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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
破滅のプレリュード
26/35

それは突然に

ルナをデートに誘おうという話から数日が過ぎた頃。

ある日の修行中にカイルから「一緒に遊ばない?」と誘われた。

ルナの目を直視できずにおどおどするカイルの姿に微笑みながら「YES」と答えた。


最初は断るつもりだったがノルンに相談した所「チャンスにゃ」と笑っていた。

ノルン曰くカイルにルナの事を話すのにちょうどいい機会なのではとのこと。


どこら辺がチャンスなのかわからないが、

確かにこのまま対策を先延ばしにしていたらいつまで経っても俺の正体を明かせない。

これ以上時間を置けばカイルの思いがますます強くなる。

頃合いなのだろうと腹をくくった。


今日は雲一つない晴天、外の気温は暑くも寒くもない。

時折柔らかな風が金色の髪を揺らして頬を撫でる。とても心地よい気候だ。

俺も彼女をデートに誘うならこんな日にしたいものだ。


胸に赤いリボンの付いた白いワンピースを着て俺は広場へ向かう。

フリルがふんだんにあしらわれたスカートを翻すとその後を追うように尻尾が揺れる。

一歩一歩進むたびに薄い紅色のパンプスが地面に触れてコツコツと軽快な音を立て、

左腕の深紅のリボンひらひらと舞う。


一見すると普通に歩いているように見えるだろうが慣れない靴は歩きにくいもので、

慎重に歩を進めるが時折バランスを崩して転けそうになる。


「はぁぁぁ」


また躓いたと溜息を漏らす。

そもそも本当はもっとラフな格好で来る予定だったのだ。

Tシャツ短パンに運動靴。最強の組み合わせだとは思わないか?

身軽で動きやすい。


そんな事をノルンに言ったら叱られてしまった。

「女の子は身だしなみが大切」だそうだ。

だからと言ってパンツまで薄いピンク色のフリフリしたものにする必要はないと思う。

それに淡いピンク色の口紅を塗りなんだかよくわからない粉を顔につけられた。


これではまるで本当にデートではないか。

俺はただ本当のことを言いたいだけなのに……


重い足取りなのに目的地はすぐに目の前。

理不尽な絶望感、いや無力感と言うべきか。

何かに流されて取り返しのつかない場所に来てしまった気がする。


水が霧状になって風と共に肌につく。

おそらく中央の噴水の水が風に舞ったのだろう。

少しジメジメした感覚と共に水が流れる音が聞こえる。

石造りの道にはハトやカモメが人間の落とした食べ物を食い漁っている。


そんな広場の中央には赤髪に少し茶色が混じった男があっちに行ったりこっちに行ったりと忙しなく歩き回っている。

どうやら緊張しすぎてジッとしていることができないようだ。


服装を見ればどこかいつもよりおしゃれな気がする。

黒いTシャツに襟の付いた服を羽織り下は長ズボンを履いている。


俺はいつまでもカイルを待たせるわけないはいかないと、

手を振りながら彼の方へ向かう。


広場は老若男女が集う憩いの場のようでたくさんの人がいる。

俺はそんな人混みを避けながら前に進む。

あとちょっとで目的地だ。

カイルに声をかけようとしたら急に肩をぐいっと引っ張る力に強制的に足を止められた。

何事かと振り返ると――――――


「ねぇ君。ちょっといい?」


茶髪の天然パーマのかかったまるで爆発頭のような中肉中背の男と黒髪ロン毛のもやしみたいにひょろい体型の男が俺を呼び止めた。


「なんですか?」


俺は条件反射で答える。

茶髪の男は気持ち悪い笑みを浮かべて俺の肩に手を置いたまま言った。


「君かわいいねー。ちょっと俺たち遊ばない?」


「いえ結構です!」


背筋の凍るような思いで即答した。

俺は語気を強めてすぐさま拒絶の意を示す。

ノルンと同じくらいの身長である今の俺に声をかけるなんてこいつらロリコンか!?

でもこの世界だとノルンぐらいの年齢の妊婦や子供がいるなんてのもザラだし普通なのか?

それにしてもまさか男にナンパされるとは……。


「ええー、いいじゃん。君の知らない気持ちい事教えてあげるよ?」


黒髪の男がナルシストの気質があるようで前髪をすくい俺の身体を上から下へジロジロと見て言った。

男の行動の気持ち悪さに加えて明らかな性的な視線に不快感で身震いする。怒りや恐怖はあまり感じなかった。

ただ頭から血が引いて嫌悪感で気持ち悪くなる。


いつまでも肩に手を置かれているのは不快だったので、

俺は何も答えず肩の手をどかそうと試みるがビクともしない。


「なにー、抵抗するってわけ?」


茶髪の男が苛立ちを見せて俺の肩を握る力をさらに強めた。

痛みは大した事なく問題ない、だが心が痛い。

ショックなのは思っていたよりも男の力の前ではルナ《女の子》は無力だったことだ。

男が少しでも腕を動かせば身体のバランスが崩れてしまう。


「アニキどうせ嫌がってるフリですぜ。本当は俺たちと遊びたいけど恥ずかしいんだろ? な?」


黒髪のナルシストが勝手な妄想を膨らませて俺に近づいてくる。

男は手を俺の身体の一部分を触ろうと手を伸ばした。

俺は咄嗟に応戦しようと腰に手を伸ばすも帯刀していなかった。

すぐさま魔法を使って避けようと考えるも一瞬のスキが出来てしまった。

触られると目を閉じて不快な感覚を遮るように手を強く握る。


「おい!!!」


だが何かに触れる感覚はなく肩の重みも消えていた。

何が起きたのかと恐る恐る目を見開くと目の前にカイルがいた。


「てめぇ、誰じゃコラ!!! あ゛ぁ。」


「お前たちこそ人の彼女に手出して何様のつもりだ!」


突然の乱入者に茶髪の男がカイルの胸倉を掴む。

顔を近づけて威嚇されているにも関わらず、

カイルの後姿は堂々としたもので語気には怒りがにじみ出ている。


「ごふぁ。」


一瞬何が起きたかわからなかった。

男がこけた。その顔が腫れあがっているのを見てようやくカイルが殴ったのだとわかった。


「いてぇな! んだとぉコラぁ゛ 俺を誰だと……」


男は少し脅せば恐怖で逃げていくと思ったのだろう。

だが脅しにも屈せずそればかりか反撃までされた。

どこまでも思い通りにならない相手に怒りを露わにして男の周囲に魔力が集まるのを感じる。

おそらく戦闘になるそんな予感が俺の頭を過る。

だが男は何かに気がついたようでみるみる顔が真っ青になる。


「お前は誰だって?」


カイルも男が動揺した事に気が付いたようですかさず問い詰める。


「あ、あのー。すんませんでした。ホントに。

いやーカイル様の彼女さんだったとは思いませんで。

君ごめんね。それじゃあ僕らこれで失礼しますんで……」


茶髪の男はペコペコ頭を下げて脱兎のごとく退散した。

取り巻きの黒髪の男の方を見れば膝が笑っていた。

どうやらカイルが介入した時点で領主の息子だとわかっていたようで、

呆然と立ち尽くしていたようだ。

仲間が逃げる姿に意識が戻ったのか黒髪の男は仲間の後を追った。

去り際に茶髪の男が舌打ちをしたような気がするが気のせいだろうか?


「ルナ大丈夫?」


周囲の安全を確認するとカイルは俺の背中に腕をやると眼差しで問いかける。

大丈夫だ―――― そう答えようとして気が付いたらカイルの胸に抱き付くように身を寄せていた。

理性では強がっていても行動までは制御できなかったようだ。


あのまま誰も助けてくれなかったらどこかしらを触れてもっと不快な思いをしていただろう。

それに逃げるために魔法を使わなければならない。

相手の強さが分からない以上精神的に不安を抱えたまま戦うのは不利だったように思う。

だから助けてくれた彼に感謝の意を込めて微笑みながら上目づかいで言った。


「うん、だいじょうぶ。ありがとう助けてくれて。」


「いや当然のことをしただけだよー。」


カイルは片手で俺を抱きしめながらもう一方の手を頭に当てて照れている。

顔を少し赤らめて手は少し震えている。

さっきから俺の発言や挙動に呼応するように心臓の鼓動が早まっていた。

そんなカイルの姿を可愛らしく感じる。


しばらくお互いの体温を確かめ合うように抱き合っていると、

俺の心も落ち着きを取り戻していった。

そしてタイミングを見計らったかのようにカイルが言った。


「さ、行こうか。」


==================================================================


あれから屋台で焼き鳥やフルーツの盛り合わせを食べてお腹を満たしたり、

輪投げや弓矢での的当てゲームに興じた。

基本的にカイルがお金を払ってくれる。俺も払うと言ってるんだが聞き入れてくれない。

カイルは俺にいい所を見せようと躍起になっているようだ。


「ルナ。次はあっちにいこうか!」


「うん。」


特に断る理由はないので素直に頷いて、

カイルが指さす先を見ると赤い円盤状の物が宙に浮いていてそれを魔法で撃ち落とす人がいる。

なぜかこのアトラクションの周囲だけカップルが多い。

景品にかわいいものでもあるのだろうか。


「何これ?」


「浮遊する的に魔法を当てて得点を競うんだよ。」


「へぇー。景品は首飾りか。」


景品が置かれた棚を見るとシルバーの首飾りだった。

十字架のような造形で中央に赤い玉のようなものが嵌っている。

左右には金色の玉がはめ込まれ独特な魔力を放っていた。

どうやら魔法道具のようだ。


景品を分析していると興味を持っているように見えたのだろう。

的当てゲームの関係者らしきおっちゃんが近づいて来て言った。


「お嬢ちゃんお目が高いね。こいつは守りの魔法道具でな。これをかけていると災から守ってくれるんだよ。

お、カイル様じゃないか! この子は彼女かい? いやー嬉しい事だねカイル様もそんな年か。」


「いやおっちゃん友達だよ。」


カイルは"彼女"というワードに反応して俺の方をチラチラ様子を伺っては顔を真っ赤にする。

そんなカイルの姿におっちゃんは全てを察したようにニヤニヤしながら言った。


「友達ね、まぁそう言う事にしとくよ。それより――――」


おっちゃんはカイルにだけ聞こえるように小声で何かを話し始めた。

俺の位置からは何も聞こえない。

でもルナの聴覚を舐めてもらっては困る。この程度の距離なら聴力を上げれば―――

おっちゃんの声も明瞭に聞こえる。


「この魔法道具彼女のために取ってやんな。喜ぶぞ!

カイル様の母上も若い頃に父上から守りの魔法道具をもらったってそれは喜んでたぞ?」


「そうだな……」


カイルは一瞬難しい顔をしてすぐに満面の笑みを浮かべてこちらに戻ってくると、

的当てゲームをする事になった。


そしてゲームを終えてみればあっけなく景品を取れた。

カイル自身の魔法の強さももちろんあるが、

それ以上におっちゃんが手心を加えてくれた感じがする。


「やった!!!!」


カイルがガッツポーズをとって大喜びではしゃぐ。

そして今にもスキップしそうな足取りで景品の首飾りを受け取るとそれを持って俺の方にやって来た。

膝を地面につけて俺と視線を合わせるとゆっくりと首飾りをかけて言った。


「ルナにあげる。」


挙動がぎこちなくなり少しどもりながら至近距離で俺の顔を見つめる。

俺はカイルの真っ直ぐな思いに打たれてか、それとも彼の行為が嬉しかったのか。

自然と笑みを浮かべていた。

ひしめきあうように湧き起こる幸福感を感じながらじっと彼の目を見つめて言った。


「ありがとう! 大切にするね!!」


「喜んで貰えたみたいでよかった!

その首飾りはルナの身に危険が及んだ時に助けてくれるよ。だから肌身離さず持っててね。」


カイルは心の底から嬉しそうな顔をして満足げに笑みを漏らす。


「うん、わかった。」


俺がそう答えるとカイルは急に恥ずかしくなったようで目をそらす。

そういえば俺達ずっと見つめ合ってな。

そう考えたら何だか俺まで恥ずかしくなってきた。

いたたまれなくなりお手洗いに行く旨を伝えてその場を後にした。


近くのお店のトイレを借りて俺は用を足す。

個室で1人になると気持ちの整理もつくってものだ。

ドアの隙間から夕日が差し込んでいる。もうすぐ夜になるだろう。


思い返してみればあっという間で楽しい一日だった。

ナンパされた時に助けてくれた事。

首飾りを俺のために取ってくれた事。

そんな出来事が大切にされている、好かれているなと実感を与える。

不思議な充足感が心を満たしていく。

顔に両手を当てれば自然と口元は綻んで、

頬は少し熱を帯びているような気がする。


今日の出来事を思い返していると少し長居をしすぎてしまったようだ。

あんまり長いと何をしてるのか心配されてしまう、早く戻らないと。


「カイル。おまたせ。」


店を出て今の気持ちを精一杯表すように最高の笑みでカイルがいた場所に語りかける。

だが返答はなかった。

誰もいないところに全力で話しかけてしまい、穴があったら隠れたい気分だ。


だがそんなことよりも異変に気がついた。

周囲を見回すとカイルがいない。

徐々に日が沈み始めているからだろうか人通りもまばらで、

近くにいれば気がつくはずだ。


何かに怒って帰っちゃった? でもそんな事した?

用をたしてるのかな? でも声をかけてくれるはずじゃない? いつもなら……

カイルが急にいなくなった理由を考えるも混乱する頭では何も浮かばない。

一度気持ちをリセットするために深呼吸をして平常心を取り戻そうと試みる。


少し頭が冷静になって何をすべきか考える。

まずは周囲を見て回るべきだと判断した。

情報が少ない、じっとしていても何もわからないと思った。


嗅覚を研ぎ澄ましカイルの匂いを追う。

するとカイルの足取りは数歩進むと街頭の下に手がかりがあった。

俺はそれを見てゾッとする。そう、小さな血痕があったのだ。

もしかしたらカイルは何か事件に巻き込まれたのかもしれない。

そんな推理が頭をよぎる。どうしよう? どうしたらいんだ?


少しパニックなった俺は呆然とその場に立ち尽くした。

すると背後から誰かが近づいて来る音がして反射的に飛び退く。


「ちっ。」


盛大な舌打ちと共に長い茶色のローブにフード被った男が現れた。

右手は虚空を掴むような動作をしており反対の手には手錠のような物を持っている。

もしかすると俺を捕まえようとしたのか? なんで?


「アニキあんまし手間取って叫ばれると厄介ですぜ。」


俺の逃げ道を塞ぐように反対側の道からもう1人の男が近づいてくる。

荷物を持った男は長い黒髪に漆黒の衣を纏っていた。

俺はその外見的特徴と声に聞き覚えがあった。広場にいたナルシストだ。

手には大きな荷物のような物を引きずっている。

何だ?


「うぅ。」


「カイル!」


荷物を引きずる男が街頭の下を通るとカイルが引きずられているのだと理解した。

低いうめき声を上げて苦悶の表情を浮かべている。

手には男が持っていた手錠のようなものがはめられていて不思議な事にカイルから魔力を感じない。

もしかするとあれは魔法を使えなくする魔法道具なのかもしれない。


一般的に魔法道具は高価なものだ。

もちろん手に入りやすいものもあるが、こいつらみたいに魔力を封じるアイテムは専用の職業の者でもない限り早々手に入るものではない。

それを一般人らしきこいつらが複数もっているということは魔法道具のコレクターなり魔法道具を大量に保有する魔法道具使いと呼ばれる人間だろう。

エリルによればこういった敵は魔法道具の能力次第で敵の脅威度が大きく変わるそうだ。気をつけなくては。


「る、るな……、に、逃げるんだ! はやく。」


満身創痍で自身の生命に危機が迫っているこの状況で俺の身を案じて彼は最後の力を振り絞るように叫んだ。

俺のことをこんなに大切に思ってくれる人を見捨て逃げるわけにはいかない。絶対に。

だから打開策を考える。だが脳内はけたたましいアラートが鳴り響く。

ここにいてはイケナイ。状況的に囲まれて相手は豊富な魔法道具を有する可能性がある。


「うるさい!」


黒髪の男が怒気を含んだ声で怒鳴るとカイルを思いっきり振りかぶって殴った。

鈍い音と共に鮮血を地面に吐くカイル。今ので体力尽きたのか静かになった。


「ぐっ。」


そんなカイルにナイフを当てて黒髪の男は俺を脅す。


「ほら彼氏の命が欲しかったら言うことを聞いた方が良いぞ。さもないと―――。」


従わなければこの後どうなるか想像させながらナイフを徐々にカイルの喉元に近づける。

そして力を込めて首を掻き切る動作に入る。

俺は咄嗟にヤツを止めようと一歩を踏み出すと―――――――


「や、やめて。きゃぁぁ。」


背後にいたフードを被った男にスキを見せてしまったらしい。

何か衝撃を受けたのはわかる。そして視界がどんどん暗転していく。

最後に目に写ったのは地面に横たわるカイルの腫れ上がった顔だった。



最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

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