第五十七姉「ここまできたら乗るしかないでしょう、このビックウェーブに。」
今話のようなアホな日常回を書くのはやっぱりとても楽しいです。
予定を繰り上げてさっさと冒険者編終わらせるかもしれません。
ここまで冒険者設定が足を引っ張るとは思いませんでした(笑)
キレるさきねぇ。
気持ちは嬉しいんだけど、みんなめっちゃ困ってるから!
やめて!私の為に争わないで!
「あ、じゃあこういうのはどうです?ノエルさんが倒したことにすればお金も入るし、ノエルさんのすごさも街に伝わる。いいことずくめじゃないですか?」
顔を見合わせるノエルさんとタイチョーさん。
なんか変なこといったか?合理的だと思うが・・・
「いや、坊主、いいのか?例え報酬はもらえないとしても、あのブラックサンダーを倒した大型ルーキーってことで、一気にお前の名前が街に知れ渡るんだぞ?有名人だぞ?」
「それに、冒険者ギルドにだって覚えが良くなる。ランク査定に関わらないといっても、ある程度は融通を利かせてくれたりもするかもしれない。」
ふむ・・・二人の話を聞いても、メリットよりデメリットのほうが圧倒的にでかいとしか思えん。
「ぽっと出の新人が有名になって、変な奴らから目を付けられても困りますし、どうせさきねぇと一緒にいれば、すぐに街の有名人になりますよ、きっと。いい意味でも悪い意味でも。それと、冒険者ギルドが融通を利かせた結果、他の冒険者から嫌われたらそっちのほうが大変でしょ?」
「えー、嫌よ。せっかくヒロが頑張ったんだから、ここは「有名になったら女の子にもモテモテだぞ?」ヒロの案でいくのが一番だと思うわ!さすがヒロ!私も実はそう言おうと思ってたのよ!」
さきねぇ、安定の手のひら返し。
ノエルさんは『はぁ・・・まぁ予想はしてたよ』って感じだが、慣れていないタイチョーさんは『え!?言ってることがさっきと全然違う!?』って驚いた顔してる。
すいません、こういう姉なんです。
「ノ、ノエル様、どういたしますか?」
「そうだな・・・確かにヒイロのいうことも一理ある。私が片付けたことにして、報酬はヒイロに渡そう。それでいいか?」
「こちらとしては、『アルゼンの街にノエル様が長期滞在しており、さっそく魔物を退治してくれた』と話が街中に広まれば、犯罪抑制にも繋がるので願ってもないですが・・・よろしいので?」
「本人がいいといっているんだ、かまわないだろう。上には適当に伝えておいてくれ。ラムサスにはこちらから伝えよう。どうせ二人の冒険者登録のためにギルドへいくからな。」
「わかりました。・・・坊主、いや、ヒイロ。君のおかげで誰も被害にあわずにすんだ。礼を言う。ありがとう。」
「いやー、当然のことをしたまでよ!はっはっは!」
なぜかさきねぇが答える。まぁいいけどね。
「身分証明を未だにしてないのに、いつも門通してもらってますから。冒険者登録できたら身分証明しにきます。」
「・・・はは、ほんとに坊主は律儀だな。うちの息子も坊主みたいに育って欲しいもんだ。」
「タイチョーわかってるじゃない!それに免じて、今回はタイチョーのポケットマネーは見逃してあげましょう。」
「俺個人から金取るつもりだったのか!絶対にかわいい娘は嬢ちゃんみたいには育てねぇぞ俺は!」
「姉弟なんでしょ?そのうちこうなるわよ?」
『バカね、当然でしょ?何いってんのかしら?』というさきねぇとは対照的に、『マジかよ・・・』と絶望的な顔をしているタイチョーさん。
どんまい!
「さて、戦った後だからお腹がすいただろう?昼食を食べてからギルドにいこうか。」
「「さんせーい!」」
「ではな。ブラックサンダーの死体はギルドにもっていっておくからな。」
「失礼します。」「タイチョー、じゃあね~ん!」
俺たちは門を通り、街の中へと入っていった。
「末恐ろしいガキどもだこと・・・しかし。お前らならいい冒険者になれるよ!応援してるぜ!」
後ろから、そんなエールを受け取った。
「で、結局ここか・・・」
「いいじゃん、俺好きだよ。おいしいし。」
「ギルドに近くて安くてうまいとなると、ここが一番だからな。」
いつもの定食屋に入る。
カランコロン♪
「いらっしゃいませー、あ!いつもありがとうございます~!いつものお席で?」
「ああ、頼む。」
すでに店員に顔を覚えられているようだ。
だからいつも同じ席に案内されるのか・・・
「今日は何を食・べ・よ・う・か・な~っと。」
「無駄に高いもの頼まないでよ。経費節約。さくせんは「むだがね つかうな !」だからね。」
「大丈夫よヒロ。食べ物っていうのはお腹に入れば消化されて栄養になるから、食べ物に使う無駄金なんて存在しないのよ?」
「じゃあムラサキは一番安いヤサイイタメテイショクだな。体にいいぞ。」
「それは嫌よ?」
肉食のさきねぇはお肉大好きなのだ。
そこに、さきほどのウェイトレスさんが割って入る。
「実は今、カップル限「それをもらうわ!」
「最後まで聞いてからにしようよ・・・やだよ俺、実は『ゴブリンの丸焼き』とかだったら。」
「ヒロとのカップル限定料理なら、例えゴブリンでも完食してみせるわ!」
「ふふふ、カップル限定メニューが『ゴブリンの丸焼き』だったら暴動が起きて、この店潰れちゃいますよぅ。」
無駄に男らしいさきねぇに、微笑で返すウェイトレスさん。
さきねぇの言動にすぐに対応するとは、やるなこの娘。常連に人気が出るタイプだな。
いかにも『田舎からでてきました!』って感じだが、その感じがけっこうかわいらしいので、彼女にはそのままでいてほしい。
ウェイトレスさんと目が合う。
「あ、あの、何か、変なのついてますか?」
「え、いや、大丈夫です。ちゃんと目とか鼻とか口とか、重要なパーツはついてますよ。」
なぜか顔を赤くしてもじもじしだすウェイトレスさん。
きっとこうやって常連ゲットしてるんだろうな。魔性の女や。
ワイは騙されへんで!
「ムラサキ・ファング!」「ぎゃあ!」
いつのまにか俺のすぐそばまで来ていたさきねぇが、いきなり耳たぶを噛んでくる。
どっかのプロレスラーか。
「ヒロ、お姉ちゃん、(私以外の)女性をじろじろ見つめるなんて、よくないと思うわ。」
「はい、ごめんなさい。」
とりあえず謝っておく。
変に言い返すと「言い訳するの!?」と過激な行動に出る(という実体験)からだ。
「あの、ください。そのカップル限定なんとか。すぐに。いますぐ。カミングスーグ。」
「え!?は、はい!限定メニューはいりま~す!」
「私は、ワイルドイノシシのシチューをもらおうか・・・しかし、よかったのかヒイロ。」
「ここまできたら乗るしかないでしょう、このビックウェーブに。」
おいしい料理がきますように・・・!
さきねぇをチラ見すると、カップル扱いされたことにご満悦だ。
最悪、さきねぇを褒めちぎって全部食べてもらおうかな・・・
待つこと10分ちょい。
ついに出てきたその料理は・・・
「「パ、パフェだと!?」」
「ほう、ずいぶん珍しいものを置いているな。」
ちょっと小さいけど、見た目はどっからどう見てもパフェだ。
クリームだってのっかってるし、(よくわからない)果物も盛り付けてある。
それにスプーンが二個ついている。
「ちょっとちょっとちょっとちょっと!こういうのあるならあるって早くいいなさいよ!」
「さ、最近はじまったばかりのメニューなもので・・・」
さきねぇのヒートアップっぷりに、若干ひいているウェイトレスさん。
でも、まさか異世界でパフェが食えるとは・・・
怖いから原材料とか聞かない。
おいしければそれでいいよ。
「じゃあ、さきねぇ、あーん。」
「あーん♪」
「おいしい?」
「やん、おねえちゃん、ほっぺが落ちちゃいそう!」
「それは大変だ、落ちないように俺が支えてあげないと!」
「もう、ヒロってば~♪じゃあ次は私から!あーん!」
「あーん・・・おお、甘い!ちゃんと甘くておいしい!」
「でしょ?そのおいしさの99割はお姉ちゃんが食べさせてあげてるからよ?」
「すごい増えてる!?」「???」
学の差が如実に出たようで、すぐにわかったノエルさんと、よくわかってないウェイトレスさん。
しかし、両者ともに『こいつら、すげぇ・・・』って顔をしていた。
おいしいな。もぐもぐ。あーん。もぐもぐ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
今話の中の
「やん、おねえちゃん、ほっぺが落ちちゃいそう!」
「それは大変だ、落ちないように俺が支えてあげないと!」
は、ある姉弟漫画のオマージュです。男女逆ですけど。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。




