第百五十九姉「やだやだやだやだ聖剣ほしいー!私にふさわしい聖剣がほーしーいー!」
ひょこっと復活です。三日連続更新で三話分だけ投稿してまた潜ります。
次の更新は八月末、かな?
現在二十一章と二十二章を同時進行で書くという頭の悪い執筆状況なのでどうなることやら。
だって二十一章書いてる途中でふと違う話を思いついちゃったんだもん!
今章は二話で終わる長い短編かつ出オチです。
生暖かい目で見守ってくださると助かります。
その時、アルゼンに衝撃が走った。
最初に入った情報は『アルゼンに新しいお店ができる』というだけのものだった。
その時点ではそこらに転がっているよくある話だった。
アルゼンは都会ではないといいつつ、それなりの規模を持つ街。新しいお店など年に何軒もできる。
そのため、住民は『なんのお店ができるのかねー』程度の興味しかなかった。
次に入った情報は『新しい武具屋ができる』というものだった。
住民は興味を失ったが、冒険者たちにはなかなかに興味深いものであった。
アルゼンには暖簾分けの大衆店からアルゴスの武器屋など様々なお店があるが、武具屋は何件あってもいいからだ。
しかし、次に入ってきた情報により、状況は一変する。
それは・・・
「ヒロー!ヒーロー!私のヒーロー!英雄ー!ひでおー!」
「いや、聞こえてるから。つーか誰だひでお。」
ギルド二階の資料室で魔物図鑑を読んでいると、さきねぇがすごい勢いで突っ込んできた。
「やばい、私すごい情報ゲットしたわ!」
「んー?今度はなーにー?ニュニコーンさんの親戚のペガシャスさんでも見つかったー?」
「あんな駄馬なんてどうでもいいのよ!エクスカリバーよ、エクスカリバー!」
「・・・エクスカリバーって、あの聖剣エクスカリバー?」
エクスカリバー。
円卓の騎士で有名なアーサー王の持つ剣ではあるが、某最後のファンタジーなゲームのせいで日本では長らく『エクスカリバー?エフ○フの武器でしょ。え、アーサー王?誰それ。』的な展開になっており、よいちの弓レベルで所有者より武器のほうが有名だった、ある意味不遇の聖剣である。
まぁ今は某運命のセ○バーさんのおかげで所有者も一躍有名になったが。
「そう、そのエクスカリバーよ!なんと、今日オープンする武器屋で目玉アイテムとして展示されるんだって!しかも値段によっては販売もありうるらしい!」
「・・・いや、ここアルゼンだよ?いってみれば『さいしょのまち』よ?そんなもんあるわけないって。エクスカリパーだろどうせ。」
「いや、チラシに『エクスカリパーじゃありません!本物保証!』って書いてあった!」
「・・・で、チラシにはエクスカリバーってちゃんと書いてあったの?」
「ないけど。」
「・・・・・・」
絶対偽物でしょそれ。
もう未来が見えてるもん。
さきねぇと冒険者たちが『ぶっ殺せー!』って言って店主に詰め寄ってる場面が鮮明に脳裏に描かれています。
「ヒロ!もうすぐ開店だから、早くいかないと売り切れちゃう!」
「もし本物だったとしても買えないよ~?」
「大丈夫、聖剣といえばコレ!ってくらい有名なゲット方法知ってるから!」
「岩に刺さってる剣を抜ければ・・・ってやつ?まぁ確かにアーサー王繋がりではあるけども。」
「違うわよ。『ねんがんの エクスカリバーを てにいれたぞ !』って言ってる人に話しかけて、ころ「それはやっちゃいけないやつや。」
「やだやだやだやだ聖剣ほしいー!私にふさわしい聖剣がほーしーいー!」
近くにあったイスに座り、手足をバタバタさせるさきねぇ。
子供か。
「はぁ・・・とりあえずいくだけいってみる?」
「いくー!」
俺はこの先の展開を思うと胃が痛くなりながらも、二人仲良く手を繋いでお店を目指すのだった。
大丈夫かな、お店いったら『あいつら、もしかして馬鹿正直にエクスカリパー見学にきたんじゃねぇのw』『鈍器姉弟マジ馬鹿ww』とか陰口叩かれないかしら。
が、俺の予想に反して目的のお店『ホルン商店』の店内は大勢の客で賑わいを見せていた。
特に白い布で隠されてるっぽいナニカの周辺には冒険者だけでなく、商人や武器屋、鍛冶屋さんの姿まで見える。
え、マジで?そんな盛り上がってるの?
もしかして、真面目に本物なのか?
「お前らもきたのか。」
「アルゴスさん!」「じっちゃん!」
「おう。」
そこには、俺たちがいつもお世話になっている馴染みの武器屋にしてノエルさん信奉者のアルゴスさんがいた。
さきねぇがウキウキしながらアルゴスさんに話しかける。
「やっぱじっちゃんもエクスカリバー見にきたの!?」
「まぁな。こういうのは大抵エクスカリパーだからどうでもよかったんだが、『エクスカリパーじゃありません!本物保証!』なんて堂々と宣伝する詐欺師も初めてだからつい、な。」
あ、もう詐欺師確定なんだ。
「やっぱり偽物なんですか。」
「99.9%な。」
「あれ、でも100%じゃないんですか?」
「・・・魔剣エクスカリバーは大戦後に行方不明になってんだよ。だから今どこにあるか、誰が持ってるのかわからん状態だ。」
「つまり、本物でないとは断言できない、と。」
「そういうことだ。もしまだ存在するなら一回でも見てみたいもんだがな。」
ちなみに、『魔剣』というとおっかないイメージがあるが、この世界の『魔剣』というのは『魔力を内包し、稀有な能力を有する剣』のことである。
なので、どんなに神聖なオーラを放っていたとしてもそれは『魔剣』であり『聖剣』というものは存在しない。
イメージ通りの呪われた剣は『邪剣』と言われるが、これは剣ではなく武器型魔物全般を指す、らしい。
全部ノエルさんからの又聞きだけどさ。
「さぁ皆様!お待たせいたしました!」
店主っぽい人が店員っぽい女性を連れて奥から出てきた。
女の人、誰かに似ている気がする・・・気のせいか?
まぁいいか。
「さて、それではお時間です!皆様お待ちかねの魔剣でございます!盛大な拍手を!」
ワァァァァァァァ!パチパチパチパチ!
バサッっと白い布がとられる。
そこには。
神々しいオーラを放つ棍棒があった。
「「「「「・・・?」」」」」
ザワザワしだす観衆。誰も状況を飲み込めていない。
キョロキョロを周囲を見渡し、顔を見合わせあっている。
そこで店主が大きな声とドヤ顔で商品の名を発表する。
「これこそ、目玉商品!魔剣【エクスカリボー】でございます!」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
どこからどうみても棍棒にしか見えない魔剣に、シーンとなる店内。
いや、確かにノエルさんが持ってる月光剣を始めとする【終末の魔剣】シリーズにも斧だったり槍だったり弓だったりね?あるらしいけどね?
棍棒を魔剣呼ばわりってさすがに詐欺じゃないっすかね。
「・・・どういうこと?エクスカリバーはどこにあんの?」
「エクスカリバー?何のことです?私は『エクスカリパーじゃありません!本物保証!』ってチラシを配っただけで、『エクスカリバーを売り出す』なんて一言も言ってないですが?本物のエクスカリボーですよこれが!わはははは!」
さきねぇの言葉に笑顔で答える店主。
こいつ、バカなのか。この空気の悪さを理解してないのか。
「・・・・・・殺っちゃう?」
さきねぇのその言葉に、周囲の人間が顔を見合わせる。
「殺ります?」
「殺っちゃいます?」
「いいっすね、殺っちゃいましょうか。」
「殺りますか。」
「殺りましょう。」
そして。
「「「「「ぶっ殺せぇーーー!!」」」」」
「ひぃーーー!!」
さきねぇのつぶやきに触発された怒り狂った商人や冒険者が店主に詰め寄る。
やったね、俺の未来予知が現実になったね。
「エクスカリバーのためにアチコチから借金して資金を集めたんだぞ!」
「俺だって家を担保にして金を用意したんだ!」
「俺だって稼ぎの十二週間分を放出するつもりで来たんだぞ!」
「俺だって八週間お小遣いを使わずに貯めてたんだぞ!」
「俺だって二週間三食ヤサイイタメテイショクで我慢してたんだぞ!
「俺だって三日間大好きなワインを一日3杯から2杯にしたんだぞ!」
「俺だって今日の朝ごはん抜いたんだぞ!」
口々に怒鳴り散らす人々。
最初の二人はかわいそうだが、他のやつらは完全に八つ当たりだろ。
あと、最後の二人はあとでヤクザキックな。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
エクスカリボーの魔剣としての特性は
・自動修復(中)
・所有者の治癒能力向上(小)
・不死属性に特攻(小)
と実はかなり優秀です。
ただ、見た目が致命的にダサいため使いたがる人がほぼいません。
槍や斧ならまだしも、棍棒ですからね。




