第六十二姉「ちょっとちょっとなになにどうしたのよ?お姉ちゃんと愛の逃避行!?」
どこからか『ルーキー!自分の力で勝ったんじゃねーぞ。魔法のおかげだという事を忘れるな!』と声が聞こえたような気がした。
ありがとう、肝に銘じておくよ・・・安らかに眠れ。
俺は、散った強敵に心の中で敬礼を送った。
「だが、ブラックサンダーを倒したのは私ということにしておいてくれ。」
「・・・(うわ、最悪。弟子の手柄を奪い取るとか悪魔かこの幼女)」
「まぁ妥当でしょうね。」「それがいいですね~。」
「・・・え?え?」
賛成するラムサスさんとアメリアさんと、なぜかキョドりだすマリーシアさん。
顔が『うわ、最悪。弟子の手柄を奪い取るとか悪魔かこの幼女』みたいな表情してたな。
「マリーシアさん、えっとですね・・・」
手柄をノエルさんに譲る理由を説明する。
「な、なるほど!そういう意味が!私はてっきり弟子の手柄を奪い取る悪魔幼女か、と・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そこには、久しぶりに登場した≪火炎王蛇≫さんがマリーシアさんをめっちゃガンつけていた。
ダメだこいつ、早くなんとかしないと・・・。そしてこいつも『ぎゃぁぁぁ!』派か。
ノエルさんくらいだな、『きゃぁぁぁ!』って叫んだの。これが女子力格差か。
その時、廊下をドタドタと走る足音が。
「今のマリすけの悲鳴じゃなかった!?楽しそう!私も混ぜて!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!お願いだから混ざらないでください!混ぜるな危険んんんんんんん!」
なんだこのカオス。
「え、結局俺は合格でいいんですよね?」
「ええ、もちろんよ。おめでとう。ヒイロ・ウイヅキさん、あなたは今日から初級魔法使いです。」
「「イヤッハー!!!」」
さきねぇと抱き合って飛び跳ねる。
俺が魔法使いになる日が来ようとは・・・
「まぁ当然だな!」「すごいですよヒイロさん!かっこいい!」「さすがノエル様の弟子だね。」
みんなも口々に祝ってくれる。
無事合格できてよかったよかった。
「ふむ・・・三回当てれば魔法使い、か・・・」
さきねぇがなにやら呟いている。なんだ?
「・・・そこのおばちゃんって水魔法使いなのよね?回復使える?」
「とりあえず、名前を名乗りましょうか小娘?」
ひぃ!俺が氷魔法を創造した時よりあたりが寒い気がする!
やはりアメリアさんは典型的な礼儀重視型のおばちゃんだったか。
「ムラサキ・ウイヅキでーっす。ヒロの姉で、私の愛しい弟です!よろー。」
「あら、お姉さんだったの?頭が悪そうだったから、てっきり出来の悪い妹かと思ったわ。」
「・・・あ?」
まずい!さきねぇは『自分がバカにされた』ことより『姉ではなく妹扱いされた』ことに怒るタイプ!
「おい、ババ「こう見えて面倒見もいいし、俺のことかわいがってくれる最高のお姉ちゃんなんですよ!さきねぇみたいな姉を持って世界、じゃなくて大陸一の幸福者だと思ってますよー!ヒャッホー!」
「もう、ヒロったらー!そんな本当のこといっちゃってー!」
「そ、そう。よかったわねぇ・・・?」
アメリアさんが若干ひいている間に、さきねぇとアイコンタクトをとる。
「(俺たち、建前上はノエルさんの弟子なんだから、ノエルさんの知り合いの前では恥ずかしくない言動を心掛けて!ノエルさんに恥かかしちゃかわいそうでしょ!)」
「(え、エルエル気にしないと思うし、むしろ今更感すごいけど、わかったわ!)」
さきねぇがアメリアさんの方に向き直り、微笑む。
そして。
「アメリア様、大変申し訳ございませんでした。私、ムラサキ・ウイヅキと申します。ノエル・エルメリア様の御世話になっている者です。弟共々、今後ともよろしくお願いいたします。」
「・・・できるなら最初からそうしなさい。恥をかくのはあなたではなく、ノエル様やヒイロくんですからね?」
「返す言葉もございません。以後気をつけます。」
素直に頭を下げるさきねぇ。
いやー、さきねぇの『年上のお姉さん』モード、久しぶりにみたな。
ノエルさんやラムサスさん、マリーシアさんは大きく口を開け固まっている。
まぁ知ってる人から見ればそうだよね。
普段からこれをやってれば聖女扱いされるレベルなんだがなー。
でもそうすると有象無象が集まってくるから、いつもどおりでいいの。
「それで、私は回復魔法を使えるけど、それがどうしたの?」
「私も初級魔法使い試験を受けたいと思いまして。いかがでしょうか?」
さきねぇがノエルさんに問いかける。
いつもと違うさきねぇにビクッとなるノエルさん。
「むぅ・・・確かに、しかし・・・」
ノエルさんが俺を見る。俺に決めろってか。
「いいんじゃないですか?多分大丈夫だと思いますし。」
「さすがヒロ!よくわかってるぅ!お姉ちゃんも頑張るからね!」
年上のお姉さんモード終了。
「ラムサスさん、いいですか?」
「ああ、かまわないよ。だが、魔法量G(-)だろう?創造できるのかい?」
「まぁそれはやってみてのお楽しみってやつよ♪」
さきねぇがいつのまにか訓練用と思われる木剣を携えている。何をする気だ?
そして、木剣を構える。あの構えは・・・抜刀術?
まるで不殺の浪人だ。なるほど、アレでいくのか。
他の人たちは『なにをするつもりなんだ?』といった表情だ。
異世界には刀はないのかな?
「いきま~す!・・・・・・はっ!」
その一瞬。
何の前触れも無く。
的が、切断された。
「ムラサキ流奥義!・・・えっと、よこいち、いや、違うな・・・お、おぅ・・・桜花!し、しーしーしーしー、紫電ーっっっっざ、閃!」
お姉さま、技名は名前を考えてから叫んでいただきたい。
まぁようするに、居合い抜きで『真空の刃』を飛ばしたってことだろう。
ゲームや漫画ではよくある光景だ。
しかし、この世界ではそうではなかったらしい。
みんな棒立ちだ。
「あれー?おっかしいなー?的どころか、後ろの壁も真っ二つにする予定だったんだけど・・・?」
「どこの世界一の大剣豪だよ。怖いよ。さきねぇのことだから、普通に酒飲んで酔った勢いで使いそうで怖いよ。」
DAISANJIだ。殺人罪で捕まってしまう。
なお、容疑者は『記憶にない』と供述しており・・・
あれ、ちょっと待てよ?訓練場の的とはいえ、魔法道具を壊しちゃったぞ?
魔法道具はそれなりに貴重で、数が少ないと聞いた。
これ、器物破損罪なんじゃないか?
「いやー的三つは無理だわー。もう若干眠いもん。試験放棄ー。あ、試験モップー!なんつってなー!あっはっは!今のは『ほうき』と『もっぷ』をかけた私のセンスの光る爆笑ギャグで~」
「わかったからちょっとあっちいこうか!ノエルさんあとはお願いします!」
「ちょっとちょっとなになにどうしたのよ?お姉ちゃんと愛の逃避行!?」
「そんなところ!ではー!」
「ではではー!」
俺はさきねぇの手をとり、ダッシュでその場から逃げ出したのだった。
「あ、ちょっと待って下さーい!」
マリーシアさんが追いかけてきた!加速!
「ノエル様、ムラサキと言いましたか。何者なんですか?あの魔法は普通じゃないどころじゃない、異常ですよ?」
「・・・異常なのはわかってる。だからラムサスにもマリーシアにも口外するなときつく言い聞かせている。」
「もちろん口外などしませんよ。しかし、さっきのはなんです?奥義の『飛燕』に似ていましたが、威力が明らかに違いましたよ。魔法を吸収するあの的を、切断するなんて・・・」
「多分、風の魔法、だろうな。あれほどの威力の風魔法など今まで見たことも無いが、な。」
「・・・そうですか。ヒイロ君も素晴らしい才能だと思いましたが、ムラサキの魔法を見ると霞んでしまいますね。」
「それはヒイロが誰よりもわかっているさ。それでも、ヒイロは姉に追いつこうと必死なんだよ。」
「茨の道ですね。」
「ああ、だからこそ応援したくなってしまうんだよ。あの二人は私が責任を持って育てる。・・・もし、誰かがあの二人を害するようなことがあったら、誰であろうと。たとえ、お前たちでも、殺すぞ。いいな。」
ノエルさんの、そんな激しい決意を秘めた声が、試験場に響いた。
これで第五章「異世界で冒険者になろう編」の終了です。
駆け足でしたね!回復魔法覚えなかったですしね!
最後はちょっとシリアスを匂わせましたが、ノエルさんの燃え盛る炎のような激しい愛情を表現したかっただけで、『初月姉弟の力をつけ狙う謎の組織が!』なんて展開はありません。
まぁそんなやつらがいても初月姉弟の知らないところでノエルさんが始末しちゃうでしょうけど。
それと、活動報告にあねおれの小話と今後の予定を書かせていただきました。
よかったら読んでみてください。




