第二十六姉 番外編『破軍炎剣』
読まなくても本編には何の影響も与えない設定話シリーズ2で、正統派ファンタジー(?)っぽいお話です。
しかも、いちゃいちゃもアホ会話もありません。
しかし、どうしても書きたかったお話でもあります。
よろしければお付き合いください。
のちに生魔大戦と呼ばれることになる大きな戦い。
その中の一つの戦場にしかすぎない話。
魔物の群れに襲われた砦街の援軍として多くの冒険者が旅立った。
魔物を撃退し、砦街は前線基地として改修されることになった。
そして、300人近くの住人が避難を余儀なくされた。
安全な後方に撤退するということで、今回の戦いで怪我を負ったり、自らの得物を失った34名の冒険者たちが護衛という名目で一緒についていくことになった。
順調に進み、あと半日もあれば後方の街に着く、という所で足が止まった。
向こうから大勢の人間が歩いてくる。
その時は、誰もが自分たちを安全に街まで連れて行ってくれるための護衛だと思っていた。
しかし、近づくにつれ、それは間違いだとわかった。
それは、数百のハイ・スケルトンの軍勢だった。
進行速度は遅いわけではない。
そして、ハイ・スケルトンに疲れなど存在しない。
走って逃げたとしても、無事逃げ切れることはないだろう。
追いつかれて、ただただ殺されるのみだ。
冒険者たちは絶望し、市民たちは嘆き、悲しみ、怒り狂った。
『なぜだ』『後方は安全ではなかったのか』『どこから現れたのだ』『騙された』
それでも、死者の軍勢は歩みを止めない。
その場にいた者たちは全員凍りついたように動けなかった。
全員が生きることをあきらめていた。
ただ、一人を除いて。
一人だけ、死者の群れに向かい、歩んでいく者がいた。
それは、銀の髪をなびかせた少女だった。
まだ子供だ。
冒険者が声をかける。
「おい、下がれ!死にたいのか!」
返ってきたのは苛烈な言葉だった。
「黙れ、負け犬。ひっこんでろ。」
冒険者は唖然とする。
そして、あの少女が誰か思いだす。
確か、この中で唯一のA級冒険者だ。
聞いた話だと、かなりの腕前だが、誰にでも牙をむく狂ったエルフだという。
実際は誰にでも牙を向けるわけではない。
自分よりも弱いくせに、自分を見下し、あざ笑う愚か者を排除するだけだ。
その冒険者は、いくらA級だろうが一人では無理だと思った。
敵は二百か、三百か、それよりもっと多いか。
しかし、少女は歩みを止めなかった。
歩みつつ、目を閉じ、創造する。
道を切り開く。
ただそれだけを。
少女の体からとてつもない魔力が吹き出す。
そして、目を開き、大地に手をつき叫んだ。
「餓狼大陸!」
地面に大きな亀裂がいくつも走り、ハイ・スケルトンどもが大地に食われていく。
だが、全滅させるには至らない。
ハイ・スケルトンは額の魔石を砕かない限り、再生するからだ。
足止めにしかならない。
しかし、少女の猛攻はそれだけでは終わらなかった。
さきほどと同等、いや、それ以上の魔力の嵐が吹き荒れる。
「・・・くたばりやがれ、亡者ども!灼熱地獄!」
たった今出来た大地の亀裂から火柱が昇り、死者たちを飲み込んだ。
それを後ろで眺めていた者たちは、まるでこの世の終わりが始まったのかと思った。
それぐらい壮絶な景色が広がっていた。
火柱が消えた。
少女は明らかに消耗していた。
呼吸は荒く、膝は震えている。
敵の数はかなり減ったが、それでも百は下るまい。
こちらは消耗しきったA級冒険者に、体調が万全ではない33名の冒険者。
それに加え、足手まといの市民が約300人ほど。
絶望的な戦力差は変わらない。
やれるだけのことはやった。
あきらめよう。
少女は違った。
そばに落ちていた折れた剣を拾い上げた。
何事かつぶやくと、その折れた剣に炎が宿っていた。
そして。
「・・・ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫を上げて、ただ一人で敵陣に走り出した。
何かが起こった。
それが何かはわからない。
しかし、確かに何かが起こった。
先ほど少女に話しかけた冒険者が剣を抜いていた。
そして、こう叫び、走り出した。
「彼女に続けぇぇぇぇぇぇぇ!彼女を、死なせるなぁぁぁぁぁぁ!」
それに続き、一人、また一人と武器を持って走り、吼えた。
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
気づけば、冒険者の誰もが走り出していた。
皆、怪我を負っている。
武器が欠けている者もいる。
しかし、そんなものは関係なかった。
あんな少女が、先陣を切り、死者の群れに突撃しようとしている。
ならば、自分たちは何をすべきなのか。
何もせずに、ただ殺されるのか?
否!
戦うのだ!
彼女と共に!
市民の間からは嘆き悲しむ声は止んでいた。
ある男は、見得を張って買い、一度も使ったことがない剣を抜いた。
ある女は、狩りで使う弓矢を取り出した。
ある男性は、落ちていた太い木を拾って担いだ。
ある老人は、石を拾い、持った。
そして、冒険者の後に続き、走りながら叫んだ。
「あの女の子を死なせるなぁぁぁぁぁ!」
人間がいた。
エルフがいた。
ドワーフがいた。
獣人がいた。
主義も、主張も、種族すら違っていた。
それでも、想いは一つだった。
『あの少女を死なせてはならない!』
この戦いは、ハイ・スケルトン達の全滅という、戦力差に対して圧倒的な戦果で終わった。
しかし、もちろん、こちらの被害も甚大だった。
死傷者の数は100名を超えた。
婚約者を故郷に残し、逝った冒険者がいた。
夫を失った女性がいた。
両親を失った子供がいた。
孫を失った老人がいた。
悲しみはあった。
それでも、彼らに後悔はなかった。
なぜなら、誰に強制させられたわけでもなく、自分の心に従った結果だからだ。
彼女を死なせてはならないと思ったからだ。
この戦いに参加し、生き残った人々は、口々にこう言った。
『私たちはあの少女に救われた。』
『彼女の勇気と炎の剣が、死者の軍勢と私たちの恐怖を切り裂いてくれたのだ。』
これより少し後、少女は『破軍炎剣』と呼ばれることになる。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
実はこの話、6話を書いた次の日に書き上げたものです。
厨二っぽい二つ名を考えていて『破軍なんていいな・・・あとは、炎、剣でいっか。破軍炎剣。由来はでかい炎の剣で敵軍を真っ二つにしたから。うはっwテラ厨二くせぇww』なんて書いた翌日です。
『・・・実はこんなエピソードがあったりしたらちょっと感動しない?』と思ったら書いてました。妄想とは恐ろしいものです。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。




