第九姉 「・・・え!?同じ部屋で一緒に着替えるの!?マジで!?」
姉属性を持たない人から見ると、紫さんみたいな変態ブラコン姉はどう感じるんだろうか。
そこには、おしゃれなペンションというかコテージのような建物が建っていた。
「シャレオツね!」「いい感じだな!」
俺とさきねぇは喜びの声をあげた。好きなんだよね、こういう雰囲気!
「お菓子のお家だったりしてね!本当は怖いグリム童話的な!」
「・・・ノエルさんが魔女だったらもう何も信じられねーよ。」
一見天使だけど、実は魔女でしたって・・・むしろあなたのほうが当てはまるんじゃ?
いや、さきねぇは魔女というより小悪魔か。小悪魔系堕天使か。
完全にCHAOS-DARKだな。俺はもちろんLOW-LIGHTだが。
そんなやりとりをしつつ、建物の中に入る。
外見と同じく中もペンション風だ。なんか旅行にでも来た気分だ。
「さて、まずは服を脱いでくれ。」
「「え」」
なんてことだ。
天使だと思っていたノエルさんは、俺たちの体が目的だったのか・・・
俺は大人の階段を昇ってしまうのだろうか。
初体験が一見小学生の168歳と姉との3Pとか業が深すぎるだろ。
「あ、あの、俺は構いませんが、姉だけは許してあげてくれませんか?」
「?何を言ってるんだ?ここまで歩いたからといって、まだ完全に乾いていないだろう?早く脱がないと風邪をひいてしまうぞ?」
あ、あーあーあーあーそうですよね!俺ら泉から出てきたから服濡れっ濡れですもんね!多少は乾いたけれども!
「本当なら何か着替えを渡せればいいんだが、あいにくここには私の着替えくらいしか服がなくてね。あちらの部屋で服を脱いだら私に渡してくれ。すぐに乾かすから。」
「エルエルありがとんくす!・・・それと、ヒロ。お姉ちゃん、あとでお話があります。」
「大佐、落ち着いて話し合いましょう。」
姉から絶対零度の冷気が吹き荒れる。
違うんだ、『俺は構わない』っていうのはヤリましょうって意味じゃなくて、俺が生贄になるから姉を助けてほしいという意味で言ったのであって・・・
恐怖に震えながら、俺はさきねぇと奥の部屋に一緒に入っていった。
「・・・え!?同じ部屋で一緒に着替えるの!?マジで!?」
なぜか部屋の外からノエルさんのそんな声が聞こえた。
「好きな場所に掛けてくれ。今飲み物と食べ物を持ってくる。」
そういうとノエルさんはキッチンに入っていった。
「数分しか経ってないのに、すでに服が乾いてるわ。しかもパリっとしてる。異世界にも乾燥機があるのかしら?」
「剣と魔法と機械の世界?なんかゴテゴテしすぎじゃない?」
「じゃあやっぱり魔法なのかしら。服乾燥とか?」
「地味だけどすげー便利だなその魔法。ほしい。」
そんなアホな会話をしながらキョロキョロと室内を見渡す。
高そうな調度品が置いてあるわけでもなく、質素な感じだ。
最低限の生活はできますよ、といった具合だ。
別荘とはいいつつも、たまに寝泊りする程度なのかもしれない。
まぁいつも寝泊りしていたら、それはもう本宅なわけだが。
うちのお姉さまのようなアホな感想を抱いてしまった。気を付けねば。
「ふむ、ここが異世界なら、私たちはやっぱりタンスとか壺とか漁ったほうがいいのかしら?」
「何が『やっぱり』なのかはわからないが、それは勇者の特権であって、俺らがやったら確実に捕まるぞ。」
「エルエルなら許してくれそうじゃない?」
「ノエルさんが許しても、ノエルさんちを荒らすなんて俺が許さない。絶対にだ。」
「わ、わかったわよ…そんなメンチきらなくてもいいじゃない。」
俺の中ではノエルさんはかなり高位の存在に認定済みだ。
姉という存在はもちろん別格だが、時として神より偉大な時もあれば、そこらのチンピラよりたちが悪い時もあるから困りものだ。
振れ幅がでかすぎる。
ノエルさんがお盆に何かを載せて戻ってきた。
その姿は親の手伝いをしようと頑張る小学生そのものだった。和む。
「この地方名産のブドウのワインとチーズだ。異大陸では珍しいだろう?」
…ドヤ顔だ。
前にこの世界に来た人は特徴的に日本人ぽいが、ワインとチーズが珍しかったのか。
昔の時代から来たのか、それともパラレルワールド的な日本から来たのか。
本人が亡くなってるなら確認のしようがないが。
さきねぇにアイコンタクトを送る。
『わかってるな?』
『了解、ブラザー!』
「わー、ありがとうございます!」
「おいしそうね!さすがエルエル!」
秘技『受け流し』!
後半部分を受け流すことによって、聞かなかったことにしてしまう恐ろしい技だ。
ふぅ、危ない危ない。
またノエルさんを真っ赤にしてしまうところだった。
わざわざ俺たちにとって珍しい(とノエルさんは思っている)ものをチョイスしてくださったのだ。
ノエルさんのもてなしの心を無駄にしてはいけない。
そんなこんなでワインとチーズをいただく。
「あ、うま。」「あら、おいし。」
自信満々に出してきただけあって、さすがにおいしかった。
さきねぇは正直なので、散々飲み食いしたくせに『どこにでもある普通の味ねー』とかいっちゃう女だ。
そのさきねぇが素直においしいと褒めるということは、やはり良いものを出してくれたのだろう。感謝だ。
そのままむしゃむしゃと飲み食いする。
ノエルさんはそんな俺たちをニコニコしながら眺めている。
「ご馳走様でした。おいしかったです。」
「やっと一息つけたわーエルエルやるじゃん!」
「満足してもらえたならよかった。・・・さて、それでは、君たちについてだが・・・どうしたい?」
俺とさきねぇは顔を見合わせる。
どうしたい、といわれてもな。
「そうですね、とりあ「魔法を使いたいわね!」
姉の目が、輝いている。
これ以上ないくらいに、だ。
キラキラと音が鳴ってもおかしくないほどに、姉の目が輝いていた。
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