はじまり
処女作です。稚拙で表現が甘い部分あると思いますが読んで頂ければ幸いです。
少しずつ勉強してよき作品にしたいと思いますので暖かく見守ってください。
更新は遅めです。すみません。
森をひた走る。
葉が擦れる音。
地震のように大地を揺るがす。
俺は追われている。
象のような大きさのイノシシがこちらに向かっているのだ。
徐々に音が背後に迫ってくる。
足が重い。もう限界だ。
いっそ諦めてしまったほうが楽なのかもしれない……
目の前の大木に寄り掛かる。
そう、俺はあきらめた。
だって、あんなイノシシに勝てるわけないだろう?
絶体絶命の状況にも関わらず、心は落ち着いている。
目を閉じ最後の時を待つ。
どうせあの時俺の人生は終わっていたんだ。
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2015年04月某日
俺は水野孝也。24歳童貞だ。
今さっきまで会社員だった。
現在無職!
今さっきクビになった。
理由は「人員削減のため」だそうだ。
「今日から君こなくていいよ」
今朝職場に着くと同時に上司から言われた。
今思い出しても心が引き裂かれるようだ。
「うぅぅ……。はぁー」
悔しくて悲しいよぅ……
急な解雇のため1ヵ月分の給与と雇用保険で当分の生活に問題はない。
本来はすぐにでも就活を始めるべきだろうが、
まだ昼前だが今日は何もする気になれない。
やる事もなくなり、絶望に打ちひしがれた俺は喫茶店で絶賛放心中だ。
どこで道を間違えたのだろう。
大学を首席で卒業した。
学ぶ事が幸せに繋がると思っていたからだ。
しっかりと学べば良い企業に就職できると信じていた。
だが、先の就職難の影響か。俺は契約社員になった……
人は言う。「お前が努力しなかったからこうなった」と。
俺も一理あると思う。が、しっかりと学び努力したつもりだ。
その結果が首席だと思っている。
でもその結果の先にあったのは、非正規の職だった。
就活を怠けたわけじゃない。100社は受けたさ。
大学生活を怠けていた友人は正社員となり、
俺は底辺非正規だった。
世の理不尽さを何度呪ったことか。
がんばっても報われない。
他の奴らは少しの努力で俺が得られなかったものを得ていく。
大学の友人は単位を落とさない程度に努力し、
就活になるやあっさりと内定をもらっていた。
何社も!!
それに比べて俺は努力してこれかよ……
今日だって、俺は解雇された。
前回の契約更新までは給与も上がっていた。
決して上司の評価も低くはなかったはずだ。
俺よりも劣っている奴は他にもいたはずだ。なぜ俺だけクビなんだ?
何にしても俺の人生は絶望的だ。
努力をしても何も得られなかった現実。
全てを失った事実に生きる気力が削がれた。
もうここで全てお終いにしてしまった方がいいんじゃないか?
負の思考が連鎖する。
そこに、鈴の音が耳に響く。
ふと顔を上げる。
ドアの周囲には誰もいない。
店内に視線を巡らせると、1羽の白い蝶がいた。
モンシロチョウだろうか。客の目の前をゆらゆらと羽をはためかせている。
よく見てみるとこの蝶白く光ってる?
店内にいる者を見る。皆無関心でいる事に気が付ついた。
彼らの世界に淡く光る蝶などいないようだった。
俺もついに幻覚までみるようになったか。
そんな事を考えながら、淡い光を纏う蝶に心惹かれる自分がいた。
この蝶見つめていると心がぽかぽかと暖かくなる。
まるで微睡の昼下がりにうたた寝でもしているようだ。
あれ、瞼が落ちてきたぞ?
視界が段々暗く……
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暗闇から意識が浮上する。
目を開くと木々が生い茂る場所に俺はいた。
頭上を見上げると太陽が真上にあった。昼頃だろう。
気を失ってからさほど時間は経っていないようだ。
相変わらず気分は最悪だが身体は軽い気がした。
起き上がり周囲を見回す。
ここは森だろうか。
(どうして俺はここにいるのだろう)
幻覚の次は夢遊病か。富士の樹海まで来てしまったのか?
まぁ富士の樹海とは限らないよな。
しかも夜になったら…どうなる?
不安と焦りが募る。
深呼吸をする。
まずは状況把握だろう。
サバイバルで重要なのは冷静さであると聞いたことがある。
左右を見回す。
左に木と右に木、そして正面と背後とも木だった。
地面は雑草的な草がもさもさしてる。
「うん、どこだろうここ?」
結論、わからん。
あっ、携帯にGPSがあるじゃないか!
期待を胸に肩掛けのバックからスマホを取り出し、画面を見る。
電源がつかない……
途方に暮れた俺は、とりあえず歩くことにした。
じっとしてても状況は変わらない気がしたからだ。
まぁぶっちゃけ、このままここで死ぬのかと思ったらビビりました。はい。
少し歩いた所で異変に気が付く。
視線がいつもより低くないか?
スマホの黒い画面を反射させて自分を見る。
そこには、中学生ぐらいのかつての自分がいた!
この顔アルバムでみたことあるぞ。
若返ったのか?
推定年齢13歳前後といったところだろうか。
何だかよくわからないが、ついに俺の頭はおかしくなったようだ。
人が若返るわけないのに、昔の自分が見えるとかやばいな。
きっと、実際は無精髭に油ぎったニキビ跡の凸凹残る顔のはずだ。
帰ったら精神病院に行かないと……
そんな事を考えていると、茂みの奥から何やら音が聞こえてくる。
人がいるのか!?
もしかしたら、救助隊の人かもしれない。
淡い期待を胸に音のする方へ駆けてゆく。
新緑の茂みを抜け、音の発信源へ100mと近づいた所。
とんでもないものを見た。
巨大イノシシが赤と青の模様の謎の鳥をお食事されていました。
驚愕のあまり声もでない。
3秒ほどして身体が震える。
そして俺は180°ターンして明後日の方向へダッシュした。
「ひぃひぃ」言いながら逃げた。
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現在
そして、現在に至る。
イノシシを背に走り出した瞬間。
イノシシは低い唸り声が聞こえた。
パニクッて逃げたのがよろしくなかったようだ。
イノシシを刺激したようで追いかけられた。
背後から奴が近づいてくる音がする。
(あんなのに突進されたら確実に死ぬ~)
必死に足を動かす。
デスクワーク続きで身体が鈍っていると思ったが、
思ったよりも快適に走ることはできた。
だが、人間の速度では動物には勝てない。
事実、徐々に音は近づいてくる。後数刻としない内に追いつかれる。
ふと、思う。
俺は今必死に生きようと走っている。
さっきまで喫茶店でこの世に絶望し、
己が人生さえも捨てようかと考えていた人間が、
いざ死ぬという状況で必死に逃げる。
なんとも滑稽な話だ。
このまま迫りくる奴に怯えながら死ぬくらいなら、
どうせ死にたいぐらい絶望していた俺だ。
覚悟を決めて死を受け止めたい。
努力しても他者から評価されなければ、
自身の思い通りにならなかった人生だった。
最後くらい自分の力で己が思う人生にしたいと思った。
ちょうど、目の前に大木があった。
走った勢いをままに転がるようにに寄り掛かる。
目を閉じ、ここで最後の時を待とう。
「どうせあの時俺の人生は終わっていたんだ。」
自身にそう言い聞かせる。
来る衝撃に身体を硬直させる。
ちょっと震えてるかも……
1分ほど目を閉じただろうか。衝撃はなかった。
あれ?死んでない?
もしかしてもう死後の世界なのだろうか。
死ぬ瞬間は痛みがないのかも?
ほら、死んだことないしね!
そこで気が付く。焦げた臭いが鼻についた。
何事かと恐る恐る目を開けると、イノシシが黒焦げになっていた!
風が吹くと、イノシシだったものは黒い粉となって空をたゆたう。
俺は何が起こったのかと、きょろきょろと周囲を見回した。
すると、頭上の木から女性の声が聞こえた。
「そこの君。だいじょうぶ?」
黒衣のマントを羽織った女性は大木の太い枝に立っていた。
マントからスカートが覗く。
おっ!?この角度見えるぞ!!
えっ、何がって?そりゃあ白いものですよ?
ありがたやー。今日1番のラッキーだったな。
彼女はビルの2階程の高さだろうか。枝から地面へ難なく着地した。
俺は驚いて声もでなかった……
あの高さから平然と着地した事もそうだが、
彼女の容姿に視線が釘付けになった。
美人だとな、と思っていた。
が、間近で見ると美少女であると切に思う。
「美少女だぁぁあぁ」と心の声が漏れた。
若干ひかれた気がするが気のせいだ。
たぶん……、そうであってお願い。
彼女は白い髪に赤い瞳をしていた。
アルビノというやつだろうか。
18歳ぐらいで身長は160cm前後といったところだろう。
平均的な女性の身長という印象受けた。
年齢は勘だ。身長は現在の俺と同じだから間違いない。
中学生時代の俺は160cmだったし。
少女は少し驚きつつ言った。
「君、私が怖くないの?」
『なぜ?』と思う。こんなかわいい子を怖いとかありえん。
めっちゃ好みっす。こんな子彼女にしたいなー。
鼻息が少し荒くなった気がする。
いかん、『彼女いない歴 = 年齢』 のブサメンオーラがでてしまった。
好青年を気取りつつ答える。
「いえ、こんな可憐でやさしい方を怖いとは思いません」
「そっか」と頷きながら、自己紹介をしてくれた。
彼女はエリル・デリング。
古代文明を研究している学者らしい。
すごいな。まだ若いのに。
古代の王がこの森に宝物を隠したらしい。
エリルはそれを探して森に来たと言う。
「君はどうして森に入ったんだい?
お父さんやお母さんから森に入ってはいけないと言われなかった?」
彼女は俺と視線を合わせて諭すようにやさしい声で言った。
確かに、子供が入る場所じゃないよな。
あのイノシシを倒す子供とかいたらどんな世界だよ。
けど、あのイノシシを一瞬で焼くってどんな魔法だ?
火炎放射器でも燃やすには時間がかかるだろうし、
あのイノシシを炭になるまで燃やすのは無理がある気がする。
考えないようにしてたけど、
ここが普通の場所じゃないのは間違いないと思う。
見上げた時に思ったが、この世界には月が2つあるみたいだ。
1つ目の月は白い月で、2つ目の月は黄色っぽい月だった。
俺が気を失ってから現在まで情報を統括すると、
現実世界ではありえない事ばかりだ。
巨大イノシシに2つの月、一瞬でイノシシを焼き尽くす技術。
この世界が何かはわからない。
元の世界にこんな場所があったのかもしれない。それとも夢か。
どちらにしても、生きるためにはこの人にこの世界の事を聞かないと。
できればあのイノシシを倒した術を教えてほしい。
じゃないと生き残れそうにない……
だとすれば、嘘は相手の信用を欠く。
こちらの常識だと、エリルに恐怖を感じるようだし。
下手に誤魔化すと不信感しか生まない気がする。
まぁ俺も伊達に社畜やってないからな。
正直に全て伝える事にした。