第八十一姉「ヘイ、マイブラザー!恋するお姉ちゃんはせつなくて弟を想うとすぐ泥棒猫どもをBOKUSATUしちゃうの!」
「い、いっきゅうにゅうこん・・・!わかった、今日、カチュアに聞いてみる!『お前の着替えてる姿が見たい!』って!」
「よく言った!それでこそきょうだいだ!」
確実におかしい方向へ進んでいる兄と弟だった。
商工会にいき、知り合いの商人に声をかける。
ノエルさんの知り合いの息子なので騙されたりする心配はない。
あとは俺のプレゼン能力次第だ。
まぁパープルムーンが流行るくらい娯楽が少ない街だ。
金になりそうなイベントの話をすれば、喜んで食いついてくるだろう。
プレゼン中・・・プレゼン中・・・プレゼン中・・・君にこの問題が解けるかな?
「場所は広場でやろう!屋台や大道芸人も呼んで・・・面白くなってきたぞ!」
「では、準備が整ったらお知らせください。あ、私の取り分はなしでいいので、儲けの一割は教会に寄付してくださいね?」
「ふむ、欲のないことだ。商人としては、本人にメリットのない提案をする者はあまり信用できないんだがね。」
「なに、これが成功すればあなたや商工会に貸しを作ることができますから。メリットはちゃんとあるのでご心配なく。」
「なるほど。冒険者にしておくのはもったいないくらい頭が回るようだ。冒険者を廃業したら私のところで働かないか?君ならいつでも歓迎するよ。」
「その時がありましたら。それでは。」
商人と握手をして、商工会をあとにする。
「・・・お前、めちゃくちゃ頭いいな。正直尊敬するわ。」
「ん?そこそこには、ね。さきねぇのほうが100倍頭いいけどね。」
俺は肩をすくめる。
プレゼンの時に漢字を使ったり、難しい用語を使って説明しているのを見てビックリしたらしい。
まぁ教育水準が違うからな。日本を無礼るな!
「と、いうわけで大食い対決ではなく、大食い大会になったんで、そこんとこよろしく。」
「・・・はぁ!?」
「まぁ第一回目だから参加者は少ないですよ。10人もいないでしょう。あと、食べ物はさきほどのホットドッグです。場所は広場でほぼ確定でしょうね。観客もいっぱい集まるから盛り上がりますよ!」
「マジで大事になってきやがった・・・」
「さきねぇに関わるから。自業自得ですよ。」
「いや、最初にお前のねーちゃんにからまれたんだけど。」
「・・・まぁ運が悪かったと思って諦めてください。いや、さきねぇと話ができたんだから、むしろ運が良かったのでは?」
「しらねーよ。」
なんだかんだ言いながら、仲良くなるシスコンどもだった。
とりあえず諸々の交渉は終わったので、いつもの定食屋に向かう。
もうきてるかな?
カランカラン♪
「いらっしゃいませー!あ、ヒイロさんどぉもですー!今日はムラサキさんはいないんですか?」
「後からきますんで待ち合わせに使わせてもらいます。ちゃんと料理は頼みますから。」
「わかりました~!じゃあいつものお席でどうぞ~!」
ウェイトレスさんにいつもの席に案内される。
なぜいつもこの席に座れるかと言うと、ノエルさんの関係者以外使用禁止らしいからだ。
権力というものは、げに恐ろしきものなり。
「あ、ヒイロさん!この前はありがとうございました!傷跡も残らなくてビックリしました!あれ、ムラサキさんは?」
「後で合流。怪我はしないのが一番だからな。無理しないように。」
「おお、ヒイロ!お前、俺達を助けると思って今度臨時でいいからうちのチームきてくれよ!攻防回復できる上に視野が広いお前がいると、森の奥地の効率が全然ちげぇんだよ!ところでムラサキさんは?」
「後で合流。チーム参加は時間があったらね。あとうちのお姉さまの許可。」
周りの冒険者たちに声をかけられながら席につく。
今日は声かけられると『ムラサキさんは?』率100%やな。
「お前、顔広いな。俺なんか冒険者の知り合いなんてほとんどいねーぞ。」
「まぁ鈍器姉弟といえばアルゼンではそこそこには有名ですからね。『田舎最強の姉弟冒険者!』とか『見て楽しめ、触るな危険!』とか。」
「・・・それ、誉められてるか?」
「さぁ?」
わははは、と二人で笑いあう。
この世界に来て、はじめて話の合う男友達が出来たかもしれん。
酒を注文し、二人で一杯やる。
ちなみに、アルゼンには基本的に酒はビールっぽいものとワインしかない。
もともとビールが苦手な俺はもっぱらワインだ。
いつか日本酒とか焼酎とか作って革命を起こしたいぜ。
詳しい作り方知らないけどね!
「たのもー!」
でかい声と同時に、扉が壊れんばかりに開く。
店内の客達も一斉に視線を向けるが、すぐに元に戻る。
異世界人は順応性が高いな。
「こっち~。」
「ヘイ、マイブラザー!恋するお姉ちゃんはせつなくて弟を想うとすぐ泥棒猫どもをBOKUSATUしちゃうの!」
「この数時間でいったい何があったんだよ・・・」
・・・ほんとに殺してないよな?ちょっと不安。
「あ、カチュアさん。それかわいいじゃないですか。いいですね。」
「あ、ありがとうございます・・・」
カチュアさんは顔が真っ赤だ。
カチュアさんが着ている服はふりふりひらひらしたドレス、まぁゴスロリ服とでもいおうか。
野暮ったいハードレザー装備よりも全然かわいい。
あれ、ヴォルフさんの反応がないな?
視線を横に移すと。
「・・・・・・」
目がハートマークになって、固まっている漢がそこにいた。
「ほら、ヴルフさん。感動で固まってないで、感想を言ってあげなきゃ!」
「・・・お、おぅ。カチュア。その、すごく、かわいいぞ。さすが俺の妹だ。」
「あ、ありがとう兄さん・・・」
見つめ合う兄妹。完全に二人の世界だ。
「なんか、すごいわね。ヒロ、どうする?」
「まぁほっとけばいいんじゃない?もしさきねぇが俺と見つめ合ってるのを邪魔されたらどうする?」
「紫流奥義を混成接続して272回くらい殺すわね。」
「殺しすぎだろ・・・まぁそういうわけだから放置で。何食べる?」
「えっと、お姉ちゃんはねぇ~」
きょうだいというものは自分達勝手なものなのです。
各々勝手に好きなものを頼む。
「飲み物はいきわたりましたか?それでは、えー、歌は世につれ世は歌につれと申しま「かんぱ~い!」」
「「!?」」
俺とさきねぇの息の合った乾杯に驚愕を受ける兄妹たち。
まぁ(俺達姉弟限定の)鉄板ネタだからな。
それから普通に乾杯する。
「いやー、獣人の裸ってはじめて見たけど、しっぽの付け根とかあんな感じになってるのね~?」
「へ~。どんな感じなの?見てみたいな。」
「「ぁあ!?」」
「ひぃすいません!なんでもないです!」
姉と兄の目から発射された殺人ビームにびびる俺。
横には恥ずかしそうなカチュアさんが。
そりゃそうですよね。簡単に言えば『裸になってケツみせろ』っていってるのと同意義ですものね。
「あんたの妹もけっこうかわいいじゃない。」「お前の弟もけっこうやるじゃねーか。」
「「だろ!?」」
姉兄で弟妹自慢が始まった。
こんなに仲良いんだから、別に決闘とかどうでもよくない?
そんなこんなで食べて飲んで騒いで歌って踊った。
そして四人で帰宅する。二人は近くの宿に泊まっているらしいのでそこまで一緒だ。
とはいっても、さきねぇとヴォルフさんは道端で『かっこいいポーズ対決』を始めたので放置している。
まぁそのうちおいつくだろ。
「今日はありがとうございました。」
「ん?俺なにかしましたっけ?」
「助けていただいたり、服を選んでもらったり。」
「それはさきねぇにいってあげてください。喜びますよきっと。」
「それだけじゃなくて、兄さんと一緒に出かけてくれたこともです。あんなに楽しそうな兄さん、久しぶりにみました。これからも仲良くしてあげてください。」
「あはははは!シスコン同士気が合ったんでしょう。俺も楽しかったですよ。こちらこそ、です。」
そんな会話をしていると、後ろから『弟(妹)がいない!』という叫び声が。
見つめあい、苦笑いをする俺たちだった。




