでそこにはいないような。

それこそ俺の妄想が現実化したような感じ?」


「ぶっ。」


ノルンが吹きだすとカイルが慌てて弁解する。


「おい、そこは笑う所じゃないだろ。」


「だってぇ、ルナを自分の妄想だと思ってた、とか。ぷふくふふ。」


カイルの言い訳を聞いて余計におかしくて笑いが止まらない。

俺も正直その発想はどうかと思うぞカイル。


「たとえ話だよ、たとえ話。

魔族なのに魔力増幅リコルドは使えるし、学園都市にいるのにノルンが存在を知らないとか謎すぎるだろ?」


「言わんと、することわかる。

普通生きてる。他人から情報あるにゃ。」


「そうそう。俺が気にしたのはそれぐらいさ。だからこれからも今までと同じように接していくつもりだよ。」


よかった。正直今後険悪な関係になる可能性もあると思っていたから今まで通りでいてくれるのは非常にありがたい。

そんな俺の気持ちを代弁するようにノルンが言った。


「ありがとにゃ。」


「なんでノルンが礼を言うんだよ? それに当たり前だろ。俺達は仲間だろ?」


「ふふ。そうだったにゃ。」


「んあ」


俺を気遣ってくれる大切な仲間に礼を言いたくて言葉を発するも音が出るだけで言語にならない。

でも2人とも気が付いてくれたみたいで俺の方に駆け寄ってくる。


「「ん?」」


さっきから瞳を開けようとするもどうにも身体に力がはいらないようだ。

でも必死に外の事を知ろうともがく。

そんな俺の行動が外界ではどのように映っているのだろうか。

途切れ途切れ短音を発しながらノルンが驚きと嬉しさが相まった叫びを上げる。


「る、るな? ルナが起きたニャーーーーーーーーーーーーー」


「お、俺レイチェル、よ、呼んでくる。」


「しんぴゃいしたにゃ。よかった、本当よかった。」


ノルンが俺にぎゅっと抱き付いてくる。

寝ている俺にノルンの全体重が乗って重い。

いつもは軽く感じるのにこんなに重く感じるという事はそれだけ長く眠っていたのだろうか?

このままだと圧死しそうだ…… もう一度言葉を発しようと口を開く。


「のノルンい痛い……」


「ごめんなさい!」


俺の声を聴いてノルンはすぐさま飛びのくと俺の横に移動して手を強く握る。

まるでももう二度と話さないというくらい強く、強く。


ようやく瞳を開くことができた俺は壁にまくらお置いてそれに腰かけるように起き上がると、

ノルンを見つめて「心配かけてごめん」と謝った。

それを聞いたノルンはぽろぽろと涙を零して俺の胸に抱き付いて言った。


「ほんとだよ。」


ノルンが抱き付いてる部分にまだ少し痛みがあるが今はこのままにしておこう。

俺は感謝の気持ちを込めて彼女の頭を撫で続けた。


そういえばいつの間にかルナの姿になってたんだなと気が付き、

自分が花月荘の自室に寝ていると現在の把握する。

洋服もいつものルナの寝間着になっているようで薄水色の長袖と長ズボンを着ていた。


ふいに窓の外を見れば明るい日差しが窓からさんさんと降り注ぐ。

周囲を見回しながら自分が無事だったことをかみしめていると疑問がふつふつと湧いてくる。

あれからどれくらい経ったのか?

魔神はどうなったのだろう?


そんな事を考えていると花月荘がドタバタ音と共に誰かが俺の部屋に近づいてくる。


「あら~。孝也君起きたの?」


気の抜けた声と共に扉が開く音がした。

振り向くとレイチェルとカイル、アルバート、イリスの順に部屋に入ってくる。


「みんな。」


レイチェルが俺の元まで来ると頭に軽く手刀を当てる。

そして諭すような優しい声で言った。


「てい。無理しちゃダメでしょ? それに皆に感謝しなさい。皆交代で夜も寝ずに看病してくれたんだから。」


「あ、ありがとう。」


ずっと俺を看病してくれてたのか。

感謝で心が一杯だった。

千の言葉でその気持ちを伝えたいけど、

何だか気恥ずかしくて伏し目がちになりながら一言発するのが精一杯だった。

きっと顔が赤くなっているに違いない。


「いえー」

「いいんだにゃ」


カイルとアルバートは照れくさそうにそっぽを向いている。

最後に傷の処置をしてくれたであろう回復術の専門家である先生を見て再度礼を言った。

レイチェルは嬉しそうに笑みを浮かべると言った。


「さてと傷口を診たらご飯にしましょう。お腹すいたでしょ?」


「あ、うん。」


「じゃあ、ノルンちゃんとイリスちゃんは手伝ってね。」


「うわぁあああ。ここで脱がすなよ////」


カイルが耳まで真っ赤にして見ないようにそっぽを向いている。

俺の裸を見て声が裏返る程驚くなんて可愛らしいとこもあるんだな。

そんな事を思いながら悪戯心が芽生える。


「そんなに見たいの?」


にやにやと笑いながら上着をぴらぴらと捲る。

もうちょっとで下乳の当たりが見えそうで見えないラインで上下する。


「そんな変態じゃない。」


「女の子が脱いでるのに部屋で棒たちでいたのに? アルバートはそそくさ出ていったけど?」


「うるさい。そんだけ無駄口がただければもう問題ないな。」


「こらぁ。はしたない事しない。めっ。」


レイチェルに頬を摘ままれる。

地味に痛いんですけど……

それに「めっ」って子供じゃあるまいし……


「おおう。」


「それに女の子なんだから男言葉はやめないとね。」


ん? と首を傾げた。俺男なんだが?

そんな俺の様子を見てカイルがお道化て先ほどの反撃とばかりに言った。


「ぶふっ。そうだよ。可愛らしくてた方がいいぜ?」


「おい。そこ笑うなよ。」


「頬を膨らまして言われても、かわいいとしか言えないわ。ぷっ、くすくす。」


この野郎。なんかカイルにからかわれている感じが気に食わない。

俺が最初に仕掛けた事だから自業自得とも言えるが後で覚えてろよ。


==================================================================


あの後俺の部屋に皆が集まって食事をした。


まず俺の姿ルナのことを改めて皆に話した。

みんな特に何のリアクションもなく受け入れてくれた。


どうやらノルンが俺の正体を皆に伝えてくれたようだ。

寝てる間に12時間経過してルナの姿に戻るのは間違いないのでその判断は正しかったと思う。


そして俺の話が一段落つくと魔神との戦いから後どうなったかを教えてくれた。

カイル誘拐の一報を聞いたロジャーがすぐさま自警団を率いて俺達を助けに来てくれたこと。

脅迫の連絡がロジャー宛に届いていたそうだがその頃には俺達が捉えられていた場所へ向かう途中で結局中身を確認できず仕舞いだったそうだ。

部隊を率いて動くにはかなり時間がかかると思うのだが、脅迫の連絡よりも早く救助隊を向かわせるなんてロジャーという男はかなりすごい人なのかもしれない。


救助隊は巨大な魔力を検知しその場所へ向かうと俺とカイルが重傷で倒れていたようだ。

そして発見され町まで緊急搬送された。

中でも俺は特に傷が酷くて1ヵ月以上寝ていたみたい。

そりゃあ起きたらカイルが元気一杯なわけだ。


当の魔神はと言えばなんとロジャーが撃退したそうだ。

あんな規格外の化け物を倒すとかカイルの父親も相当化け物地味ている。


俺も徐々に傷が治り日常生活には何ら支障がないくらいに回復した。

そして今日はアーク学長に呼ばれて、

カイルといつも魔法の修行をしているトパイラス家が所有する森に向かっている。

ロジャーに呼ばれるなら納得だがなぜアークがトパイラス家の敷地に俺を呼んだのかが謎で仕方ない。


「孝也来たか。」


白髭を生やした猫耳のマッチョな老人が言った。

見知った金色の目がどこかノルンの雰囲気を彷彿させる。

度々世話になっている魔族側の学長アーク・ゼリオンだった。


「ご無沙汰してるね。」


茶髪の壮年の男が葉巻をふかしながら言った。

一見すると危ない闇の住人なのでは? と思うほど厳つい顔をした強面で、

微妙に引きつった笑みを浮かべて社交辞令を言われても脅されているようにしか聞こえない。

ロジャーを見れば片腕に包帯を巻いている。

おそらく魔神との戦闘で負った傷だろう。


「今日はどんな風の吹き回しですか? 領主が2人揃って俺を呼ぶなんて。」


俺は今日の集会の意図を聞くために単刀直入に言った。

人間と魔族の領主が一介の住民。

しかも学園の学生を呼ぶ理由など普通に考えてありえない事だ。


「孝也。魔神と戦ったそうじゃな。」


アークが近くにあった大木に背を預けるように腰かけてい言った。

ロジャーと俺もそれぞれ近場に座ると答えた。


「ええ。」


「どうじゃった?」


「ただ強かったです。」


「そうか。魔神の話はどこまで聞いとる?」


「ロジャー学長が魔神を倒したと聞きましたが?」


「確かに。俺はあいつを退けた。だが正確に言えば倒していない。

それでもこの有様だ。認めたくはないがあの魔神は倒せん。

住民には混乱させぬよう倒したことにしているのだが、

やはりカイルは何も伝えていないようだな……」


ロジャーは苦虫をすりつぶしたような顔で悔しそうに地面に拳をついて言った。

どんな戦いだったかは知らないが俺が見た最後の記憶通りなら、

ロジャーは魔神を圧倒するような強さがあった。

それでも倒せなかったというのか。


「カイルは知っているのですね。」


となるとノルンも真実を知っている可能性が高いということか。

でもロジャーの口ぶりだと俺にこの事を伝えるように依頼したような感じだな。

なぜ言わなかったんだ?

そんな俺の疑問を見透かしたようにロジャーが言った。


「お前が大切だったからだろうな。いや正確にはルナちゃんの方か。

お前にこの事を伝えれば師匠の仇を討とうとするだろ?」


「確かにそうですが……」


カイルが言わなかった理由はおそらくそれだろう。

俺が魔神が生きていると知れば師匠の仇を取る。


それに今の話からしてカイルも俺の師匠の死因を知っている。

誰から聞いたかはわからないがアーク又はノルン当たりからだろう。

どんな事情があったかは知らないが一言教えてほしいものだ。

ちらりとアークの方を見ると舌を出して両手を合わせている。

あいつか犯人は!


「ごめんよ。魔神が復活したとなっては隠しておくわけにはいかない情報だったのじゃよ。」


まぁこちらも秘密にしてほしいとは言ってないしいいだろう。

もはや色々な人にバレつつある情報だし……

アークが軽い感じに謝り終えるとロジャーが険しい表情で言った。


「今回はなんとか退けたが間違いなくまた魔神はやってくる。

その時も倒せるかどうかわからない。なら対策を立てるのが当然だろう。」


「何か魔神を倒す方法があるんですね。」


「アークには聞いていたがその年でよく悟るな。

うちの息子にも見習ってほしいものだ。」


ロジャーが感心したと顎に手をあてながら俺を凝視する。

彼が視線をアークにやると「ワシの出番じゃな」と立ち上がって言った。


「1つ今回のことでわかったことがある。

お前さん間違いなくあの伝承で謳われたエルフ王が残した器で間違いない。

これはロジャーと同じ見解じゃ。」


「だから私にこの話をしたんですか。」


「そうじゃ。」


確か伝説では対魔神用に作ったのが器だったはず。

ならば魔神を真の意味で倒せるのは器である俺って事か?


「でも私じゃ、全然歯がたちませんでした。」


「じゃがの? 倒せるのはお主だけだとワシらは思っておる。」


「というと?」


「奴には弱点がある。それは依代の破壊だ。

それさえ壊せればあいつは不死身ではなくなるのじゃ。」


「その依代はどこに。なぜ壊さないのですか。まさか場所がわからない?」


「そうじゃの。当たっておる。さすがじゃな。

そう、ここにはない。正確には見つけられなかった。少なくともエルフ王の時代には。

おそらくこの世界にはないのじゃろうな。」


この世界フォルトナにはない? じゃあどこにあるんだ?

まさか、俺の世界にあるのか。いやそんなはずは。

だって俺の世界にそんな魔法に関係したものがあるとは到底思えない。


俺の疑問と困惑した表情を察したロジャーが俺を見つめると言った。


「お主の事を全て聞いたぞ。アークに聞くところじゃ、別の世界から来たそうだな?

それは事実か?」


「はい。」


「そうか。なら俺の仮説も現実味を帯びて来るな……。」


「その仮説とは。」


「依代はお前の世界にあるんじゃないか?」


「そんなはずは――――」


「言い切れるか? かつての魔導にも禁呪のようなものがあってなその中に異世界に渡る技術もあったんだ。まぁそういう魔導がなければお前がこの世界に来れるわけないんだよ。

だがその魔導にも欠点があった。どんな世界にもいけるわけじゃない。

反世界と呼ばれる俺たちの世界と似たような世界にしか渡れないんだ。

俺の仮説ではその反世界がお前の世界なんじゃないか?」


ロジャーは立ち上がると1つの文献を俺に手渡した。

分厚い本には『反世界史』と書かれている。

俺はそれを開いて中身を軽く流すように読む。


「こ、これは―――― 。 多少相違はありますが私の世界の歴史 です。」


「やはりか……」


ロジャーは一瞬喜びの表情を浮かべるもすぐに悲壮な面持ちになって俯いた。

学者としては事実を解明できて嬉しいがフォルトナの住民としては破滅を防ぐ手立てがないという事がわかってしまったわけだ。

最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ