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異世界召喚×魔族少女  作者: 古川一樹
学園都市フォルトガ
10/35

そして、ここに至る

感想・評価・ブックマークして頂いた方ありがとうございます。

前回は感想を初めて頂きましてとても励みになります。

「あらロジャー学長には挨拶はしたのかしら?」


あれから1か月が過ぎた頃、俺はエリルの遺品からこの学園の推薦状を見つけここまで来た。

横を歩くピンク色の髪をしたショートヘアの女性に頷きながら石造りの廊下を進む。

背中にはエリルが持っていた青色の宝石の埋め込まれた杖を背負い、

左腕には彼女からもらったリボンが空を舞う。

ロジャーはこの学園都市フォルトガの人間側の領主であり、この学園の学長の1人だ。


「優しい方だったでしょう?」


「そ、そうですね…」


微笑む彼女に俺は当たり障りのないよう答える。

確かにロジャーは彼女の言う通り優しく温和な態度で接してくれた。

ただし純人間に限るみたいだが…

エリルの推薦状を見せたらあからさまに嫌な顔をされた。

事前のリサーチだと魔族を嫌悪している節があるようだし差別的な思想を持つ人物と考えていいだろう。


横を歩く彼女は俺のクラスを担当する先生で、茶色の瞳にメガネをかけた理知的な印象の人だ。

何よりも中肉中背の体躯に似合わず巨乳なのがエロ… ゲフンゲフン


「あらそうそう、孝也君は推薦入学だったわよね?

どなたの推薦だったの?」


「エリル・デリングです」


「えりる? あー、彼女か!」


一瞬悲しげな表情を見せた後ぱっと笑顔になった。

何か含みのある言い方だったが今は追及する必要はないだろう。

そんな事を思案していると彼女は続けて言った。


「エリルさんは元気?」


「……」


言葉に詰まり俯き、歯を食いしばる。

自ら地雷を踏んでしまったようだ。

ここは何か別の話題に逸らしておくべきだったと後悔する。


今でもエリルの事を考えると涙が零れそうになる。

でも泣いてばかりではいけない、わかっているんだ。

エリルは死んだ。

それを伝えるただそれだけ……

でも俺は口を開く事ができなかった。


気まずくなった雰囲気。それだけで何を物語っているかを悟ったのだろう。


「そういえば孝也君はクワナから来たって話だけど、アンバートンも寄ってみた?」


慌てた様子で口早に先生は話題を変えた。

俺は「切り替えろ」と心で念じながら自身を奮い立てる。

声が震えないように慎重に声を発する。


「ええ、初めて見たときはとても栄えた都市だと思いましたがこの都市はあの町以上で驚きました」


そうこの学園都市フォルトガはアンバートンの非ではない程広大な敷地を有する町で、

もう町と呼ぶのはおこがましい程、そうまるで1つの国のような規模の町だった。

石造りであるものの現代を彷彿されるような町並み、街中は物に溢れ自警団らしき騎士が治安を維持している様は文明の高さを感じずにはいられない。


自動で開く門や空を飛ぶ飛行船、水のシャボン玉が空を浮ぶ広場、花たちが語らう公園。

思いつく限りのファンタジーが実現する町、そんな印象だった。

ここに来た当初はその1つ1つに驚きもしたが今の俺にそれらは色あせた風景にしか見えない。


「そうでしょう! この都市は人間と魔族の両国が総力を挙げて作った町なのよ。

いわば人類の技術の粋を集めて作られた都市ね」


少し大袈裟な感じに両手を使って熱弁する。


「そうですね。まさか町全体に結界を張っているなんて思いませんでしたよ」


結界とは外と内を隔てる壁を魔法で作り、その壁によって内にあるものを守る魔法だ。

高等な呪文で発動にも維持にも魔力が必要で、その消費量も通常の魔法と比較して桁違いに高い。

普通は1人か2人を守るために使うのがせいぜいらしいが、この町ではドーム状に結界が張られている。


そんな話をしつつ俺はここに来た目的を確認すべく考えをまとめる。

ここに来た理由は3つ。


1. 死者蘇生レイズ・デメントの研究だ。

もしこの技でエリルを復活させる事ができるなら……

エリルは存在消滅ゼーレ・エタンドルを受けたら助かる術はないと言っていた。

でも禁呪なら可能なんじゃないか?

禁呪の使用は大罪らいいが、どうせ俺は異世界人この世界の理など知ったものか。


2. 当初の目的であった俺の魔族化の原因究明。


3. 青薔薇騎士団の長ハンスが言っていた魔神"クヴァナ"とは何か。そしてエリルを殺した魔法使いの男は何だったのか。

俺が思うにあれが"クヴァナ"なのではないかと思う。

心臓に光の矢が刺さっても動ける人間はいない。そう魔神のような人外を除いては……


確証がほしい、今は少しでも情報がほしい所だ。

エリルの持っていた本はすべて読破してしまった今、俺の知識欲を満たせるのはこの学園の図書館だけだろう。

彼女は言った、「この学園の図書館はこの世界の全ての知識がある」と――――


そんな事を考えながら自身の不注意に気が付いてしまった。

俺の目的は大罪に当たる行為だろう。だからエリルのような精神を読む能力が怖い。

エリル曰くそんな心を読むようなチート能力を持つ者はそういないらしいが……

ここは慎重に歩を進めるべきだろう。


しばらくは会話でも当たりさわりの無いことだけを考えていた方がいいだろう。

少なくても大丈夫だと確信できるまでは。

それまでは余計な事は考えるべきじゃない。


心を静かに氷のように鎮める。

そんな俺の思索は隣を歩く女性によって現実に引き戻される。


「そういえばアンバートンといえば最近こわい事件があったじゃない」


「はぁ、どんな?」


「あっそうか、孝也君がアンバートンを出た後の事件だから知らないのかな?

領主の館が焼失したらしくてね、しかも領主のルーカス様も亡くなったみたい」


「それは物騒な話ですね」


「でも奴隷だけは全員無事だったらしいわ。

先生の推理だとルーカス様と取り巻きだけ殺して奴隷だけ解放したみたいだし、

ルーカス様に恨みを持った人物が犯人なんだろうね」


「ルーカス様は悪い噂が多い方でしたからね」


「そうね。でもすごく惨い殺され方をしていて、あれはさすがに可哀想に思ってしまうわ」


哀れんだ視線で空を見る。

何言ってんだこの乳お化けとは思っていないが、無知すぎるというかなんと言うか……

この先生はルーカスという男が外道だと噂でしか知らないのだろう。

お前くらい容姿の良い女がアンバートンにいたら間違いなく奴隷行確定だよ。少なくてもルーカスという男はそういう男だった。


==================================================================


世間話をしている内に大きな扉の前に着いた。

この学園は3つの学級に分かれ、元の世界のように学年の概念はないようだ。

強さ毎にハイクラス、ミドルクラス、ロークラスに分類されている。

ちなみに俺はハイクラスらしい。

どうも推薦状のお陰でこのクラスになったみたいだ。

さすがエリルこの学園でもさぞすごかったのだろう。

ちょっと我がことのように嬉しい。

だがそれと同時にもう2度と学校に通うことはないと思っていたため足がすくむ。

学校にいい思い出はないからな……

誇らしさ半分不安半分って所だろう。


「緊張してるの?

大丈夫、私のクラスはみんな良い子ばかりよ」


肩に手を置かれポンポン叩かれた。

まぁ心の準備ができてなかっただけで励まされなくても1歩踏み出すのは余裕さ。

ただ今はその気遣いに感謝しよう。


室内に入り周囲を見回す。

12歳前後の子供らの姿がそこにあった。

男女比は半々で30人程度と言ったところか。


彼らは新たな仲間に好奇と奇異の混じった視線を送っている。

特に強い視線を向けているのは2人。

1人は黒髪で金色の瞳を持った幼女。

もう1人は俺の刀を注視する黒髪の淡い黄色の目をした男の子だ。

まぁ害のある雰囲気ではなそうだし様子見でいいだろう。


「みんな~、新しいクラスメイトが来たわよ♪」


簡単にあいさつを済ませた先生は俺に自己紹介を求めた。


「あー、水野孝也です、よろしく」


ちょっと簡単すぎた感はあるが年相応に振る舞えばおじさん臭いだろうし、

このくらいの年代のノリは今の俺には難しい。

そもそもこの世界のノリと元の世界のノリが同じかわからんし、

元の世界でもぼっちだった俺にそんな上手い処世術はない。

下手なことはしない方がいい。特に学校のような閉鎖的コミュニティでは……

それが俺の判断だった。


「う、うん、そいうわけだから皆仲良くね!」


俺の下手くそな自己紹介を先生が締めくくる。

終わった終わったとホッとしていると1人の少女がこちらに歩み寄る。


「あなた」


ちょっとアニメで聞いた事あるようなエッジの効いた声。

黒髪で肩まで伸びたツインテールをはためかせながら無表情で幼女が言う。

ルナと身長は同じくらいだなぁーとか一瞬思ったが思考を隅に追いやる。


何か言葉を発しようとして頭上にあるものを見て驚愕する。

そう、そこには猫耳があった。

膝上の丈のスカート着た彼女の腰を見ると尻尾が左右に揺れ動く。

耳と尻尾は黒を基調としながらも所々白色がアクセントとして彼女を彩る。

よくよく見れば瞳も金色に輝いていた。


この子魔族か!!

しかも、獣耳×スカート×ニーソ だ! テンション上がるぜ!!!!

それに結構かわいい顔をしてる、

胸の当たりは特に引っかかるものがなさそうだが将来有望だな。

てかこの子俺を注視していた子だな、なんだろうか?

少し身構える。


「あなた、聞いてる?」


「ああすまん、聞いてるよ」


「そう。お前おんな?」


おい! こいつ初対面の奴と話すのに二言目に"お前"って何だよ?

生意気で失礼な奴だ。

しかもこのダンディで精神的に成熟している俺に向かって女とは……


「男だが」


「そう、じゃあお前魔族?」


今なんて言った?

彼女の可愛らしい声がスローに聞こえる。

まさかバレたのか? 人間にはルナに成らなければわからないようだったが魔族にはわかるのか?

いやいや落ち着くんだ。

最初の質問も意味のわからない質問だった。

次の質問もきっとそういう類の問いかけだろう。

だって俺が男だと見ればわかるだろう?


(あれ? 今俺若返って中性的な容姿なんだっけ? てことは的を射た質問?)


額と背中に嫌な汗が流れる感覚。

と、とりあえず否定しよう。うんそうしよう。


「いや人間だ」


極めて冷静に、まるでミスを隠して上司に報告するかの如く鉄仮面をかぶり通したと言っていい。


「じゃあハーフ?」


無表情に首を傾げて猫耳っ娘は言った。


「はーふ? 何と?」


「人間と魔族」


「いや違うよ」


純粋な人間だよ。異世界人なだけさ。

てかハーフっていえばオッドアイで魔族の身体的特徴を持っている人だっけ?

あれ? そんな子がこのクラスにもいたような。

ほら後ろの茶髪で赤い瞳と黒い瞳のオッドアイをした女の子。

あれがハーフかー。なんて感心していると。

猫耳っ娘は俺の身体に小さな鼻を押し付け匂いを嗅ぎ始めた。


「うそ。魔族のメスの匂いがする」


この猫耳、爆弾発言をしやがった……

正直メンタルダメージぱない。

だって女の匂いするってなぁ?

昨日の夜女の子と一緒だったら何も思わなかっただろうが、

生憎童貞でしてね……

俺にとってその言葉はルナ化が進んでいるって事じゃないですかー

でも言い訳は思いついた。

童貞が言うのはつらい内容だし、俺の学園内で立場が早速やばくなりそうだが仕方ない、そう仕方ないんだ。

ルナの事がバレるよりましだ、背に腹はかえられん、うん……

一瞬立ちくらみがしたが必死に何事もなかったように振る舞う。


「昨日魔族の子と匂いがつくような事をしたのさ」


どやぁと俺はモテるぞとアピールも兼ねてカッコよくポーズを決めつつ言ってみた。


「うそ」


短くまっすぐ目を見つめながら猫耳っ娘即答する。

もう少し考えてほしんだけど……

そんなにモテないように見えるのかなぁ…… はあぁ

もう泣いていいかな?

たぶん今俺は膝をついて項垂れていると思う。


「どうしてそう思う?」


「誰かと密着の匂い、その人自身匂い違う」


動揺してて気付かなかったがこの子結構舌足らずだな。

ちょっと萌えたよ!!


さてそろそろふざけてないで何とかしますか。

さっきから猫耳っ娘に全身を"くんかくんか"される謎の状態になっていた。

人の体臭を嗅ぐ事が失礼だと教えるべきだろう。


「おまえ、ないを?」


俺は猫耳っ娘の近くに顔を寄せると匂いを嗅ぐ。

そりゃあ頭の先から足の先まで……


「くんかくんか」


言っておくが俺は変態ではないぞ? これは教育だ。

人の匂いを嗅ぐ行為がどれほど失礼で相手を不快にさせるかを教えているのだ。

目には目を歯には歯をってやつだ。


「きゃうん、にゃに!? きゃぁ」


「ちょっ、孝也君何を!?」


先生が一言注意をするがそれ以降ぼーっと心ここに非ずと言った様子で立ちすくむ。

ぶつぶつ「責任がー」、「私のせいじゃない」とか意味の分からなことを言っている。

まぁどうでもいいわな。


いやぁそれにしても役得ですわー

猫耳の美幼女の匂いを嗅ぐとか元の世界だったら即逮捕だな。

まぁこの世界では関係ないだろう、そう今の内に堪能すべし!!!!

柑橘系の香りと女性らしいい香りが混ざり合った良い香りだ。

もっと嗅ぎ…… って、いかん! 本来の趣旨から離れてハッスルしてしまう所だった……


「ほら、ぐふふ。人の匂いを嗅ぐのが失礼だと悟がいい!!!!」


「きゃあ、ちょ、やめてーーーーー、きゃあ。

そこダメ、はぁぁん、ふー、ふーー、ひゃん、きゃうんん」


何か猫耳っ娘の声がどんどん上擦り表情がだんだん切羽詰ったものになってゆく。

顔は徐々にリンゴのように真っ赤になっている。


「ごみゃんにゃー、わちゃしがわにゃ、きゃうん、ふーー、やめ、もうーー、ひゃんああん。

はーー、はーー、もう、ひゅやん。やめ」


「おー、わかってくれたか」


名残惜しいが離れるとしようやり過ぎは良くない。

可愛く悶える彼女を見つつ引き際かなと思う、そんな俺にふと少年のような悪戯心がわく。

なるべく低めの声で耳元で囁く。


「じゃあ、今度はこういうことしちゃダメだぞ?」


「ひゃい、いまだみゃ、ふぁい」


最後にちょっとした悪戯とばかりに猫耳っ娘の耳にふーっと息を吹きかける――――――


「ひゃうん」


一瞬の硬直と脱力。ペタンと座り込んだ猫耳っ娘。


「おいおい、どうした?」


ただ匂いを嗅いだだけだぜ?

あれか? くすぐったくて腰抜かしたとか?

顔を見るとさっきよりも顔を赤くして目がうつろで惚けた顔をしている。


ちょっとやり過ぎたかもしれん。

手を指しのべ引き上げるが足元が覚束ない。

仕方ない俺の責任でもあるし保健室的な所に運ぶとするか。

保健室があるかわからないけど……


猫耳っ娘をお姫様抱っこの要領で抱きかかえる。

なんかお尻の当たりを持っている左腕が湿っぽい気が……

てかさっきから俺と触れ合う度に一瞬震えるんだがなんだ?

いや鈍感系気取ってみたけどなんとなく事の経緯はわかるんだが、わかりたくねー

いやほら匂い嗅いだだけでねぇ? 女の子ってそんな敏感なのかね?

まぁともかくやっちまったやつじゃないですかーーーーーーーーーーーーーーーーーー


横にいる先生を見ると青ざめた表情で口をぽかんと開けてこちらを見ている。

どうしたもんかと考えを巡らせていると―――――


「こおらあああああああああああああああああああ。

わしの可愛いノルンに何しとるんじゃあ、ボケェ■■■■■■■■■■■■■」


急に誰かの怒号が聞こえる。

てかスピーカーみたいな物でもあるのか?

まるで耳元で叫ばれたような感じだった。耳鳴りで音が聞こえない。


とりあえず聞き取れた所から察するに俺が悶えさせたのが猫耳がノルンって名前で、

この声の主の子供か何かで怒っているのはわかった。


治癒気功で鼓膜を治しつつ聴力の回復を待つ。

しばらくして徐々に耳が聞こえるようになってくる。


「あー、コホン。皆、先ほどは大声を出してしまって申し訳ない。

今日もしっかりと勉学に励みなさい。

それから水野孝也ワシの所まで来い!」




最後までお読みいただきありがとうございます。

また次回もよろしくお願いします。

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