第六十七姉「知ってますよ?」
「めっちゃ好感度アップしとるー!やったー!玉の輿に一歩前進やでー!(いえいえ、これが私の仕事ですから。)」
「ぼそっ(ねぇ、マリすけってさ・・・)」
「ぼそっ(しっ!言わないの!優しく見守ってあげよう。)」
「あーじゃあ俺たちはそろそろいってきますんで。受付戻ったほうがいいですよ?」
「じゃーねマリすけー。またねー。」
トリップしているマリーシアさんを置いて俺たちは資料室を出たのだった。
「ぐふふふふ。あ!も、もしよかったらなんですけど、今度、お食事でもどうですか?できればお姉さんなしで、なんて~っていねぇ!!!」
部屋からなんかでかい声が響いていた。
「いやーあそこまで行き着くと、いっそすがすがしいわね。」
「だねー。俺以外でいい人が見つかればいいねー。」
超他人事だった。
そして俺たちはギルドを出て、東門を目指して歩いている。
何気に東門を使うのは初めてだな。
「えっと、簡易魔法袋の中身に加えて、一週間分の食料も買ったし・・・ほかになんかいるかな?」
「そもそも一週間分の食料なんている?日帰りでしょ?」
「あのね、山登りにいって遭難して死ぬ人だっているんだよ?準備はするに越したことはないの。」
「しっかりものの弟がいて幸せだわーマジ幸せだわー。」
「それ、めっちゃうさんくさく聞こえるからやめれ。」
正直、さきねぇだけなら何の問題もないのだが、なにかあった場合、俺が足を引っ張る可能性が高い。
そうなった場合に備えて、十分すぎるくらいの用意が必要なのだ。
それに俺にはノエルさんにもらった本物の魔法袋がある。容量的にも問題なし。
あとは依頼票をよく読んで確認する。
「グリーンハーブは根っこから掘り出してください・・・納品は10本を一束とします・・・端数は数えません・・・期限は特になし・・・」
その間、俺にかまってもらえないさきねぇは口笛を吹きながら、ミカエルくんの持ち手部分の尻を手のひらの真ん中においてバランスをとっている。
すげぇな。ミカエルくん、俺だと両手持ちじゃないと持てないんだが。
周囲の人々も、でかいハンマーを片手で持ちバランスをとりながら歩いているさきねぇをガン見している。
「おいおいおいおい、あぶねーことやってんなよ嬢ちゃん。」
「あ、タイチョーさん。見回りお疲れ様です。」
「おつー。」
タイチョーさんに会ったので、依頼を受けたことを説明する。
「おーついに冒険者デビューか!おめでとう!グリーンハーブの採取なら問題を起こすほうが難しい。大丈夫だよ。俺も東門までいく途中だから、一緒にいくか。」
「ついていってあげなくもないわ!」
「うわーすげぇ上から目線。坊主も大変だな。」
「あはは、まぁ愛しの姉なんで。」
「そりゃ殊勝なことで。」
ついていくこと十数分、ついに東門についた。
「セレナーデの森はここをまっすぐだ。あっちにでかい森が見えるだろ?あそこがそう。奥にはいくなよ。グリーンハーブは森の浅い部分でもとれっから。気をつけてな!」
「「いってきまーす!」」
手を振り、門を抜ける。
顔見知りが何人かいて、手を振り返してくれる。
異世界きて一ヶ月もたってないのに、ずいぶん馴染んだもんだ。
「よーし、姉弟力を合わせて、依頼を達成するわよー!」
「おー!」
俺たちは武器を携え、意気揚々と行進を開始した。
・・・が、その意気は10分持たずにほぼゼロにまで減少していた。
「よえぇぇぇぇぇ!」
「弱いね。」
理由は簡単、魔物が弱すぎるのだ。
それも当然、さきねぇはあのノエルさんと組み手をしており、どんどん技や動きをコピーしている。
俺も俺で護身術に加え、魔法もそれなりに使えるようになった。
結果、草原レベル(F級)の魔物など何匹かかってきても敵ではなくなってしまった。
まぁ(推定)レベル35の勇者と(推定)レベル27の魔法使いがアリ○ハンで戦えばこうもなるか。
結局、なんの危なげもなくセレナーデの森まできてしまった。
「もうきちゃったわね。」
「もうきちゃったね。」
ノエルの森(仮)と比べると、なんとなく新鮮さというか、神聖さがないな。
あそこが特別なのか。
「あ、グリーンハーブ発見。」
「え、もう!?まだ入り口だよ!?」
「だって、ほらこれ。そうじゃね?」
ふむ、確かに資料室にあった絵とそっくりだし、色も緑だ。
簡単すぎるな。さすがFラン依頼。
さきねぇの顔が『ほらいわんこっちゃない』といっている。
「いいの。コツコツやってコツコツランクアップするの!」
「べっつに~?私なにもいってな~い~。」
若干イラッとした。
とりあえず一本確保。
その後周囲を捜索するも、見つからなかった。
「やっぱラッキーだっただけだな。奥いこっか。」
「こんな人気のない場所に引き込んでどうするつもり!もしや、エロいことする気ね!エロ同人みたいに!よろしくお願いします!」
「グリーンハーブを採りにきましたよ?」
「知ってますよ?」
じゃあどうするつもりもなにもねーじゃねーか。
そんなこんなで奥へと進む。
ポツポツとグリーンハーブが生えているので引っこ抜いていく。
さきねぇがふと立ち止まる。なんだ?
「・・・お姉ちゃんセンサーに反応あり!こっちよ!」
さきねぇがいきなり道をはずれて、草むらにガサガサと突っ込んでいく。
普通、女性って草むらに突っ込んだりするの嫌いだよな…さすが俺の姉、男らしくて惚れ直しちゃうぜ!
さきねぇの後に続いて数分、ちょっとした広場にでた。
「うーんとー、あ!あった!」
「お、すげーいっぱいある!すげぇぜ姉センサー!」
広場のすみっこに群れるように生えているグリーンハーブたち。
植物すら察知可能とか、姉センサーもうなんでもありだな。
「わたしは草を抜く~♪」
「「へいへいほ~へいへいほ~♪」」
歌いながらどんどんグリーンハーブを引っこ抜く。大漁やー!
調子にのってぶちぶち抜いてるけど、残しておかなくていいのかな?
・・・いいか!
「ふー粗方採り終えたかしらね。」
「だね。ちょっと休憩しようか。」
俺は《水球》を三つ創造し、一つをさきねぇのほうに誘導する。
「がぼべばぼぶぼばぼ」
さきねぇは《水球》に頭を突っ込んでいる。
俺は一つの≪水球≫で手を洗い、もう一つの≪水球≫の水を手ですくい、喉を潤す。
「ぷはー!無駄遣い最高!」
「水魔法がなければできない使い方だねー。」
やろうと思えばウォーターベッドとかも作れそうだし、水魔法の汎用性やばいな。
「よし、じゃあハーブがいくつくらいあるか数えますかね。」
端数は切り捨てらしいからな。できるだけ数を揃えたい。
一本一本数えていく。
「ひ~ふ~み~・・・」
ガサガサ
「よ~い~む~・・・」
ガサガサガサガサ
「さきねぇ休んでていいよー?」「ヒロもそんな草むらガサガサやってないで休めば?」
「「え?」」
顔を上げると、さっきまで俺の左方で水をぱちゃぱちゃ触っていたはずのさきねぇが、いつのまにか横になっていた。
さきねぇと目が合う。
え?じゃあ、前方の草むらのガサガサは?
ガサガサガサガサ、ガサッ!
茂みから顔を出したのは、全身茶色の、愛嬌のある顔をした動物だ。
動物園とかでみたことある。
知ってるのと違うのは、頭にツノが生えてることくらいだ。
「・・・ある日、森の中、熊さんに出会っちゃったわね。」
「・・・そうだね。」
「・・・・・・花咲く森の道でもないのにね?」
「・・・・・・そうだね?」
首を傾げるさきねぇ。かわいい。
熊さんが大きな口を開く。
そして。
「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「「ギャアァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!」」
さきねぇと俺は、グリーンハーブを放置し、全力で駆け出していた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
最後の「ギャアァァァァ!」の絵は金色のガッシュ的なイメージで(笑)




