第七十六姉「タイミングよく!スティックを倒して!Aボタン!」
「そこまでよ!」
どこからか、よく通る声が鋭く響く。
なんか聞き覚えがあるような?
「ひとつ、人の不幸をあざ笑い・・・!」
まわりも『なんだなんだ?』と困惑している。
「ふたつ、不当な賠償請求・・・!」
『どこから声が?』とざわついている。
「みっつ、・・・・・・なんかむかつく!」
この適当さ!まさか!!
俺とノエルさんはバッと後ろを振り向く。
あれ、さきねぇがいない?
『あそこだ!』という声がして、すぐ近くのお店の屋根を見る。
そこには、美しいドレスを着て、顔の上半分を隠すような舞踏仮面を被っている女性が立っていた。
「トウッ!」
屋根からジャンプし、二回転しながらも華麗に着地する謎の女性。
そして。
「この愛と!正義と!謎のドレス美少女魔法戦士プリンセス、パープルムーンが許さないわ!夜空に輝く二つの月と、裁判長に代わって!裁くわよ☆判決は常に死刑だけどな!あっはっはっは!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その場を静寂が支配した。
音が消えたわけではない。
遠くからは人の声や雑踏の音が聞こえる。
ただ、この一帯だけ、異世界に迷い込んだかのように静かだった。
そして、この場に居合わせた全ての人が同じ思いを胸に抱いていた。
『なんだこいつ・・・』
「おい、クソ貴族!さっさとりんごの代金を払って消えうせなさい!」
「・・・・・・・・・あ、えっと、はい、すいませんでした。今すぐ代金払うんで、ちょっと待ってもらっていいですか。」
貴族の顔には『やばい、キチ○イだ。さっさと帰ろう』と書いてある。
そうだよね。金で解決できるならさっさと解決して立ち去りたいよね。
誰だってそうする。俺だってそうする。
しかし、その返答はパープルムーンにとってはつまらないものだったらしい。
「えー?せっかく護衛とかいるんだから、『生意気なやつ!やってしまえ!』とかいってけしかけなさいよー。」
「え、そういわれても・・・」
完全に困っている貴族。
「ほらノエル、父様たちのお土産にこれなんてどうだい?」
「いいですね!きっと母様たちも喜んでくれると思いますお兄さま!」
以心伝心、すぐに仲の良い兄妹のふりをしてアレと無関係をアピールする俺とノエルさん。
誰にやねん。
「ほら、さっさときなさい!こないならこっちからいくわよ!?」
「ひ、ひぃ!お、お前たち!あの女をコテンパンにしてやれ!」
「「「・・・はい。」」」
うわーあの護衛の人たちの嫌そうな顔。同情するぜ。
いやいやながらも動き出す護衛さんたち。
「さすがは悪党ね!か弱い女性である私に攻撃をしかけようとは!しかし、黙ってやられるわけにはいかないわ!出でよ、マジカル☆バット!」
あ!あれ俺のスマート棍棒じゃねーか!?いつのまに・・・
「タイミングよく!スティックを倒して!Aボタン!」
カキーーーーン!カキーーーーン!カキーーーーン!
イイ音が響き、ホームランされる護衛さんたち。
しかしこの女性、ノリノリである。
と、その時!
「ギャーーー!変態に殺されるーーー!」
逃げ出す貴族。当然である。
「逃がさないわ!必殺!マジカル・プリンセス・ア・ラ・モード!」
よくわからない呪文を唱えると同時に、思いっきり中空を殴りつけるパープルムめんどいからさきねぇでいいや。
すると。
「へぶっ!」
いきなり吹っ飛び、顔面から地面に突っ込む貴族。
あれは、遠当てってやつか?風魔法で再現したのか。
ノエルさんを見ると『うむ』といった感じで頷いている。
「またつまらぬものを切ってしまった・・・愛と!正義と!謎のドレス美少女魔法戦士プリンセス、パープルムーンのぉ、あ!だい~しょう~り~!」
なぜか『イヨー、ポン!』といった感じの、歌舞伎の動きで勝利を表現するさきねぇ。
なんかもういろいろ混ざりすぎててよくわからないよ。ゴテゴテだよ。
しかも、結局全員殴ってるからそもそも何も切ってないっていうね。
「もう大丈夫よ、おっさんと少女よ。夜空に輝く二つの月は、いつもあなた達を見守っていたり見守っていなかったりするわ!」
「は、はぁ・・・ありがとう、ございます?」
助けてもらったはずのおっさんもびびっている。
前門の貴族、後門の変態だもんな。気の毒に。
「この、愛と!正義と!謎のドレス美少女魔法戦士プリンセス長いな、パープルムーンがいる限り、悪の栄えた試しなし!ただし、活動は今日から!しかも不定期!さらばっ!」
自分で長いなって言っちゃったよ。
ドレスのすそをバサッと翻し、とうっ!という掛け声とともに店の二階までジャンプするさきねぇ。
すげぇジャンプ力だな。
≪風速強化≫を使ってるんだろうが、魔力を感知できない。
単純に脚力のみでやってんのか?そんなことできんの?恐ろしい足パワーだなおい。
「・・・どうします?」
「とりあえず、この場を離れよう。ムラサキのことだ、着替えずにそのまま「やっほー、なんかあったの?」ほらな!」
仮面ははずしたものの、ドレスのままで戻ってくるさきねぇ。
隠す気ゼロ!
「なんかあったのって・・・それで通すの?いや、かまわないけどさ。」
「ヒロの言ってる意味がわからないわ。あーわからないわー。」
その時、トコトコとこちらに歩いてきた先ほどの少女。
その手には売り物であろうリンゴっぽい果実が。
「おねーちゃん、ありがとー!」
完全にばれている!
どうするパープルムーン!
「さっきのアレ、私じゃないけど一応もらっておくわね。私じゃないけど。」
厳しすぎぃぃぃ!いくらなんでもそりゃ悪手だろ。
あ、やばい!警備隊の人が騒ぎを聞きつけてこっちきた!
「逃げましょう。」「逃げよう。」「とりあえず逃げるわよ!私関係ないけど!」
もういいっちゅーねん!
あと、俺のスマート棍棒返せや。
これより、アルゼンの街に不定期で何度も現れることになる愛と正義と謎のドレス美少女魔法戦士プリンセス長いな・パープルムーンだったが、実はアルゼンで大人気となっていた。
最初こそドン引きしていた住人たちだったが、さきねぇが因縁をつけるやつらは酔っ払いだったり乱暴な冒険者だったり横暴な貧乏貴族などだったため、本当に『正義の味方』として認知されてしまった。
しかも、(顔は半分隠れているが)かわいらしい美女が無傷で悪党をバッタバッタと片付けてしまうのだ。
この世界は日本と違って娯楽らしい娯楽が存在しない。あったとしても金がかかるため、余裕のある人間しか楽しめない。
そのため、子供達には仮面ライダーやセーラームーンのような正体を隠し戦う正義の味方モノ、大人たちには水戸黄門のような勧善懲悪的な見世物として話題になった。
見る人が見れば確実にさきねぇだとバレてしまう、っていうかすでにバレているが、みんな知らないふりをしてくれている。
むしろ積極的に匿ってくれたり、食べ物などをくれたりする。優しい人ばっかりだ。
アルゼン警備隊の隊員さんたちも、すぐに暴れる冒険者や手をだしづらい貴族をボコってくれるさきねぇに感謝し、逃亡ルートの確保など見えないところで頑張ってくれている。
それでいいのかアルゼン警備隊。
まぁさきねぇのファン多いからな、仕方ないか。
そして、さきねぇが『もう一人ニュ-カマーがほしいわね・・・』と言い出したとき、一緒にいたラムサスさんが『ノエル様やってみたらどうですか?人気者になりますよ!』と言って燃やされていた。
バカなの?人体発火現象オタクなの?
のちに、アルゼンは新米冒険者鍛錬だけでなく、娯楽演劇でも有名になったとかならないとか。
きっかけは一人の謎の美少女魔法戦士プリンセス(自称)だったという話。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
これで第七章の終了でございます。いやー適当オブ適当でしたね!
『紫さんが魔法少女に、しかしまわりはドン引き』
これだけで書き始めたもんでね!
流行的にはプリキュアなんでしょうが、見たことないもので・・・
今後はこんな感じのアホな単発ネタが増えると思います。
ちなみに紫さんは少ない魔力で一瞬だけ≪風速強化≫を使って脚力を強化してジャンプしました。あまりに魔力の流れがスムーズかつ一瞬だったので、ヒロくんは気づけませんでした。ノエルさんのみ気づいており、内心舌を巻いています。




