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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
破滅のプレリュード
27/35

いま助けに行くよ

目を覚ますと身体が重い。

徐々に覚醒する意識と反比例して身体の痛みが増していく。


生ものと腐敗臭がまざったような強烈な匂いに鼻が痛い。

咄嗟に嗅覚を魔族の研ぎ澄まされたものから人間レベルへと戻す。

だが時既に遅くもう鼻が利かない。


どこにいるのか? と目を見開くと目の前には土の壁があった。

頭上を見上げれば薄明かりを照らすランタンのような物がある。

部屋を見渡せば俺の立つ位置の反対側に鉄の檻があった。


部屋には数人の女性が閉じ込められているようで、

ある者は「家に帰えして。」と泣き叫び、またある者は部屋の角で膝を抱えて泣いている者。

恐怖に怯えた様子で抱き合う者や虚空を空虚な目で眺める者がいた。


状況を把握して徐々に意識を失う直前の記憶が甦る。

俺は捕まったのか?

ハッとなって飛び起きると不安な想像に身を震わせながら両手で身体を触って確かめる。

具体的には自分の貞操を……。

童貞を失う前に処女を失うとか嫌だ!

しかもレ○プとか……


「大丈夫よ。何もされてないわよ。」


抱き合っていた女性の片割れがやさしく話しかけてきた。

銀髪に黄色い瞳を持ったモデルのようにスタイルが良く顔立ちも整った綺麗な人だった。

もう片方の女性は俺と同じくらいの身長でどこか銀髪の彼女と雰囲気が似ている。

もしかすると妹なのかもしれない。

よくよく見てみればこの牢屋にいる女性は綺麗な人かかわいい人ばかりだ。

何か意味があるのか?


「まだ《・・》ね。そうまだ……。」


虚ろな目をした女性が絶望しきった声で言った。

きっとこの状況で貞操なんて気にしても遅かれ早かれ失うことになると皮肉ったのだろう。

とりあえず服こそ土で汚れているが股のあたりの痛みはない。

銀髪のお姉さんが言う通り今の所は何もされていないようだ。


「私は精霊族のルミナス。こっちが妹のルーチェ。あなたのお名前は?」


どちらも光を表す意味だった気がするが、たしかに銀髪の生える美人であるのは間違いない。

それに精霊族と言えば希少種だったはず……。

妹の方は小さく震えながらこちらに振り向くと俺の目を見てすぐに姉の胸に顔を埋めた。


「お、わたしはルナ。」


「ごめんなさいね、この子人見知りだから……。」


ルミナスはルーチェの頭を撫でて妹を落ち着かせる。

すると遠くの方からコツコツと足音が聞こえた。

どうやら看守が巡回に来たようだ。

筋肉の塊のような男が俺たちの牢の前までやってくると足を止めて言った。


「今回もべっぴん揃いだな~。親方様は犯しちゃダメと言うがせっかくの上玉。やらないのもったいねぇ。」


奴隷たちが小さな悲鳴を上げて恐怖で身を小さく丸めて身を寄せ合った。

俺は相手の様子を伺うのに夢中で呆然と眺めていると、

ルミナスが腰に腕を回して自分の方に抱き寄せた。

俺が不安で動けなくなったと思ったのだろう。

だがその行動が逆に男の目に止まってしまったらしい。


「おっ、そこの嬢ちゃんかわいいな! どれちょっと味見してやるか!」


ルミナスの優しい性格にこの外見だ。

この子が注目されるのは当然と言えるのかもしれない。

だが俺のために動いてくれた人がこんな下衆野郎にいいようされるのは辛抱ならん。

だからルミナスの前に出てて庇おうとしたら――。


「そこの狐耳の嬢ちゃんいいねー。清純そうで俺好みだよ!」


男の言葉にゾクゾクと背筋が凍りつき額から冷たい汗が吹き出た。


(俺かよ!?)


マッチョな男は牢屋の鍵を開けて中に入ってくる。

あまりにも力まかせに鍵穴に差し込むものだから金属が擦れる音が牢獄全体に響くようだった。


男がルミナスの前まで近づくと俺を力任せに引きずり離す。

そして左手で俺の両手を押さえつけて腕から肩にかけてゴツい手で撫でていく。

俺は咄嗟に魔力を込めた全力の蹴りを食らわせるが、壁に押し付けられて男の足で動きを封じられる。


魔術兵装《魔法による身体強化術》で強化した蹴りをお見舞いしたつもりが、

なぜか魔力を操作する事ができなくていつもの力が出せない。

何かされた? いやそれともこの部屋に何か細工があるのか?


思案に耽る頭が突如けたたましい音で警告を発する。

どんな手品か知らないが魔法が使えない。ならば今の俺は普通の女の子ってことだ。

今の状況。かなりピンチじゃないか!?


そんな事を考えている間も男は嫌らしい手つきで肩から顎を上げて顔をねっとりと眺める。

女の子の肌は敏感だと思う。いつも自分で触れるとすぐくすぐったくなる。

でも今は嫌悪感で嘔吐しそうな程気持ち悪い。とても不快だ。

そして男は俺の顎から手を放すと力任せに俺のささやかに膨らんだ胸を弄る。


「いたい! やめろ!」


「おお、いいね。男勝りな感じ好きだぜ。 これから女らしくしてやるから楽しみにしてな。」


嫌がる俺の姿に何が嬉しいのか顔を歪めて不気味に笑う男。

さらに触り方が気持ち悪くなっていき身体の下の方へ向かっていく。

このままだと―――― そんな不安から身体が震えだす。


(怖い……。でも何か打開策を考えないと。ここで恐怖に支配されたら、それこそ終わりだ!)


「おい、お前何をやっている?」


急に他の男の声がしてマッチョな男が背後を振り向くと、

そこにはもう1人の中肉中背の男がそこにいた。


マッチョな男は驚いたのだろう。俺を拘束する手を放した。

俺はやっと身の危険から開放されて安堵する。そして男たちの会話に意識を向けた。

まだ危機が去ったわけじゃない。状況によってはどうなるかわからないからだ。


「いやちょっと品定めに、な?」


男は何もしていないと両手を上げて悪びれる様子もない。

そんな男に怒りを覚えたのだろう。中肉中背の男は語気を荒げて言った。


「それは親方様の役目だ。お前がすることではない。この事は報告させてもらう。」


どうやらこいつらにとって商品《奴隷》に手を出すことは禁止されているようだ。

こんな奴らでも規律はあるんだな。


「お、おい。ちょっと待ってくれ。俺が悪かったつい出来心ってヤツだよ。もうしない許してくれ。」


悪さをした現場を抑えられているためかマッチョな男はそのデカい図体とは裏腹に、

ペコペコと媚びを売り始めた。余程親方様という奴に報告されたくないらしい。


「まぁいい。今回は商品が傷物になっていないようだし多めに見てやる。次回はないと思え。」


「おおう。すまねぇ。」


男は救われたとホッとした顔をしてそそくさ牢屋を後にした。

去り際に気が付いたがこの部屋に入るとあいつらも魔法が使えないみたいだ。

男から魔力が感じられなかった。


==================================================================


あれから1時間程度は経過しただろうか。

俺の体感時間では1日は優に経過しているように思うが、

外の状況がわからない以上正確な時間はわからない。


「◆×■◎○◇●□×◆■◎○×■◎○◇●□×◆×◎○◎○◇●□×」


急に金切り声のよな絶叫が聞こえた。

何事かと檻に近づいて通路の方を見ると別の牢屋の人が叫んだようだ。

きっと精神を完全にやられたのだろう。もはや人語を話していない。

その人は裸で全身傷だらけだった。

さっきまで慰みものにされていたようで白濁の液体が滴っている。


「うるさい!」


看守らしき男がズボンを履きなおすと女を殴って黙らせた。

倒れた女性はピクリとも動かない。

もしかしたら――――

首を振って思考を止めた。

もし打開策を見つけられなければ俺の未来もああかもしれない。


他の檻を見てみれば看守に性的な事を迫る人もいれば横になって起き上がらない人もいる。

先ほどの女性のようにヒステリックに叫ぶ人もいる。

中には牢屋の中で裸になって身体を拭き続ける人もいた。


そんな状況を見てここがどんな場所かは把握できた。

このままだと俺たちを攫った奴らの慰みものにされるか、

誰かに性奴隷として売り出されるだろう。

カイルも誘拐されたことから考えるに男の人も攫われてるな。

おそらく働き手として売られているのだろう。

やはりここは人身売買を行っている組織と見てまず間違いない。


「ねぇお姉ちゃん。私たちどうなちゃうのかな?」


不安げに銀髪の小柄な少女が姉に声をかける。

妹の方もかわいい顔をしてて将来は姉のように綺麗になりそうだ。


「大丈夫よ。私がいるでしょ?」


姉の方もどう答えていいか一瞬迷うが妹を気遣って「大丈夫」と言い続けた。

先ほどより強く抱きしめて不安と恐怖を紛らわす。


「うん……。」


妹の方も姉の様子から察したようで小さく頷くとそれ以上は何も聞かずに沈黙した。


出られなかったらああなるんだっていう実例をみてしまったから、

先ほどまでの漠然とした恐怖がリアリティを持って俺たちに伝播している。

だからこそ牢屋はこういう作りなんだろうが……。


「ピンチの時ほど冷静に考えるんだよ。」エリルの言葉を思い出して心を落ち着かせる。

まず何をすべきか?

それは現状を把握することだ。

周囲の状況はわかってきた。なら次にすべきはここからどうやって脱出するかだ。


そこで再度魔力を込めて身体に纏う。いつものように戦闘モードに移行するもすぐに魔力が霧散した。

やはり魔法は使えないようだ。


「ダメよ。ここは能力封じの結界が張られてるから魔法とアビリティは使えないわ。」


銀髪の姉は俺が何をしようとしていたかわかったようで教えてくれた。

確かにこの部屋は変な魔力の流れになっている。


「私たちもいずれ隷属の首輪を付けられるのでしょうか?」


気弱そうな女性がポツリとそう呟いた。

それを聞いて反対側にいた短髪で男勝りな格好の女性が声を荒げて言った。


「お前なんでそんな事言うんだ。出られるかもしれないだろ。 あきらめるんじゃない。」


楽観的な事この上ない、根拠など何一つない発言を堂々と言った。

現実的に考えてこの状況で脱出できる可能性はかなり低い。

誰もがわかる事実だ。

この子はそれが受け入れられなくて彼女の発言を否定したいようだ。

だから気弱そうな女性はイラつきを隠さず言った。


「出られるわけないでしょ。 そん事もわからないの?」


「うるさい。私はここを出るんだ。」


短髪の女は怒りに任せて檻を殴る。

何度も何度も。拳からは血が出ている。

それを周りの女性が止めに入る。このまま暴れているとまた看守がここに来てしまう。


「隷属の首輪って何?」


俺は彼女らの会話で気になった事を銀髪の姉妹に聞いてみると、

銀髪の姉は複雑な顔をして妹の方を見て一瞬躊躇うようなそぶりを見せて言った。


「首輪を付けられた人は鍵を持っている人の言う事に絶対服従になるの。

でも貴重なものだからあいつらも全員には使わないはずだわ。」


やはり名前の通りよろしくない効果の魔法道具だった。

そんなの着けられた完全に詰むな。

思案していると反対側の牢屋から色っぽい声で妙齢の女性が挑発するように言った。


「ねぇ、知ってるかい。お前たちみたいに小奇麗な女たちが前にも捕まえられてね?

そのときはみーんな。首輪を付けられて幸せそうにご主人様に奉仕してたよ! ひひひ。」


「お前、なんて事を言うんだ。みんな不安なんだぞ!」


一度は落ち着いて地面に座り込んでいた短髪の女性が立ち上がると檻にしがみついて叫んだ。

それを見た妙齢の女性は馬鹿にしたような視線を短髪の女に送ると急に男のような口調で言った。


「ふん。捕まった以上どうなるか知っておいた方が覚悟を決めておけるだろ。

それともお前みたいに現実逃避してれば言いってのか?」


ぎゃーぎゃーと口論を始めたが俺は無視して考える。

まず今は隷属の首輪をつけられていない。

あの女の話が正しいなら今後つけられる可能性がある。

となるとそれまでに脱出しないとゲームオーバーだ。


まず魔力とアビリティは使えない。

じゃあ気功は?


試しに気を集めてみる。

普通に拳に力が集まった。だがルナの状態では気功の力が弱い。

これでは檻を破壊するのは無理だろう。

魔法と気功というのは相反する力みたいで片方を極めると片方が使えなくなっていくらしい。

故に孝也は気功に秀でるが魔法はダメだし、ルナは魔法は優秀だが気功はちょっとしか使えない。


ならば孝也に戻れるか試してみる。

ここで変身するのはリスキーなので元に戻れそうか確かめてみた。


だがなぜか戻れない。いつもの感覚がまったくなかった。

変身するのに魔力が関係しているのか?


孝也に戻れれば折を破壊して全員倒して万事解決の予定だったが、

それは難しいようなので代替案を考える。

今使える力と状況を駆使して如何に脱出するか。

状況を整理してみてふと妙案を思いついた。

よし、これなら出られるぞ!


==================================================================


まず俺が始めたのは気を貯める事だ。

機雷といいう技で物質に気を設置して爆発させる技がある。

あれを応用して自身に気を貯めるのだ。


正直そのまま気が暴発して身体ごと吹き飛ぶんじゃないかとひやひやしたが、

問題なく気を貯められた。


ルナは自身の持っている気の量が少ない。

基本的に気は自身の持っている気を使って外気を集めて気を増幅させる。

そうしないと魔法を使える相手と対等に戦えない。


ルナのように元の気が少ないということは気をあまり増幅できない。

つまりは元の気を貯められれば気を実戦レベルで使えるということだ。

たぶん短時間が限界だろうが今はそれで十分だ。


下準備を終えた俺は作戦を実行に移す。


「ねぇ、隷属の首輪はいつ頃付けられるの?」


反対側の牢屋にいる女に声をかける。


「あ゛ぁ゛、もすぐ品評にくるだろう。それで親方様に選ばれたやつが首ををつけるんだ。

まぁお前みたいに可愛い子は親方様のペットにされるかもな。ははは。」


やはりそんなに時間がなかったか。急いで正解だったな。

にしてもいちいち挑発してくるな、この女。

まぁ行動がわかりやすくて助かるけど。


「お前。また! 子供にそんな事言う必要ないだろ!

君もこんな奴に口を聞いてはいけない。」


背後から短髪の女が現れ俺を折から離すと、また反対側の女と睨み合い口論が始まった。

檻がなかったら取っ組み合いになっていたように思う。

ある意味檻があってよかったかも……


「ごめんなさい。」


とりあえず俺は短髪の女に謝罪する。

もちろん反対側のうざい女に声をかけたことじゃない。


「お前たち、さっきからうるさいぞ。」


よし! と内心喜ぶ、ここまでは俺の予想通りだ。

中肉中背の看守怒鳴りながらこちらに近づいてくる。

だがその背後にもう1人のムキムキの看守がいて俺は落胆した。

2人も来たのかよ…… 理想的な状況ではないが想定の範囲内だ。


「特にそこの女。お前は威勢がいいな。そんなに元気なら俺が黙らせてやるよ」


ムキムキの男がこれ以上何かすればただじゃおかないと警告する。

睨み付ける顔は般若のように恐ろしい形相でドスの利いた声に、

奴隷たちはただただ震え続けた。


「喘がせてやるの間違いじゃねーの?」


前にいた中肉中背の男がお道化るように言った。

そんな発言が女性としての彼女の尊厳に傷をつけたのだろう。

顔をムッとして短髪の女は叫んだ。


「今に見てろ! お前たちを騎士団に突き出してやる!」


騎士団。王都で治安を守っている組織だったはず。

相当腕っぷしの強い猛者が集まっているらしい。


そもそもこいつらを騎士団に突き出すには牢屋を出る必要があるが、

どうするつもりなんだろうか。

直情的で何も考えていないのがまるわかりな女性だった。

周りの奴隷たちは今看守に食って掛かるという事はまずいと顔を曇らせた。


「おお。いい度胸じゃねぇか。」


「ひぃ。」


マッチョな男が手をかざすと魔法だろうか短髪の女が地面に倒れた。

そして男は牢屋の鍵を開けて中に入ってくる。

今なら牢屋の扉も開いているが、

俺達を逃がすまいと中肉の男は牢屋の外で見張っていた。


転んだ女は恐怖で引きつった顔をして硬直する。

だがすぐに自身に気合を入れるように顔を叩くと立ち上がると言った。


「あんたなんか!! こうよ!!!」


無謀にも構えも何もない単純なパンチを大男に向けて放つ。

だがそんなパンチで鍛え抜かれた肉体に何のダメージも与えられない。

たとえ魔法が使えなくても男は筋肉の防具で平然とそれを受け止める。


短髪の女は腕を掴まれて男の顔に近づけられると、

今まで奮い立たせていた心もついには諦めの念が支配するようになっていた。


俺はこの機に乗じて気を纏うと牢屋の外に飛び出した。

今まで貯めていた気を使って内気功と外気功を融合させ巫力に変換した。

そしてその気を使って身体を強化《巫術兵装》すると、

縮地で距離を一気につめて右腕から渾身の一撃を放つ。


「気功破」


中肉中背の男の無防備なお腹に気を纏ったパンチを当てる。

男は予想外に大きなダメージを負ったためかうめき声1つ立てずに倒れた。

俺の攻撃の余波と人が倒れる音が牢屋に響く。

筋肉ダルマのような大男が片手で短髪の女を捨てると、

俺の方を向いて地面に横たわる仲間を見て構える。


俺はすぐに魔力を集めてみると牢屋の外であれば問題なく力の行使ができ事を確認した。

そこで魔術兵装に切り替えて詠唱に移る。


牢屋に入った段階で魔法は使えないが人質でも取られたら厄介だ。

そこでイメージするのは氷の壁。


「アイスウォール」


俺がいた牢屋の人たちを守るように氷で覆った。

これで奴は俺と戦う以外に道がなくなった。

もちろん氷を壊されなければ……

だがマッチョな男がそんな力を持っているとは思えない。


「さっきは良くも汚い手で撫でまわしてくれたな。お返しだ、 アイススピア!!!!!!」


「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。」


1本の巨大な氷の槍を出現させてそれを放つ。

あっけなく男は身体を貫かれて事切れた。

念のため寝ている男を地面と一緒に氷漬けにして動けないようにしておく。


さてここからが本番だと俺は気を引き締めて横たわる男に問う。


「奴隷はどこにいる?」


奴隷がこの通路にいる人だけとは思えない。

場所を知っていれば効率よく行動できる。だからこの情報は絶対に必要だ。

なるべくドスを効かせて言ったつもりだが女の子の声だとどうも脅しにならないようだ。

相手も舐めきっているようで威勢よく言った。


「ふん、言うわけ無いだろ! お前、仲間をよくも殺してくれたな! どうなるかわかってるんだろうな?」


「そうか……。」


俺を逆に脅して降参させようとしている。

だがそんな馬鹿な事すると思っているのか?

そこで氷魔法で男の腕を固定すると左手の爪をゆっくりと、ゆっくりと一枚ずつ剥いだ。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」


「もう一度言う。奴隷はどこにいる?」


「はぁはぁ、今なら許してやる! だぁ、だから放してくれ!」


急に牢屋にいる奴隷たちが騒ぎ出すと俺に対して野次を飛ばす。


「こんな事したら私達もただじゃすまないわ!」

「そうよ、そうよ。」

「あの子…… 親方様に侵されて廃人決定ね。」

「ひゃひゃひゃ。」

「そこの男のズボン○○して○○するわ。だめ? ならあなたでいい。わたしぃとぉ気持ち行こと・し・ま・しょ?」

「私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


男が痛みに悶え絶叫する。

爪が剥ぎ終わると指を一本ずつ折っていく。

硬いものが折れる音がして男があまりの痛みに目を見開いて大声で叫ぶそれを何度も繰り返す。


「ねぇ、俺もこんな事したいわけじゃないんだ。だから知ってること全部教えて?」


急に手を止めて俺は優しく男の頭を撫でながら言った。

何事もバランスが大事だ。ただ痛みを与えていても相手がしゃべるとは限らない。

もちろん耐え難い痛みを長時間与えればいつかは心も折れるだろうがそんな時間はない。

こちらとしては早急に口を割る必要がある。


「ああ、ああ……。ゆ、許してくれ……。」


「もう痛い思いはしたくないでしょ? どうする? 話す?」


想像させる俺の言うとおりにすれば今みたいに優しくしてもらえる。

でも俺の意に反する事をすれば痛みに悶え苦しむ事になる。

それを繰り返し教える。

数回繰り返した頃、男はもう痛みに耐える事はできないようでゆっくりと口を開いた。


「わ、わかった。話すよ。」


全てを話した。敵はここにいる2人を含めて10人。

奴隷は男と女で建物を分けているようで、男性は東棟。女性は西棟にいる。

そしてカイルも東棟にいる事がわかった。

目的は俺の推測通り人身売買を行う闇の商人だった。


どうやら学園都市で出会ったナンパ2人組は俺に目をつけて誘拐するつもりで近づいたようだ。

でもカイルが止めに入ったため作戦は失敗に終わったらしい。

そのまま手ぶらで帰路に着くわけにはいかなかった男たちはカイル誘拐を思いつく。

領主の息子を捕まえたとなれば身代金を要求できる上、カイルの後天性アビリティ永遠の業火マモンズアイオンを頂くこともできる。

カイルを捕まえてちょうどその場から逃走しようと移動するとそこに俺が現れたそうだ。

そしてカイルに気を取られて油断した俺が捕まった。


今カイルは尋問を受けているようだ。

アビリティを渡せと言って素直に「はい」と言う奴はいない。

でも拷問されていればいつかは相手に屈するのは時間の問題だ。

急がなければ。


「ルナ! 殺しちゃだめ!!」


ルミナスが立ち上がり足を上げた俺を制止する。

こいつが後から戦線に復帰すると面倒だ。俺は息の根を止めるつもりだった。


「なんでそんな…… 人を殺して何にも思わないの? そんな無表情で人を殺すなんて……」


「悪いな、急いでいるんだ。正義の問答をしている暇はない。」


「ぐぎ。」


男は肺の空気を一気に開放して力尽きた。

ルミナスは口を覆って顔を引きつらせた。

俺は牢屋の鍵を壊すように炎の魔法で焼き切ると東棟に向かって走りだす。

あとは逃げる意志があるなら勝手に逃げるだろう。

それ以上は手を貸すつもりは俺にはない。


「カイル。いま助けに行くよ!」



最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

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