第百六十九姉「あったり前田のファイアクラッカーでしょ!さぁご一緒に、ワンモアセッ!」
「いたいいたいいたいいたい!つつくなニワトリの分際で!くそぅ・・・食らえ、ムラサキダブルラリアーット!」
「「コケー!?」」
こうして『美少女VS巨大ニワトリ二羽』という、伝説に残る変則プロレスが開催されたのだった。
「チキンどもめ。逃げ出しやがった。」
「おつかれー。≪聖杯水≫かけるよー。」
あれから長いような短いような微妙な体感時間が過ぎ、オオニワニワトリは仲良く撤退した。
さきねぇは全身つっつかれて所々赤くなっているので、≪聖杯水≫を霧状に散布して全身回復を図る。
「もう少しだったんだけどなー。惜しかったなー。飼いたかったなー。」
「さきねぇ動物の世話できないでしょ!結局俺がエサやったり散歩させることになるんだからダメ!」
「はーいママ。」
「わかればよろしい。」
オークの探索を再開する。
しかし出ないな。エンカウント率けっこう低いのな。
「いないわねー。」
「ね。もっとマド○ンドレベルで大量発生するかと思ったけど。」
「仕方ない、ここは一つ雨乞いでもしますか。」
なんで?
「ふぅ・・・おーくおーくおくおーくおーくおくおーくおーくおく、おーく?おーくおーくおくおーくおーくおくおーくおーくおく、おーく!」
さきねぇが謎の呪文を唱えながら怪しいダンスを踊りはじめた。
何が起こっているんだ・・・
「ほら、ヒロも早く!」
「・・・え、俺もやんの?」
「あったり前田のファイアクラッカーでしょ!さぁご一緒に、ワンモアセッ!」
ネタが古いな。
仕方ない、やるしかないか・・・
「せーの!」
「「おーくおーくおくおーくおーくおくおーくおーくおく、おーく?おーくおーくおくおーくおーくおくおーくおーくおく、おーく!」」
森の中で奇妙な歌を歌いながら怪しいダンスを踊る姉弟。
こんなん誰かに見られたらギルドに不審人物の調査依頼だされてもおかしくないな。
誰もきませんように!
「「おーくおーくおくおーくおーくおくおーくおーくおく、おーく?おーくおーくおくおーくおーくおくおーくおーくおく、おーく!」」
やばい、ちょっと楽しくなってきたぞ。
さきねぇがニヤッと笑う。
それにつられ、俺もニヤッと笑い返す。
そのまま不思議な儀式をすること約5分。
「さきねぇ、お疲れー!」
「ヒロもお疲れー!」
ハイタッチを行う。
ふぅ、いい運動だった。
魔法袋から取り出した二つのコップに≪聖杯水≫を注ぎ、一つをさきねぇに渡す。
・・・結局なんで俺は踊ってたんだろう。
「よし、じゃあ最後の締めといきますかね・・・ヘイ!倒すぜオーク、振るうぜソード、終われば皆で乾杯のコーク!ヨー!ヨー!」
今度はヒップホップもどき?
しかしセンスねーな。
あれ、でもなんかエンカウント率が上がった気がする。
ゲームなら『あたり に まもの の けはい が ただよいだした !』って感じだ。
ガサガサ!
さっそく反応が。茂みがガサガサしていらっしゃる。
俺はスマート棍棒を、さきねぇはミカエルくんを構える。
「コソッ(さきねぇ。魔石砕いたらオークも消えちゃうから、狙いはボディだよ。)」
「コソッ(わかってるって。私のヘビーアタックで『ひでぶ!』とか『あべし!』とか言わせてみせるって!)」
うーん、不安しか感じない。
ガサガサガサガサ・・・・・・ガサッ!
茂みの中から豚の顔が出てきた。
ビンゴ!戦闘開始!
・・・かと思いきや。
トコトコトコトコ
「ぶひー。」
「「・・・・・・豚?」」
目の前に現れたものの正体は、『豚』だった。
二足歩行で歩くわけでも武装しているわけでもない。
びっくりするほど普通の『豚』だ。
「ぶひぶひ。」
「はぁ~。この世界にも豚っているんだ。かわいいね。」
「か~わ~い~い~か~?」
さきねぇのうさんくさそうな顔。
俺、豚好きなんだけどな。
映画とかアニメに出てくるようなきれいな豚はダメ。あれは豚じゃない。BUTAだ。
豚っていうのは『あれ、これイノシシ?』って勘違いするほどのガッシリした泥だらけの体で、ハリガネか!っていうくらい硬い毛で覆われているものをいう。
詳しく知りたい人は今度上野動物園とかマザー牧場とかで豚を見てきてくれ。アレだ。
「おいでおいでおいでおいで。」
「・・・ぶひー。」
スマート棍棒をしまい、しゃがみこんで手を叩くと豚がゆっくり近寄ってきた。
お、動物との触れ合いタイムか!?
トコトコと目の前まできた豚が。
すくっと立ち上がった。
二本の足で。
・・・え?
「ぶひー!」
「ぐはぁ!?」
そしてしゃがんでいた俺の顔面を殴りつけてきた!
中腰でしゃがんでいたので、殴られた勢いで後ろに倒れこみ後頭部を強打する。痛い!
しかし俺もD級冒険者の端くれ。痛みを我慢しつつそのままゴロゴロ転がり距離を開ける。
「さきねぇ!気を付け・・・」
さきねぇの方を見ると、口を抑えて俯きプルプル震えている。
・・・いいですよ俺が片付けますよ!
スマート棍棒を取り出し、豚を観察する。
豚が二足歩行で立ってる。しかも動物の豚がそのまま直立している格好なので手足がすごい短い。
にもかかわらず、頭だけはしっかりとこっちを向いている。
すごいな。どうなってんのこれ。物理法則が完全に乱れてる。
お、豚に動きが。
「ぶひぶひ。」
まるで『5秒で片付けてやる。さっさとかかってこい。』とでも言うように短い前足をちょこちょこ動かす豚。
む、むかつく!
いや、ここは冷静になれ初月緋色。やつが動かないのはカウンター型だからかもしれん。
・・・でもよく見ると、あんな短い手足で攻撃されるより俺の戦友みたいに四足歩行でタックルしたほうがダメージでかいよな?
あれ、なんであいつ立ってんの?意味なくね?
「ぶひぶひっ。」
あ、今絶対『腰抜けめ。』って言った。
やってやるよ、俺の新魔法でびびらせてやる!
「出でよ!≪水鉄球≫!」
俺の手の中に水でできたロープが創造される。
そのロープの先はバスケットボールくらいの大きさの水球と繋がっており、しかもトゲトゲが無数についている。
「くたばれ豚!甘寧一番乗りぃぃぃ!」
「ぶ、ぶひぃ!?」
俺が≪水鉄球≫をぶんぶん振り回すと、豚は途端に四足歩行に戻り藪の中に飛び込んだ。
・・・逃げやがった。
「あーちょっとヒロー!オーク逃げちゃったじゃない!」
「・・・やっぱあれ、オークなのかな?」
『直立歩行するブタ』というマリーシアさん情報とは一致するんだけど・・・
「なんかさ、イメージと大分違うんだけど。」
「クッコロのオークとはまた違った凶悪さだったわね。ぷ。あとヒロ、ぷぷぷ、顔にブタの足跡ついてる!」
「きゃー!」
恥ずかしい!
すぐに聖杯水で傷を治す。
えぇい豚め・・・この怨み、晴らさでおくべきか・・・!
「まぁまだオークとの遭遇率がアップする『オークの舞』の効果は続いてるから探索を続けましょう。」
「そんなピンポイントな踊りだったんだあれ。」
うちのお姉さまは一体いくつ隠し技を持ってるんだろうか。
とりあえず探索を再開。
しかし。
「オーク出ないし敵も弱いし緊張感がないわね。」
「俺は一応それなりには緊張感もってるけど。初めての場所だし。」
「お姉ちゃん思ったんだけど、会話の最後に『そして誰もいなくなった』をつけたら緊張感が出そうじゃない?」
ちょっと意味がわからないです。
「・・・例えば?」
「そうね・・・今日は良い天気ね。そして誰もいなくなった。」
「なんかアレだね。国語の問題の『この空欄に入る文章を選びなさい』ってやつで一番最初に省かれる意味不明な選択肢みたいだね。」
「緊張感出たっしょ?」
「むしろ戦慄したわ。」
ガサッ!
少し離れた茂みから豚が顔を覗かせた。
お、出やがったな。今度こそ捕獲してやるぜ。
しかし、豚の姿に衝撃を受ける。
「「なっ!?」」
その豚は三角帽子をかぶり、マントをはためかせていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
『オークの舞』については、当初「んーばばんばんばめらっさめらっさ!」にしようと思ってましたが、さすがにやばいと思ってああなりました。
振り付けはキングゲイナーのOPみたいな感じで(笑)




