第六十三姉 番外編『その時のラムサス・クラブさん』
今回のお話は第二章と第三章の間のお話です。
いつの話だよって感じですよね。大変申し訳ないです。
あの『自演臭いノエル様マンセー』と『ラムサスさんフルボッコ事件』の真相が明らかに!
「ラムサス、実はお前に頼みがあるのだが・・・」
その言葉を聞いて、俺は耳を疑った。
目の前にいる少女、ノエル・エルメリア様は現役のS級冒険者であり、俺が尊敬する冒険者の数少ない一人だ。
『一番尊敬する人は誰ですか?』と聞かれたら『ノエル・エルメリア様をおいて他にない。』と断言するだろう。
だが、この方と出会って10年以上経つが、俺に頼みごとをするなんて初めてだ。
何があったんだ?ノエル様が出来ないことなんて、ほとんどないと思うのだが・・・
「実は、今度私がギルドに来る時、二人の人間族の子供たちを連れてくる。その時に、その、なんだ、私のすごさ?的なものを伝えてほしいのだ。さりげなく。ここが重要だ、さりげなく!だぞ!」
「・・・・・・・・・はぁ。」
俺の名前はラムサス・クラブ。
冒険者ギルド・アルゼン支部の支部長を務めている。
今でこそ『仏のラムサス』なんて言われてるが、昔はかなりの荒くれものだった。
俺は父も母も知らない孤児だった。
冒険者に拾われ、ガキのころから旅をしたり戦って育った。
俺を拾った義父が病で倒れたあと、俺は15歳で正式な冒険者になった。
俺には剣の才能があった。それも、圧倒的な、だ。
冒険者になって5年でB級になり、さらに5年でA級にまで上り詰め『天才剣士』と呼ばれた。
しかし、俺は『最強の冒険者』の称号であるS級になりたかった。
だが、S級は国家存亡の危機や、大陸を滅ぼす可能性があるような大きな事件に多大な貢献をしないと授与されない。
俺は激しい怒りを覚えた。
俺が大戦時に生まれていれば、絶対にS級冒険者になっていたはずだ。それだけの強さを持っている。
にも関わらず、俺はA級だ。理不尽だ。
そんな時、ある噂を耳にした。
現役のS級冒険者である『破軍炎剣』が、近くの町に来ているという。
チャンスだと思った。
S級冒険者を俺が下せば、俺はS級を名乗るにふさわしい強さの持ち主であると証明できる!
俺は完全戦闘装備を整え、そのS級冒険者のもとへと向かった。
ある酒場にいることを聞きつけた俺は、さっそくその場所へ向かった。
さびれた酒場には、二人の女しかいなかった。
一人は絶世の美女と呼べるような女、一人はエルフの子供だった。
酒場にも関わらず、ミルクを飲んでいやがる。
「おい、どっちが『破軍炎剣』だ。」
二人はうさんくさそうな顔で俺を見たが、ガキが口を開いた。
「私がそうだが、お前は誰だ?名を名乗れガキ。」
俺の怒りの炎は激しく燃え上がった。
こんなクソガキがS級を名乗っているのに、俺がA級だと?
ふざけるな!
「俺と勝負をしろ。」
「断る。他をあたれ。」
エルフのガキは俺を見ようともせずミルクを飲み始めた。
こいつ・・・!
「S級冒険者ともあろうものが逃げるのか!恥を知れ!」
「ふん、S級なんぞ欲しくてもらったわけではない。勝手に与えられただけだ。」
「貴様みたいな老兵が未だに居座っているからS級が他にまわらんのだ!さっさと譲り渡せロートル!」
「・・・くっくっく、別に譲るのはかまわんが、お前みたいな半人前のルーキーには恥ずかしくて渡せないな。」
隣の女はニヤニヤ笑っている。
なめやがって!
「俺を誰だと思っている!」
「知らんよ。名乗りもしない者の名を知るほど、賢くもないんでな。」
隣の女は、今度はぷっと吹き出した。
このアマ・・・!
「~~~!俺はラムサス・クラブ!A級冒険者の天才剣士だ!そして、お前を倒す人間だ!」
「いや、知らないが。そもそも、自分で天才剣士って名乗って恥ずかしくないのか?」
隣の女は大爆笑している。
このエルフのガキを叩きのめしたら、次はこの女だ!
「さっさと勝負しろ!臆病者め!この腰抜けのロリババァが!」
「・・・ガキ、いますぐ失せろ。いまならまだ許してやる。」
お、イラッときてるな。
バカめ、冷静さを欠いた魔法使いなど、取るに足らん!
「こんな小便臭いガキがS級とは、大戦時の冒険者はよっぽど弱かったんだな!大勢死んだらしいが、貧弱な負け犬どもが犬死にしただ、け・・・」
俺は、最後まで言葉を告げることができなかった。
急に、地面が揺れだし、体が重くなった。
なんだ、地震か!?だが、このオンボロ酒場は何もおこってないぞ!?
俺は、ふと自分の手が目に入った。
揺れているのは、俺の体だった。
震えているのは、俺だった。
バカな!?魔竜と戦った時だって、震えたりなんかしなかった!
これは、震えなんかじゃない!俺は、怯えてなんて、いない!
「小僧・・・もう一度言ってみろ。いや、言わなくていい。不愉快だ。肉片一つ残さず、この世から消えうせろ。」
エルフのガキから信じられないほどの魔力が迸る。
嘘、だろ・・・なんだよこれ・・・こんな魔力をもつバケモノがいるなんて。
こんなの、勝てるはずない!
コレに比べれば、魔竜なんて子猫みたいなもんだ。
そして、一点に圧縮された魔力が、爆発した。
あぁ、俺は今日、今、ここで死ぬんだ。
「はいど~ん☆」
そんな場違いな声が響き、俺の左頬を何かがかすった。
触る。ぬるりと血の感触がある。
・・・はずれた?いや、はずしてくれたのか?
「・・・レイリア、お前「はいはい、戦意喪失したルーキーを殺したところで何もならないでしょ?」
見ると、ガキの体を女が押したらしい。
あの女に助けられたのか。
「しかし、あいつはみんなの死を馬鹿に!」
「それであなたが人を殺して、みんなは喜ぶかしら?悲しむかしら?」
「・・・それは。」
「えっと、ラムサスさん?だったかしら。今日は大事な用事があるの。出直してくれるかしら?」
「え、あ、はい。わかり、ました。」
「じゃあね~。」
俺は茫然自失の状態でフラフラと店を後にしたのだった。
あとで聞いた話だが、あの日は死んだ友人の命日で、ミルクはその友人の好物だったらしい。
昔は大勢の友人たちが集まったらしいのだが、もう生きている友人はほぼいないらしい。
俺は、そんな大切な日に実力差もわからない、馬鹿げた勝負を挑んだようだ。
殺されて当然だ。むしろ、殺されなかったことが不思議でならない。
後日、俺は正装に着替え、謝罪をすると同時に、改めて手合わせを申し込んだ。
手合わせだ。勝負ではない。
エルフのガキ、いや、ノエル様は強かった。
魔法使いにも関わらず、天才剣士と言われた俺と剣のみでほぼ互角だった。
結局、俺は手も足も出ずにボコボコにされた。
だが、後悔や恥ずかしさはなかった。
その日から、ノエル様は俺の尊敬すべき方であり、目標となった。
自分の力不足と無知を恥じ、俺は身の振り方を改めた。
その結果、いつのまにか冒険者ギルドの支部長なんて役職にまで上り詰めていた。
ノエル様がいなければ、きっとどこかで無謀な戦いをし、野垂れ死にしていただろう。
いくら感謝してもしきれない。
そして、ノエル様が表舞台に出なくなり寂しさを感じていた時に、急にノエル様が俺の元に来てくださった。
そして、さきほどの『頼み』だ。
正直わけがわからなかったが、俺は快諾した。
なぜなら、ノエル様が本当にうれしそうに、楽しそうにその子供たちの話をするのだ。
ノエル様の笑った顔なんてほとんど見たことがない俺にとって、それは幸せと、かすかな嫉妬を感じさせた。
俺では、ノエル様にあんな顔をさせることはできないだろうから。
ノエル様は何度も『頼んだぞ!』を繰り返しながら帰っていった。
さて、他ならぬノエル様のためだ!はりきって裏工作しますかね!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
8月17日(日)に更新再開と同時にタイトルを変更しようと思ってます。
再開したらいきなりタイトルが変わってた!だと戸惑う方もいらっしゃると思いまして、ここに伝えさせていただきます。
一発で「ああ、姉好きだわ。」とわかるようなタイトルになると思います。
また、今度から更新は一日おき(週3~4)とさせていただきます。
リアルタイム毎日更新はさすがにきつかったです(苦笑




