第三十姉 「お前ら全員手を上げろ!手の角度は40度だ!」
気付けばついに30話、約一ヶ月毎日書き続けました。
このペースをどこまで維持できるのか。
頑張りたいと思いますので、どうか今後ともよろしくお願いします。
「さぁ、街へいこうか!」
「そうね!いきましょう!」
なかったことにしました。
歩みを再開する。
てくてくてくてく。
「・・・平和ねー。」
「平和なー。」
「なんかシートひいてお弁当食べたい気分ね。」
「あーいいねー。今度弁当作ってピクニックでもしますかー。」
「うぇーい!ヒロ、私ね、卵焼き食べたい!ヒロが作ったやつ!」
「ふむ、なら塩と醤油を確保しないとな。市場によくわからない調味料がけっこうあったけど、存在するのかね?」
「ここまで日本ライクなら、どっかの国にはあるんじゃない?」
そんな世間話をしながら歩いていく。
すると。
ゴロゴロゴロゴロ!
「「!?」」
何かが転がってくるような音がする。
さきねぇと二人、すぐにあたりを見渡す。
うお、すぐそこからレッドダンゴムシが丸まって突っ込んできてる!
迎撃開始!
「フレー!フレー!ヒーロ!えるおーぶいいーヒ・イ・ロ!」
お姉さまは完全に観戦モードだ。
俺は赤いダンゴムシを睨み付ける。
照準セット・・・必殺のフルスぼいん!
え!?跳ねた!?
ダンゴムシはそのまま俺にぶちかましをかけてきた!
ドカッ!
「ぶぉ!」
俺は地面におもいっきり尻餅をついた。
くそ、いきなり跳ねて腹に突っ込んできやがった・・・まさかバウンド弾だったとは。
痛みはそんなにないが、すごい敗北感だ。ノエルさんに見せられないな、こんな醜態。
そんなことを思い、立ち上がろうとすると
「私の弟に何してやがんだごらぁぁぁぁぁ!!!」
うちのお姉さまが、鬼の形相でひたすらミカエルくんを地面に叩きつけていた。
一振りごとに地面がすごい音を立ててへこんでいく。
そのテンポは『ドガァァン!・・・・ドガァァン!』なんてものではない。
『ドガァ!ドガァ!ドガァ!ドガァ!』である。
回転剣舞も真っ青な連撃だ。
ダンゴムシはとっくに死んで消えているが、それでもひたすら叩き続けている。
「あ、姉上、俺は無事なので、そこらへんで…」
あーあー地面が陥没してる上に周囲に亀裂はいりまくりですよ。
市役所の人に怒られないだろうか。
公共の道路じゃないから平気か?そもそも市役所あるのか?
もしなにか文句言われたら
『俺たちはあのノエル・エルメリアの弟子です。文句は師匠までどうぞ』とでもいえばいいか。
通じない可能性もあるが。
高確率で『ばーにんぐぴあす(笑)』だからな。
激しく肩で息をしているさきねぇがミカエルくんを放り投げて俺に駆け寄る。
「ヒロ!だいじょうぶけがしてないいたいところないいきてるしんでない!?」
「大丈夫だよマイシスター。怪我してないし痛くないし生きてるし死んでないよ。」
「ヒロになにかあったら、おねえちゃん…」
「姉さん…」
「魔王になってこの世界滅ぼしちゃうぞ☆」
「え、なにそれ怖い!?」
しかし、冗談っぽく言ってるが、さきねぇなら本当にやりかねない。
姉のため、そしてこの世界のためにも死ねなくなってしまった。
強くなろう。
「やっぱりおねえちゃん前衛ね。ヒロはカバーをお願い。」
「了解。」
サッカーだろうがバスケだろうが、姉オフェンス俺ディフェンスが昔からの陣形だ。
ちょっと情けないが、一番やりやすいっちゃーやりやすいのも事実。
とりあえずそれでいこう。
「・・・ん?」
「どしたん?」
さきねぇが急に後ろを振り向く。
「なんか今、誰かに見られてたような?」
「マジ?今?ここで?」
さきねぇと俺はすぐに背中合わせになり、注意深く周囲を見る。
が、草原が広がっているのみで人の姿はない。
だが、さきねぇのセンサーに何かがひっかかったということは、何かが見ていたのだろう。
「魔物かね?」
「いやー、違う、と思うわ。嫌な感じは全然しなかったし。・・・まぁ見つからないんだったら気にしてもしゃーなしね。」
そんなことを話しながら歩き始める俺たち。
「ふぅ、危ない危ない・・・」
それからもグミーを倒して食べたり、ブルーいもむしが出てきて二人でキモイキモイ言いながらホームランをかましたりしながら街を目指す。
それから30分ほどして、アルゼンの門に到達した。
俺たち姉弟を視認した門番さんが慌てて守衛室に人を呼びに行った。
この前ノエルさんが暴れた一件から、『ノエル様ご一行担当係』が出来たらしい。
そして守衛室からこの前の隊長っぽいおじさんがでてくる。
俺たちはタイチョーと呼んでいるこのおじさん、実はアルゼン防衛隊No.3でけっこう偉い人らしい。
円滑なコミュニケーションは挨拶から始まる。
「タイチョー、こんち~!」「タイチョーさんこんにちは。魔物の警戒、お疲れ様です。」
「よう、嬢ちゃんに坊主!あれ、二人だけか?ノエル様はどうされたんだ?」
「ふっふっふ、ついに外出を許されたのよ!」
「今日はお使いを頼まれまして。二人だけなんですよ。」
「おー、よかったな!いつまでもノエル様におんぶに抱っこじゃいれないもんな。」
「そういうことです。それではこれで失礼します。頑張ってください。」
さきねぇがじゃーねーと手を振る。
タイチョーさんや他の門番さんたちも笑いながら手を振り返している。
破軍炎剣襲来事件のせいで恐れられていたが、さきねぇの天性の魅力ですぐに門番さんたちとも仲良くなり、いまや顔パスとなっている。
もちろん、未だに身分証明はしていない。
めんどくさくなくていいが、これでいいんだろうか?
まぁテレビ番組だって有名人が頼めば、値切りだの予約だのしてくれるのだ。
それと同じようなものなんだろう。
街中はいつもどおり賑わっていた。
屋台も出ているし、色んなお店がやっている。
「ヒロ、ちょっと寄り道していかない?」
「ダメです。アルゴスさんちにいって木箱を渡してからね。」
「あいかわらず真面目ねー。まだ昼前なんだから急がなくたっていいんじゃない?」
わかると思うが、さきねぇは当然『夏休みの宿題は最終週にまとめてやる派』だ。
しかも毎回ギリギリだがちゃんと間に合うセンスの持ち主だ。
逆に俺は『一週間ごとに少しずつ宿題を終わらす派』だ。
さきねぇほどの要領の良さも頭脳もない俺は、余裕を持ってコツコツやるしかなかったのだ。
本来の性格に加えて、そういったこともあり、全てにおいて余裕を持って行動しないと落ち着かないのだ。
「ダ・メ・で・す!木箱渡したらお店寄っていいから、アルゴスさんちいくよ!」
「へ~い、了解っす~。」
しぶしぶながら納得するさきねぇ。
あとで串屋のおっちゃんのとこいって串焼きでもおごってやるか。
一路『アルゴスノブキヤ』を目指す。
何事も無くアルゴスさんちに到着した。
街に入って少ししか経っていないのに、何か事件があってもそれはそれで困るが。
武器屋の中に入る。
「ごめんくださ「お前ら全員手を上げろ!手の角度は40度だ!」
店内に入るや否や、いきなりさきねぇが銃を構えるポーズで叫びだした。
え、アホなの?
アルゴスさんもびっくり&ぽかーんとした顔でこちらを見ている。
「「「・・・・・・・・・」」」
さきねぇは静寂の店内から無言で店を出た。
また入ってきた。
「お前ら全員手を上げろ!手の角度は45度だ!今度はわかりやすいだろう!」
「そういう問題じゃねぇよ!?」「意味がわからん!?」
たった十数秒で、しかも三人しかいない店内をこれほどのカオス状態に持ち込むとは・・・やはり、天才か。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回のタイトルにもなっている「お前ら全員手を上げろ!手の角度は40度だ!」は大学時代の友人のS君が飲み会に遅れた罰として、『面白い登場をすること』という無茶振りの結果、使用したギャグ(?)です。
あまりの意味不明さと、普段大人しいS君のめったに見れないギャグということで、仲間内ではいまだに語り継がれています。
そのまま使うのは悔しいので、『わかりやすく45度でもう一度』のくだりを追加しました。
最近会ってないけど、S君元気かな。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
 




