向かうべき場所
自身の姿を見る。
赤を基調としたスカート。
ひらひらフリルに、チェック柄の服だった。
(初めて使えた魔法がおっさんの女装だと……。
引くわ!!)
地面に座り込んでいるエリル。
ひきつった顔で俺を見上げている。
(俺の今の姿は、不可抗力だ!
だからきもいとか思わないでー!)
変態ではないと弁明しなければ。
そう、ただの変態ではない。(変態)紳士さ!!
「お、おれの趣味じゃにゃいよ?」
噛んだ……
俺の懸命? な主張を他所に、エリルは狐につままれたような顔で言った。
「あなた魔族だったの?」
「にんげんだよ!?」
何を聞いているんだろう?当り前だろう?
「でも、その赤い瞳……、その姿。本当に孝也君なの?」
「そうだよ」と答える。
てか、赤い瞳って。そんなに充血してるのか。
実は病気で明日から目が見えなくなるとか?
どうしよう……
「やっぱり孝也君なんだ……」
なんでそんなに確かめれているのだろう?
正直混乱している。魔法を使ったら女装姿になったからな。
これじゃあ、ただの変態だ。
元からだって?いやいやそれほどでも~。
1人思案としている俺に、
エリルは「気が付いていないみたいだね」と手元に円状の水を出した。
水面を眺めると自身の姿が映し出される。
魔法にはこんな使い方ができるのかと感心していると――――
「……」
驚愕した。
小顔の赤い瞳をした少女がいた。
ごめん幼女かも……
肌はきめ細かく、すべすべだ。
髪の毛は金髪というには白く。エリルの白髪に比べれば黄色く見える。
シルバーブロンドというのだろうか。
セミロングのさらさらとした髪が風に遊ぶ。
頭上には三角形のようなほど良い固さ。
薄茶色の狐ような耳だった。
そして尾てい骨から延びる。新たな感触。
茶色い尻尾がそこにあった。
尻尾は3本目の腕が現れたような感覚で、上下左右、自在に動かせる。
ぱたぱた
身体は細身で身長は140cm後半といったところか。
胸はちっぱいだな。ちょっと、揉めるぞ!!!!
(女の子なのか?)
疑念を確信にけるべく、股間を確かめる。
何をって?ナニをだよ。
(苦節24年、息子とともに生きてきた。
まさか、最後の一時も役割を果たすことなく消えてしまうとは……)
「かあさん、ごめんよ。子供ができる前にムスコがなくなってしもうた」
しばし感傷に浸る。
水の鏡越しにエリルを見ると、赤面しながら「えっち」と言われた。
だって、息子がなくなったんだよ?一大事だよねぇ?
「それより元の姿には戻れないの?」
顔の熱を下げながら彼女は言う。
そうか、変身できたなら戻れるかもしれないのか!!
魔力をさっきみたいに集めて見たり、放出してみた。
さっきまでできなかった、魔力の放出は難なくできる。
魔法余裕じゃん。
結構両手を挙げて喜んだ。
だが、姿が元に戻ることはなかった。
「えっ!? どうしよう?」
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1時間程度たっただろうか。
日がってっぺんを超えた頃。
元の姿に戻りたいと悪戦苦闘していると、
ふと、"変身した時の光"が身体を覆った。
変身した時は逆に、光が拡散していくのだ。
徐々に光は弱くなり、ついに消えた。
そして、元の姿に戻っていた。
とりあえず、元に戻れたことに安堵する。
だがなぜ突然戻れたのだろうか。
疑問が残る。
いくつか理由が考えられる。
仮説1 変身と解除のやり方を知らなかったから。
仮説2 変身と解除には条件がある。
仮定をもとに、再度変身してみた。
すると、今度は自在に変身と解除ができるようになっていた。
仮説1 が正しいようだ。
でも仮説2 も可能性がないわけじゃない。
ある条件の中で変身と解除が自由なのかもしれないからだ。
「ところで、エリル。魔族って何」
自身の女性化問題が落ち着いたところで、
先ほどの会話で疑問に思った事を聞いてみた。
エリルの話によると、魔族とは赤又は黄色の瞳を持ち。
身体の一部が魔物又は動物の特徴を持つ者のことを言うらしい。
「あれ、エリルも赤い瞳だね。魔族なの?」
沈痛な面持ちで「違うよ」と答えた。
本当のアルビノってことか?
彼女は真剣な眼差しで俺を見つめる。
「孝也君、今の魔族になる力。安易に使ったり、誰かに言ってはだめだよ」
「どうして?」
「君、魔族なのに人間にしか使えない魔法を使っているんだよ。
"リコルド"っていうんだけど。
"リコルド"は人間が魔族と対等に戦うために編み出した。
人間のためだけの魔法なんだよ。
この魔法がなければ、魔族のほうが人間の何倍も強い。
膨大なな魔力と頑丈な身体を持っているからね。
だけど、孝也君は魔族は使えないはずの魔法使ってた。
もし、この事がバレたら研究材料にされるかもしれないし。
殺されちゃうかもしれないよ。
だって、世界のパワーバランスが崩れちゃうからね。
それに、特異な存在っていうのはいつでも忌避されるから……」
遠い日を思い出したかのだろうか。エリルは一瞬顔をしかめた。
"リコルド"というのは見る人が見れば一目でわかるのか。
(あれ。俺ってかなりチートな存在じゃね?)
魔族としての能力と人間独自の力を同時持ちってことだろ?
「あと仮に女の子になることを"魔族化"と定義するとして。
魔族化することにリスクが伴う可能性がある。
現状何もわからない段階で、無暗に変身しない方がいい。
例えば、魔族の姿をした子に自我があったとする。
魔族化する毎に、その女の子に精神や身体を徐々に侵食されちゃうとかね。
考えられるでしょ?」
(たっ、確かに……)
突拍子もない話だが、ありえない話でもない。
だって、異世界にトリップしてるのがそもそもありえん。
「わかったよ」
平静を装いつつ、未知なる出来事に恐れおののく。
その後俺たちは、魔族化について研究することを決めた。
リスクがないなら良いが、何かあればやばいしな。
エリルと相談し、今後の方針を考えた。
魔法に関する資料と魔族について知るため、
≪フォルトナ≫、最大の研究機関と教育機関を要する町。
≪学園都市フォルト≫へ向かうことに決めた。
(てか、ここって≪フォルトナ≫っていうのか……)
≪学園都市フォルト≫とは、国で唯一人間と魔族が共に暮らしている町だ。
"フォルト学園"と呼ばれる学校では戦闘術と魔法を学べるとのこと。
「この町で戦闘のいろはを学び、自身の魔族化の原因を探るべきだよ」
エリルはそう勧めた。
彼女が戦闘指南をしてくれている現状で、学園の入学は必要ないのでは?
ふと、疑問に思う。
「どうして"フォルト学園"で学ぶ必要があるのでしょうか」
「理由は2つあってね。
1つ、私が教られることは魔法が中心になる。
それだと近接戦闘の技術が疎かになる。
だから、複数の先生がいた方が成長が早いと思ったから。
2つ、学園にある図書は学園関係者のみ閲覧可能なの。
調べごとがあるなら、学園都市が一番ってのがこの世界の常識。
そして知識を得るには学園関係者になるしかない。
つまり、生徒になるのが一番効率がいいってこと」
エリルの意見に俺は納得した。
だが、学園都市まで約80kmって……
遠すぎだろ!!!!!!
現在地が≪クワナの森≫らしい。
ここから5km先に≪クワナ村≫がある。
その村から、20km先に大きな山があり、
その山を越えて24km北進すると≪アンバートン≫という町があるそうだ。
そしてその町を超えて、28km程東へ進むと目的地。学園都市に着く。
こうして俺とエリルの長い道のりの旅が始まりを告げた。
本来は今日から≪クワナ村≫を目指す予定だが、
魔族化の一件のせいでもう日が沈む時刻だ。出発は明日ということになった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
次回、クワナ村到着です。
よろしくお願いします!