第七十九姉「ええ、本業はさきねぇの弟ですけど、副業は水の魔法使いです。」
感想いただきました。ありがとうございます。
色々あって執筆が全く進んでいない状況だったのでとても嬉しかったです。
頑張ります!
俺とカチュアさん両方に叱られ、しょぼんとするさきねぇとヴォルフさん。
ヴォルフさんのしっぽがしおしおに垂れ下がってちょっとかわいかった。
『あんたのせいでヒロに怒られたじゃない!』『お前のせいでカチュアに怒られたじゃねーか!』と罪を擦り付けあう二人。
なんか既視感だな。
この建物には罪を擦り付けあいたくなる負の感情でも渦巻いてるんだろうか。
「そういえば、お二人は冒険者ランクは?」
「私たちはD級です。ヒイロさんたちは?『絶対姉姫』は知りませんでしたが、二つ名を持つということは少なくともB級以上ですよね?」
「いえ、E級です。」
「「・・・・・・へ?」」
「E級よ!しかもつい最近E級になった、冒険者暦一ヶ月ちょいの有望なニューフェイスです!キリッ!」
俺とさきねぇの言葉に、獣人兄妹は『は?』って顔してる。
まぁ、C級に対してあそこまで強気にでてれば、上位冒険者だと思っちゃうよね。
「え、じゃあ『絶対姉姫』は!?」
「自称です。」「遠くない未来の私の呼び名よ!」
「ふ、二つ名を自称とか、まじかよ・・・」
口元がヒクついているヴォルフさん。
前にノエルさんに聞いたが、二つ名はギルドから授与されるか、周囲が呼び始めるもので、自称する者はほぼいないらしい。
A級はほぼ全員、B級もけっこう持っている人が多いらしいが、自分で二つ名を名乗るものはそれほど多くないようだ。
なぜなら、二つ名を名乗るということは『自分の強さに絶対の自信がある』という証明らしい。
強者を知るものほど、聞かれない限り自分から二つ名を名乗らない。
自分で二つ名を声高らかに堂々と名乗るのは、ノエルさんのように絶対的な実力があるものか、ケンカ上等!な脳筋か、二つ名を手に入れたばかりで自慢したくて仕方ないルーキーだけらしい。
まぁ『光速の女騎士』とか名乗ってそんなに速くなかったら苦笑いしか起こらないしな。
「あー・・・やめるか?」
ヴォルフさんがそう言い出した。
D級冒険者が格下のE級冒険者に本気で戦うのもかわいそうだ、という配慮だろう。
だが。
「ぷっ。何急に。怖気づくの早くね?テラワロスw」
「ぶっ殺す!」
テラワロスが何かはわからないだろうが、馬鹿にされたことだけはわかったらしい。
「ヒイロさん、いいんですか?妹の私が言うのもなんですが、兄さんは強いですよ?もしお姉さんになにかあったら・・・」
「ふむ。ヴォルフさんがそんなに強いんだったら、たまには痛い目を見るのもいいでしょう。それに、多分カチュアさんが思っているようなことにはなりませんしね。」
「は、はぁ・・・?」
よくわかってないカチュアさん。
むしろ、さきねぇがあなたのお兄さんの骨と自信を折らないか心配だ。
ナチュラルボーンクラッシャーだからなーあの人。
そして訓練場に入り、訓練中の冒険者たちに事情を話してスペースを空けてもらう。すいませんね。
「こ、この街の冒険者は、なんというか、違いますね。」
「そうなんですか?ここしか知らないんでよくわからないですけど。」
「普通は我が強い冒険者に『場所を譲れ』なんて言うとムッとされたり、ケンカになったりしますよ。でも、みなさん笑顔で場所を譲ってくれるものだから、つい。」
まぁ『美しすぎる冒険者』として有名なさきねぇがよくギルドや酒場で歌ったり、俺が不定期に『回復屋さん』を開いて格安で回復してやったりしてるからな。
アルゼン限定だが、鈍器姉弟はいまや大人気なのだ。
特にさきねぇのファンはめっちゃ多いからな。アイドルが笑顔で『この席、譲って?』って聞いたら席を譲らない人間はほぼいないだろう。
さきねぇとヴォルフさんが観客に囲まれた訓練場の一角で向かい合う。
武器は訓練用の刃をつぶした剣だ。
俺とカチュアさんは冒険者が用意してくれたイスに座る。
「兄の威厳と、妹の沽券が関わってるんだ。手加減はしねぇぞ。謝るなら今のうちだ。」オォォォォ!
「・・・『鬼瓦』!」ウオォォォォォォ!
ヴォルフさんの挑発に、なぜかお笑い芸人のネタで返すさきねぇ。
双子だけど、相変わらず思考回路が謎だ。
「ヒロ、合図お願い!」
「おけ・・・見合って見合って、はっけぃよ~「待った!意味がわからん!説明しろ!」
ヴォルフさんからちょっと待ったコールがかかる。
国技もしらんとは・・・ふてぇやろーだ。ヴォルフさんに説明する。
「よしわかった!合図を頼む!」
「では・・・セット!ハット!ハット!ハット!ハッ「だから待て!意味がわからん!さっきの『スモー』の説明の意味ないじゃねーか!」
「おいおい、てんどんは基本だろーがよぃ。」
周囲からは『て、てんどん?』とざわついている。日本独自の文化だったか・・・
「では、改めて。・・・見合って見合って、はっけぃよ~い・・・のこった!」
「弟のために死ねぇ!」「妹のために死ねぇ!」ワァァァァァ!
兄と姉の誇りをかけた死合が始まった。
そんなことはおかまいなしに、カチュアさんに話しかける。
「あ、飲みます?自慢じゃないですけど、おしいしいですよ俺の≪聖杯水≫。」
キィン!(剣が噛み合った音)
「あ、いただきます・・って、え!?ヒイロさん魔法使いだったんですか!?」
「ええ、本業はさきねぇの弟ですけど、副業は水の魔法使いです。」
ギリギリギリギリ!(剣の競り合いの音)
「わぁ・・・すごいですね!なんか普通だから魔法使いだとは思わなかったです!」
<ヤルナ!
<アンタモネ!
「ふ、普通、ね・・・ハハ。ヨクイワレマス。」
カッ!(離れた音)
「い、いえ、悪い意味じゃないですよ!?今まで出会った魔法使いってたいしたことも無いくせに偉そうな人間ばかりだったので・・・素敵だと思います。」
「そういう意味なら、ありがとうございます。あははは。」
「ふふふ。」
「見なさいよ!」「見ろよ!」
「ぅお!?」「きゃ!?」
いつのまにかすぐ近くまで来ていたさきねぇとヴォルフさんが叫ぶ。ビックリしたわ。
「お姉ちゃんのかっこいい勇姿を見なさいよ!感動するところよここ!」
「そうだ!兄ちゃんのかっこいい勇姿を見ろ!惚れ直すところだぞ!」
「「怪我しないようにね。」」
「「まかせろ!うおぉぉぉぉぉぉ!!」」
バトルモードに突入しだした姉兄はほっとくか。
~10分後~
「・・・なんてことがあって。どう思います?」
「いやー、かわいいものですよ。うちの姉なんて着替えを覗くどころか、部屋に突入してきますからね。」
「すごいですね・・・あ、あと、ご飯を食べるとき~」
「あ~ありますあります。姉兄あるあるですよね!」
「ですよね!他にわかってくれる人がいなくて!」
「あるあるすぎて他人の気がしないレベルですよ~!」
「「あははははは!」」
「「・・・・・・・・・ずいぶん楽しそう(ね)(だな)。」
お、おわったのかな?
「お疲れ様ー。どっち勝ったの?やっぱさきねぇ?」
「当然!」「俺の勝ちだよ!」
「「ぁあ!?」」
めんどくさいから決着つけちゃえばいいのに・・・
「あ、ヒイロさん、それで~」
「あ、はいはい。なんですか?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
「(ここは一時休戦よ。)」
「(わかった。)」
急にガッ!と手を握り合う二人。背後に見える亡霊は呉と越かしら?
「とりあえず引き分けってところかしらね!」「引き分けだな!」
「へぇ、さきねぇが勝ちを譲るなんて珍しい。」
「むっ!別に勝ちを譲ったわけではなく、その、アレよ!」
「いつも『勝たないやつは駄姉よ!勝つやつは訓練された良姉よ!!』とか言ってたのに。」
「・・・・・・三本しょーぶ!三本勝負だからまだ勝敗はわからないわ!」
「「え!?」」「まぁそんなことだとは思ってたけどね。」
さきねぇの突然の休戦破棄に驚きを隠せない兄妹だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
結局、仲良くしゃべる弟と妹が気になって、戦いどころではなくなった姉兄でした。




