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ふたりの恋人  作者: 吉富カエル
7/14

千佳

 千佳はカレンダーを見つめる。総司と逢える日まであと一週間。慎吾と初めて行く旅行の日まであと一週間と一日。狂おしいほど待ち遠しく、そして永遠に来ないで欲しいと思える日。


(慎吾はいったいどうしたのだろう。この前逢ってからというもの電話は繋がらないし、連絡も来ない。バイトで遅くなると言っていたのは昨日のことなのに。まさか、わたしが総司と一緒にいるところを見られたのだろうか)


 千佳の中で小さく発生した不安は更なる不安を掻き立てる。

(総司はどうしているのだろう。今朝の電話では夜に電話してくれると言っていた。仕事で遅くなっているのだろうか。それにしても遅すぎる。まさか、また・・・)


 一昨日から慎吾にも総司にも逢っていない。二人に逢ったのは一昨日の夕方、総司を駅に見送りに行ったのが最後だ。それからはわずかに今朝、総司と電話で話をしたのがかすかな記憶として残っている。

(もうダメ。わたしには彼らが必要なの。そのどちらかがいなくなってもダメ。一時として離れることなんてできない)


 千佳の中で生まれた不安は二人に対する想いをさらに大きく成長させる。

(ねぇ、慎吾。早くわたしと逢ってください。そしてまたあなたのぬくもりでわたしを包んでください。あなたに触れることでわたしはわたしを取り戻すことができるのです。あなたのその肌、その声、その唇。あなたにわたしの肌を重ねることでわかるそのぬくもり。そのすべてがわたしを生へと掻き立てるのです。あなたがわたしの中へ入ってくるその瞬間、わたしの生はこの上ない喜びの声をあげるのです。それなのに・・・、それなのにあなたはいったいどこへ行ってしまったのですか)


 千佳には慎吾の気持ちやそれに基づく行動などわからない。それは総司に対しても同じことだ。だから彼らは千佳の中で創られ、千佳の中で創られた彼らが成長していく。

(さぁ、総司。早くわたしを迎えに来てください。あなたは近いうちにわたしを迎えに来ると言いました。けれどもそれでは遅すぎます。わたしはあなたを待ち続ける自信がありません。わたしはわたしの意思ではもうどうしようもないところまで来ているのです。だから早くわたしをあなたの元へ連れ去ってください。そして、わたしに人間としての生き方を教えてください。お願いです、早くわたしをこの苦しみから助けてください)


 千佳は千佳の中で生まれるこれらの考えが恐ろしいほど怖かった。しかし、それ以上に独りになるのが怖かった。千佳は独りになると死ぬことで得られる生について考え始める。その辛い過去、楽しい思い出、苦しい未来、そのすべてが死によって無に還すことができると信じていた。その考えから逃れるためには、例え千佳を助けようと努力する人たちを裏切る結果になったとしても、独りになる時間から逃れることができるのなら、千佳はそれでもいいとさえ思えていた。


(総司と慎吾。わたしにとってはかけがえのない恋人たち。彼らと共に過ごすことでわたしは生きることができた。そしてこれからも生きていくことができる。そのどちらかと、もしも別れなければならないようなときが来るとしたら・・・)

 千佳はカレンダーを見つめている。その視線は変わることなく同じ日を見つめ続けていた。


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