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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
破滅のプレリュード
24/35

ルナ・デリング

アークの後を追ってノルンと共に学長室にやってきた。

ノルンがてきぱきと紅茶をカップに注いで運んでくれる。

アーク学長は部屋の一番奥の机に座って何か書類を書いていた。

俺は何をしていいかわからず扉の前で立ちすくむ。


「ルナちゃんだっけ? そこの棚の上の方に砂糖菓子があるから取ってくれるかのう?」


そんな俺を見かねてかアークが指示を出す。

俺は軽く頷くとアーク学長に指さす方向を見る。

棚の上の方。その奥に茶菓子が入っているであろう筒があるのを確認する。

背伸びをすれば取れそうだ。


脚にぐっと力を込めて背伸びをする。

あとちょっとで届きそうだ。中指の先が筒に触れた。

「ぐ」と小さく呟きあっりたけの気合を入れて手を伸ばす。

今度は第一関節くらいまで触れられた。

でも届かない。


背伸びでは届かないと諦めた俺はジャンプする。

ジャンプなら宙に浮く分届く可能性があがるだろう。

身体全体を使って飛び上がるとすばやく手を伸ばす。

が、指が筒に当たって余計に奥に行ってしまった。


「ぐぬぬ……。」


「おお、すまぬ。届かぬか。どれワシが取ってやろう。」


アークが席から立ち上がりなぜかしたり顔でこちらに歩み寄ってきた。

なんかむかつく……。

そして棚の前に着くと難なく筒を取り出した。

茶菓子の入った筒を手渡して俺の背後を通って机へ戻っていった。


「ひゃぁ」


この野郎! 去り際にさりげなくお尻を触っていきやがった。

ぞわっと毛が逆立つような感覚が触られた部分から広がる。

自分が発したとは信じられないような小さな悲鳴を上げてしまう。

向かい側にいたノルンが祖父のあまりの愚行にカップを落とす。

陶器の割れる甲高い音と共にカップは砕け散った。

ノルンは怒りにわなわな震えて言った。


「へんたい!!!」


「ぐはっ」


気が付くとノルンの手中には本が現れていた。

魔力で空間が震えているようだ。

どうやら世界のグリモワールを使ったのだろう。

室内なのに風が吹き抜けるような感覚がして、

次にアークを視認した時は学長室の端で大の字で伸びていた。


==================================================================


アークが目を覚まして全員が席に着きようやく本題へと話が移る。

俺とノルンはテーブルの横に設置してあるソファーに並んで座り、

アークは自身の机に座らされている。

最初は俺たちの真ん中に座ろうとしたのだ。このエロジジイ……

まぁ紆余曲折あって今は自分の机に大人しく座っている。


「ノルンや。おじいちゃん椅子に縛らとるとトイレにもいけないのじゃが……」


エロ学長が何か言っているが誰も相手にせず沈黙した。

変態は拘束しないと何をするかわからない。当然の処理だ。


目の前には暖かい紅茶と丸い砂糖菓子が置いてある。

あれからエロ学長のせいで冷めてしまった紅茶をノルンが淹れなおしてくれたのだ。

カップを持ち上げて口にすると甘い香りが鼻腔に広がり、

口腔内に程よい苦みが残りつつも少しの甘味のあるスッキリとした味だ。


「冷た。ノルンや。この茶もう冷めとるのじゃが……」


ノルンは無言で横を向いた。

「それで我慢しろ、自業自得でしょ?」 と言いたげだ。

全く同感だ。


「まぁそれより、ルナちゃん。自己紹介してくれないかね?」


「ルナ・デリングです」


「いやー、ノルンに友達ができてワシわー本当に嬉しいわい。

今まで友達らしい友達おらんかったからのぅ。

いつも1人じゃし心配しておったのじゃよ。

最近は寮生と一緒に居るからようやく友達ができたと思ったのじゃが……

仲のいい子を見つけられたんじゃな。」


延々と孫の話を始めるアーク。

嬉しそうに口を歪めて目の端は弛んでいる。

孫娘がかわいくて仕方ないらしい。


「そんな孫娘の友達、エッチなことする?」


ノルンが不潔なものを見るような目でアークを睨む。

今の話だけ聞けばいいおじいちゃんだからな。

だが忘れてはいけない。

こいつのしてきた性犯罪の数々を。

今まで判明しているものでも盗撮に痴漢。

逮捕ですね、逮捕。


「いやー、つい?」


「ついじゃない!」


「ほれこんなかわいい子が目の前におったら男なら触りたくなるじゃろ? 仕方がないんじゃよ!」


アークは悪びれる様子もなく開き直った。

孫たちには悪い事をしたら謝らせておいて、自分はどうなんだよ?

それに誰がかわいいだって?

この俺に向かって何を言ってやがるんだこのじじいは。

確かに客観的に自分ルナを見てかわいいと思う。

でも人から言われると嫌悪感というか背中に虫が這うような感覚だ。


「「死ね!」」


奇しくもノルンと気持ちが重なったようだ。

だが孫娘にここまで言われるのもなかなかだよな。

もう同情はしない……


「うぐ。まぁいいわい。それより話を戻そうかのう。

ルナちゃんはこの町に住んでいるのかい?」


この学園都市フォルトガに来る者は町に入る際に名前や滞在目的を記入する。

元の世界で言えば入国審査みたいな事をこの町では行っている。

孝也の情報はあるだろう。でがルナのものはない。

なぜなら俺とルナは同一人物でルナを人前に晒す訳に行かなかったからだ。

俺は答えに迷って無言で思案する。


「聞き方が悪かったようじゃ。別に問い詰めているわけじゃない。

君は魔族ではないのだろう?」


「えっ!?」


前もノルンに言われた。魔族ではないのでは? と。

でも魔族ではないのなら俺はなんなんだ?


「おやおや、知らんかったのか。親御さんから聞かなかったのかい?

エルフはのう。容姿は魔族のようで魔力総量も多い、

そして人間の固有技である魔力増幅リコルドや魔導を扱うことができるのじゃ。」


「つまりルナはエルフ?」


ノルンも驚いた様子で手にしている砂糖菓子を零しそうになって、

慌てて空中でキャッチする。


「そうじゃ。ワシも君を見た時は驚いたものだ。

絶滅したはずの種族が生きておったのだから。

それにデリングと言う名。またあの憎たらしい小僧の関係者か。」


「孝也を悪く言うな!」


ノルンが机をバンと叩いて身を乗り出す。

本人が真正面にいるのに悪口とか失礼なじじだよ、本当に。


「すまぬ。じゃが、聞いてみたいのじゃよ。

ルナ。お主なぜ【 エルフ王と姫の伝説 】を探していた?

それにお主の魔力。近くで感じて見てわかった。

あの小僧《孝也》と同時期にこの町に侵入者がいると自警団から報告があった。

偶然か? 正直に話してみるといい。孫娘がお前を信用しているようじゃ。

悪いようにはしない。」


俺の勘が告げているこれは確信を持って聞いていると――――――――

ノルンはアビリティで得た情報といつも俺と過ごす内に感じた違和感から気が付いた。

こいつはたぶん勘とか今まで生きてきた知識や経験から、

俺の正体を掴みかけているような気がする。

確かアークは数百年は優に生きていると聞く。


俺は試されているのかもしれない。

ここで嘘をつけば禁書の部屋に侵入するような輩で嘘つきだと判断される。

だが本当の事を言えばこの町を追い出される可能性もある。

それに俺はどうやら希少種エルフらしい。

実験や監禁される可能性も否定できない。

最悪、売られて性奴隷……


してはいけない想像をしかけて思考を停止する。

考えるなー、考えるんじゃない。


「ねぇ、ルナ。話してみよう。力になる、言ってるにゃ。

もし嘘なら私と一緒に……」


ノルンが俺をやさしく見つめて言った。

最後の一言は途中で発するのを躊躇い言い淀んだ。

おそらく「もし嘘なら私と一緒に町を出よう」みたいな事を言おうとしたのだろう。

でもノルンは俺みたいなよそ者に巻き込まれて住処を奪われる必要ないんだ。

決めあぐねている俺を導くようにノルンが背中を押した気がする。


そうさ、俺にだってメリットはある。

全てを話せばアークの持っている情報を聞き出せるかもしれない。


「実は……」


俺はここまでの経緯を包み隠さずアークに話した。

アークは頷きながら表情を崩すことなく聞いていた。

どうせ信じないだろうと考えていたが、長年生きているのは伊達じゃない。

真実をあるがまま受け入れていった。

俺だったら疑ってしまうだろう。きっと信じられないと言う。

そんな質問は一切せずに確信を持って俺を見つめている。

アークがただのエロじじいではないのだな感心する。


そんなアークもエリルを殺したクヴァナと思われる男の話が出た時は眉を一瞬潜めた。

それまで無表情を貫いていたアークが唯一表情を隠せなかった瞬間だ。


「そうだったのか……。

いいか、ルナ。この話誰にもするでないぞ。たとえ今みたいに話していいと言われてもじゃ。」


「なぜ?」


「エリルさんを殺したのは魔神クヴァナで間違いない。

皆に余計な不安を煽るのもよくないじゃろう……。

それに君が嘘つき扱いされて邪険にされるかもしれない。

時が来るまでは隠す事じゃ。良いな?」


「わかった。」


クヴァナの話は実際に戦った俺でさえ突拍子もない話すぎて未だに信じられない部分がある。

何も知らない他人ともなればもっとだろう。


「奴は復活したのじゃな。確かに封印が最近弱まっているのは聞いておったが……

王都の連中は何をやっとるんじゃ。」


「1つ聞いていいか?」


「ああ、いいぞ。」


「俺はなんなんだ?」


「おそらくワシが思うに伝説の王が作った器じゃろうな。

それ以上はまだわからない。そもそも情報が少ないからのう。

ヒントになるかわからないが生前カイルの母エリザベスが興味深い事を言っていた。

「エルフはまだ生きている」と。

もしかしたらロジャーかカイルあたりは何か知ってるかもしれないな。」


「そうか。ありがとう。」


ソファーから立ち上がるとペコリと頭を下げてお礼を言った。


「いやいいんじゃよ。ワシも可愛い女子おなごと話せてよかったわい。

どうじゃこの後ワシと町に出んかね?」


「ていにゃ!」


椅子に縛られて動けないアークの顔面にノルンが回し蹴り入れた。

骨でも折れたのではないかと思うような音が鳴った後、椅子ごとアークが倒れた。


「ぐお。」


アークが苦悶の表情を浮かべて悶える。

だがすぐに真面目な表情になって蹴られた場所をさすりながら言った。


「そうじゃ、ルナちゃん。

学園都市に移住してきた魔族ってことでルナちゃんも登録しといたぞい。

まぁ普通の奴はエルフだとわからないだろう。心配せずにこの町の生活を楽しむといい。

何かあればワシも力になってやるわい。ノルンの友人じゃしな。」


「おじいちゃん、ありがとう!! たまには良い事する。」


ノルンが嬉しそうに微笑みながらアークを見つめる。

さっきまでのゴミを見るような目から尊敬できる祖父を見つめる視線へと変わっていた。

いつもこうなら尊敬されるのに……


アークの方見れば倒れたまま久々に祖父らしい扱いを受けたと喜んでいた。

だが誰も彼を起こそうとはしない。

1つの善行で今までの悪事が帳消しになるはずがないだろう?


「たまには余計じゃ…… それよりルナ。これを持っていくといい。」


手渡されたのはシルバーの腕輪だった。

俺にプレゼント?

何のために?


「そんなあからさまに嫌がらなくてもいいじゃろう? 何も貢物じゃないわい!

それはな、お主の魔力増幅リコルドを隠すものじゃ。

そいつを付けてれば外見は普通の魔族になるじゃろう。」


腕輪を身につけてノルンを見ると首を縦に振って「大丈夫」と親指を立てた。

どうやら特殊な能力が付与された魔法道具と言われる物のようだ。

市場に出回ることも稀なとても高価なものだ。

もう一度受け取っていいのか確認するが「男に二言はない」とかっこいいセリフを決め顔で言った。


これで堂々と町を歩いても問題ない。

ルナの姿を見られてもいいならね。

深く一礼して感謝の意を示す。

にしてもここまでやってもらって未だに椅子に縛られ倒れたままなのはさすがに可哀想になってきたぞ?


「ルナ可哀想なんて思う、ダメ。禁書の部屋の件。すぐ許したのどうせルナかわいいから。」


「そんな事はないわい!!! ワシのやさしさじゃよ。」


アークが胸を張って偉そうに言った。

椅子をガタガタ揺らしながら紳士たる心構えを語り始めた。


「じゃああそこにいたの。孝也だったら。」


「そりゃ、二度と悪さができんようしっかりと叱り。

二度と孫に近づけないように町を追放するに決まっておるじゃろ!」


「やっぱり…… 。」


あんま叱られなかったのはルナの姿《可愛らしい女性》だったからか……

たまにはしっかりしているとか。

少しでも可哀想と思った自分が馬鹿だったと悟った。


「てか孝也とルナは同一人物だけど追放されるのか。」


「ワシがかわいい子にそんな事するわけないじゃろ!!」


あ、そうですか。

見た目女なら優しくするんですね。

ノルンが禁書の部屋にルナの姿で行こうと言った理由が分かった気がするよ。


「昔はいっぱい遊んでくれる、いいおじいちゃんだったのに……

いつからこんなクズになったのかにゃ。」


ノルンが肩を落として悲しい表情でアークを見つめる。

ノルンよ。たぶんアークは昔からこうだったんだよ。

今まではノルンが幼くて気が付かなかっただけで……



最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

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