第八十姉「お前に全て任せたぞ我が友よ!」
「・・・・・・三本しょーぶ!三本勝負だからまだ勝敗はわからないわ!」
「「え!?」」「まぁそんなことだとは思ってたけどね。」
さきねぇの突然の休戦破棄に驚きを隠せない兄妹だった。
「三本勝負はいいけど、次はどうすんのさ。」
「えっと・・・大食い?」
なぜ大食い・・・
外野は『次は大食い勝負だー!ウオオオオオオオ!』と異様に盛り上がっている。
そんなに娯楽ないんか。
「だそうですけど、どうします?やります?」
とりあえずヴォルフさんに確認をとる。
「・・・やってやる!」
「まぁ、大食い勝負なら危なくないですし、私も文句ないです。」
「よし、じゃあ今から「できるわけないでしょ。この外野の人数でどこが入れてくれるんだよ。俺が今から食べ物とか場所とかの交渉してくるから後日ね。」
まぁさきねぇ関連でこういうイベントごとの交渉は慣れている。
ここはこの敏腕と名高い緋色Pに任せてもらおうか!
「つーかカチュアさ・・・服装ダサくね?」
「「「!?」」」
何の前触れもなくいきなり爆弾発言をかますさきねぇ。
カチュアさんが着ているのはハードレザー装備。わかりやすくいうと『皮のよろい』みたいなものだ。
戦闘装備だろうから、かっこいいとかダサいとかで判断するものではないだろ。
しかし兄は怒りで、妹は恥ずかしさで顔が真っ赤だ。
「わ、わたし、ずっと獣狼人の集落にいたし、女の子の友達も少なくて、おしゃれとか、あまり・・」
「よし、このアルゼンのファッションリーダーと呼ばれる私に任せなさい!今から買い物にいくわよ!」
「いいんですか?よ、よろしく御願いします!」
「お、おい!勝手に決めるな!お前にそんなことをしてもらう義理はねぇぞ!」
「妹がもっとかわいくなるわよ?」
「お前に全て任せたぞ我が友よ!」
だめだこいつ。単純にも程がある。
もしかして、俺も傍からみるとこんなダメ男っぽく見られてるのか?
・・・まさかね。この俺がこんな脳筋と一緒とかありえないっしょ。
さきねぇはカチュアさんの手を掴むと、外に向けて走り出した。
「待ち合わせはー?」
「いつもの定食屋ー!」
「おけー。」
あっという間に見えなくなる二人。
周りの野次馬からは『いやー楽しみだなー!』『ムラサキさんはなにやっても華があるよな!』『最近はあの人見たくてギルドにきてるわ(笑)』『クエスト受けろよ(笑)』という声が。
さすがさきねぇ。異世界でも人気爆発だ。
ニヤニヤが止まらないぜ!
俺は独占欲が強いが、ファンには寛大なのだ。
俺の『きれいでかわいくて頭が良くて運動神経抜群で~以下略~で大好きなむらさきお姉ちゃん』が人気があるということは俺にとっても嬉しいことなのだ。
逆にさきねぇは好きだとかファンだとか関係なく、俺に近づく女は全て『自分の宝を奪いに来た敵』であり、追い払ってしまうダンジョンマスターみたいな女だ。ノエルさんは例外中の例外。
いつか監禁されそうで怖い。
「さて、俺は心当たりのある屋台やらに声かけてきますけど、ヴォルフさんはどうします?」
「・・・俺もついていく。カチュアがいないならやることなくて暇だしな。」
妹以外のことに無頓着とか、親近感がもてるな。
ギルドを出て、男二人で歩く。
「・・・お前の姉ちゃん、つえぇな。正直、全冒険者ギルドのE級で最強じゃねーか?」
「でしょうね。まぁ訓練つけてくれてるノエルさんは、単純な戦闘力のみならC級上位だっていってましたからね。」
「C級ね。確かにE級よりC級って言われたほうが納得できるぜ。そのノエルってやつの見立ては正しいな。」
「まぁあの人、168歳のおばあちゃんですからね。色んな人見てるから能力鑑定もかなり正確らしいですよ。」
「・・・ノエルって、もしかして『あの』ノエル・エルメリアか?」
「多分『その』ノエル・エルメリアです。」
「S級冒険者の『破軍炎剣』の弟子かよ!どおりで強いはずだぜ。」
「ちなみに、さきねぇが剣使って戦ったの今日が初めてですから。いつもハンマーか素手なんで。」
「あれで初!?確かに最初のほうは素人くさかったが、でも、いや、しかし・・・」
ショックを受けているヴォルフさん。
まぁ格下だと思っていた相手が自分と互角以上に戦った上に、慣れない得物だったことを伝えられれば動揺もするわな。
「まぁうちの姉は特別ですから。ノエルさんですら『人の身でありながら、いつか自分と同格になるかもしれない存在に初めて出会った』って感動してましたから。168年生きてて初めてらしいですよ。」
「そこまでの逸材か・・・なら、それに勝てりゃあ俺も認められるってことだな。楽しくなってきたぜ!」
「まぁ勝負方法は大食いですけどね。」
「・・・言うな。」
さてと~確かここらへんに、あ、あったあった。ホットドッグの屋台。
大食いといえばホットドッグでしょ!
「おばさんこんにちわー!」
「あら、ヒイロくんじゃない。今日はお姉さんは?」
「ちょっと別行動で。実はですね~」
「ふんふん~」
交渉中・・・交渉中・・・交渉中・・・正解は、CMの、後!
「・・・こんな感じでいいでしょうか?お代はかならず。評判も上がりますよ?」
「面白い話ね、乗った!」
ガチッと握手を交わす俺とおばさん。
まぁ断られるはずはないけどな。向こうにはメリットしかないんだし。
「では、場所や日時が決まったら改めてご連絡します。よろしくお願いします。」
「ええ、楽しみに待ってるわ~。あ、これもってきなさい。隣の獣人さんもどうぞ。」
「お、おう。ありがとな。」
ホットドッグを食べながら屋台を後にする。
「・・・ねえちゃんだけじゃなくて、お前もすげぇな。魔法使いなのに、あんな交渉もできんのかよ。生まれは商人かなんかか?」
「え?いやいや、ただの人ですよ。どこにでもいる一般ぴーぽーです。」
「それにしたって・・・。」
「ま、ま。いいじゃないですかそんなの。次は場所ですね。どうせなら商工会も巻き込んじゃいますか。」
「・・・スケールでかくなりすぎだろ。」
やるからには派手に花火をあげろ!ってのが姉の教えなんでね。
まぁ自分に関することなら絶対派手になんてやんないけど。
さきねぇのパーリーならそれなりの舞台を整えてあげたい弟心なんすよ。
ちなみに、商工会ってのは商人や職人さんたちが所属するギルドのようなものだ。
商工ギルドでええやんって思うけど、『ギルド=冒険者ギルド』だからだめらしい。
大人の世界って複雑怪奇だわさ。
「あ、そういえばヴォルフさん。カチュアさんの着替えを見たいなら、こそこそ覗かないでむしろ堂々と見ないと。うちの姉なんて『私、お姉ちゃんだけど、文句ある?』って顔で俺の着替えガン見ですよ。そのトランクス趣味わるーい!とか普通に言ってきますよ。」
「ブッ!?ばばばばばばばばかやろー!の、覗きなんて、して、し、してねーよバカ!」
「いやーそりゃ無理ですよ。妹さんから言われましたから。覗くっていうのは『やましいことをしてる』って自覚があるんでしょ。もっと堂々と!『俺は愛を持っておはようからおやすみまでお前を見つめていたいんだ!』って気持ちで!」
「し、しかし、それはさすがに気持ち悪いんじゃ・・・」
「はいバカ。バカ発見しましたよー?覗きのほうがよっぽど気持ち悪いですよ。想像してみてください?『鼻息荒くデュフフフと笑いながら覗いている男』と『下着姿のお前が見たい!と仁王立ちしている男』。どっちが気持ち悪いですか?」
「そ、そういわれると確かに。で、でも、嫌われないかな?」
「それくらいで嫌われるんなら覗きの時点で嫌われてますから。大丈夫。熱くなれよ。熱くなれよ!どうしてそこであきらめるんだよ!頑張れよ!もっと頑張れよ!お前を応援してくれてる人たちのこと考えろよ!いけよ!一球入魂だよ!」
「い、いっきゅうにゅうこん・・・!わかった、今日、カチュアに聞いてみる!『お前の着替えてる姿が見たい!』って!」
「よく言った!それでこそきょうだいだ!」
確実におかしい方向へ進んでいる兄と弟だった。
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