第百七十姉「育ち盛りの小学生か。」
少し離れた茂みから豚が顔を覗かせた。
お、出やがったな。今度こそ捕獲してやるぜ。
しかし、豚の姿に衝撃を受ける。
「「なっ!?」」
その豚は三角帽子をかぶり、マントをはためかせていた。
「何あれ!すげぇセンス!」
「さすがの私もアレは尊敬せざるを得ないわ!」
「ぶっひっひっひ。」
なんとも挑発的な笑みを浮かべる豚。
「あれってもしかしてオークメイジとかオークマジシャン的なやつなのかな?」
「きっとレアよね。さぞやおいしいとんかつになることでしょう・・・!」
「ぶひぃ!?」
さきねぇが魔法使い豚にニホンオオカミのような笑みを向ける。
どんな顔かはお任せ。
「ぶひぃ・・・ぶひぃ!」
「おお!」
魔豚が気合をこめて声を出すと、≪土矢≫と思われる魔法を放ってきた!
しかし。
「白刃取り!」
さきねぇに真剣白刃取りで受け止められる≪土矢≫。
「そして~、フンッ!」
≪土矢≫はポキッと折られ消滅する。
さすが魔法力Sですね。
「びっくりしたわね!」
「初めて魔法使う魔物に出会ったねー。」
「ぶ、ぶひぃ?」
ニコニコと笑うさきねぇとウンウン頷いている俺に驚いている様子の魔豚。
普通は『このオーク、魔法を使うぞ!?新種か!?(驚愕)』みたいな展開だもんねきっと。
でも168歳の美少幼女が炎の大蛇を出したりオネエのユニコーンがいるんだから、土魔法を扱う豚がいたってそこまで驚かないよ。
「ぶぅぅぅ・・・!」
魔豚が集中すると、目の前に土の塊が出現する。
「へー、≪土球≫も使えるんだ。器用だね。じゃあ≪水球≫で迎撃を「待ってヒロ。ここはお姉ちゃんに任せてもらいましょうか!バットプリーズ!」
「はいよ。」
さきねぇにスマート棍棒を渡す。
魔豚の準備も完了したみたいだ。
「ぶぅぅぅぅぅ・・・」「ピッチャー振りかぶってぇ・・・」
「ぶひ!」「投げました!」
こちらに向かってくる≪土球≫。
球種は遅いストレート。
だが、それは悪手!
「もらったぁ!」 カキーン!
「打ったぁー!これは大きい!伸びて、伸びて、伸びて・・・場外!場外ホームランです!ムラサキ選手、腕をグルグル回しながら塁を回っています!」
腕を振り回しながら俺の周りをゆっくり一週するさきねぇ。
魔豚はがっくりと四つんばいになっている。
「勝利打者インタビューを行います。今回は最終回に豪快な場外ホームランを決めたムラサキ選手に来ていただいております!おめでとうございますムラサキ選手!」
「ありがとうございます。」
「あれは狙って打ったんでしょうか?」
「ええ、あの一瞬、野球の神様が降りて『えぐりこむように打つべし!』と。」
「なるほど、さすがですね!」
姉弟でミニコントをしていると、魔豚がゆらりと立ち上がる。
その目は復讐に燃えるリベンジャーの眼だった。
「ぶっひぃぃぃ・・・!」
なんか力溜めしてる。もしや奥の手か?
メガ○テだった怖いから≪水壁≫でも張るべきか。
「ぶひぶひ、ぶっひー!」
魔豚がジャンプして四足で着地すると、光の玉が三つ現れる。
光の玉は大きくふくらみ、そして・・・!
「「「ぶひー!」」」
三匹のオークへと姿を変えた!
「しょ、召喚魔法!?」
「こいつ、オークサモナーとかなんじゃないの!?絶対激レアでしょ!!」
さきねぇの口からちょっとよだれが。
こんな腹ペコキャラじゃなかったはずだが・・・
「ぶひぶひー!」
「「「ぶひー!」」」
オークサモナーにクラスチェンジした魔豚の号令でオークたちが襲い掛かってくる!
まぁでも・・・
「フンッ!」
「「「ぶひー!?」」」
二匹まとめてハンマーで吹っ飛ばし、残り一匹は回し蹴りでノックダウン。
瞬・殺!
「この程度でこの私を殺れるとでも思ってんのか豚ぁ!気合入れろ!」
「ぶ、ぶっひー!」
さきねぇの挑発に召喚豚はまたも光の玉を出現させる。
かわいそうに、さきねぇの狙いが読めないなんて・・・
~10分後~
「ほら、さっさと次出しなさいよ。」 ゲシゲシ!
「ぶ、ぶひ~・・・」
召喚疲れで息も絶え絶えになり、横たわっている召喚豚に容赦なく蹴りを入れるさきねぇ。鬼や。
ちなみに
『オークサモナー は オークA・B・C を 召喚 した !』
『ムラサキ の こうげき! オークA・B・Cを たおした !』
『ヒイロ は オークA・B・C を 回収 した !』
のエンドレスエイトです。
オークサモナーさん本当にお疲れ様でした。
「もう召喚できないのか・・・でも30匹分もオーク肉手に入れたからよしとしましょう。じゃあ、サヨナラしましょうか?」
「ぶ、ぶひぃ~・・・」
召喚豚は横たわったままコロッと回転し、お腹を見せる。
降伏のポーズか。
「あら、さばきやすいようにお腹見せてくれたの?ありがと!」
「ぷぎぃぃぃぃぃ!」
・・・ふむ。
「さきねぇ、そいつ、見逃してやんない?」
「え~?オークサモナーなんて激レア魔物見逃すの~?」
さきねぇが渋い顔をする。
さきねぇの言い分はもっともだ。
魔法を使う魔物なんてE級冒険者には危険極まりない存在だということは理解してるし、ここで殺さないのは単なる偽善だということも。
だが、こいつには何か共感を覚えてしまうのだ。
オークなのに魔法が使えるのはすごいことだ。
きっとこいつは血のにじむような努力をしてきたんだろう。
それが馬車馬のように働かされたあげく、用済みになったらサクッと殺されるなんて我慢できなかったのだ。
こいつを助けたことをいつか後悔する日がくるかもしれない。
しかし、今はこいつを助けてあげたかった。
「さきねぇ、頼む。」
「ふむ・・・まぁヒロがそこまで言うんだったら。オーク肉も手に入ったし。良かったわね豚。」
「ぶ、ぶひー!」
召喚豚は俺に向かい土下座、いや、神に対する崇拝のように地に頭をつける。
「これからは人間に見つからないように静かに暮らすんだぞ?」
「ぶひ!ぶひ!」
何度も頷く召喚豚。
すくっと立ち上がると、四足歩行で森の奥深くへ消えていった。
「・・・さて、どうする?オークキング探す?でも魔法袋の中身もかなりいっぱいいっぱいになっちゃってるけど。」
「う~ん、まぁオーク肉もいっぱい集まったし今回はこれくらいでいいかしらね。今から急いで帰れば夕飯に間に合うかもしれないし。」
「じゃあ戻りますか。」
「ね。」
こうして俺たちはノクターンの森を後にしたのだった。
「と、いうことがあったのよ。」
「ふむ、土魔法を使いオークを召喚し人語を理解するオーク、か・・・」
夕暮れ時には実家に帰れたので、ノエルさんと三人で食事をする。
確保したオーク肉はいつもの食堂で食べられる状態にしてもらうようお願いしてきた。
スーパーのパックで売ってる豚肉しか知らないので、そういうところはプロに任せるべきだろう。
「オークサモナーとかそんな感じじゃないかと思ってるんですけど。」
「おーくさもなーというのは知らないが、多分オークプリンスだと思うぞ。」
「「・・・オークプリンス!」」
あいつ、王族だったのか。
だからマントと三角帽子とかおしゃれな感じだったんだ。
「魔法を使うオークはオークメイジ、オークを召喚し従えるオークはオークエリートだが、どっちも使えるのはオークキングを代表するような王族クラスだ。」
「じゃあオークキングじゃないの?」
「いや、アルゼン近辺でオークキングが発生するとは思えないな。可能性としてはオークプリンスだろう。それでも相当珍しいが。倒したのか?」
う・・・逃がしちゃったんだよな。
怒られるよな。仕方ないけど。
「あの、実は「逃げられちゃったのよ。オーク召喚して足止めされてるうちに。次あったらデストローイ!」
さきねぇが俺の言葉をさえぎる。
うう、ごめんよ・・・
「そうか、まぁオークプリンスが相手なら仕方ない。魔法を使う上にそれなりに知恵を持つ魔物など初めてだしな。王族クラスは賢いからもう逃げ出していて近辺にはいないだろうが、一応ラムサスに伝えておこう。」
「そういや、魔物って知性がないんじゃないの?あの豚、ヒロの言葉がわかってたみたいだけど。」
「竜や吸血鬼のようなかなり高位の魔物には知性を持つものもいるが・・・オークプリンスレベルではないと思うぞ?偶然ヒイロの言葉が通じていたように見えただけだろう。」
・・・あいつにはちゃんと伝わってた気がするんだけどな。
でもノエルさんがそういうならそうなんだろう。
「魔物使いという職業もあることはあるが、あれは知性のない魔物を使役するだけだしな。ひょっとしたらヒイロには魔物使いの才能があるのかもな!」
「あったらいいですけどね。」
このおばあちゃんの孫びいきはすごいな。
「さてと、ごちそうさまー。」
「もういいのか?」
いつもより小食のさきねぇに不思議がるノエルさん。
「明日のお昼はとんかつだし、お腹すかせておこうと思って!」
「育ち盛りの小学生か。」
次の日、定食屋の厨房を借りて作ったさきねぇが揚げたオーク肉に俺の作った特製ソースをつけて食べるとんかつ(通称ウイヅキトンカツ)は食通のノエルさんすら唸らせるほどの味だった。
その後、ウイヅキトンカツは途轍もなく美味いがめったに食べられない幻のスペシャルメニューとして有名になり、冒険者を廃業したらさきねぇと二人で食事処をやるのもいいかもな~なんて思う俺なのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
魔物を助けたヒロくんの行動は明らかに冒険者失格ですが、そこはまぁコメディなので。
これにてオークDEとんかつ編の終了で、次回はかなり意外な番外編です。
ベタなオチと意外性に定評のある男と呼ばれる作者、藤原ロングウェイです。
誰がそう言ってるかは謎ですが。




