第百七十五姉「もういい黙れ駄魔剣張っ倒すぞ。」
「そろそろそっちに混ざってもいいかお?」
「ん? ああ、いいんじゃないか?ノエルさんの所有物だし。」
「みんなよろしくだおー。」
イスを持ち上げ、ずけずけと俺たちの輪に加わるエクスカリボー。
寂しかったのか・・・
それから色々と歓談をすることしばし。
周囲を見渡すと、武器の精霊さんとはいえ見た目は美少女や美女が七人。
そこに俺一人男子。
しかもさきねぇがいない上に、六人は俺がかなり気になるらしく、何度もチラ見したり話しかけたりしてくる。
普段は周囲にどれだけ女性がいようとさきねぇがそばにいるため他の女性に気を取られることなんてないが、ちょっと恥ずかしい。
いやーハーレム物語の主人公すげぇわ。尊敬する。
ちなみにエクスカリボーのみ、特に俺を気にせずお茶を飲んでいた。
「ヒーロちゃーん!おかわりはいかがー?」
「あ~・・・いただきます。」
もう何回目のおかわりだろうか。お腹タプタプです。
しかし断ろうとするとノブナガちゃんがすごく悲しそうな顔をするため断れないジレンマ。
ハリネズミの気持ちがちょっとわかった。
「あ、そうだヒイロさん。ちょっとよろしいかしら?」
「ん? なんでしょうミカエルさん。」
「もしあなたが元の世界に戻った時、覚えていたらあなたのお姉さんに伝えてほしいことがあるのですけれど。」
「聞きましょう聞きましょう。」
ミカエルさんが俺の隣に座る。
平常心や・・・緋色、平常心や。もしちょっとドキドキしてるのがバレたらさきねぇに解体されるで。
「昨日のことなんですけど!ムラサキったらブルーいもむしを倒した後、大雑把にわたくしを拭きましたわ!わかります!?ブルーいもむしの血がまだわたくしの体にうっすらついておりますの!自分の武器のメンテナンスくらい弟に言われなくても率先してするべきですわ!」
「大変申し訳ありませんです。」
その場で頭を90度下げる。非の打ち所のない正論ですね!
「いえ、ヒイロさんが悪いわけではないので謝らないでくださいまし。悪いのは全てムラサキですわ!・・・それに引き替え、棍棒さんがうらやましいですわ。毎日手入れしてもらってますものね。」
「だ、大事な相棒ですから!ノエルさんにもらった思い出のアイテムでもありますし!」
「え、えへへ。」
照れたように笑う棍棒ちゃん。
ちゃんと定期的にメンテナンスしててよかった!
「とにかく、ちゃんと毎日メンテナンスをしなさい!その一点だけムラサキにお伝えいただけませんこと?」
「確かに伝えます~。」
「・・・・・・(クイックイッ)」
反対方向から服を引っ張られる。
「あ、マサムネちゃん。どうしたの?」
「・・・・・・メンテナンス。私も。」
「あー、了解。ちゃんといっとく。」
「・・・・・・(コクン)」
「じゃあわたしはねわたしはねわたしはね!」
ノブナガちゃんが前から抱きついてくる。
おおきなお胸さまががががががが。
「メ、メンテナンスね!ちゃんといっとくから!」
「めんてなんすはべつにいいの!」
いいのかよ。武器のくせにすごいこと言うなこの子。
「わたしはもっとそとであそびたいです!」
「外でって・・・もっと使えってこと?」
「そう!」
う~ん、気持ちはわからんでもないが、ノブナガさまでかくてなー。
森じゃ木が邪魔になって全然使えないんだよなー。
さきねぇの怪力なら木ごとぶった切れるけども。
「・・・・・・だめ?」
「えっと・・・わかった。森だけじゃなくて、荒野のクエストも増やすよ。それだったら使いどころもあるはず。」
「やったぁー!ありがとー!」
「だから全力で抱きつくのはやめなさい!お兄さん困っちゃうでしょ!」
「えへへー、じつはぜんぶけいさんでーす!」
「なん、だと・・・?」
こんな少女ですら計算してんのかよ。恐ろしい。
「あーあとじーじにもよろしくっていっておいて!」
「じーじ?」
「ちっちゃいひげもじゃ!がんこじじい!」
・・・あー、アルゴスさんのことか。
「そういや、ノブナガさまはアルゴスさんが作ったっていいってたもんな。文字通り生みの親か。了解。」
「あんなおやでもおやはおやだからいちおうね!」
「ノブナガちゃん。お兄さん、そこまでやられると実はキャラ作ってんじゃないかと不安になっちゃうから、そのへんでやめとこ?お兄さんの幻想を壊さないで?」
「あははははは!はぁ~い!」
元気に返事をすると、ピョンっと離れて外に向かって走り出すノブナガちゃん。
元気やなぁ。
「おいクソガキ!ノエルにたまには俺様に美味い魔力を食わせろって言っとけ!あいつ、いっつも俺様をしまいっぱなしだからな!忘れてるんじゃねぇのか!?ガハハハ!」
「物騒なことを言うな。お前も私も、使われないならそれはそれでいいことだ。」
今度は鮮血の月さんと月光剣さんが話しかけてくる。
「一応ノエルさんに伝えておきますよ。月光剣さんは何かありますか?」
「いや、気持ちはありがたいが、特にないな。強いて言うなら『今を大事にしてくれ』と言ったところか。」
「・・・でも魔剣なんですよね?今包丁代わりに使われてますけど、いいんですか?」
「さっき言ったろう。使われないならそれはそれでいい、と。剣なんて所詮、他者を傷つけるための道具だ。それよりも私は、私を使って作った料理を美味しそうに食べている君たちを見ているほうがずっと幸せさ。魔剣として生まれた私だが、今が最も幸福な時間だよ。」
「げ、月光剣さん・・・」
月光剣さん、人格者すぎてやばい。この場にペンがあったらサインを申し込んでるレベル。
正しくノエルさんにぴったりの剣ですね。
「エクスカリボーはノエルさんになんかある?」
「月光剣と同じく、特にないお。強いて言うなら・・・さっさとラッピングを解いて最低でも一日一時間は日干しすることと一日三回は新鮮な水に浸した布で拭くこと、一日に一度はウチを持ったまま正座してウチに頭を下げることを要求するお。それと、もしウチを使って魔物を攻撃したら一撃ごとに綺麗な布でピッカピカになるまで研くこと、あと「もういい黙れ駄魔剣張っ倒すぞ。」
なんでこんなに偉そうな要求ができるんだこいつは。
『ちょっとした冗談だお~そんなカッカするなお~?』とか言ってるけど、絶対マジで言ってた。
「さて、最後に。本人を前にし「あ、体が・・・」
「え?」
棍棒ちゃんのその声を聞いて自分の体を見てみると、うっすらと透けていた。
月光剣さんがニコッと笑う。
「君の肉体がそろそろお目覚めのようだね。」
「・・・ここのことって、俺、覚えてるんですかね?」
「さぁ、わからんな。覚えていたとしても、君以外の人間はここのことを知らない。君しか知りえないなら夢とかわらんさ。」
「そうですか・・・あ、棍棒ちゃんごめんね。最後に、なんか俺に言うことない?なんでもいいよ。」
「えっと・・・」
一度目を伏せる。
そして。
「・・・いつも丁寧に扱ってくださってありがとうございます。私、ヒイロさんに所有されて幸せです。これからも、よろしくお願いします!」
満面の笑顔でそう言った。
ゲロゲーロ。ゲロゲーロ。
「・・・ふあぁ~ぁあ。おはよう。」
今日はカエル鳥(命名さきねぇ)か。鳥の癖にすげぇ鳴き声だなしかし。
ベッドを見ると、さきねぇが締りのない顔でよだれを垂らしながら爆睡していた。
「・・・・・・ふむ。」
先ほどの光景を思い出す。
・・・ちゃんと覚えてる。
剣界のことを。魔剣さんたちのことを。
でも、どんな話をしたのか、どれくらいあっちにいたのか、曖昧でよくわからないこともある。
あれは現実にあったことなのか、はたまた単なる夢だったのか。
誰も証明することはできないんだろう。
まるで不思議の国のアリスになった気分だ。男だけど。
こういうとこが女の子っぽいってからかわれるんだけど、性分なので仕方ない。
「さて、と。」
いつもなら真っ先にさきねぇに声をかけるのだが、今日はちょっとだけ違う行動をとる。
ベッドから抜け出し、魔法袋を手に取る。
そして、いつもお世話になっているスマート棍棒を取り出した。
「・・・いつもありがとう。これからもよろしく。」
俺のその言葉を受けて、スマート棍棒がキラッと輝いた気がした。
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