第七姉 「いやん、ハモッちゃったわね! やっぱり心と心、魂と魂が通じ合ってるのかしら!? どうせだから体と体も通じ合っちゃう!?」
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「「聞きましょう!」」
いい感じに姉弟の声がハモって響いた。
「その、すまなかった。まさかそこまで怯えさせてしまうとは思わなかったんだ。恥ずかしいのを誤魔化すために、つい、やってしまった。すまない。」
完全に俺たちが悪く、完璧に姉が悪乗りした自業自得な結果だったのだが、深々と謝罪されてしまった。
しかも小学生くらいの美少女に。罪悪感が半端ない。
さきねぇもばつの悪そうな顔をしている。
「いえ、こちらこそすいませんでした。」
「・・・ごめんなさい。」
「では、お互いに悪かった、ということで水に流そう。むしろ一連の出来事は忘れてほしい。」
まだちょっと赤い顔で微笑む少女。天使や、天使が降臨なされた。
さきねぇも天使なんだが、どっちかーてーとサタン様やルシファー様的な堕ちちゃった天使だからな。
こんなところで純粋な天使に出会うとは。
敬意と親しみをこめてノエルさんと呼ばせてもらおう。
「しかし、本当に殺されるかと思いましたよ。」
「はっはっは、君たちのような素晴らしい姉弟を殺してしまったら、エルフの誇りを捨てたクズとして一生を過ごさなければならなくなるよ。」
「ほぅ、なかなか話がわかるじゃない! あ、エルエルさっきのすごかったわねあれ! ボァー!って! なにあれ!」
素晴らしい姉弟といわれてコロッと機嫌直しやがった。
つーか、エルエルって。初対面であんだけ失礼なことかまして殺されかけたのにいきなり愛称呼びか。鋼の心か。
「エ、エルエル・・・?」
「あーすいません、姉の癖みたいなもので。すぐやめさせますんで・・・」
「いや、かまわないよ。私をそう呼ぶものなぞいなかったからな。面白い。」
「じゃあエルエルで! で、さっきの何?」
「ああ、あれは«火球»だよ。初級の火魔法だ。脅かすために大きめに作ったがな。」
「「ふぁいあーぼーる!」」
俺とさきねぇの声がハモッた。
それはそうだろう。ファイアーボール。ファイアーボールだ!
剣と魔法の世界であれば有名な魔法だ。
『ファイアーボールを知るもの来たれ!』といえば何十億集まるかわからない。
この反応が予想外だったのか、ノエルさんは目をぱちくりさせている。
「ノエルさん、すいませんが、少しだけ姉弟会議をさせてもらってもかまいませんか?」
「うん? まぁかまわないよ。ではその間に置いてきた釣竿を取ってこよう。」
「ありがとうございます。」
わざわざ席をはずしてくれるノエルさん。気遣いのできる淑女様だ。素晴らしい。
おっとお姉さまが俺を睨んでる。おねにら。
「姉弟会議を始めたいと思います。拍手。」
「ぅおー!」パチパチパチ
常時テンションの高い姉。かわいい。
姉のおかげで『こいつ、うざかわいいな』と思うことはあっても『寂しいな』と思ったことはない。
それに関しては感謝してもしきれない。
とりあえず情報の共有だ。
俺は池に飛び込んだ後の流れをさきねぇに話し、さきねぇも同様に俺が落ちた後の話をする。
あの渦がワープゾーンにそっくりだったこと、光と渦が弱まっていた話は聞きたくない情報だった。
つまり、この池(規模的に泉なので泉と呼ぼう)に潜ったところで、元の場所に戻れない可能性が高い。
それ以外はほぼ同じ内容だった。
「こんなところかね。」
「まぁ正直あれからそんな時間経ってないしね。状況は一変したけど。」
「いうな・・・」
「じゃあ現状確認だけど。怪しいキーワードがけっこうあったわね。」
「だな。『168歳』に『人間族』に『エルフ』か・・・」
もうこれはアレで確定な感じな気がするな。
「ちょい待ち! 一番重要な『破軍炎剣』も入れてあげないと!」
「・・・まぁ、いいけど。」
「最初は鍛えられたヲタクに育てられた生粋の病人かとも思ったけどねー。」
「まぁ俺も『この年で設定厨か』とも思ったが、あれを見せられちゃうとね。」
そう、先ほどの«火球»だ。
運動会でよくある大玉転がしの大玉くらいの大きさがあった。
その大きさの炎の塊を宙に浮かせるなど、手品で済む問題じゃない。
ということは、だ。
お互いに顔を見合わせる。
「つまり。」
「「異世界・・・」」
「いやん、ハモッちゃったわね!やっぱり心と心、魂と魂が通じ合ってるのかしら!?どうせだから体と体も通じ合っちゃう!?」
「しません。」
姉がクネクネしてる。
かわいいけど、じっと見つめたらレベル下がったりしないよな?
「とりあえず、ここは異世界だと仮定して行動しよう。問題は、俺たちが異世界からきました~なんていったところで、それをノエルさんに理解してもらえるかどうかっつーことだな。」
「異世界ものって色々あるしねー? それよりも! チートよチート! 異世界ものっていったらチートでしょ! 神様に会ってなくない!? どういうことだ責任者を出せ!」
天に向かって叫ぶさきねぇ。
「誰だよ責任者・・・しかし、本当に何の能力もなくこんなわけわからん世界に放り出されてたら、どうすんべよ?」
「二人一緒ならなんとかなるでしょ! つーか始まる前から心配するな! お姉ちゃんに任せなさい!」
「・・・そうだな。現代知識を駆使すれば、なんとか暮らしていける程度には稼げる、かね?」
「そうよ! なんとかなるなる! いけいけごーごー、ジャーンプ!ってやつよ!」
「いきなり懐かしいな!?」
そうだ、一人きりならまだしも、さきねぇと一緒なのだ。
よく考えれば向こうで暮らしていたときと何も変わらん。
そう考えると、怖いことなんて何もないな。楽しんでいこう。
向こうから釣竿を持ったノエルさんが戻ってきた。
竿には何もついていない。糸のみだ。
賢者だったのかこの人! 知力90オーバーは確実だな。心強い。
「さて、会議は終わったかな?そろそろ二人の事情を聞きたいんだが。」
しかし、優しいなーこの人。
«火球»なんて使えるんだから、やろうと思えば力づくで黙らることも喋らせることもできるのに。
あくまで優しく尋ねてくれる。良い天使ですね。
しかし、それでも不安だ。
大丈夫かな、いきなり『異世界から来ましたー』とかいっても。
ちょっとマイルドな言い方で言ったほうがいいかな。
キ○ガイ扱いされないだろうか。
いや、ノエルさんは天使だ。信じるしかない!
「・・・実は、俺たち、この世界の人間ではない可能性があります。」
言ってしまった。
ノエルさんを見る。
最初はキョトン、とした顔をしていたが、
「あー、違う大陸から来たのか。なるほど。話が合わないわけだ。ふむ、とりあえず、私の別荘で話そうか。」
なんか普通だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
最初は姉弟会議のくだりだけでまるまる一話分くらい書いてました。
ノリノリで書き終わったあと、こんなもん自分以外読む気しないだろと思い圧縮。結果、10行ちょっとになりました。