決闘 後編
「永遠の業火」
それは炎ではなく一条の光だった。
レーザー砲を指先から放ったように俺を目がけて迫り来る。
すんでの所で回避をするも俺が元いた場所は直線上に焼けきった跡が残り、
数秒して白い炎をまき散らして爆発した。
「それで避けたつもりか?」
カイルは俺が逃げ回る様を見て気分を良くしたようで、
挑発するように俺に攻撃を当てるか当てないかのギリギリを攻撃してきた。
カイルの攻撃を回避して永遠の業火を観察する。
白い炎は爆発後も延々と燃え続け、着火した物体はどんな物体も燃え尽きるまで消えることがないようだ。
最初に被弾した地面は抉れて今や数10mの穴になっている……
「ははははは、岩陰に隠れれば大丈夫なんて思ってないよな?」
腹を押さえて笑いこけるカイル。
俺はこの闘技場で一番大きい岩陰に身を隠している。
ふいに背中の大岩が震えるのを感じた。
次の瞬間。大岩が白い炎に飲まれて消えた――――
「くっ」
俺は咄嗟に近くの岩にスライディングするように隠れると、
スモークグレネードを4個放って時間を稼ぐ。
永遠の業火、どう攻略するか。
今ある情報を必死に頭で整理するも何も役立つ情報はないように思う。
なぜなら発動まで何をしていた。
指先に炎を集めてただそれを放っているだけだ。
打開策などあるものか……
「俺の炎が徐々に会場を包み始めたぞ~
このまま逃げも逃げ場がなくなるだけだぜ。そろそろ降参するかい?」
カイルがお前は「よくやったでも俺には勝てないだろ」と勝ち誇った顔でにやついている。
確かに永遠の業火を回避できなければ俺の負けは確定だ。
でもまだ諦めちゃダメだ。思い出せ、何かあるはずだ。
重要な情報が! それにこのままだとカイルの言う通りあと数撃回避できるかどうかだ。
「ふん、降参するつもりはない」
「そうか、ならここで死ね」
手を振りかざし帯状の炎が俺に迫り来る。
周囲を見るがどこもかしくも岩影は白い炎が埋め尽くしていた。
逃げ場がもうないと判断した俺は、
インベントリバッグから自身を包み込める程大きな布を取り出すと、
それを気で強化して炎を受けた。
炎を正面から受ける。
俺は白い炎の力に押されて闘技場の端まで飛ばされた。
布でかろうじて防ぐも正面は熱さ、背中は壁と激突した衝撃にむせ返る。
一瞬苦悶に悶えるもすぐさま炎に燃える布を捨てて歩きながら俺は治癒気功で回復を試みる。
「がはぁ、ぐぁ」
少し歩いた所で俺は膝をついて口から血を出して地面を赤く染めた。
思った以上にダメージが大きいようだ、膝に力が入らない。
インベントリバッグから回復ポーションを取り出して飲む。
苦いトマトみたいな味が口腔内に広がり後味の悪い酸味が残る。
でも身体は幾分軽くなった気がする。
立ち上がろうとするがよろけてしまう。
なんでもいいから永遠の業火に対処できる策を講じないと。
次はもう躱せない。
そういえばあいつ最初の攻撃の時、なんで炎の世界を使ってから、
永遠の業火を使ったのだろう。
てか炎の世界で炎を出現させてから、
永遠の業火使ってたよな。
もしかして炎の世界を使う事が永遠の業火の使用条件なのか?
もしそうだったら炎の世界に永遠の業火を使用する前に阻止すれば攻略できるのでは?
点と点が徐々に繋がり線になって1つの打開策をひらめく。
本当なら仮説を試してから俺の作戦を実行したかったが、
そう悠長なことも言ってられない。
ここでこちらも作戦開始とするべきだろう。
そうと決まれば話は早い。
「おー、布でなんとか回避できたのかー。
でももうボロボロだな、次で俺の勝ち――――」
カイルがゆっくりと俺の方へ歩み寄ろうよしている。
くしくも俺が最初に逃げ回っていた東の方向にカイルがおり、
俺はカイルがもともといた西側にいる。
「いや俺の勝ちだ!」
俺はリボルバーを取り出すと気を込めてトリガーを引く。
けたたましい火薬の炸裂音と共にカイルは左肩を押さえて倒れた。
血が地面に水たまりを作る。
「ぐっ、な、なんだ、今のは。まさか魔法!」
驚愕の表情で口をパクパクさせながらそう叫ぶ。
予想外の反撃に状況がイマイチ把握できていない様子ですぐに立ち上がれずにいた。
「いや違うね、魔法じゃない気功というものでな」
「気功だと…… !? なんだそれは? まぁいい。
負けが確定したこの状況で俺に牙を剥いた事あの世で後悔するがいい」
混乱は一時的なものですぐに気を取り直すとポーションで回復をしつつ、
先ほどの攻撃がなんであれ自分は勝てると自信一杯といった様子で宣言する。
「確かに俺は魔法は使えない。
お前はアビリティで遠距離攻撃してればいいと思っているようだが、
別に遠距離攻撃ができないわけじゃないんだよ!」
俺はあえて回復しきるのを待ってそう言い放つと、
気功の技である機雷を使って場内に仕掛けたC4を爆発させた。
そう俺は最初からただ逃げ回っていたのではなくC4を至る所に設置していたのだ。
C4は機雷で爆発させなければ炎で焼かれれば普通に焼けてしまうし、
地面に埋めてしまえばどこに仕掛けているかまったくわからない。
罠をはるには都合のいい代物だった。
俺はこの状況を作るために用意周到に準備をした。
もしカイルのアビリティの能力や封じる手立てがあるかないかによって、
この状況はいくらでも逆転される可能性がある。
だからカイルのアビリティを見極める必要があった。
そして今アビリティの対処法がわかり作戦を実行したわけだ。
「うわああああああああああああああああああああああ」
カイルは絶叫と共に爆炎と土煙の向こう側に消えた。
仕掛けた数のおよそ半分を同時に爆発させたので、
とてつもない轟音と共に爆炎が舞い上がる。
煙が霧散すると一面は吹き飛びカイルのいる方向だけ大きなクレーターができていた。
「なん、だ、これ、は火炎魔法? いや魔力は、ない」
声も絶え絶えに剣を地面に突き立て必死に立ち上がるカイル。
どうやら何らかの手段で防いだようだ。
カイルの魔力がガクンと減ったのを感じる。
全身は黒焦げで布の隙間からは肌が露出しており、
その肌でさえ煤で薄汚れてボロボロだ。
いつ倒れてもおかしくない、そのぐらい重症に見える。
だがそれでもゆっくりと剣を杖にして前に進み、ポーションをむせながら飲む。
俺はカイルが数歩進む毎に地面に仕掛けたC4や機雷で攻撃した。
3歩俺に歩み寄ると地面に仕掛けた機雷を発動させた。
地面から小さな気の柱が発生するがカイルは難なく避ける。
「ぐおおおおおおおおおおお」
そして避けた先には気で強化したC4が設置してありそれを機雷で爆発させた。
なんとか転がるように倒れながら爆発を避けるカイル。
もう立てないのかホフク前進でこちらに迫る。
「うがあああああああああああああああ」
また少し進むとC4を発動させる。
ついにカイルは倒れたまま動かなくなった。
俺は勝利を確信し頭上を見上げ審判の言葉を待つ。
だが――――――――――――
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
カイルは叫び声を上げて己を鼓舞して立ち上がった。
(おいおい、さっきまでは立ち上がれなかったのになんで立てるんだよ!?)
「くそっ、永遠の《マモンズ》…… うああああああぁぁぁぁぁ」
カイルは最後の力を振り絞って立ち上がると自慢のアビリティを使って攻撃しようとする。
だが俺の読み通り永遠の業火は炎の世界で炎を出して準備しないといけないようで、
炎を出現させた瞬間、俺はリボルバーで発砲すると腹から血を流してカイルは地面に伏した。
「俺は…… 強く、なった、、んだ!
負け・・・・ る、わけには・・・・・・・・・・いかない!!!!!!!」
顔だけ俺を睨み付けるカイル。
もうゾンビか何かなのではないかと思うほど必死に立ち上がる。
その姿は勇者が何度魔王にやられても皆を守るためも立ち上がり続けるようだった。
これじゃあまるで俺が悪者みたいだ……
「氷晶の精霊よ、わが信念に応じてここに顕現せん。"アイスニードル"」
カイルは炎の世界で自身の周囲を守る壁を作るとその隙に詠唱を開始した。
詠唱が終わると周囲の温度が一気に下がりカイルの周囲を守るように氷が浮遊する。
その数、数千。
すべてが巨大なニードルのような棒状のものになってこちらに照準を合わせている。
そしてカイルは手を振り下ろすと氷の刃は俺に降り注いだ。
「"気焔波"」
俺は同時に迫り来る氷に気を身体の周囲に爆発させるように放出することで相殺した。
いくつかの氷のニードルが残ったがそれらは身体を翻して避ける。
「もうやめようぜ? お前の負けだよ。いくら魔法を使っても俺は回避できる。
それに―――― "気功砲"」
拳を突き出し気を直線上に放ちカイルの近くを射抜く。
地面が抉れ、音を立てて土煙が舞う。
「お前のアビリティは全て見切った。たとえ何の魔法を詠唱しても止める術は万とある」
俺はリボルバーをちらつかせながらそう言うと懐に拳銃をしまった。
「負けてたまるかああああああああああああ」
カイルは無策にもただ走ってこちらに接近する。
もう万策つきたのだろうか。それとも近接なら勝てるとでも思ったのだろうか。
刀に手をかけ居合の型を取る。
俺にとって必殺の技でなおかつ相手は俺の技や武器の間合いを知らない。
この最後の局面のためにあえて刀を使わなかったのだ。
次の攻撃は確実に――――
「ぐはっ」
刀を引きく抜くとカイルの腹に刀の柄を突き立て腿で蹴り上げてトドメを刺す。
カイル苦痛の声を上げるもすぐに脱力する。
地面に音を立てて倒れるとついに再び立ち上がることはなかった。
長くなったので前編と後編に分けました。
最後までご覧頂きありがとうございました。
よろしければ次回もご覧頂ければと思います。




