第十八姉 「だめにんげんだっていいじゃない。にんげんだもの。むらさき。」
「ねぇエルエル、私ね、街にいきたい。」
追いかけっこが終わり、三人でまったり飲み物を飲んでいると姉がそんなことを言い出した。
「ふむ、そうだな。遠いわけでもなし、今日あたりいってみるか。」
姉と俺は顔を見合わせる。
異世界の街にレッツゴーだと?
「「やったー!」」
「私、買い物したい!」
「いいな!買い物いいな!異世界の街で買い物!・・・あ、でも金がないぞ。」
「大丈夫よヒロ。私に任せなさい。考えがあるわ。」
「ほぅ?さすがです姉上!ぜひ伺いたいです!」
「まず、この家にある高そうな物を売る!」
「え・・・」
「あー、そういう相談は家主の前でしないでほしいんだが。まぁ別に何か持っていってもいいが。」
いいの!?おかしくない!?
なんでこんなに甘いのこの人?
「姉上、それはさすがに弟も擁護できませぬ。大人しくお縄に…」
「だって私、『考えがある』っていっただけで、良い考えだなんて一言も言ってないし~?しかも、まだ何もやってないから罪に問われないし~?」
「ノエルさん、こいつ、家から叩き出しましょうか。」
「それもありだな。」
「や、やだな~も~!冗談よ冗談!シスターズジョーク!お願いだから居させてください!」
ノエルさんから見放されたら、家なし金なし戸籍なしのないない尽くしで、にっちもさっちもいかなくなることをわかってくれ姉さん。
「まぁお金のことは心配するな。これでも大戦の英雄だぞ?金なんぞ腐るほどある。」
「かっこいい・・・伊達に168年生きてないわね!」
「ああ、俺たちもこんな大人になりたいもんだ・・・!」
「そ、そうか?そんな、大したことでは・・・(照」
「まぁ冗談は置いておいて。」
「え・・・」
俺の言葉に絶句するノエルさん。
「ち、違いますよ?ノエルさんは尊敬できる大人です。私が保証します。そうではなく、お金をもらうことには反対です。」
「なぜだ?」「えーどうしてー?」
二人から非難の声があがる。
なぜノエルさんが『なんでダメなの?別によくない!?』みたいな半ギレ顔をしてるんだ。
「このまま俺たち姉弟が『何でもノエルさんからお金を出してもらうことが当然』になってしまったらどうします?明らかにダメ人間でしょう?」
「だめにんげんだっていいじゃない。にんげんだもの。むらさき。」
「よくねーです!ですので、もらうことは却下です。代わりに、いくらかお金を貸していただけませんか?冒険者になって自分たちで稼げるようになったら少しずつ返済しますんで。」
「ふむ・・・確かに、誰かに頼りきりになって、もしもの時に何も出来ないでは困るな。」
「でしょう?それに薪割りをやってから色々試しましたけど、それなりに身体能力はあるみたいですし。」
というのも、家の手伝いをしたいと申し出て、薪割りをやらせてもらった時だ。
手斧を貸してもらったのだが、軽かったのだ。ブンブン振り回せる位に。
切り株の上に薪を置いて、全力で薪を割ると一直線にスコーン!といういい音を立てて割れた。
実際にやってみればわかるが、テレビでやっているように『スコン!次!スコン!次!・・・』という風にやるにはそれなりの筋力と経験がいる。
にも関わらず、薪割りなど数える程度しかやったことがない俺が簡単に出来るのだ。
やはりありがちな身体能力強化的な恩恵は授かっていたようだ。
ちなみに、さきねぇが全力で斧を振り下ろしたら、真っ二つになった薪は左右に吹っ飛び、斧は爆音をたてて切り株にめり込んで取れなくなった。
『私の姉力が、強化されている・・・!?』『知らんがな・・・』
というようなことがあったのだ。
「まぁね。今の私なら、オーガくらいなら余裕でワンパンKOできる自信があるわ!」
シュッシュッとシャドーボクシングを始めるお姉さま。
え、待って何その無駄な自信やめて怖い。
俺は最初はスライムだとかゴブリンみたいなやつをターゲットにしたいんだけど。
「そうだな・・・訓練もなにもしていない現時点で、二人ともE級冒険者の上位程度の実力はある。それに、このあたりはそんなに強い魔物もいない。そうするか。」
おお、S級冒険者であるノエル先生からお許しが出たぞ!
これでついに冒険者デビューの道が開けた!
「ぜひそれでお願いします!」
「そうと決まったら服買わないと!服!いつまでも同じ服を着まわすのはー、イヤイヤイヤ~ン!イヤイヤ~ン!」
『むらさき は ふしぎな おどりを おどった !』
『ひいろ と のえる は せいしんてきに ふあんに なった !』
しかし、踊りはともかく、服を買うのは賛成だ。
姉も俺も服が着てきた一着しかない。
そのため、毎日ノエルさんが洗濯して『熱掌』で乾かしてくれている。
本来、手のひらが高熱を持つという体術用の魔法らしいが、洗った服を弱めの『熱掌』で撫でると服がパリッと乾くのだ。
つまり、人間アイロンである。
さすがにこれ以上毎日アイロンがけをノエルさんに強要し続けるのは心苦しい。
現在、俺たち姉弟は人の家に転がりこみ、食べて話して遊んで寝る、を繰り返している状態なのだ。
完全にどこにだしても恥ずかしいニートである。
しかも養ってくださっているのは血の繋がりもない、数日前に出会ったばかりのノエルさん。
ニートを超えたニート、超ニート人2といっても過言ではない。
「よし、では街にいこうか。」
「ミッションを説明する!我々は異世界の街にいき、服を購入する!このミッションは我々の今後に関わる重要なミッションである!各員、健闘を祈る!」
「イエス、ユアマジェスティ!」
「・・・え?え?」
完全に俺たち姉弟のテンションについていけてないノエルさん。
当然だけど。
「ノエル曹長!返事はどうしたぁ!」
「(とりあえず、俺に合わせて『イエス、ユアマジェスティ!』って言ってください。いいですか?)」
「(よ、よくわからないが、わかった!)」
「(いきますよ?・・・せーの!)」
「「イエス、ユアマジェスティ!」」
「うむ、全軍、出陣!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」「!?ぉぉおぉぉぉぉぉ!」
俺が右手を上げ雄たけびをあげると、ノエルさんもビックリしつつ右手を上げて吠える。
「あ、その前にお花摘みいってくるお!」
「・・・嘘だろ」
いつもどおりのお姉さまだった。
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