第二十一姉 「きっと、みんな照れ屋なんだろう。」
やり遂げた顔のノエルさん。
いや、ありがたいんですけど、とりあえず蛇さんしまいましょうよ。
結局、さっきの隊長さんはノエルさんを知っていたみたいで、DOGEZAをして平謝りしていた。
最初は激おこぷんぷん丸だったノエルさんだが、姉と俺が口々に褒め称えると、コロッと機嫌が直った。
「しっかし、さっきのやつすごかったわね!キシャー!って!あれは召喚魔法とかなのかしら?」
「いや、あれは火魔法だよ。蛇の形をした炎を作り出しただけだ。意思をもってるわけではない。」
「でも、めっちゃでかかったですね。びびりましたよ。」
「・・・怖ろしいか?」
まるで何かに怯えたように聞くノエルさん。
姉と見つめ合う。
そして。
「「全然。」」
「だってエルエルよ?真っ赤になってプルプルしてるイメージのほうが強くて、とてもじゃないけど、その、『破軍炎剣』っていうより『ばにぴあ!』っていったほうが適切っていうか。」
「どんな強い力を持っていたとしても、ノエルさんは俺たち姉弟を助けてくれた、恩人のノエルさんですよ。」
「そ、そうか・・・ありがとう。」
ちょっと涙ぐんでるノエルさん。
まぁ知らない人からしたら、伝説の英雄で、あんな炎を操れるって知ったら、逃げ出すか媚を売るかだよな。
俺たちにとっては親切でかわいい幼女だ。
これからも仲良くやっていきたいな。
そんなこんなで蛇さんをしまい、三人で街に入る。
街中は予想と違っていた。
RPGによくある風景を考えていたが、なんといえばいいのか、『旅番組でよくでてくるヨーロッパの田舎町』みたいな印象だ。
まぁ当然だよな。RPGの町なんて、家の数が明らか少ないもんな。
しかし・・・
「なんか、めっちゃ見られてますね。」
「しかも、目を合わせるとすぐ俯かれるわね。」
「きっと、みんな照れ屋なんだろう。」
絶対違うと思うよ。
確実にさっきの炎の蛇さんだよ。
通る過ぎる街の人たちを見る。
なんか普通だな。民族衣装みたいなのを着てる人もいれば、初期のユニ○ロみたいな原色のTシャツみたいなのを着てる人もいる。
「お姉さま、この世界の技術、けっこうすごくないですか?赤とか青とか黄色とか、服のカラーリングめっちゃ豊富なんですけど。」
「確かに。染料が流行りだしたのって江戸時代くらいからだっけ?異世界も油断ならないわね。」
「ん?服の色はグミーで付けてるんだぞ?」
「「またグミーかよ!」」
グミー万能すぎるだろ。
そのうち回復に使う薬草とかポーションも『原料はグミーです!』とか言い出さないだろうな。
「グミーを倒して、それを水の入った桶に入れてかき回すんだ。そうするとグミーの色に応じた染料ができる。けっこうな時間かき回さなきゃいけないので、大変だけどね。」
「はぁ。だから単色ばっかで複雑な色使いがないのか。」
「そのグミー桶に服ぶっこむだけだもんね。つまり、凝ってる色使いのやつは高いってことね・・・高いやつ買おう。」
グミー談義をしながら歩いていると、ある看板が目に付いた。
アレは、まさか・・・!
「姉上、武器屋を発見したでござる!」
「なんですって!?BUKIYA!?」
「あ!おい!急に走るな!」
そんな言葉もなんのその、二人仲良く手を繋いでダッシュする。
「ここがあの武器屋のハウスね!」
「圧巻ですね姉上!」
石造りの店に『アルゴスノブキヤ』という文字と、剣の絵が書かれた看板。
まさしく武器屋!
入店料なんて取られないだろうし、早速入ろう!
「おじゃましまーす。」
一応声をかけてから中に入る。
すげぇ!
壁に掛けられた大きな斧!
棚に並べられた剣や短剣!
矢のいっぱい入った筒と大小様々な弓!
明らかに『頑固です!』といった感じの厳ついちっちゃいおっさん!
世界よ、これが『BUKIYA』だ!
「・・・おい、冷やかしなら帰んなガキども。」
キター!予想どおりの職人っぽい発言!
冒険者になったらここを贔屓にしよう!
「大丈夫よ!今は無一文だけど、私たちが冒険者になったらここで武器を買うわ!だから客よ!未来の!」
「・・・・・・そうか。」
さすが紫お姉さま!暗に買わないって言っちゃった!
おっちゃんも、うちの姉から危険な臭いを嗅ぎ取ったのだろう。
それだけ言うと、また武器の手入れに戻った。
「二人とも!急に走るな!迷子になったらどうするんだ!」
お母さんみたいなことを言いながらノエルさんが店に入ってきた。
すると、おっちゃんの動きが止まった。
目をこれでもかというほど大きく開き、ブルブル震えている。
「もしや、あなた様は、ノエル様ではありませんか・・・?」
「ん?そうだが・・・面識があったかな?記憶にないが?」
「やはり!やはりノエル様!お久しぶりでございます!精霊王よ!この導きに感謝します!」
なんだ?昔なじみなのか?ノエルさんは知らないっぽいが。
「どこかで会ったことがあるのかな?」
「はい、大戦時に一度。『アルゼン荒野の戦い』で命を救われた者の一人です。」
「!そうか、あの時の市民の一人か・・・。助けられたのなら良かった。」
大戦時って、今から約90年くらい前の話だろ?
このおっちゃん、何者だ?
話を聞くと、このおっちゃんはドワーフだった。
昔の大戦のときに、この街の近くで激しい戦いがあったらしい。
その時の戦いでノエルさんに命を救われたようだ。
なんでも、千匹近くのアンデッドの群れを、ノエルさん一人で壊滅させたらしい。
ノエルさんパねぇ。
本人は『大げさに伝わってるだけだ。私が活躍したのは本当だが、みんなで戦った結果だよ』とのこと。
いつか、本人からその話を聞きたいものだ。
「ノエル様、この人間族の子供たちは?」
「ああ、私の友人だ。まだ冒険者登録もしていないが、そのうちするだろう。優しくしてもらえると助かる。」
「そうでしたか。わかりました。何かあれば私に声をおかけください。ご協力させていただきます!」
こうして、街での知り合い第一号が出来たのだった。
「コソコソ(そのうち、この二人がいくらかの金を持ってこの店に武器を買いに来る。その時に、さりげなく店で一番良い武器を渡してやってくれ。料金はあとで通常の倍支払う。)」
「コソコソ(それは構いませんが、なぜそんなことをするんです?)」
「コソコソ(バカモノ!二人が初めて自分でする買い物だぞ!良い武器を選んだなって褒めてやらないといけないだろう!気が利かんやつだな!)」
「コソコソ(も、申し訳ありません!)」
「では、頼んだぞ。」
「はい!お任せください!」
「・・・すごい親バカだなあの人。あの戦いの凄まじさからは想像できんな・・・」
なんて会話があったらしいが、今は知る由もない。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
ノエルさん、寿命の短い人間族には忘れられがちですが、他種族からは未だに尊敬と畏怖の念を集めています。
ノエルさんが大活躍して魔物をぶっ殺しまくった大戦は約90年前なので仕方ないといえば仕方ない、のかも?




