第四十姉 「ヒ、ヒイロ・・・お前は本当にかわいいな!それに引き換えムラサキときたら・・・」
「ムラサキ。はっきり言うぞ。・・・お前の魔法量は低すぎる。子供、いや、それ以下だ。魔法使いになるのはあきらめろ。」
「「・・・・・・・なんですとぉぉぉぉぉぉぉ!?」」
さきねぇと俺の叫び声が響き渡った。
「嘘でしょ!?」「そんなバカな!」
「嘘ではない。全く使えないわけではないが、使えて基本魔法を数回といったところか。」
あのさきねぇが・・・俺より魔法量が少ないだと?
『さきねぇより優れている部分があって嬉しい!』というより、なんか悪い夢を見てるというか、気持ち悪い感じだ。
「ヒロがDで、私がG・・・」
「いや、G以下だ。強いていうならG(-)だな。」
「さきねぇ・・・」
さきねぇは『挫折』というものをしたことがない。
やれば勝つし、勝てないならば逃げるというスタンスだ。
ただ、基本スペックが異常に高いため、たいていのことは思い通りにいっていた。
それが、あんなに望んでいた魔法をほとんど使えないなんて・・・
ショックを受けて落ち込まなければいいが・・・
そんなさきねぇを見ると、ニヤニヤ笑っていた。
え?ニヤニヤ?
すると、いきなりタックルをかまして抱きついてきた。
「や~ん、じゃあヒロがちょうすごいってことじゃな~い!さすがヒロ!かっこかわいい私の弟!よっ!世紀の魔法使い候補!異世界に現れた流星!」
え?え?え?え?
なんだ、何が起こっている!?
さきねぇが俺を褒めちぎっているだと!?
・・・そうか、俺が全てにおいてさきねぇより劣ってることを気にしていることを、気づいていたのか。
手を抜いたり、お世辞を言ったところで俺ならば気づいてしまう。
だから、褒めたくても褒められなかったのかもしれない。
でも、今日、生まれて始めて『さきねぇよりも優れているところ』が見つかった。
だからこんなにも喜んでくれているのだろう。
「ね、ねえさ、あり、あ、ありがどぅ・・・」
「すごいすごい!やったじゃない!もう魔法はヒロにお任せね!頼りにしてるわよ、私の魔法使いさん!」
「う、うあ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
姉さんが、あの姉さんが、俺を、俺の『能力』を、『頼りにしてる』って・・・!
こんなに嬉しいことはない!
もう死んでもいい!
いや、だめだ。死ぬのはいけない。
俺が死んだら、きっとさきねぇは後追い自殺をしてしまうだろう。
もしくは、本当に魔王になって世界を滅ぼして『死の大地』にしてしまうかもしれない。
生きよう。生きよう!
この力で、姉さんの役に立つのだ!
姉さんの隣で、姉さんと肩を並べて、一緒に戦い、生きるのだ!
5分ほどさきねぇの胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
その間もさきねぇはずっと俺のことを抱きしめてくれていた。
ノエルさんも駆けつけ、もらい泣きしながら『よかったな、よかったな』と俺の頭を撫でてくれていた。
ラムサスさんとマリーシアさんは、なぜ魔法量がG(-)と診断されたさきねぇではなく、俺が泣いているのかよくわからないようで、気まずい表情だ。
涙もろくてごめんなさいね。
「よし、もう大丈夫!がんばるぞー!」
「「おー!」」
俺とさきねぇとノエルさんで手を空に向かって突き出す。
やってやるぜ!
ラムサスさんがほっとした顔で近づいてきた。
「えっと、もういいのかな?では、二人とも、これで魔法適正検査は終わりです。お疲れ様。ヒイロくんは魔法力D・魔法量D、ムラサキさんは魔法力S・魔法量・・・G(-)という結果になりました。ヒイロくんは最初でこれだけあればたいしたものです。優秀な魔法使いになれるように頑張ってください。ムラサキさんの結果は残念でしたが、そのハンマーを軽々と持っているのを見る限り、戦士として十分やっていけると思いますので頑張ってください。私たち冒険者ギルドも応援しています。」
「ありがとうございます。」「あいよ~。」
おお、支部長っぽい発言。
ノエルさんがそれに続く。
「それにムラサキのような人間は初めてではないし、S級になれる可能性は十分にある。腐る必要はないぞ?」
「え、さきねぇみたいな人って他にもいるんですか?」
「本当ですかノエル様?私は記憶にありませんが・・・」
ラムサスさんもマリーシアさんも困惑顔だ。
「まぁお前たちが知らないのも無理はない。私が冒険者になった時の話だから、今から100年近く昔、大戦より前の話だからな。」
「な、なるほど。それなら知っている人間がいないのも当然ですね。」
あとで聞いた話だが、大戦時に多くのギルドや街、砦などが焼かれ、失われてしまった書物がけっこうあるらしい。
そのため、大戦時から生きているノエルさんは大陸の生き字引であり『賢者』と呼ばれる所以らしい。
「確か、人間族ながら生まれつき魔法力Aだったらしい。その代わり魔法量がGだったために、剣士として活躍していたぞ。名前は・・・おお、思い出した。ウェルスだ。『雨降り』のウェルス。S級冒険者だった男だ。会ったことはないがな。」
「ふーん。そいつはなんでS級になれたの?」
「魔法力が高かったからさ。」
なんでだ?魔法使えないんだったら意味ないんじゃ?
「剣の腕もあったんだろうが、魔法力が高いということは魔法抵抗力も高いということなんだ。だからウェルスには並みの魔法では傷一つつけられなかったらしい。」
「魔法力=魔法防御力ってことなんですか?じゃあ魔法量は何か意味が?」
「ふふん、説明してやろう。魔法と「短くね。エルエル話長いから。」は、なんだと!?」
「まぁまぁ、俺はノエルさんの話聞くの好きですよ?お願いします。」
「ヒ、ヒイロ・・・お前は本当にかわいいな!それに引き換えムラサキときたら・・・」
ぶつぶつ文句を言い出すノエルさん。
こういうところは『おばあちゃん』って感じだな。
「なら、わかりやすく簡潔に、たとえ話で説明しよう。私たちがヒイロたちと初めてあった時の火球があるだろう?あれを放ったとして、ムラサキは殴り飛ばしてはじき返せるが、ヒイロには無理だ。」
「はい。」「ほむほむ。」
「だが、火球を受け止めるとなると、ムラサキでは無理なんだ。受け止めて数秒で火が体に燃え移るだろうな。逆にヒイロは数十秒は受け止めていられる。その間に軌道を逸らしたりすればいい。」
「つまり、瞬間的耐久力は魔法力、持続的耐久力は魔法量ってことですか?」
「そうなるな。ウェルスは全ての魔法を手で握り潰していたという話だ。ムラサキは可能だろうが、ヒイロはやるなよ。危ないから。」
「か、かっこいいじゃない・・・!」「頼まれてもやりませんよ、そんなアホなこと。」
異なる反応の姉弟。
ドッジボールすら怖くて逃げまくった男だぞ俺は。
魔法に触れることなんか怖すぎて無理。
「よーし、じゃあさっそく魔法の特訓を「しないで帰るぞ。」
「「えぇー!」」
「魔法は精神状態の安定が重要なんだ。ムラサキはともかく、今日のヒイロを見ていると少し不安だ。そんな状態で魔法が暴発でもしたらどうする?大事な弟が死ぬ可能性があるが?」
「すぐに帰りましょう!それがいいわ!それ以外の選択肢なんて存在すらしないわ!」
そういわれると何も返せない・・・
ノエルさんもさきねぇの使い方がうまくなったな。
仕方ない、明日以降に持ち越しか。
「では、帰ろうか。せっかくだし串焼きでも買って帰るか。」
「「さんせーい!」」
「ラムサスと、マリーシアだったか。今日はご苦労だったな。ゆっくり休め。」
「ありがとうございます。今後ともご指導ご鞭撻宜しくお願い致します。」「は、はい!ありがとうございます!」
そして、ラムサスさんとマリーシアさんに手を振り、別れを告げた。
そして、ドアが閉まったあと。
「「・・・はぁ。」」
「・・・なんか、色々ありすぎて、すごい疲れましたね。」
「・・・そうだね。今日はもう帰ろうか。」
「・・・ですね。」
そんな感じだったらしい。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これで第三章は終わりです。
予感どおり、冒険者にはなりませんでした。
次話にサイドストーリーを挟んで、第四章に移ります。
多分、次の章は魔法の説明や『こいつら・・・たいしたやつだ』という姉弟ワッショイな展開ですぐに終わる、予定です。
いつになったら冒険者になるんだよ!グミーとだんごむしとしか戦ってないよ!
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします




