第百六十四姉「一目ぼれでしたお願いします罵ってください!」
「ねぇ、お願いがあるんだけど。もう一回罵倒してもらえないかしら?」
「・・・うわぁ。」
精霊王様、なんで俺の周りにはこんなのしかいないんですか?おかしいですよね?
「お願い!もう一回だけでいいから!罵って!」
「き、気持ち悪いんだよクソババァ!近づくな触んな話しかけんな腕ひねって地面に叩きつけたろか!?」
「キャァァァ!素敵!めっちゃ背筋ゾクゾクする!もっとお願いします!」
「変態だぁぁぁぁぁ!」
わき目も振らず、全力で走り出す俺。
変態とまともにぶつかったところで勝てる気がしない!
ここは一時、というか永久に撤退だ!
大通りを走りぬけ、路地に入って少し走るとまた大通りへ抜け出す。
ふふふ、まさか路地に入ってすぐに大通りに戻るとは思うまい!
後ろを確認するとさっきの変態金髪女の姿は見えない。
・・・勝った!
ドンッ!
「キャッ!」 ドサッ!
「イテッ!」 ドサッ!
うっかり女性とぶつかってしまったらしい。
俺としたことが・・・
すぐに立ち上がり頭を下げる。
「す、すいません!追われていたもので!」
「いえ、大丈夫です。気になさらず。」
「大変申し訳あり、ま・・・」
「もし気になるというなら、私を罵ってくださればそれで!」
「なんでお前がここにいるんだよぉぉぉぉぉ!?」
ぶつかってしまった女性は変態金髪女だった。
なんで!?いつのまに先回りしたの!?
「もしかしたら、これって運命というものかもしれませんね?」ニコッ
「嫌だ!変態金髪女にストーキングされるのが運命だなんて信じないぞ!」
「うふふ、変態金髪女なんて生まれて初めて言われました♪新鮮で良い響きですね!」
「ゴ○ウー!早く来てくれー!!」
つい地球育ちの宇宙人にまで助けを求めてしまった。
そんな俺をすごいニヤニヤした顔で見つめる変態金髪女。
「どうしても罵ってくださらないのかしら?」
「しねーよ!そんな性癖はない!」
「ならば・・・最後の手段!」
そういうと、変態金髪女は突然DOGEZAをしだした!
「一目ぼれでしたお願いします罵ってください!」
「おまっ、何やってんだよこんなとこで!つーか一目ぼれから罵ってってどうやっても繋がらねーよ!」
「ふふ、いいのかしら?早く罵らないと大変なことになるわよ?」
「な、なんだと!?」
辺りを見渡すと、人だかりが。
ここは大通り。大勢の人がにぎわっている。
そのど真ん中にいる男とDOGEZAする女。
これだけでも注目を集めるのに、その男は(アルゼン限定だけど)それなりに有名な冒険者である俺と、DOGEZAする金髪の(外見のみで考えれば)美女。
周囲もすごい目で俺を見てくる。
違うんだ、俺は被害者なんだ!
進むも地獄、退くも地獄とはこのことである。
なんで俺がこんな目にあわなくちゃいけないんだ。
「・・・グスッ。」
ダメだ、もうどうしたらいいかわかんなくて涙と鼻水でてきた。
たすけておねえちゃん・・・
その時。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!」
ズガァァァァァァァン!!
空から叫び声が聞こえたと思ったら、突然目の前が爆発した。
爆発の震源地から現れたのは・・・
「ヒロ、無事!?」
「お、おねえちゃぁぁぁぁぁん!」
「おーよしよし。怖かったねーもう大丈夫だからねー?」
そこにいたのはミカエルくんを構えたさきねぇだった。
全力で抱きつく。
「嫌な予感がしたから急いで駆けつけて攻撃したけど、なんだったの?つーかなんであの女はDOGEZAしてたの?・・・ん?」
さきねぇの顔が俺に近づき、鼻を鳴らす。
「くんくん。・・・私じゃない女の匂いがついてるけど、どういうこと?」
「ヒ、ヒィィィ!違うんです違うんです話を聞いてください!」
「・・・その前に。」
さきねぇが前方をにらみ付けると、そこには変態金髪女が平然と立っていた。
「もう、服が土まみれになっちゃうじゃない。やめてもらえません?」
「人の弟にちょっかいだしてんじゃないわよそこのクソ女。」
「ん~あんまりコないな~?やっぱりその男の子が特別っぽいわね。ちゅ!」
俺に向かい投げキッスをかます変態金髪女。
回避、成功!
「・・・潰すぞ、ブス。」
「・・・は?あなたのほうがブスじゃない?」
「いやいや、どう見てもあんたのほうがブスでしょ。」
「そうかなー?あなたのほうがブスだと思うけどなー?」
「そういう冗談は顔だけにしてほしいわーマジで。」
「あなたに言われたくないかなー?」
「「・・・フフフフ。」」
美女同士のブス合戦とかすごい怖い。
なんか火花散りつつも空気が重いっつーか。
「・・・わかった。じゃあ負けたほうがブスね!」
「わかりやすくていいわね。のった!」
そのままの勢いで戦闘に突入する二人。
早急に片がつくかと思われたが・・・
~10分後~
「ふふふふ、あんた、金髪のくせになかなかやるじゃない。私のほうがかわいいけど。」
「あなたも若いくせになかなかやるわね。私のほうがかわいいけど。」
なんと二人の戦闘力は拮抗していた。
あのさきねぇのミカエルくん乱舞をかわすとは、なんなんだあの変態は。
いつのまにか辺りには人がいなくなっている。
まぁ巻き込まれたら即死の可能性大だからな。
無人の大通りで決闘とか西部劇みたいでちょっとかっこいい。
そんなことを考えていると。
「やっと追いついた。」
「あ、ノエルさん!」
ノエルさんが串焼きをモグモグしながらやってきた。
「食べるか?」
「あ、いただきます。」
ノエルさんから串焼きを一本頂戴する。
「何があったんだ?ムラサキがいきなり『ヒロ、危険!ヒロ、危険!』とか叫びだして走り出したから半分驚いたぞ。半分はああ、またかって感じだったが。」
「実は・・・」
ノエルさんにここまでの経緯を説明する。
「・・・ふむ。で、今そこいらを移動しながら戦っていると。」
「そんな感じです。」
「しかし、街の住人が逃げ出してくる方向に向かえば必ずムラサキがいるから見つけやすくていいな。」
正直、ノエルさんもあんまり人のこと言えないよね、なんて口に出せない俺だった。
アルゼンでパニックが起きる時の原因は大抵さきねぇかノエルさんだからな・・・
「そろそろ決めるわよ。どっちがかわいいかを!」
「いいわよ、かかってらっしゃい!」
「「ウオォォォォォ!!」」
ついにクライマックスらしい。
どちらが勝つんだ・・・ゴクリ。
「・・・ん?もしかしてアレか?」
「はい、アレが件の変態金髪女です。」
驚いた顔をしているノエルさんが両手をメガホンのようにして叫びだす。
「レイリアー!お前こんなところで何してるんだー!」
「あ、ノエルじゃないやっほ」
ガン!
ガシャァァァァァン!
さきねぇのミカエルくんが変態金髪女にヒットし、真横に吹っ飛びお店の中に突っ込む。
「・・・ふっ。油断大敵よ。エルエルナイスフォロー!」
「・・・あの、さきねぇ。今、あの変態金髪女がノエルさんの知り合いっぽいのがわかった感じだったよね。なんでミカエルくん振りぬいた?」
「愚問ねマイブラザー。真剣勝負の最中によそ見するなんて、殺してくれと言っているようなものよ?それに加えて・・・姉だからよ。」
「じゃあしょうがないね。」
「・・・イタタタタタ。言葉責めは良くても痛みはあんまり気持ちよくないわねー。」
そんな会話を交わしていると、店内から変態金髪女が現れる。
なぜピンピンしてるし。
「相変わらず人騒がせなことしてるのかお前は。」
「いやー、そこのヒイロクンが私の魅了にかからないものだから、ついつい。でもそのおかげで新境地を開拓できて良かった♪」
「あのー、ノエルさん。この変態金髪女と知り合いなんですか?」
「ああ、紹介しよう。こいつはレイリア・エクスペリア。生魔大戦時の同期で元S級冒険者だ。」
「どもー♪」
「「・・・うえぇぇぇ!」」
ノエルさんの発言に驚愕のハモリを見せる俺たちなのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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変態金髪女の正体は第六十三姉でちょろっと出てきた、ノエルさんの友人のレイリアさんでした。わかったかな?わかるかっつーの。




