第八十六姉「しっ!見ちゃいけません!燃やされちゃうかもしれないでしょ!」
ブクマや評価いれてくださった方、ありがとうございます。
ブクマ300突破しましたー!と思ったら更新前に下がったでござる。
諸行無常の響きあり。
俺の≪聖杯水≫は美味いしのど越しさわやかだし二日酔いに良く効くと、もらうと嬉しいアルゼン門番差し入れランキング、堂々の第二位(タイチョーさん調べ)とのこと。
ちなみに第一位は『さきねぇの笑顔』らしい。こいつらとは美味い酒が飲めそうだ。
門番さんたちに手を振り、街の中に入るのだった。
三人並んで歩いているが、街の人々の反応が面白い。
「お!ムラサキちゃんじゃない!ちょっと手伝っていってよ!」
「いやいや、うちを手伝ってくれよ!売り上げがちょっとやばいんだよ!」
さきねぇが売り子をやると人が殺到し、売り物が即完売になることがわかっている屋台の人たちは、率先してさきねぇに声をかけ手伝いを求めてくる。
「あ、ヒイロさんじゃないですか!E級冒険者のモッブです!この前定食屋の後ろの席にいたんですけど覚えてますか!?」
「ヒイロさんがあんたなんか覚えてるわけないでしょ。ヒイロさん!この間はありがとうございました!今度はもうちょっと準備してから森の奥地にいこうと思います。」
冒険者たちは男女関係なく、さきねぇよりも俺に声をかけてくることが多い。
アルゼンではほとんどみかけない魔法使いだから顔を覚えてもらおうとするやつや、回復魔法で助けてやったやつらからお礼を言われたりする。
まぁそれ以外にもちょっとした理由があるんだけどね。
「今度はなにすんだー?また面白い出し物期待してるぜー!」
鈍器姉弟を知っている人たちは俺たちをお祭り要員というか、最近のアルゼンで起こる騒ぎの大体の原因としてみているため、楽しげに声をかけてくる。
俺たちを知らない人たちはキョロキョロ辺りを見渡し、『え、誰なの?』みたいなことを隣の人に聞いたりしている。
「・・・・・・・・・・・・」
逆にノエルさんに声をかける者はまずいない。
ノエルさんのことを知っている冒険者は恐れ多くて声をかけられないらしい。
さらに住人たちはノエルさんをナンパしたチャラ男が瞬時に火達磨になったのを目撃してしまい、かなり恐れている。
俺たち姉弟には声がかかるのに、自分には声がかからない状況が気に入らないらしく、大抵ムスッとしていることも人を寄せ付けない要因の一つだろう。
「ママー、あの子ってもしかして、クリムむぐぅ?」
「しっ!見ちゃいけません!燃やされちゃうかもしれないでしょ!」
あと、話の流れに全く関係ないが、ノエルさんはアルゼンで密かに『炎と断罪と謎の魔法美少幼女プリンセス、クリムゾンムーン』なのではないかと噂されている。
当然のように噂の出所はうちの姉だが。
もちろんノエルさん本人の耳には入れていない。
もし知られたら、さきねぇの長く美しい黒髪がアフロなボンバヘッ!になってしまうかもしれん。
できれば墓場まで持って行きたい秘密である。
いろんな人に声をかけられながらもギルドに到着し、ノエルさんを先頭に中に入る。
ギィィィ。
さきほどまで聞こえていた冒険者たちの声が途切れる。ノエルさんの機嫌の悪さを察したようだ。
ノエルさんは肩で風を切るように歩いていき、その後ろを俺たちがついていく。
冒険者たちは黙ってノエルさんに道を開ける。
・・・なんかアレだな。
ゴッドファーザーのテーマなんて流したら雰囲気に合いそうだな。
『辺りを牛耳るノエル一家のボス、ノエル・エルメリア様がお通りだ・・・道を開けろ』みたいな。
それで考えると、さきねぇは若頭で俺は・・・悪徳会計士?
緋色、それ、ギャングやない・・・ヤクザや。
「・・・はっ!?一人ボケツッコミかよ!」
さきねぇが俺の思考を姉テレパシーで感じ取ったらしく、急に叫びだす。
そしてビクッとする冒険者たち。
周りにいた冒険者たちからすれば、いきなりわけのわからないことを叫びだした奇行者でしかないな。
くわばらくわばら。
「なんじゃ、騒々しい・・・ほ!ノエル様ではございませんか!お久しゅうございます!お元気そうでなによりでございます。」
「おお、ガルダか。老いぼれ爺がまだ生きていたか。」
奥から白髭を生やしたおじいちゃんが出てきた。誰だ?
「・・・おーおじぃ久しぶりー!元気してたー!?」
「・・・おー!久しぶりじゃのぉ娘っこ!お主こそ元気にしとったか!?」
「あたぼーよー!おじぃに赤ちゃん見せるまでは死ねないわよー?」」
「ほっほっほ。じゃあわしもまだまだ死ねんのぅ!」
「「わっはっはっはっは!!」」
いきなりきさくに話し始めるさきねぇとおじいちゃん。
「む?二人は知り合いだったか。こいつはギルドにめったに顔を出さないんだが、いつ知り合ったんだ?」
「いやー、その・・・なんといいますか。」
ノエルさんに尋ねられるが、答えられない俺。
まずい、さきねぇの知り合いなら俺も知ってるはずなのに、名前がでてこない。
やばいな、この若さで健忘症かもしれん。
思い出せ~思い出せ~・・・
「いや、知らないわよ?今日初めて会った。」
「わしも知らんの。今日初めて会ったわ。」
「「は?」」
今なんとおっしゃいましたお姉さま?
「えっと~、ん?今日初めて会ったの?」
「そうよ?」
腕を組み、手を頬に添え、首をかしげるさきねぇ。かわいい。
「・・・さっきの会話は何?」
「その場のノリね。」「その場のノリじゃな。」
「ノリかよ!?初対面でそのノリってすげぇな尊敬するわ!つーかどんだけおちゃめなんだよじーさま!?」
「ふぉっふぉっふぉ。まだまだ若いもんには負けんぞぃ!」
ブイサインをして笑うじーさま。なんなんだこの人。
「相変わらずだなお前は・・・」
「ほほ。褒め言葉として受け取っておきましょう。」
ニコニコしているじーさまに、ノエルさんも脱力したようにため息をついた。
「さて、改めて自己紹介といこうかの。わしはガルダ・モーゼフ。この冒険者ギルドアルゼン支部の副支部長をやっておる。といっても名誉職みたいなもんじゃがな。」
ふ、副支部長なんていたのか。数ヶ月はこの街にいるけど初めて会ったぞ。
とにかく挨拶だ。第一印象は大事だからな。
さっき『なんだこのじじい。』とか言わなくてよかった。
「はじめまして。ノエルさんにお世話になっているヒイロ・ウイヅキと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。今度ともよろしくお願いいたします。」
「ふむ。礼儀正しくて真面目っぽいが、娘っこほど面白くはなさそうじゃの。」
「オラァ!」ブチブチブチィ!
「ギャアァァァァ!」
さきねぇがいきなりガルダのじーさまのヒゲを力任せに引っこ抜く。
周囲からは『ムラサキさん、あの副支部長相手にケンカ売ってるぞ』『あの人、怖いもの知らずすぎよね』『権力に屈しないその姿、ムラサキさんマジパネェっす!』と恐れおののく声が。
「うちのヒロをディスってんじゃないわよ!ヒゲ抜くわよ!」
「抜いてから言うな!というよりそもそも抜くな!ヒゲを!」
「ふっ『沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。』っていうでしょ?それよ。」
「んん?どういう意味じゃ?」
ど、どういうことだろう。ヒゲと平家物語が何か関係あるんだろうか。
「沙羅双樹の花の色は盛える者もいつか必ず衰えますよっていう、この世の道理を説いてるわけよ。わかる?つまり・・・」
「つまり?」
「ヒゲよ。」
「「「意味がわからん!!!」」」
三人合計して250歳近いであろうツッコミ、通称『250歳ツッコミ』が入った。
誰にそう呼ばれてるかは知らん。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
後半の沙羅双樹うんぬんの話は私も意味がわかりません。
書いたの自分ですけど。




