第七十四姉「でも、お高いんでしょう?」
新章ですが、全三話で終わります(笑)
まぁ完全に一発ギャグみたいなものなので。
「やっぱさー、私に相応しい聖剣が必要だと思うのよね、お姉ちゃんとしては。」
「何回目だよその話。何回も聞いたよ。耳にタコできちゃうよ。耳タコだよ。」
そんな話をしながら街を歩く鈍器姉弟こと俺たち初月姉弟。
向かっている先はアルゴスノブキヤだ。
今日はさきねぇの弱点を埋める武器を探しにきたのだ。
初依頼を受けてから三週間ほど立っている。
あれからすぐに洞窟探検隊が結成され、調査がはじまった。
俺たちの役目は遺跡(?)への案内と待機チームの護衛だった。
F級冒険者の俺たちにキャンプの護衛させるって微妙じゃね?と思ったが、どう見てもE級冒険者十人よりさきねぇ一人のほうが強そうだったのでそれも仕方ない。
D級冒険者はともかく、E級冒険者は森の奥地でキャンプすることに緊張していたようだが、俺たち姉弟のだるんだるんな姿を見て、いい意味でリラックスできたようだ。
で、キャンプ地に寄ってくる魔物どもをさきねぇと俺でガンガン倒す。
のはいいんだが、ここでさきねぇの弱点が明らかになった。
どう考えても過剰攻撃力なのだ。
魔物を攻撃すると8割の確率で魔石を破壊し、破壊しなかった場合でも、ハラワタをぶちまけろ!的なグロテスクかつスプラッターなことになってしまっていた。
かといって重量級武器を手加減して使うのも、それこそ馬鹿らしい。
最終的には尖った木の槍や、そこらへんから拾ってきた太い木の棒に硬い石を巻きつけるという、まさかの石斧で戦った。
どうみても良く言えばアマゾネス、悪く言えば原始人だった。
そして洞窟調査も一段落した今、さきねぇのために小回りが利いて、見た目がかっこいい(←ここ重要)武器を探し求めてアルゴスさんちに向かっている。
ちなみにノエルさんはギルドに報告があり、あとでアルゴスさんちで合流予定だ。
「あ!ムラサキさんにヒイロさん!おはようございます!」
「お、すーじゃん。おっはー。」「お、スレイじゃん。おはー。」
冒険者に声をかけられる。
こいつはスレイ。洞窟調査で一緒になった、アルゼン出身で新進気鋭のE級冒険者だ。
俺たちより年下だが、もうすぐD級冒険者になるだろうと言われている出世頭だ。
その強さを鼻にかけていたため俺たちにけんかを売ってきたが、さきねぇが左手で首元を掴み持ち上げ、『ヨガ!ヨガ!』の掛け声とともに右手で顔をボコボコに殴るというストリートのファイターも真っ青な攻撃で何度も半殺しにし、その度に俺が回復魔法で治してやったことですごい懐かれた。
「今日はどうしたんですか?ついにキューティーベアー狩りですか!?」
キラキラした目で問われる。
何言ってんだこいつ。やだよ、怖いもん。
「ふ、あいつはあいつでたくましく生きてるのよ。わざわざ探しにいかなくても、もし運命ならば、何もしなくてもどこかで出会うわ。その時が、やつの最後ね。」
「さ、さすがムラサキさん!かっけー!マジリスペクトですよ!」
このように、ちょっと頭がかわいそうな子だが、悪い子ではないのだ。
「じゃあどうしたんですか?」
「いや、さきねぇが使いやすい小回りの利く武器を探そうと思ってね。」
「このへんで一番腕のいい武器屋だったら・・・アルゴスノブキヤですかね?ただ、あそこの店主すごい気難しいことで有名ですけど。」
おお、アルゴスさん有名なのか。俺の目に狂いはなかった。
「じっちゃん、そうでもないわよ?」
「顔は怖いし寡黙だけど、武器に詳しいし親切だし、いい人だけどね?」
「す、すでに知り合いなんですか!?しかもじっちゃんとか!さすがムラサキさんとヒイロさん!」
うお、まぶし!
スレイの瞳の輝きが120%だ。
いつか悪いやつに騙されそうでお兄さん心配だよ。
「あ、引き留めちゃってすいません。俺、今からチームでゴブリン退治なんです。お二人に負けないように頑張ります!」
「いいな、いいな。ゴブリンいいな。」
「・・・い、一緒にいきます?」
「キシャァァァァァ!」
「ヒィ!?」
俺の荒ぶる威嚇のポーズにびびるスレイ。
ふざけたこと言ってんなコノヤロー!俺はさきねぇと二人っきりがいいんだよ!空気読め!
「ほら、さっさといくよさきねぇ!聖剣探すんでしょ!」
「はいはい、焼きもちやかないの。じゃね~。」
「失礼します!」
スレイと別れ、再度アルゴスノブキヤを目指し腕を組んで歩く。
「もしかして焼きもちですか?業界用語でいうとモチヤキですか?」
「そんなには焼きもち焼いてません。弟センサーも反応してなかったしね。純粋に尊敬とか憧れでしょ。」
「ちょっとは焼いたんじゃーん。マジラブリー。弟マジラブリー!」
叫びだすさきねぇ。
まわりの人たちがギョッとして振り向くが、半分以上は『ああ、またあいつらか。』みたいな顔をしている。
そんな有名なのかよ俺ら・・・えへへ。
ちょっと自重しないとなーとか思いつつ、組んだ腕は離さない俺だった。
「じっちゃん、ちょりっすー!」「アルゴスさんこんにちわー。いますかー?」
「・・・俺の店だ。いるに決まってんだろ。」
奥からアルゴスさんが出てくる。
相変わらず『腕のいい頑固親父!』って雰囲気だ。いいね!
「お前ら、ずいぶん活躍したみたいだな。けっこう有名だぞ、鈍器姉弟。」
「いやーははは。お恥ずかしい。」「じゃあ有名な鈍器姉弟に聖剣提供しましょう!タダで!」
無茶すぎだろ。
「聖剣って、魔法剣のことか?さすがに魔法剣は置いてないな・・・これなんかどうだ?純ミスリルで出来たブロードソードだ。普通の人間にはやや重いだろうが、ハンマー振り回してるムラサキには軽いだろう。ここいらじゃ俺の店くらいしか置いてないだろうな。」
そういうと、かっこいい鞘と幅広の太い長剣を見せてくれる。
「きちゃったんじゃないミスリル~ふぅ~!」
「へ~、なんかキラキラしてる。いいわねいいわね!雰囲気出てるじゃな~い!」
やっぱファンタジーといえばよくわからない不思議金属、ミスリルですよね!
「純ミスリルだから魔物を切っても血があまりつかないし、研ぐ回数も断然少ないぞ。初期費用はかかるが、メンテナンスが楽だし長く使える一品だぞ?」
めんどくさがりのさきねぇを見越して、メンテナンスが楽なものを選んでくれたのか。
見た目もさきねぇ好みだし、さすがアルゼン一の武器職人だな。
「でも、お高いんでしょう?」
「今いくらくらい持ってんだ?」
「こんくらいなんですけど・・・」
全財産を見せる。
普通のF級冒険者よりは小金持ちだろうが、ミスリルの値段なんて想像つかねぇぞ。
アルゴスさんも『ふむ・・・』といって考え込んでいる。
「初期費用でこんだけありゃ十分だ。足りない分は稼いで今度持ってこい。」
そう言うと、全財産の半分だけ受け取り、残り半分を俺たちに返すアルゴスさん。
「・・・いいんですか?なんとなくですけど、個人的に明らかに足りない気がするんですが。」
「さっき出した金を貯めようと思ったら、F級冒険者じゃ数年はかかる。それを一週間程度で稼げるんだ。返済に問題はないだろうさ。身元保証人もしっかりしすぎているしな。」
なるほど。ノエルさんがバックにいれば、そりゃいざという時は返済なんて問題ないわな。
持つべきものは最強の身元保証人やな。
「ヒイロはどうする。なんか見ていくか。」
「うーん、俺はいいかな。スマート棍棒あるし。ノエルさんに武器を扱う才能はないって言われましたしね・・・へへへ・・・」
「そ、そうか。まぁ魔法使いだからな。護身用の武器さえあれば十分だ。」
あれ、さっきからさきねぇが会話に参加してないぞ。
またアーサー王立ちでもしてるのか?
そう思っていた時だ。
ズリズリズリズリ・・・
? 何の音だ?
「ねぇ!これちょうだい!」
そこにはうちのお姉さまと、アホみたいにでかい剣があった。
え、ティラノサウルスとでも戦うの?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
新キャラ、E級冒険者のスレイ。
この七十四姉を書いている最中に突然私の頭の中に出現した後輩屋さんですが、今後の話にからんでくるかどうかは私にもまだわかりません(笑)




