第五十六姉「はぁ・・・結局、似た者姉弟なんですね。」
日に日に一話分の文量が多くなってきてます。やばいです。
書く速度が間に合わない・・・
「・・・死して屍、拾うものなし。」
俺は刀を鞘に納める(フリをする)。
・・・ふ、決まった!
まぁ拾うんだけどね、屍。
死んでるよな?とりあえず木の上から≪水弓≫で生死確認をする。
ヒュ・・・ドシュ!
・・・・何も起こらない。よし、回収にいくか。
しかし、よく見なくても首から血がどばどばでとる。こわ。
現代っ子にはきついぜ。近くで見たら貧血起こしそうだな。
その時だ。
向こうから土煙が上がっていた。
ナニカが雄たけびを上げながら、ものすごい速度で一直線にこっちに向かってきている。
「な、も、もう一匹いたのか!?」
いや、違う。
プレッシャーが全く違う。
距離はまだ離れているのに、体の震えが止まらない。
戦う?アレと?冗談だろ?
俺は木の上に留まり、必死に体を丸めて身を隠そうとした。
さすがに、無理があるよな・・・姉さん、俺に祝福を・・・!
そして、視認できるくらいの距離まで迫りくる死の脅威
「ヒィィィィィィィィロォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!」
の正体はさきねぇだった。
ドサッ!
いってぇ、ケツ打ったぁ・・・
あまりの脱力感につい木から落下してしまった。
異世界補正があっても、痛いものは痛い。
あ、だめだ。痛いとかよりも、緊張と脱力の差が激しすぎて立ち上がるのきつい。
ゴロッと草原で大の字になる俺、かっこいい。
「ああ、ヒロ!無事だったのね!お姉ちゃん、ヒロにもしものことがあったらと思って・・・!」
「いや、この草原で最恐の恐怖を感じたのは、つい数秒前のことなんだけどね・・・」
「なんだって!?私のかわいい弟にそんな恐怖を味あわせたやつはどこのどいつ!?」
「・・・・・・」
向こうから銀髪の少女を乗せた馬とおっさんを乗せた馬が走ってくるのが見える。
・・・到着。
「ヒイロ!無事だったか!?」
「ノエルさんにタイチョーさんまで・・・ノエルさんが『一人で来い』っていったんじゃないですか。心配性すぎますよ。」
「いや、実は今、街でちょっとした事件が起こっていてね。草原が危険なんだよ。」
タイチョーさんが困った顔でそう語る。
事件?草原が危険とな?
「な、なにがあったんです?もしやキングマ○モーでも発見されたんですか!?」
「え、何だそれ。そうじゃなくて、珍しい食用の魔物が草原に逃げ出したらしいんだよ。」
違うのか。コーラのびんを手に入れるチャンスだったのに・・・
「食用ってことは弱いんじゃ?」
「いや、食用といってもこのあたりの魔物と比べるとかなり強力だ。しかも、配送業者がその魔物が逃げ出した責任を取らされるのが嫌で、昨日まで黙っていたという有様なんだよ。それで今日になってやっと討伐依頼がでてね。街の警備担当者として、連絡が遅れてすまない。」
「いや、頭を上げてください。大丈夫ですよ、なんともありませんでしたし。でも、そんなに危険なんですか?」
俺はきょろきょろあたりを見渡す。
あるのは猪の死体だけだ。あ、ちょうどいいから血抜きの方法教えてもらおうかな。
ノエルさんが説明を引き継ぐ。
「ああ、ブラックサンダーといってな。この国ではあまり見かけず、とても美味なんだが、気性が荒く、獲物を殺すまで突進するのをやめない危険な魔物だ。D級の魔物なので、ここいらの駆け出し冒険者じゃたばになっても敵わない。」
名前からして美味しそうだな。
・・・待てよ。ブラック?突進?
「そいつ、黒いですか?」
「黒いな。」
「・・・でかいですか?このくらい?」
手で大きさを表す。
「ああ、そのくらいはあるな。」
「・・・魔法を創造しようとした瞬間に、追っかけてきたりしません?」
「うむ、魔力に敏感でな。自分が狙われているのがわかると、逃げるのではなく突撃してくる。」
「・・・多分、猪ですよね、それ。」
「見た目は猪だな。」
「「「・・・・・・・・・」」」
「ねぇ、あそこに豚が倒れてるけど、あれは何?今夜の夕飯の材料?」
四人の視線がそこに横たわっているソイツに向けられる。
そして、顔を見合わせ、八つの視線が絡み合う。
「ブラックサンダー(だ)(だよ)(じゃん)!?!?」「今夜はスキヤキがいいわね!」
ひたすらマイペースなお姉さまでした。
「しかし、よく倒せたな・・・D級でも上位に位置づけされることが多い魔物だぞ、ブラックサンダーは。」
「ノエルさんから教わった魔法があったんで、なんとか勝てました。」
「私は!?私は何かヒロの勝利に関わらなかったの!?」
「えっと、さきねぇは・・・俺の脳内さきねぇが(今夜はスキヤキよ!)と(さーちあんどですとろい☆)っていってた。」
「さすが私!」
それがなかったら、そもそも『猪もけっこうかわいいもんだな~』で戦わずに見送ってたんだけどな。
「ん?ということは、ヒロは一人でD級魔物を倒したってことよね?」
「うむ、そうなるな。」
「・・・え~、この度は、私の弟、緋色がD級魔物を一人で倒したことをご報告させていただきます。私の弟は~」
~~~~30分後~~~~
「~と、いうわけで、私の弟はかっこかわいい超素敵な男性であるということです!拍手!」
ぱちぱちぱちぱち!
ノエルさんは、まるで『孫の発表会を見守る祖母』のように、タイチョーさんは『とりあえず仕事があるから早く街に戻りたいんだけど』といった感じで拍手を送っていた。
その間、近寄ってきた魔物をひたすら≪水弾≫で弾きまくる俺だった。
「あの、姉さん、嬉しいんだけど、そろそろいかない?さすがに魔法使いすぎでちょっと疲れたんだけど・・・」
「はっ!そ、それもそうよね!悪いお姉ちゃんでごめんね?魔法を使うヒロがかっこよくて、つい・・・」
「おらぁぁぁ!魔物どもぉぉぉ!いくらでもこいやぁぁぁぁぁぁぁ!」
ひいろの てんしょんは さいこうちょう だ !
ひたすらスマート棍棒をフルスイングする俺。
「・・・ノエル様、坊主はなんか、こう、礼儀正しくて落ち着いている、姉に全く似ていない印象だったんですが・・・」
「そうか、ヒイロが礼儀正しくて落ち着いているのは事実だ。が、ヒイロもけっこうアレだぞ。」
「はぁ・・・結局、似た者姉弟なんですね。」
なにか文句ありますか?
魔法袋にブラックサンダーと無数の雑魚どもをしまい、みんなでアルゼンに向かう。
修行の一環ということで、今さきねぇと俺は走っている。
ゆっくり走ってるとはいえ、ノエルさんたちが乗ってる馬と併走して走ってるとか異世界パワーやばいな。
そしてあっという間にアルゼンの門まで到着。
「あ~疲れてぃんぐ~。」
「疲れてぃんぐな~。」
疲れてぃんぐとは、『疲れている+~ing』であり、『今、私は現在進行形でとても疲れていますよ』という意味だ。
もちろんさきねぇ発信の(初月姉弟内限定の)流行語だ。
「・・・あれだけ戦った後でここまで馬並の速さで走れるほどの実力があるのに、まだ冒険者にすらなってないというから驚きだ。見た目は若くても、さすがノエル様の弟子といった所かね。ああ、少し待っててくれ。ブラックサンダーについて報告をしてくる。」
「ヒロがD級魔物のブラックサンダー倒したんだから、討伐報酬とか全部ヒロのものよね?冒険者登録したらいきなりD級冒険者になるの?」
「あー、いや、それは・・・」
困った顔をしているタイチョーさん。
なんか不都合でもあるのかな?
「私が説明しよう。冒険者登録をしていない者が討伐した魔物には、報酬は支払われないんだ。登録しなくても報酬を支払うとなると冒険者登録をする者がいなくなるし、登録できない子供たちが無理やり戦いに駆り出される可能性もある。それと、冒険者登録以前に倒した魔物は、冒険者ランク査定に意味をなさない。『本当にそいつが魔物を倒したのかどうか』がわからないからな。」
「つまり、俺が頑張って倒した意味は・・・」
タイチョーさんが苦りきった顔で答える。
「・・・ない、ね。いや、街の住民の安全が確保されたのは喜ばしいことだ。ありがとう。」
「そんなもんで腹が膨れるかー!それじゃヒロが頑張った意味がないじゃない!弁護士を呼べ!訴えて勝つわよ!」
キレるさきねぇ。
気持ちは嬉しいんだけど、みんなめっちゃ困ってるから!
やめて!私の為に争わないで!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ヒロくんが余裕で倒したブラックサンダーさんですが、『こちらが先に発見した』『遠距離から先制攻撃が出来た』『近くに一定時間無敵ゾーン(木)があった』などの好条件に恵まれたおかげで楽勝だっただけで、ガチでやりあったらけっこう苦戦します。
ちなみに、紫お姉ちゃんならミカエルくんアタックで一発KOです。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
 




