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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
学園都市フォルトガ
14/35

学園の闇

カイルが立ち去るとノルンが駆け寄ってきた。

俺は何事かと顎に手を当てて考える。


「ごめんにゃさい」


ノルンは開口一番にぺこりと頭を下げて謝罪した。

何に対して? と俺は首を傾げる。

思い当たるのは朝食の魚をノルンが横取りした事か?

でもそれにしては今言うようなタイミングじゃないしな。


「どうして謝るの?」


「だって、私、孝也とカイル、言い争ってる時、助けなかった。

ただ、見てるしかできなかった……」


怯えた様子で今も少し震えた様子でしゅんとした表情で俺を見つめている。

今日の朝もどこからか聞こえる女の子の泣き声に怯えていたようだし、

結構怖がりなのかもしれない。


「私もごめんなさい」


「ごめん孝也」


いつの間にかノルンの横にイリスとアルバートが並んで立っていた。

2人とも申し訳無さそうな顔で佇んでいる。


俺にしてみれば誰かが助けくれるとは思ってなかったから、

何も気に病むことはないのだが……

そもそも自力で解決できる些細な出来事だった。

でも皆が俺を助けたいって思ってくれた、その気持ちが素直に嬉しい。


「ありがとう。そう思ってくれただけで十分嬉しいよ」


思いのままを皆の顔を順にしっかりと見つめて伝えた。

きっと口元が綻んでいる事だろう。


「わたし、いらなかったってこと?」


すると、ノルンがか細い声で目を悲しそうにしぼめて言った。

ノルンの意外な反応に一瞬言葉を失う。

今の会話でノルンはどう思ったのだろうか。

言葉が足りてないから推測だが、

俺は「助けようと思ってくれただけでいい」と言った。

それがノルンからすると「思うだけで実際に助ける必要はない」と聞こえたのかな?

そんなに素っ気なく言ったつもりはないのだが……


「いや、そりゃあ、助けられる策があるならもちろん助けてくれた方が嬉しいよ。

でも何か勝算や案がないなら、無闇に関わると余計に状況が悪化するかもしれない。

今回は行動に移すほどの妙案がなかったから動けなかった。違う?

もしそうだったら動けなくても仕方ないだろう?」


俺のピンチに動けなかった事を悔いるノルン。本気で心配してくれているのだろう。

もちろんアルバートとイリスも沈痛な面持ちで俺に対して憂心を抱いている事はわかる。

しかし2人はあの状況で自分たちがカイル相手に何かできるとは思っていない様で、

先ほどから閉口したまま顔を俯かせている。

それにカイルに歯向かえば最悪この町にいられなくなる可能性もある。

当然俺みたいに失うものがない人間や立場が同等の人以外は消極的な行動を取るのが妥当だ。

だから彼らを責める気にはならないし、

むしろ気持ちだけでも"何かしたかった"といというのは理解したつもりだ。


「策あった。私ならカイルと互角に話せた。そうすれば決闘なんてしなくてすんだ」


ノルンの金色の瞳が強い眼差しで俺を射抜く。

その瞳には強い意思が炎のようにごうごうと光を灯しているようだった。

出会った当初のアルバートがいじめられている事を傍観し続けた子とは思えない。

今は自分から問題を解決しようとしている。どんな心境の変化があったのだろう?


「確かにノルンなら立場は同等だし実力は知らんが、カイルを止める事はできたかもね。

でもノルンが止に入っても、

俺はエリルの悪口を言われた段階で、どの道今と同じ結果になったと思うよ。

だから気にしなくていいんだよ。

もしそれでも気に病んでいるなら次は俺を助けてくれ? それでいいな?」


頭にやさしく手を置いてぽんぽんと撫でた。

ノルンは歯に物が挟まったような含みのある表情を浮かべていたが、

徐々に口角を上げて笑顔になっていった。

ほんとに良い子だな。


「うん、わかった、つぎ、たすける。

孝也、どうやったら孝也みたい、自分が正しいと思う事、やれるの?」


自分が正しい事してるなんて思った事ないけどな……

むしろここに来るまでどんだけ人殺したんだよって話さ。

ノルンの無垢な瞳が答えを求めて俺を見据える。

とてもじゃないがこんな子に本音は言えない。


「俺だって最初からできた訳じゃないよ?」


「えっ!? ほんと?」


意外と言わんばかりに大きな口を開けて驚いている。


「うん。

昔、俺もいじめられてた事があってな。

他の先生は面倒事を見てみぬふりをする中、ある先生が俺を助けてくれたんだ。

その先生はきっと自分の正しい事を信じて動いていたんだろうな、

そんな彼女に俺は憧れてその真似をしてるだけだよ。」


「私孝也の真似する!!!!」


ノルンは嬉々とした声で元気よくそう宣言した。


「孝也も僕らと同じようにいじめられてたのか……」


「意外…… それ前の学園で? そういえば前はどこに住んでたの?」


アルバートとイリスが驚嘆を隠せずと言った様子で口々に呟いた。

"僕ら"ってどういう事だ?

いじめられてるのはアルバートだけなはずでは?

だがそんな疑問より先に答えなければならない事がある。


「あっ、いやその…… 、ここより遠い場所だ」


ひどい誤魔化し方だ、適当にも程がある。

でもこの学園以外に学び舎があるかどうか俺は知らない。

だからはぐらかして答える以外に術がなかった。

皆で「具体的にどこ? 」と質問したそうだったが無理やり別の話題に持っていく。

嘘はついてないぜ? だって本当に遠い場所だからな。


==================================================================


実技の授業が終わり、トイレを済ませた俺は1人食堂へ向かう。

この学園の食堂は格安で地元の食事を提供してくれるそうだ。

ちょっとどんな味なのか楽しみだったりする。


わくわくして廊下を歩いていると掲示板の前に人だかりができていた。

野次馬魂に火がついて、何事かと身を乗り出して皆の視線の先を見る。

するとそこには数枚の写真が貼り付けられていた。

写真は少女が淡い水色下着に身を包み今まさに着替えている様子が写っている。

少女は茶髪の髪に赤い瞳と黒い瞳のオッドアイをした、どこか見覚えのある顔だった。


(もしかしてイリス…… ?)


盗撮か? そういえば盗撮してる奴いたよな……

思い出したくもない筋肉質な猫耳が浮かぶ。

そうアークだったか? あのクソ学長。

人様の写真を公然の前に晒すとか外道過ぎるだろ!

怒りがふつふつと湧いてくる。とりあえず写真を回収して犯人の所に乗り込むか?


「あれ、アルバート?」


アーク学長の部屋がある西の方角から掲示板の方へ視線を戻すと、

廊下の端にアルバートの背中を発見した。

焦っているのか周囲の人にぶつかりきょろきょろと何かを探している。

ただ事ではないその様子が気がかりで俺はアルバートの後を追う事にした。

盗撮野郎の糾弾は後でもできる。


アルバートの後を追いかけて校舎裏に来た。

途中見失った時はどうしたもんかと思ったが見つかってよかったぜ。

気で強化した身体能力でアルバートが向かっているであろう場所の先を見ると、

既に先客がいるようだった。

1人の男がイリスの服を掴んで壁に押し付けている。


「きゃっ。やめて!」


体格差のある男に押さえつけられイリスは恐怖に怯えて小さな悲鳴を上げた。

周囲には女2人に男1人がそれを眺めている。

この状況やばいんじゃないか?

掲示板の写真に校舎裏で男が女の子を襲っていて、それを見ている女子の構図。


(いじめ!? でもいじめられてるのはアルバートのはずじゃ?)


「うるさいんだよ! ハーフのくせに。

俺様のような純潔の人間に犯してもらえるだけでも喜べよ」


壁に押さえつけている男がイリスの上着を力任せに剥ぎ取り、

破れたキャミソールとその隙間から純白のブラジャーが露わになる。

傍観していた男も興奮してきたのかズボンを下ろして何かを出した。

それを見たイリスは遠目にもわかるほど震えている。


「やあああああめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


怒号と共にアルバートがイリスを押さえつけている男を殴った。


俺はその様子を眺めながら足を止めず走り続ける。距離はあと数10mだろうか。

全速力で走れば数秒の内に到着はできる。

でもそれではあの数相手に正々堂々とやり合うことになってしまう。

相手の力量が未知数な以上、奇襲をかけて数を減らしたい所だ。

今日の実技の授業を見る限りアルバートとイリスはお世辞にも強いとは言えない。

つまり、ここで正面から戦うと2人を守りつつ4対1で戦う事になる。

そんな不利な状況では勝算は無いに等しい。


だからただでさえ塗装されていない道を気配を隠して進む必要があった。

まだ到着には時間がかかる。


「てめぇ何しやがる!!」


イリスを庇う様に彼女の前に立つアルバート。

倒れた男は起き上がると顔を真っ赤にしてアルバートを殴り返す。

アルバートは避けるでも防ぐでもなくただ呆然と立ち尽くし、

男のパンチをもろに顔面へと受ける。


「王子様のご登場ね、よかったわねイリスちゃん」


少しぽっちゃり体型のかわいらしい顔をした女がいやらしい笑みを浮かべてイリスに言った。

高価そうなフリルがふんだんにあしなわられた洋服を着て、

所々に高級そうな綺麗なアクセサリーが身に着けられていた。

立ち振る舞いは一挙手一投足に優雅さを感じさせるな立ち振る舞いで、

いかにもお嬢様といった風貌だった。


地面に転がったアルバートは起き上がろうと四つん這いになった。

殴った男はアルバートの横腹に追撃とばかりに足蹴りを加える。

アルバートは苦悶の表情と共に口から唾液のような液体をまき散らす。


「うわぁ、汚ね」


「きゃー、アルバートきも~い」


「もうやめて! アルバート大丈夫?」


すかさずイリスが駆け寄り声を震わせながらもぎゅっと力強く抱き起す。

何かを囁くアルバートにイリスが首を振り抱きしめた。


「あ、そうだ。

タケル君このままイリスちゃん犯ってよ。

王子様の見てる前でイリスちゃんが本当は雌豚だってこと教えてあげて」


お嬢様風の女は冷酷な指示を演劇でも見ているかの如く、

とても嬉しそうに笑みを浮かべて、

何の罪の意識もなさそうなためらいのない堂々とした声で言い放った。


先ほどから具体的な指示を出しているのはこの女のようだ。

おそらくこの女がリーダー格なのだろうと俺は察する。


「おう」とタケルと呼ばれた下半身を露出した男がイリスに近づく。

イリスは恐怖にガタガタと震え必死にアルバートに抱き付き涙を流している。

アルバートを殴ったガタイの良い男がイリスを引きはがそうと前屈みになり腕を伸ばす。


「ぐあああああああああ」


俺は走った勢いをそのままにイリスに腕を伸ばす男の顔面へ跳び蹴りをくらわした。

俺は2人を見下ろして「大丈夫か」と声をかける。

2人は「うん」と一先ずの危機を脱したと安堵の吐息を漏らし頷く。

そんなやり取りをしているともう1人の男が声を荒げて言った。


「てめぇ、だれだ」


下半身を露出した男がズボンに手をかけ服を着なおしながら、

仲間がやられたとこちらを向いて怒りを露わにする。


「きたねぇもん見せんじゃねぇよ」


完全に服を着る前に縮地で男との距離を詰めると股間を思いっきり蹴り上げた。

すぐさま口を開けて呆然とこちらを眺めているリーダー格ぽい女の元へ移動し、

頭を鷲掴みにして下半身を露出して寝転がる男の元へ連れていく。

お嬢様風の女捕まえて仰向けに足をおっぴろげて口から泡を出している男の元へ戻ると、

女の髪を掴んで力任せに男の露出した部分へ顔を押し付けようと力を込める。


「やめて! 汚いじゃない。 女の子にこんなことしていいと思ってるの?」


こんなものに触れたくないと必死に触れないように抵抗した。

と同時に魔力の奔流が身体を駆け巡るのを感じる。

俺を振りほどくつもりなのだろう。


力の均衡が変わり女が徐々に立ち上がり始めた。

俺はすかさず女の膝裏を蹴る。どんに魔力で強化しようが人間の急所は変わらない。

ガクンと膝を地面につけた女の頭を掴んだまま肘で頸椎から背骨のラインを押えて、

真下の男に少し身体が触れるような体勢で地面に倒す。

もちろんぎりぎり男のブツには触れないように頭は俺が持ち上げている。

顎を真上に向かせて俺は問う。


「さっき聞こえたよ。雌豚なんでしょ? こういうのは慣れてるんじゃないの?」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべて遠くから盗み聞きした内容を一部脚色して伝えた。

女は懸命に体勢を立て直そうと動くが如何せんうまく力が入らないようだ。

当然だ。武術の基本は顎を引く姿勢が基本型だ。

なぜか? それは顎を上に向けていると本来の力が出せないからだ。


今この女は顎を上に向けさせれ、

俺の気で女の体内の気を乱して動きにくいようにしている。

この世界の技術と元の世界の技術の複合技だ。動けまい。


「そ、それ、私じゃない、あの子よ!」


いけしゃあしゃあと悪気もなく横目でイリスを睨んだ。

自分がした行動が悪い事だと自覚がないのだろうか?

仕方ない、反省しない奴には強行手段しかないだろう。

女の頭を前に押す力をさらに込める。


女の髪が寝転がる男にかかると先ほどまでの威勢はどこへやら、

急にしおらしくなって言った。


「わ、わかった。私が悪かったわ、ぐすん」


急に涙を流して鼻をすすり始めた。

まるで俺がこの子をいじめているような錯覚を覚えた。

女の涙は武器だとはよく言うが実際に目の当たりにすると、

冷酷ないじめを行っていた奴でも可哀想に思えて来る。

俺は心を鬼にして問いただす。


「掲示板の写真はお前がやったのか?」


「私じゃない! ぐす、なんで私をそんな疑うの?

さっきだって男子が無理やりあんなことしようとしただけよ。

わたしぃやめたほうがいいって言ったんだけど……

イリスちゃん私たち友達でしょ? た、助けてよ」


芝居臭い……

お前がさっきイリスを犯せと指示だしてなかったか。

よくそんな嘘を平然とつけるな。

とりあえず女の頭を思いっきり前へと押し出してみた。


「きゃああ、汚いのについちゃったじゃない!

何してくれるの? マジきもいんだけど!

おい、そこのクソ女見てないで助けろよ」


「う、うん。わかった」


俺の前方にいた気弱そうな女がスティック状の杖を構えて小さな声で呟き始めた。

おそらく魔法を詠唱しているのだろう。


周囲を警戒していると、ふいに足元が冷え始めた。

何事かと女を放り捨て後ろに飛びのくと俺がいた場所に氷が山のように隆起し始めた。

高さは俺の身の丈より少し大きいくらいか。

氷山に触れた草や石が氷となって山の一部として取り込まれていく。


その隙にお嬢様風の女は俺に魔法放った女の所に戻ると、

お嬢様風の女は激昂したようで急に態度を一変して、

ヒステリックに罵詈雑言を叫び続けている。


「あなた、私にした仕打ち覚えてなさい!

まぁ私が何もしなくても明日公衆の面前でカイル様にボロボロにされるでしょうけどね。

おぉほぉほほほほほほ」


下品な笑みを浮かべて女はハンカチで顔を拭きながら、

逃げるようにその場を後にした。

取り巻きの女もお嬢様風の女の後を小走りにって追いかけて行った。

俺は安全を確認するとアルバートの元へ駆け寄る。


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とある昼下がりの学長室にて。


「ノルンか。どうしたのじゃ?」


「おじい様のばかあああああ」


「ぐはっ、ワシが何したのじゃ」


「イリス、盗撮写真ばら撒いた」


「わ、ワシじゃない、そもそもそんな事する理由がないわい。

ワシはひっそり楽しんでおるだけじゃろ。

それにこの映像見てくれ監視魔法で捕えた犯人の映像じゃ。

ほれワシじゃない、ノルンや信じとくれー」


「……」


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今回は決戦前の準備回(前編)でした。

(長くなったので分割しました)

次回の後編を終えて決戦へとなる予定です。


最後までご覧頂きありがとうございました。

よろしければ次回もご覧頂ければと思います。

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