第九十六姉「・・・・・・ムラサキ、手本を見せてやる。」
「ヒロー、≪聖杯水≫ちょうだーい!」
「あいよー。」
そのまま家に戻り、お茶を楽しむ俺たち姉弟だった。
「ただいまー。」
「「おかえりさなーい。」」
それから一時間ほどしてノエルさんが帰ってきた。
疲れてるだろうから≪聖杯水≫で一服してもらおう。
「これどうぞ。」
「おお、ありがとうなヒイロ。・・・ふぅ。相変わらず美味いな。聖杯水に関して言えば、世界最高の魔法使いかもしれんな!」
「そ、そんな~。褒めないでくださいよ~。」
「ヒロ、顔、めっちゃ崩れてるわよ。崩れ落ちそう。」
だってお前、世界最高峰の魔法使いに魔法を褒められたんですよ?
嬉しいに決まってますがな!
たとえ、それが水分補給魔法だったとしても!
「何か変わったことはあったか?」
「ありました。」「あった。」
「そうか、あったか・・・ってあったの!?何が!?」
「なんかよくわかんない変質者がきたから撃退しといたわ!」
「・・・ヒイロ。」
「お気持ちはわかりますが、ほぼ事実です。」
先ほどのクリスくんについて話す。
「クリフレッド家ね・・・まためんどうな。」
はぁ・・・とため息をつくノエルさん。
「知ってるんですか?」
「ああ、人間族の中ではそこそこ魔法が得意なことでそこそこ名の通っているそこそこな家だ。」
「はぁ・・・で、そのそこそこの家の坊ちゃんがノエルさんの弟子になりにきた、と。」
「絶対に弟子などとらんがな。貴族のガキに教えることなんぞ何もない。教えたとしても三日で逃げ出すのがオチだ。撃退したといったな。よくやったムラサキ、珍しくファインプレーだ。」
「珍しくは余計だけど、まっかせなさいよ!」
さきねぇとノエルさんがハイタッチをかます。
ちょっと気絶しているクリスくんがかわいそうになってきた。鼻血止まったかな?
いくら治療のためとはいえ、さすがに鼻の穴の中に≪聖杯水≫注ぎ込むのはかわいそうだしな~。
窓から外を覗くと、ちょうどクリスくんが頭をフラフラさせながら立ち上がるところだった。
「やばい、立ち直ったわね。」
「詰めが甘いなムラサキ。もっとこう、ガツン!とやらないと。」
真剣に殺人についての意見を交わしだす二人。怖いよ。
そうこうしているうちに、クリスくんが玄関まで戻ってきた。
とりあえず対応するか。
「・・・大丈夫ですか?」
「キミはさっきの召使か。すまない、実は気づいたら木陰で横になっていてね。さきほどの記憶が曖昧なんだが、何があったんだろうか。」
おっと~、ショックで一時的に記憶が飛ぶとか、マジでそんなことあるのか。
先ほどの目の(☆ω☆)といい、この子、天然記念物に登録したほうがいいんじゃないだろうか。
「いきなりあんたが貧血でぶっ倒れたのよ。それをこの!私!とヒロが木陰に寝かせて毛布までかけてあげたってわけ。感謝しなさい。」
なんという恩着せがましさ。しかも嘘だし。
これがさきねぇじゃなくてマリーシアさんだったら、後ろからヤクザキック(相手方向にレバーを入れて強K)かましてるわ。
「そ、そうだったのか。すまない、助かった。」
素直に頭を下げるクリスくん。
あれ、もしかしてこの子、めんどくさいことを除けばいい子なんじゃなかろうか。
すると、クリスくんが何かに気づいたようにしゃがみこむ。
そして、この家の主に向かってこう言った。
「あ、君は『破軍炎剣』のご息女かな?君の母上に会いにきたんだが、もう帰っているかな?」
キラ☆と音が鳴りそうなほどのイケメンスマイル!
普通の女性ならニコポしてもおかしくないレベルだ。
もちろん、『普通の女性なら』の話だが。
そして、目の前の女性は当然のように普通ではなかった。
「・・・・・・ムラサキ、手本を見せてやる。」
「え?」
クリスくんはよくわからないといった表情で首をかしげる。
バカかお前は!暴風が吹いて命の灯火が消える寸前なんだよわかれ!
「『撃退』とは、こういうことを・・・言うんだ!」「・・・ア、≪水盾≫!」
「げふぅ!!!」
俺の≪水盾≫をあっさり突き破り、クリスくんの顔面にノエルさんの拳が突き刺さる。
レッドダンゴムシのように、すごい速さで後ろにゴロゴロ転がっていくクリスくん。
うわぁ、木にぶつかってグシャッ!とか音したぞ。
「ノ、ノエルさん!さすがにやりすぎですよ!?死んじゃいますって!?」「ぶわはははははははははははは!」
「クリフレッド家の人間なんぞ、この家にはこなかった。それだけだ。」「はははははははははははは!」
「何その推理小説にでてくる閉鎖的な村の村長みたいな台詞!?つーかさきねぇうるさい!」「はははははははははは!」
クリスくんを指差して大爆笑しているさきねぇ。
ええい、まともな人間は俺だけか!?
すぐに駆け寄り、≪聖杯水≫を顔面にぶっかける。
さすが俺の必殺回復魔法、みるみるうちに怪我は治ったが、ぴくぴく痙攣して動かない。
「ふぅ、なんとか一命は取り留めたな。あとは・・・木陰に寝かせるか。」
さきねぇとノエルさんは、今のパンチについて速度がどうの腰のひねりがどうのと熱く語り合っているので、俺一人でさっきの木陰まで運ぶ。
毛布をかけて、と。
「好!」(注 中国語で『よし!』という意味です。)
「ヒロー家に入るわよー。あと、さっきのツッコミはそこそこ良かったけど、ちょっと長かったのが減点ねー。」
「辛口っすねお姉さま!まぁ自分でもちょっと長いなとは思ってた。」
「そもそも、スイリショウセツとはいったいなんなんだ?」
「それはですね~」
三人で推理小説とはなんぞや!?という話をしながら家に入る。
仲良し家族!
「あ、クリスくん起きたみたいだよ?」
「ヒイロちょっと待て・・・これだ!うわーまたジョーカー?ムラサキのこの強さはいったいなんなんだ。意味がわからん!クソッ!・・・さぁどれだ!」
「へっへっへっへ!見切った!これ~とみせかけてこれ!はい当たりー!私の勝ちー!」
「なーぜーだー!」
ババヌキをすること一時間、窓から外を見るとクリスくんがちょうどまた復活したところだ。
あの不死身具合といいイケメン具合といい、実は勇者なんじゃねーの?
ちなみにトランプはこの世界に存在しなかったため、ノエルさんにお願いして作ってもらった。
使用するカードは、いっぱい持ってるのと加工しやすいからという理由で純銀製だ。超贅沢!
ノエルさんは勝負事に熱中すると顔に出やすいタイプのようで、負けが続いている。
戦闘だと常に冷静なのにな・・・
「す、すまない・・・」
「は~い。どうしました?」
クリスくんが玄関で困っているため、仕方なく対応する。
玄関は開けっ放しだから強引にはいってくればいいのに。
まぁもし入ってきたら無断侵入の罪で処刑するとノエルさんが暗い笑みを浮かべていたので、正解ではあるんだけど。
「・・・さきほど、あの少女に殴られた記憶があるんだが、事実だろうか。」
「えっと、事実ですね。ちなみにあの美少幼女がこの家の主、ノエルさんです。」
「え!?あの少女が『破軍炎剣』なのか!?」
「はい、あの美少幼女がノエル・エルメリアさんその人です。子ども扱いする人間は武力で鎮圧する方なので、言葉は選んでから発言してください。」
「わ、わかった・・・」
胸に手を当てて深呼吸しだすクリスくん。こいつ、ちょっとかわいいな。
ホモじゃないですよ俺。
「ボクの名前はクリス・ウル・クリフレッドといいます!あなたので「やだ。」しに・・・」
泣きそうな顔で俺を見るクリスくん。
どないせぇっちゅうんじゃ。
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