第百六十二姉「つーかマリーシアさん、今日臭くありません?」
お久しぶりです。なんだかんだいいながら新章で全五話です。
長いお話が書けなくなってきたー!ほんとに三話程度のミニシナリオが大量発生しそうです。
その日のアルゼンは何かおかしかった。
いつもなら門番さんが立って魔物の見張りをしているのだが、様子が変なのだ。
なんかぽわーっとしてる。
「どうしたんですか?」
「はぁー・・・」
ため息をついているが、俺に対してではないだろう。
門番さんは物思いに耽っているようにボっとしている。
「あのー!どうしたんですかー!職務怠慢でタイチョーさんにチクりますよー!」
「・・・ん?ああ、ヒイロくんか。」
耳元で怒鳴ってやっと反応があった。
なんじゃこりゃ。
「風邪ですか?≪聖杯水≫飲みます?」
「いや、風邪じゃないよ。でも・・・病といえば病かな。」
「え、大丈夫ですか?誰かに門番代わってもらったほうがいいんじゃ?」
「大丈夫さ。言ってみれば、恋の病だからね・・・」
キモッ。
恋の病というより、ヤバイ薬を決めてるようにしか見えないんだが・・・
「・・・お大事に。」
それだけ言ってその場を離れる。
一応詰め所に『門番さんが体調不良みたいなので交代お願いしまーす!』と声をかけてからアルゼンに入る。
・・・もしこの時に、俺がきまぐれで誰かが詰め所から出てくるまで待っていたら異常に気付いただろう。
なぜなら、声をかけたにも関わらず、詰め所からは結局誰もでてこなかったのだから。
なんか変だな。
通りを歩いているが、ボーっとしている人が多い。しかも男性ばかり。
いくら常春に近いアルゼンといえど、こう脳内お花畑なやからが大量発生するのだろうか?
いや、俺もこの世界に来て一年も経ってないからそういう季節があるのかもしれないけど。
ガシャーン!
何かが割れる音にビックリして音がしたほうを見る。
「ちゃんと仕事しなさいよね!?」
「うるせーデブ!余韻に浸ってるんだ、黙ってろ!」
「デ、デブ!?言うに事欠いてデブですってぇぇぇ!?私はぽっちゃり系だってあなたいつも言ってたじゃない!」
一組の夫婦が大喧嘩をしていた。
珍しいな、あそこは夫婦円満で有名なはずだが。
確かに奥さんはデ、いや、ぽっちゃり系ではあるが。
まぁ長年夫婦をやっていれば色々あるんだろう。夫婦といえ他人と他人の集合体だからな。
うち?うちは姉弟で幼馴染で親友で恋人みたいなもんだから。
過ごした年月と絆の強さが違うっすよ。
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。これでも飲んでクールダウンしてください。」
とりあえず≪聖杯水≫を渡しつつ仲裁に入る俺。
「「・・・・・・」」
睨み合いながらも俺の≪聖杯水≫を飲み干す二人。
すると。
「・・・あれ?」
急に目をパチパチしだし、キョロキョロしだす旦那さん。
「何が原因かわかりませんが、ケン「すまなかったぁ!!」
「・・・はぁ?」
いきなり土下座をしだす旦那さん。
な、何事!?
「俺はお前に対して一体何を言っていたんだ・・・すまない。お前がいなければ俺はやっていけないというのに・・・本当にすまん。」
「えっと・・・ま、まぁわかればいいのよ!今後気をつけてよね!・・・ヒイロさん、わざわざありがとうね。やっぱり美味しいものを食べたり飲んだりして落ち着くことって大事なのねぇ。」
「ヒイロさん、ほんとうにありがとう!」
「え、ええ、まぁ仲直りできたならそれはよかったです。では。」
ペコペコ頭を下げている夫婦と手を振りながら別れる。
急に態度が変わったな。どういうことだ?
・・・もしや、あれって状態異常だったのか?
俺の≪聖杯水≫は怪我の治癒と体力の回復だけでなく、軽い状態異常なら基本的にどんなものでも治せる万能回復魔法だ。
もしあの旦那さんの暴言が状態異常から来ているとしたら、俺の≪聖杯水≫を飲んで正気に戻ったのも説明がつく。
もしかして、このアルゼン男性の脳内お花畑現象はアンノウンからの攻撃?
しかし理由がわからんな。
アルゼンの男性を状態異常にしたとして、誰に何の得があるんだ?
魔物ならこんな手の込んだことはしないっつーかできないはずだし・・・テロリストのアルゼン侵攻?
・・・いや、ないな。ノエルさんがアルゼンに滞在しているのは有名な話だ。
そんな最強かつ超有名な冒険者を敵に回してまでアルゼンを侵略するメリットがないんだよな。
しかもこれだけ多くの人間を状態異常にできるほどの人間なんて聞いたこともないし・・・
ま、いっか!俺の考えすぎか!
「ギルドに到着~っと。」
ギルドの入り口までくる。
すると。
「クサッ!」
なんだこの匂い。トイレの芳香剤の出来損ないか?
顔を顰めながらギルド内に入ると、温度差がすごかった。
気温ではない。
人だかりができている男性陣と隅っこにいる女性陣とで、だ。
片やほんわか、片や殺伐としている。
「ヒイロさん!」
「マリーシアさんどうもです。なんですあれ?」
マリーシアさんが『救世主来たり!』みたいな顔で寄ってくる。
「あれ、今日はムラサキさんはいないんですか?」
「ええ、ノエルさんと特訓中なので遅れてきます。俺は先に用事を済ませておこうと思って。」
「あれ以上、まだ強くなるつもりなんですかムラサキさんは・・・嫁の貰い手いなくなっちゃいますよ。」
「それの何が問題なんです?弟である俺がいるのに。」
「・・・デスヨネー。」
発言の意図が理解できないな?
まぁいいや。
「そんな話をしてる場合じゃないんですよ!ちょっとヒイロさん聞いてください!なんか今すごい美人が来てるんですけど、男どもが寄ってたかってチヤホヤしてるんですよ。ウザいったらありゃしないです!」
「ほんと男ってダメですよね!スレイも鼻の下伸ばして・・・!」
スレイのチームメンバーのリムルちゃんや数人の女性冒険者さんたちも近寄ってきてウンウン頷いている。
「へー。そんなに美人なんすか。すごいっすね。んで、これクリスに郵便送ってほしいんですよ。お願いできます?」
「もちろんです。それでヒイロさんはあの美人見に行かなくていいんですか?」
「ぐーもーんー!」
「さ、さすがヒイロさん!かっこいい!」
人差し指を立てて、ちっちっと振りながらIK○O風に答える俺。
だってさきねぇより美人さんなんて存在しないっていうか、さきねぇ以外の女とかぶっちゃけどうでもいいし。
「つーかマリーシアさん、今日臭くありません?」
「なんですと!?そ、そんなバニャニャですよ!ありえないです!心当たりなんて・・・」
といいつつ自分の体の匂いを嗅ぎ出すマリーシアさん。
あるのか、心当たり・・・
「いやいや、マリーシアさんがじゃなくて、ギルド内がですよ。」
「あ、私じゃなくてですね!よかったぁ~。でも、そうですか?いつもと変わらないと思いますけど?」
「ええ、普段どおりじゃないですか?」
リムルちゃんや女性冒険者さんたちも同意する。
俺だけ?鼻でもおかしくなってんのか?
「あ、ヒイロさーん!こっち!こっちでーす!あーもう何やってるんですか!」
人だかりからスレイが駆けてくる。
「何よ。」
「すっごい美人がギルドに来てるんですよ!正直ムラサキさんより美人っすよ!早く見に行ったほうがいいっすよ!?」
「・・・ほぉ。」
この後輩屋さんは面白いことを仰る。
「ヒイロさん、やめてくださいね?何をとは言いませんが、絶対にやめてくださいね?スレイくんはかわいい後輩。かわいい後輩ですよ?ギルド的にも将来有望なのでここでリタイヤされるとすっごい困りますから、お願いですからやめてくださいね?」
「ハハハハ。何いってんですか。人の価値観なんて人それぞれなんですから、スレイがどんな女性をどう評価しようが俺がとやかく言うことじゃないですよ?」
「・・・じゃあ、その血が出るんじゃないかってほど握り締めた拳を解きましょう。ね?」
いつのまにか俺の手がグーの形になっていた。
俺もクンフーが足りないな。
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