第七十八姉「あーやっぱり。そういう担当の方って必ず一人はいますものね。」
一斉にさきねぇに群がる冒険者たち。
ギルド内からは『ムっラっサキ!』コールが鳴り響いている。
そして、当事者であったはずの獣人兄妹は何が起こったかわからず、目が点になっていた。
獣人兄妹がこちらに寄ってくる。
「いやー別に手助けはいらなかったが、一応礼はいっとくぜ。ありがとうな!」
「別に気にすんねぇ。同じ弟妹持ちとして許せなかっただけだしね。」
「ありがとうございました!どうお礼をすればいいか・・・」
「いやいや、あなたのお兄さんもうちの姉も、正しい怒りと行動ですよ。気にしないでください。」
仲の良さそうな兄妹だ。
まぁさきねぇと俺ほどじゃないだろうけどな!
「俺はヴォルフ、こっちは妹のカチュアだ。せっかく金もそこそこ貯まったから、兄妹水入らずでゆっくりしようと思ってこの街に着たのに、とんだ災難だぜ。」
「はっはっは。まぁどんまいっしょ!あんたどこからきたの?つーか獣人?」
「あぁ、みりゃわかんだろうが。おれらは~」
お姉さまも初めてちゃんと関わる獣人に興味津々のようだ。
ちなみに、異世界の獣人というと獣耳が生えてるだけのなんちゃって獣人を想像するかもしれないが、この世界は違う。手や足、体の一部にも獣毛がふっさりとしている。
ケモナーレベルでいえばレベル2ってところだ。
カチュアさんが話しかけてくる。
「ヒイロさんたちもご姉弟なんですか?」
「ええ、そうですよ。全く似てないですけどね。」
「仲が良さそうでいいですね・・・。」
「え、カチュアさん達だって仲良いでしょ?」
さっきのヴォルフさんの怒り方を見ていれば、仲が悪そうにはとても見えないが。
「それはそうですけど、仲がよすぎるというか、過保護すぎるというか・・・困った兄なんです。」
「・・・嫌なんですか?」
「嫌、ではないんですが・・・普通の兄妹とちょっと違いますよね?」
「・・・俺にはあなたが何を言っているかよくわからないな。普通と違うから何がいけないんですか?兄が妹を好きだって、妹が兄を好きだって、別にいいじゃないですか。まわりなんて関係ありませんよ。大切なのは、自分の意思です。」
ちょっと熱くなってしまった。でも、俺は言いたいことを言う。
俺はなにがあろうとも、自分の弟道をまげねぇ!
「・・・おかしいと、思わないんですか?」
「思いませんね。少なくとも俺は姉が好きだし、それに誇りを持ってるし、胸を張っていえますよ。」
俺はイスから立ち上がる。
息を吸い込む。
そして。
「俺は姉さんが好きだ!!文句あるか!!」
室内が静まり返る。
まわりの人々がギョッとして俺を見ている。
ふん、見たくば見よ!目が見えぬなら音に聞け!
異世界よ!俺が、シスコン千葉県代表(自称)だ!
「ヒロォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
さきねぇがタックルをかける勢いで俺に抱きついてくる。
ちゅっちゅちゅっちゅとキスの嵐が吹き荒れる。
キストルネード・マークツーだ。
そして周りからは、なぜか拍手が送られる。
そして1パル硬貨が投げつけられる。
「みんなー!ありがとー!これからもよろしくー!」
姉が笑顔で周囲に手を振る。その間におひねりを回収する俺。
カチュアさんは呆然と俺たち姉弟を見ている。
「す、すごい・・・なんか私、素直になれる気がしました。私も・・・私も、兄さんが大好きです!」
周囲からはおぉ!と声があがる。
また拍手が送られる。
「カ、カチュアー!俺も大好きだぞー!!」
ヴォルフさんがカチュアさんに抱きつき、空を飛びそうな勢いでブンブン振り回している。
しっぽもフル回転だ。ヘリコプターか。
すると、今度は隣のテーブルに座っていた人が立ち上がる。
「俺は、実は隣に住んでいる幼馴染が好きなんだ!」
俺の弟の主張をきっかけに『実は僕は義母が・・・』とか『実は俺は兄の奥さんが・・・』とか『実は私、年の離れた甥っ子が・・・』と秘密の暴露大会が始まった。
けっこうみんな闇持ってんなー。もうギルド内は大騒ぎだ。
そして、辺りを何気なく見回しているとヤツの姿を発見してしまった。
「なにやってんすか。」
「あ、あれ?い、いやーさすが鈍器姉弟!職員の力を借りずとも問題を解決するそのぱぅわーに脱帽どころか帽子吹っ飛んじゃいますよ!」
職員・・・さっきのに関わりたくなくて隠れてたな。
まぁ元D級じゃ腐ってるとはいえ現役C級冒険者には勝てないだろうけど、なんかね。
はいはい三次元女乙!って感じっすよ。
「他に誰か強い職員はいなかったんですか?」
「いやー、支部長は外出中だし、元B級冒険者の副支部長は腰痛で教会いってるし、元C級の人たちは外回りいってたりでもうほんと困りましたよ~。」
ほんとに大丈夫なのか冒険者ギルド。
ブラック企業の傘下に入ってしまった気分だ。
カチュアさんが近づいてくる。
「この支部の職員さんですか?」
「ええ。マリーシアさんといって、アルゼン支部の・・・イロモノ担当です。」
「イ、イロ・・・?」
「あーやっぱり。そういう担当の方って必ず一人はいますものね。」
「『あーやっぱりぃ~』じゃねぇよ!イロモノじゃねぇよ!初対面だちったぁ気ぃ遣え!あと、ヒイロさんにちょっかいださないでください!あたしの未来の「友人です。」そう友人、え!?まだ友人じゃなかったんですかあたしとヒイロさん!?サブヒロインポジ!?」
「面白い方ですね。カチュアといいます。よろしくお願いします。」
友人じゃなくてサブヒロインポジとか、めっちゃずうずうしいなこの人。
そして冷静にスルーするカチュアさん。やるな。
そんな時、言い争う声が聞こえた。またケンカかよ血の気多すぎるだろ。これだから野蛮人は困るぜ。
たまには俺のように、優雅に白手袋を投げつける英国紳士はいないもんかね?
あれ、でもこの声って・・・
「もういっぺん言ってみろこらぁ!」ガシャァァァン!
「何度でもいってやんよゴラァ!」ガシャァァァン!
さきねぇとヴォルフさんだった。
あるぇ?さっきまであんなに仲良さそうに語っていたのに。
カチュアさんもこちらを見て困惑している。
はぁ、やれやれ。
「はいはいはいはい、ストーップ。ぶれいくぶれいく。離れて離れてー。で、ケンカの原因は何?」
「こいつが弟を侮辱したのよ!」「こいつが妹を侮辱したんだ!」
「・・・スレイ、どゆこと?」
「え、俺ですか!?えっと、最初は弟自慢と妹自慢してたんですけど、『あたしのヒロのほうがかわいい!』『いや、俺のカチュアのほうがかわいい!』って流れになって、気づいたら弟と妹はどっちがかわいいか、姉と兄はどっちが優れているかって話になって・・・」
「「はぁ・・・」」
同時にため息をつく俺とカチュアさん。いや、気持ちはわかるよ?
俺だって、世界中の人間が認める絶世の美女を紹介されたとしても『いや、俺のさきねぇのほうがかわいいから。』っていっちゃうもん。
楊貴妃?クレオパトラ?まとめてかかってこいよ。
世界VS俺の最終戦争だよ。もちろん勝ってみせるよ?
でも、姉と兄が弟と妹で争わなくったっていいじゃない。
憎しみは憎しみしか生まないって誰かが言ってた。
「よぉし、わかったぁ!決闘だぁ!勝ったほうが正しい!」
「兄さん、恩人に対してなんてことを・・・!」
脳筋かよ・・・勝ったほうが正しいって、戦争じゃないんだから。
「よろしい。ならば、戦争だ!!」
「戦争になっちゃった!?」
酔っ払った野次馬たちも『やれやれー!』だの『ムラサキさんが勝つほうに100パル!』だの、騒がしくなってきやがった。
「表に出ろ!!」
「望むところだ、ボッコボコにしてやんよ!」
「「迷惑だから訓練場でやりなさい!!!」」
「「はい・・・」」
俺とカチュアさん両方に叱られ、しょぼんとするさきねぇとヴォルフさん。
ヴォルフさんのしっぽがしおしおに垂れ下がってちょっとかわいかった。
新キャラの獣人兄妹です。
実は大分前から設定だけはありましたが、これからどう動かそうかな。
なんも考えてません!
 




