第二十三姉 「そりゃそうでしょー?世界で唯一、ヒロだけの特権だからね!」
ただ、いちゃいちゃしすぎてノエルさんが
『あ、あのー、私にはどっちが似合うかな?』と言っていたが、完全に耳にはいっていない俺たちだった。
ノエルさんはしょんぼりしていた。もちろん後でみんなで選んだけどね!
「いやー買った買った。買った買ったカッター!」
姉がよくわからない謎の刃系攻撃呪文を唱えた。
動作は完全にアイス○ッガーだったが。
普通の女の子なら生まれてから死ぬまで、まずやらないであろう動きだ。
女子としてそれでいいんだろうかとも思うが、そんなでもうちの姉の魅力は衰えることを知らない。
きっと手ぬぐいをしてソーラン節を踊ったとしても『美しすぎるソーラン節ダンサー』として有名になることだろう。
「・・・なんか今、弟から褒められてるのかけなされてるのかよくわからない波動をキャッチしたわ。」
「何いってるんですかお姉さま。俺が姉様をけなすことなんてありえないですYO!」
「え、そうだったかしら?ちょくちょくディスられてる記憶が・・・」
「しかしいっぱい買いましたね。にも関わらず手ぶらで済むとは。魔法袋とノエルさん万歳ですね!」
「まぁこの程度なら楽勝だな!ハッハッハ!」
「手ぶらでスキー!」
「さて、この後はどうします?時間的にお昼でも食べますか?」
「そうだな、たまには外食も悪くないか。」
「賛成ですかー!賛成でーす!」
三人で通りを歩き出す。
よし、上手く誘導できたぞ。
「あ、なんか屋台でてるー!」
言うと同時に、姉が屋台へ走っていく。はえぇ!
その疾きこと、姉のごとくなり。
そして屋台からは、肉を焼いた香ばしいにおいがここまで漂ってくる。うまそうだ。
さきねぇが店主と何事か話し出した。
あ!肉が刺さってる串一本取って食べやがった!
店主、笑ってる場合ちゃうで!そいつ無銭飲食やで!
ノエルさんと二人でダッシュをかける。
さきねぇは食べ終わると店主と笑いながら話している。
あ!店主に手を振ってこっち戻ってきたぞ!おまわりさんこいつです!
「何食べてんの!?」
「ホーンラビットの串焼き。」
「いや、そういう意味で聞いたんじゃなくて!お金持ってないでしょ!」
向こうでは、ノエルさんが店主に話しかけてお金を渡そうとしている。
「いやー『何コレ?』って聞いたら『ホーンラビットの串焼きだよ!食べたことないの?』とか言うからさー。『100万個くらい食った!』っていったら『嘘付け!100万個って子供か!』って言われてさ?『食べたことないからくれ。タダで。旨かったら後で私のサインあげる!』っていったら笑い出して『じゃあ持ってけ!名前が売れたらサインくれよな!』って。」
「マジすか・・・」
なんという適応力とコミュ力。尊敬に値するわ。
そして、ノエルさんが串焼きを3本持って戻ってきた。
「ムラサキ、お前、あの男に何言ったんだ?『あれはあの娘にあげたもんだから、金は受け取れねぇ!あの娘の弟妹か?じゃあこれ持ってけ!』って、これ持たされたぞ。」
「私の溢れんばかりのカリスマ性のせいね。自分のかわいらしさが怖いわーマジで怖いわー。」
フザケたこといってるようだが、事実なのが怖ろしい。
「しかし、ホーンラビットってことは魔物ですか?角の生えたうさぎ?」
「ああ、このへんにいる魔物の一種だ。駆け出しのF級冒険者なんかがよく戦う相手だな。」
「雑魚でしょ?」
ノエルさんから串焼きを受け取りながら話をする。
「甘く見るな。すばしっこいしそれなりに角は痛いしで、最初はてこずるぞ?」
「私にかかれば余裕のよっちゃんよ。ヒロ、あーん。」
「はいよお姉さま。」
これは姉の『食べさせて』のあーんだ。
姉は最初の一口目を食べるのが大好きなのだ。
俺はそれを『姉が自ら毒見を買って出てくれている』のだと思っている。
・・・ほんとだ。
「もぐもぐ。うまうまー!とりあえず踊っとく?」
「いや、公衆の面前でいきなり踊りだしたら、また兵隊さんきちゃうでしょ・・・」
「そう?まぁいいや、じゃあヒロも、あーん。」
「あーん。」
もぐもぐ。旨いな。
『焼き鳥の珍しい部位だよ!』と言われれば信じてしまうな、こりゃ。
「おいしい?」
「うん。さきねぇが食べさせてくれたから余計にね。」
「そりゃそうでしょー?世界で唯一、ヒロだけの特権だからね!」
こんなに美しくも愛らしい、世界で最高の姉から食べさせてもらうのだ。
これ以上の贅沢はあるだろうか。いや、ない。反語。
そう思いながら食べさせっこをしていると、ノエルさんがこちらをじーっと見てることに気づく。
「どうしました?」
「あー、その、なんだ・・・あ、あーん!」
ノエルさんから突き出される串焼き。
あら、かわいらしいお嬢さん。
お顔が真っ赤よ?
ありがとう嬉しいわ。
でもね?
「・・・キッ!!」
「「ヒィ!!」」
姉のすさまじい眼力により阻止される。
それにしても、あのノエルさんすらビビるのか。
恐るべし、姉アイ。
ちなみに今の『アイ』は『愛』と『眼』をかけている。
掛詞は日本の文化ですね。
そんなことを考えて現実逃避していると、姉VS幼女の戦いが始まろうとしていた。
「エルエル・・・今のは、どういう意味かしら・・・?姉として、見過ごせないんですけど・・・?もしかして、うちの弟のこと、好きなのかしら・・・?」
「ち、違う!誤解だ!仲が良さそうだなって思って、いいなって思って、それで!じゃ、じゃあムラサキにあーんだ!」
「あーん!もぐもぐ。うん、おいしい!」
「そ、そうだろうそうだろう!名物だからな!」
姉VS幼女の戦いは終わった。早いな。
まぁノエルさんにそういった感情がないのは姉弟共にわかっている。
もしノエルさんが俺に男性として好意を持っていたら、姉はもっと早い時点であの家を離れていたはずだからだ。
それにあんな美少幼女が俺に好意を持つわけがない。
俺は女性にもてたことは一度もないのだ。
そもそも俺自身、姉以外の女性に興味もないので特に問題はない。
俺のシスコンっぷりをなめてはいけない。
歴戦の猛将が『この中でシスコンなやつはいるか!』って言ったら
『ここにいるぞ!』と剣を突きつけて言い返すほどの弟だ。
自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
ノエルさんのアレは「私のかわいい義妹と義弟が仲良しなので、自分も仲間にいれてほしかった」というだけで他意はありません。
ノエルさんの中ではあの二人はすでに『年の離れた、自分のかわいい義妹弟』として認識されています。




