第二十五姉 「・・・うん、わかった。今俺は、幸せなんだ。」
なろう検索の『ファンタジー』でキーワードに『姉』が入っていない作品の多さに絶望です。
『妹』はけっこうあるんですけどね。
そんなに姉メインは人気ないかー・・・
がんばろう。
「でも、次やったらさすがに怒るからな。」
「御意。」
「お前ら・・・」
この程度で激怒してたらさきねぇの弟なんてやってられないっすよ。
お腹もいっぱいになったので、あたりを散策する。
街の住人はほとんどが人間族だが、ちらほらと獣人っぽい人やエルフっぽいがいるなー。
ここにきて『本当に異世界に来たんだな』と強く思ってしまった。いまさらだが。
歩く先には雑貨屋さんだったり薬屋さんだったり、色々な店があった。
新しい店があるたびにノエルさんに『アレは何?コレは何?』と聞いて回った。
ノエルさんも楽しそうにそれに答えていく。
すると、アルゴスさんちとは比べ物にならないくらい大きな武器屋があったので入ってみた。
服を買ったユリシロみたいな店内で、ファンタジーっぽくないおしゃれな感じだ。
「なんかでかいですね。でも、なんかこう、違くないですか?」
「ヒイロもそう思うか?私もそう思う。こんなところで武器を買うやつは駆け出しの冒険者か、武器を飾りのように考えているバカたちだけだ。」
「なんか『剣の柄がどうの』とか『A級冒険者の誰々が使っているどうの』とかばっかね。アレなんて刀身がピンク色なんですけど。エロくね?」
さきねぇが指差したソレは刀身がピンク色で、鍔がハートの形、柄は二股に分かれ先っぽに丸い球体がついているというきっついものだった。
「こんなん買うやついるのかよ・・・」
「あ、でも見て。『恋人へのプレゼントにどうぞ!』だって!」
「え、こんなもん買う前に他に贈るものあるだろ。異世界人バカなの?」
「大変申し訳ない・・・」
なぜか異世界人代表でノエルさんが謝っていた。
当然何も買わずに店を出る。
「ねぇヒロ、もし私がさっきのアレ欲しいっていったら、買ってくれる?」
「もっと別のものプレゼントしますよ。」
「指輪、とか?」
上目遣いで聞いてくんな。
かわいすぎるだろうが。
「・・・姉さんが欲しいなら。」
「へっへっへ!そっかそっか!じゃあ冒険者になってお金がっぽがっぽに稼いだら、ヒロになんか買ってもらおっと!」
「でもさきねぇにプレゼント贈る前に、プレゼント買わなきゃいけない人がいるから、その後ね?」
「・・・女?」
いきなり顔が能面のように無表情になる姉。
こえーよ。
わざとぼかして言ったけど、さっさとネタバレするに限るなこりゃ。
「(ノエルさんだよ。こっちきて一番お世話になってる人なんだから。当然さきねぇと共同で、だけど。)」
「(あーあーあーあー、それもそうね。気が利く弟でおねえちゃん嬉しい!)」
ノエルさんをチラ見する。
「あ、え、うん!?どうした!?何も聞いてないぞ!?」
しっかり聞こえていたらしい。
顔が赤く、目がウルウルしている。
まぁ本人が聞こえてないフリをするならそれはそれでいいか。
すぐにどうこうって話でもないしな。
いつかサプライズで何かプレゼントしよう。
姉と俺の知識で、こっちにはないようなものを作るのもいいかもしれない。
「さ、さて。けっこう歩き回ったが・・・ここで問題だ。ここはなんだと思う?」
「・・・えっと」
ノエルさんは俺たちをびっくりさせようと、さりげなくここまで誘導してきたのかもしれない。
だが、看板に思いっきり『ボウケンシャギルド アルゼンシブ』と書かれている。
俺たちが文字を読めることを忘れてるっぽいな。
まぁ道中、子供のようにあんだけ『あれはなにこれはなに』と聞きまくったのだ。
文字が読めることを忘れられても仕方ないのかもしれない。
子供の落書きみたいなへたくそな竜が火を噴いている絵が描いてあるが、ギルドのシンボルは竜なんだろうか?『竜の旗』は『国』のイメージがあったんだが。
「冒険者ギルドよね。なんか用あんの?」
「え!?な、なぜわかった!?」
「・・・いや、だって看板に思いっきり書いてあるし。それっぽい装備の人たちがさっきから出入りしてるし。」
「そ、そういえばそうだったな・・・」
この人は一日一回顔を赤くしないと死ぬ病気にでもかかってるんだろうか。
かわいいけど。
「まぁ楽しみは今度にとっておきましょ?もう夕方だし。」
「そうやな。帰り道も1時間かかるから、早めに帰るのが吉やな。」
「そ、そうやな・・・」
なぜかノエルさんも関西弁になってしまった。
まぁ実際日も傾いている。時間で言えば16時過ぎってくらいかな?
ノエルさんがいるとはいえ、魔物の出る帰り道を薄暗い中歩くというのも危ないしね。
「では、第一回異世界の街探検ツアーはこれにて閉幕!おつかっしたー!」
「おつでーす!」「オ、オツデース?」
そんな感じで歩いてお家まで帰りましたとさ。
もちろん途中でグミーを襲撃して各味を捕獲したのはいうまでもない。
その夜のこと。
いつもどおり同じ部屋、同じベッドの中で今日のことをお互いに話し合っていた。
あのお店がどうだったとか、あの料理がどうだったとか、なんでもない話で盛り上がる。
歩き疲れに加えて、話し疲れてそろそろ寝ようかとなった時のこと。
「いやーしかしよく考えるとかなりラッキーだったな。」
「ん?何が?わたしの弟として生を受けたこと?」
「…いや、確かにそれは世界最高のラッキーだったけども、そうじゃない。」
「じゃあヒロの姉が私だったこと?」
「それも世界最高のラッキーだったけども!そうじゃなくて、今の状態だよ。」
「よくわかんないわね。私はなんでもは知らないわよ?知ってることを知ってるだけよ?委員長よ?」
「はいダウトー。」
かわいさに関しては問題ないけど、絶対キャラは違いますー。
「もう、じゃあなんなのよ。お姉ちゃんにこっそり教えなさいよ。」
「いや、こっそりの必要はないけど。ほら、ゲームとかラノベだと最初はいきなり一人ぼっちで見知らぬ土地じゃん?」
「まぁそうね。孤独なスタートが多いわね。」
「でも俺たち最初から二人だろ?しかも最弱魔物のスライムもどきが生息する、いわゆる『はじまりの街』っぽいところからスタートしてる。」
「ふむふむ。」
「さらにレベル90くらいの魔法使いがいきなり仲間になってくれてんだから至れり尽くせりだよなって。ベリーイージーモードで良かったなってさ。」
「つまり、今幸せってことね!」
「幸せって・・・うーん、そういうことなのかな?よくわからん。」
「じゃあ、これでわかるでしょ?」
さきねぇが俺をぎゅっと抱きしめる。
さきねぇの心臓の鼓動が心地よい音を奏でている。
もし、これで俺が一人きりだったら、死の恐怖と孤独に震えていたに違いない。
やばい、恐ろしくて涙が出そうだ。
「・・・うん、わかった。今俺は、幸せなんだ。」
「でしょ?」
「なんでわかったの?」
「ん?・・・ふふ、私が弟のことでわからないことなんて、あるはずないでしょ?強いて言うなら、お姉ちゃんだから、よ!」
「・・・ははは、それもそうだな。結局、姉さんにはかなわないなぁ・・・」
「当然でしょ?お姉ちゃんだもん!」
そして、夜はゆっくりふけていく。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これにて『第二章 異世界の街にいってみよう編』の終了です。
タイトル通り、異世界の街にいって終了しました。
予定ではこの章でギルドにいったり魔法を覚えたりするはずだったんですが・・・
予定は未定とはよくいったもんです。
次回に番外編をはさんでから
『第三章 冒険者ギルドにいってみよう編』に移ります。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
特に姉スキーの方、感想待ってます!




