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あねおれ!~姉と弟(おれ)の楽しい異世界生活~  作者: 藤原ロングウェイ
第二十二章 見豚必殺!失われたとんかつを求めて!編
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第百七十一姉 番外編『その時のオークプリンスさん』

まさかのオークプリンス回です。あといつもよりちょっと短いです。

 私はオークである。名前はまだない。

 あるオーク村で生まれたのだが、私はかなり異質な存在だった。

 周りのオークたちと意思疎通はできるのだが、彼らは簡単なことしかできず、やろうとしない。

 理由を聞いても私が何を言っているのかよくわからないという答えだった。

 そして理解した。

 自分は他のオークたちとは一線を画した存在なのだと。

 だが、それゆえに大変なことになった。

 年の離れた兄も私と似たような存在だった。

 兄は若くしてオーク村の村長をつとめるほどの傑物だったが、自分と同じ存在である私に恐怖したようだ。

 自分の地位が奪われるのではないかと。

 それも仕方ない。

 実際、当時の私はもっと強くなったら兄からトップの座を奪おうと思っていたのだから。

 しかし、私が魔法を使えるとわかった時点で私は村から追放された。

 悔しかったが、多勢に無勢。逃げるほかなかった。

 その時私は決心した。

 旅に出て、もっと強くなって兄に復讐してやろうと。


 それからいくつかの森を転々とした。

 私の敵になるものはいなかった。

 他の魔物相手でも魔法を使えば簡単に勝てたし、冒険者と呼ばれる人間たちも私の魔法を見るとすぐに逃げ出した。

 私はある森で落ち着くことを決めた。

 その森には他のオーク族がいたが、私の魔法を見て驚き腰を抜かすほどだった。

 この森のオークを従えて、いつかオークキングに!と思っていた矢先、森に一組の人間たちが侵入した。

 クククク、この私の強さに恐れをなすがいい!

 私は道中で手に入れた帽子を被りマントを翻し、意気揚々と出撃した。




「オア、アッアオウイアイアアイオ!」 ゲシゲシ!

「も、もう無理です・・・」


 なんなんだこいつらは。

 なんであんなに多くのオークと戦ったのに疲労の色が見えないんだ。

 しかも、もっと召喚しろとでも言うように死なないけどけっこう痛いという微妙な強さで蹴りつけてくる。

 誰か助けて。


「オウイォウアウエイアイオア・・・エオアウウッイイウウオオーウイウエイイエアアアオイオイアイォウ。イァア、アオアアイアイォウア?」

「た、頼む。どうか見逃してくれ・・・」


 お互いに言葉が伝わらないのが口惜しい。

 なんとか仰向けになり降伏の意思を伝える。

 しかし。


「アア、アアイアウイオウイオアアイエエウエアオ?アイアオ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 人間のメスから殺気が伝わってくる。

 もうダメか。

 甘かった。

 まさか人間がこんなに強かったなんて。

 オーク族の天才。そう呼ばれていい気になっていた罰が当たったのか。

 今までの人生が走馬灯のように駆け巡る。

 ・・・昔は優しかった兄さん。

 思えば、兄さんがああなったのは俺の野心が原因だったんだろう。

 なぜ弟として兄さんを支えようと思わなかったのか。

 ・・・俺の追放を悲しんでいた家族。

 本当は心の中では俺がいなくなって清々しているのだと思っていた。

 でも、本当に悲しんでいてくれてたのかもしれない。

 結局、悪いのは全部俺だった。

 最後の最後でそのことに気づくなんて。

 俺は、単なるバカだった。

 ・・・死んで当然か。

 そう思い、観念した時だ。


「サキネェ、ソイツ、ミノガシテヤンナイ?」


 人間のオスのその言葉に驚く。

 なんだ?メスの言葉は全くわからないのに、このオスの言葉はなんとなくわかる気がする。

 多分、俺を助けるように言ってるようだ。

 ・・・なぜ?

 そう思いオスの瞳を見てハッとする。

 この眼は、深い悲しみを知っている目だ。

 そして、それを知ってなお前を向き歩いてきた者の目。

 俺と全く似ていない、なのにどこか似ているかのような、そんな目だ。

 このオスにも辛い過去があったのかもしれない。

 ひょっとしたら、家族との。


「サキネェ、タノム。」

「ウウ・・・アァ『ひろ』アオオアエイウウアッアア。オーウイウオエイアイッアイ。オアッアアエイォウアウウア。」

「すまない!ありがとう!」


 オスのその言葉を受け、メスから殺気が収まる。

 私はオスにむけて頭を地面につけ、全身でその優しさに感謝した。


「コレカラハニンゲンニミツカラナイヨウニシズカニクラスンダゾ?」

「助かった!この恩は必ず返す!」


 私は立ち上がると森の奥に走り去った。




 あれから数日が経った。

 私はなぜ生かされたのかを懸命に考えたが、その答えは出なかった。

 そして私は決めた。

 いつかあのオスに会って私を助けた理由を聞こう、と。

 だが、それには今のままではダメだ。

 まず人間の言葉を理解しなければいけない。

 それにあのメスに(多分ではあるが)『ひろ』と呼ばれていた、命の恩人である彼に会うならば相応しい力と優しさを持たなければいけない。

 ・・・確か、オークの伝承で聞いたことがある。

 厳しい修行を積んだ結果、悟りを開き霊獣にまで昇華した存在がいると。

 彼に再び会うならば、そのくらいの格は必要だろう。

 なに、すでに前例者がいるのだ。そいつにできて私にできないはずがない!

 私はオーク族の誇る天才なのだから!

 オークの精霊よ、我に七難八苦を与えたまえ!

 それらを悉く乗り越え、私は・・・私は霊獣となる!




 しばらくして、困っている人間を助けて颯爽と去っていく三角帽子とマントを身に着けた謎のオーク、通称『オークジャスティス』の存在が確認されるようになる。

 それから二十年近く経ったある日。

 異世界人の血を引く黒髪の少年と少女が危機に陥った時、豚の霊獣が颯爽と助けに現れるのだが。

 それはまた、別の話。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。


鶴の恩返しならぬ豚の恩返しなのでした。

訳あって修正しました(「二十年以上」→「二十年近く」)


次回の更新は10月上旬を予定しております。

遅い更新具合ではありますが、よろしくお願いします。

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