第五十四姉 番外編『その時の初月紫さんとノエル・エルメリアさん』
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本当にありがとうございます。
また、最近は評価をしてくださる方も多いようで、とても嬉しいです。
(多分、私と同じ姉スキーの方々が支援してくださっているのでしょう。ありがたいことです。)
紫さんも「評価3件っていったらアレよ!?麻雀でいえば裏ドラ3つのったみたいなもんよ!?」と喜んで踊っていました。
今回はちょっと切ないお話です。
紫さんが弟くん激ラブな理由の一端が紐解かれます。
ああ、ヒロの姿が見えなくなってしまった・・・
大丈夫かしら。寂しくて泣いてないかしら。
転んで怪我とかしないかしら。
魔物に襲われて、そのまま・・・ああ、やっぱり戻ったほうがいいんじゃ「えーい、さっきからうるさい!」
エルエルが叫ぶ。
うるさいのはどっちよ。
そもそも、誰のせいでこんな心配することになってると思ってんのかしら。
「うるさいって何よ。姉が弟の心配しちゃおかしい?そもそも私、何もしゃべってないでしょ?」
「お前・・・さっきからずっと口からブツブツ言葉が出てるのに気づいてないのか・・・」
「・・・そう?」
「そう!」
「・・・あっそ。」
ああ、そんなことよりヒロは大丈夫かしら・・・
あいらぶゆー、ヒロ・・・
あいみすゆー、ヒロ・・・
「あいみすゆー!」
「だからうるさい!少しは落ち着け!」
うるさいわね!なんかしてないと落ち着かないのよ!
「その、前から聞きたかったんだが、いいか?」
「ん?なに?」
「・・・なぜそこまでヒイロに固執する?私も長く生きているが、姉弟にここまで執着する人間にあったことがない。どうしてだ?」
「・・・ヒロが私の世界の全てだからよ。」
「うん?」
「私は、自分で言うのもなんだけど、子供の頃から頭が良かったし、なんでもできたわ。きっと私みたいな人間が天才っていうんでしょうね。」
「まぁ、確かに天才といってもおかしくない存在だ。私のように。」
真顔で肯定するエルエル。
本気で思ってるっぽいとこがすごいわね。
とりあえずツッコんでおくか。
「自分でいうな!・・・でも、だったらわかるでしょ?まわりがすっごくくだらなくて、つまらないって感じてしまうの。」
「・・・・・・・」
「でもね、ヒロは違った。私の考えとかやりたいこと、いいたいことをすぐに理解してくれたし、わからなくても説明すればちゃんとわかってくれた。生まれた時からヒロは私の大事なかわいい弟だったけど、その時からもう世界で唯一の特別な存在だったのよ。」
「私にはそんな存在がいなかったからな。正直うらやましいよ。」
「ふふふ、ありがと。でね、小学校の時、ああ、子供が通う学校のことね。やっぱり私は悪目立ちしてたのよ。女の癖に生意気だってね。私はほんとどうでもよかったんだけど、ヒロが怒っちゃってね。周りのやつらに殴りかかって大変だったのよ?」
「ヒイロがか?信じられんな・・・いや、ムラサキに関することならなくはない、か。」
やはりヒロは数週間の付き合いのエルエルでもわかってしまうほどのシスコンらしい。
へっへっへ!全国区デビューも近いわね!
「で、結局ヒロがリーダーになって全員子分みたいにして、同格だった私もリーダーみたいになったわ。それからは、まぁみんな仲良くやってたわけよ。」
「ふむ。」
「でも、やっぱり違うのよね。大人にないしょで森に探検にいこー!ってなったんだけど、ヒロが止めるのよ。『危ないからだめだ!』って。」
「ふふ、ヒイロらしいな。」
「でも、そんなヒロを振り切って子分どもを連れて森にいくんだけど、結局みんな引き返しちゃうのよ。『時間だから』とか『親に怒られる』とか。で、森の中で私一人ぼっちになるの。でもね、怖くなかったのよ?だって、必ず遠くから『むらさきー!帰るぞー!』って声が聞こえて、ヒロが探しに来てくれるってわかってたから。だから、私にとって、ヒロは特別だったの。無条件にいつも私を愛してくれて、許してくれて、そばにいてくれる唯一の存在。」
何年たっても、目を閉じれば、いつでもあの時のヒロの声と顔が思い出せるわ。
「でもね、一回大喧嘩しちゃったのよ。いつもみたいにヒロをからかって遊んでて、言っちゃったの。『ヒロは本当に何をやらせてもダメね』って。『使えない弟ね』って。『私に勝てるものなんて一つもないじゃない』って。私はね、ヒロを悪くいうつもりなんてこれっぽっちもなかったの。ただ、『ヒロは私がいないとダメね』ってことを言いたかったの。でもね・・・」
ふぅ・・・
「ヒロが泣き出したのよ。それで言ったの。『お前に俺の気持ちがわかるか!』って。『いつも皆の前でバカにされて、笑われて、俺がどんな気持ちかわかるか!』って。『俺はお前のおもちゃじゃない!お前なんかだいっきらいだ!』って。」
「・・・・・・・・・・」
「ショックだった。ヒロがそんな風に思ってるなんて思いもしなかった。いつでもヒロは私のことを大好きで、なんでも理解してくれて、許してくれるって思ってた。その時私、どうしたと思う?・・・倒れちゃったのよ。気絶したの、私。すごくない?」
「そ、それは、すごいな。」
「目が覚めた時は、ヒロは部屋に閉じこもっちゃってて。必死に謝ったんだけど、出てきてくれなくて。正直、このままヒロが許してくれなかったら死のうと思ってたわ。でもね、数日したら部屋から出てきてくれて、許してくれたの。しかも、『ごめんな』って。ヒロはなんにも悪くないのに!」
あの時のヒロの顔は一生忘れない。
「ヒロはそんな思いをしながらわたしのそばにいてくれたの。優しくしてくれて、想ってくれて、許してくれて、愛してくれたの。ずっと、ずっと、ずっと。」
「・・・・・・・」
「だから、私にはヒロしかいないの。こんな私をそこまで愛してくれる人間なんてヒロしかいない。ヒロがいないと生きていけないのよ、私は。ヒロは私のことなんでもできる天才だっていうけど、違うのよ。私一人じゃ何も出来ないの。そもそも、世界があまりにもつまらなすぎて、さっさと自殺してたかもしれないわ。ヒロがいてくれるからなんでもできるのよ。私がいてのヒロじゃないの。ヒロがいての私なのよ。」
「・・・・・・・」
「わかる?私にとって、ヒロは『全て』なの。ヒロがいなかったら生きてる意味なんてないし、ヒロが私のそばにいてくれるなら、私のことを見てくれるなら、私のことを思ってくれるなら、私はなんだって、どんなことだってできるの。」
「・・・それで、今の状態になったわけか。」
「ええ、そうよ。ヒロが私を心から愛してくれているように、私もヒロを、ヒロが私を愛している以上に愛するの。・・・ダメかしら?」
「ダメではないさ。愛なんて人それぞれだろうに。・・・ただ、ヒイロが自分を過小評価する理由がわかった。お前は、少しはお前の弟を信じてやれ。」
むっ。
「聞き捨てならないわね。私がヒロを信じてないとでも!?」
「このあたりの魔物なぞムラサキとヒイロの敵ではない。何度も行き来しているからわかっているだろう?にもかかわらず、『ヒロが心配だー、一緒にいてあげないとー』。そうやって何でもお前がヒイロを押しのけて問題を片付けていたら、いつまで経ってもヒイロに自信なんぞつくはずないだろうが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫だ、ヒイロは強い。お前の自慢の弟なんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・うん。」
「なら、信じてやれ。ヒイロはお前に守られるのではなく、お前の隣で、お前を守りたいんだ。」
「・・・・・・・・・私が、悪かったのかしら?」
「少しやりすぎていただけだ。大丈夫。ちゃんとヒイロもわかってる。」
「・・・・・・そうかしら。」
「そうだ。いつもの無駄な自信はどうした?」
「・・・そうよね。姉である私が弟を信じて応援してあげないでどうするのかしら!」
「そう、その意気だ!」
「よっしゃー!そうと決まれば、エルエル!さっさとアルゼンにいってヒロを出迎える準備をするわよ!」
私は駆け出す。
お姉ちゃん、信じて待ってるからね!ヒロ!
「・・・やっぱ、後ろからストーキングしちゃだめ?」
「言ったそばから、お前は・・・!」
それとこれとは話が別なのよ!
ヒロー!あい!みす!ゆー!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
古今東西、強欲な王様は毒を盛られて死んでしまうように、天才は理解されない孤独と絶望で死んでしまうのです。
そのため、ヒロくんにとって紫さんは『いつも輝く暖かい太陽』ですが、紫さんにとってヒロくんは『自分の道を照らす優しい希望の光』なのです。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。




