第百五十三姉「それ、ノエル様とムラサキさんの前でも同じこと言えんの?」
さきねぇも当初は他の人たちとチームを組む予定だったのだが、どのチームからも『ムラサキさんを制御する自信がない』と言われ、結局いつもの仲良しノエル一家チームになった。
最近俺のことを『ノエル様とムラサキさんを巧みに操る猛獣使い』みたいに呼ぶ人がいるが、あながち間違っているわけでもないのが怖いぜ。
とりあえず日も暮れてきたため、晩御飯の準備をする。
この場には魔法使いが俺・ノエルさん・クリスと三人もいるため、魔法袋の内包量はばっちりだ。
料理担当班に食材を渡し、後をお願いする。
ちなみに、冒険者は基本的に男女関係なく料理ができる。というかできないとやばい。
アルゼンクラスならまだしも、もっと大きい街でランクの高いクエストを受ければ数日間野宿など普通だからだ。
そのため『料理は女がやるべき』といった考えはそれほど多くはない。いないわけじゃないけどね。
しかし、冒険者は強さが全て。男だろうが女だろうが強い奴が偉くてすごいのだ。
加えて、現在でアルゼン最強の人物はノエルさんだし、最強の冒険者はさきねぇ。
戦闘力トップがどっちも女性なので、街中で男性が『女の癖に』とか『女が偉そうに』とかいった瞬間に
「それ、ノエル様とムラサキさんの前でも同じこと言えんの?」
と返され男性が平謝りして終了だ。
うちの家族のおかげでアルゼンの治安は守られているといえよう。
逆に暴れたり騒動を起こしたりと治安を乱しているのも大抵うちの家族だが。
「つーか潮風でべたべたするしー。最悪だしー。お風呂入りたいしー。」
「その意見には同意ですけど、ここから近くの川で水浴びはできませんよ。時間が時間だし。」
「明日まで我慢、ですね。」
さきねぇとマリーシアさんとカチュアさんのガールズトーク。
おっと、一人だけガールじゃなかった。
・・・ここは俺の水魔法の出番かな?
「えっと、俺が魔法で水張ろうか?ノエルさんに土魔法で窪地作ってもらって、そこに水いれる感じで。」
「「「「「!?」」」」」
周囲の女性陣が一斉に俺のほうを振り向く。こえぇ!
「ふむ、それもいいか。多目的小屋改め大浴場にするか。」
「「「「「やったぁー!!」」」」」「「「「「ぃよっしゃぁー!!」」」」」
女性陣と男性陣から喜びの声が。
あいつら、普段は風呂とかあんま入らんくせに、露天風呂だからってテンション上げやがって。
気持ちはわかるけどね!
「でも、覗きとか心配じゃありません?」
「・・・覗き?あはは、そんなまさか。そんなことするわけないじゃないですか。なぁみんな!」
女性冒険者さんの発言に笑いながら後ろを振り返る。
すると。
男性冒険者のほとんどが目を逸らす。
「・・・なぁみんな。覗きなんてするわけないじゃないか。なぁ?」
「「「「「・・・・・・・・・ぴぃーぴぃぴーぴーぴー♪」」」」」
再度の問いかけに、口笛で返す男性冒険者ども。
こ、こいつら、覗く気まんまんじゃねーか・・・中学生かよ。
「私たちがお風呂入ってる最中は男たちは全員キャンプの外で待機してなさいよ!」
「嫌だよ!お前らがどんだけ長風呂かわからんのに、暗くなったキャンプ地の外で待機とか魔物が襲ってくるかもしれないだろうが!」
女性冒険者VS男性冒険者の口論が始まる。
男性陣の言い分も正しいが、裏がありすぎるのでなんともいえん。
でも修学旅行みたいでちょっと楽しい。
「裸なんて見られたら恥ずかしくて死んじゃいますよ~!でも、ヒイロさんなら・・・」
「いや、マリーシアさんの裸は誰からも求められてないと思うっすよ。」
「唸れ、私の拳!」「ぐふぉ!」
マリーシアさんのなかなかに鋭いハラパンがスレイに突き刺さる。
うん、スレイ、君は思ったことをすぐ口に出す癖を治そうか。
「まぁ覗きが出たら私が地獄の業火で焼き殺す、でいいんじゃないか?」
「いや~、死を覚悟の上で覗きにくるやつも出るんじゃない?」
「さすがに兄さん以外の男性に覗かれるのはちょっと・・・」
「ふむ・・・ではこういう案はいかがかしら?」
俺が女性陣に内容を話す。
「いいと思います!」「ヒイロさんなら安心安全ですしね!」「さすがアルゼン冒険者の良心!紳士代表!」「ヒイロくんならむしろ覗いてもOK!」
「じゃあこんな段取りでいきましょう。」
「「「「「さんせ~い!」」」」」
その後、もっとも信頼できるヴォルフとクリスに警護内容を話す。
スレイには申し訳ないが、ほんの少しだけ怪しかったから除外させてもらった。
あいつも一応アルゼン系男子だからな。
アルゼン系男子とは、普段はあまり女性に頭が上がらないにも関わらず、女性の体に興味津々な思春期男子のことだ。
俺? 俺はさきねぇ以外の裸なんて興味ないし。
ヴォルフも同じくカチュアさん以外はどうでもいいタイプで、クリスは女性に全く興味なしだからな。
お師匠様、ちょっと心配。
とりあえず風呂は後にして、みんなで晩御飯を食べる。
男同士でくだらない話で盛り上がるグループもあれば、女性だけでガールズトークに花を咲かせるグループも。
そして男性冒険者が女性冒険者に声をかけにいったりと、異世界でも人間のやることは大して変わらないんだなぁという感じでつい笑ってしまった。
さきねぇにちょっかいをかけにきた男性冒険者や俺に声をかけにきた女性冒険者の人もいたのだが、俺とさきねぇのあーん合戦を見てドン引きして去っていった。愛の勝利ですね。
食事も終わり、さぁお風呂だ!となった段階で男どもの目がギラギラしだした。
危険ですね。俺の≪水鋭刃≫で去勢しますよ?
「はーい、危険な男性陣はこの部屋に監禁させてもらいまーす。」
「横暴だー!」「自由を求める!」「何の権利があるんだー!」「我らは弾圧には屈しないぞー!」
「・・・兄の権利だよクソども。」「お師匠様の敵はボクの敵だ。相手になるぞ!」
当初は騒いでいたアホどもも、立ちふさがる俺とヴォルフ、クリスのアルゼン男性冒険者三強を前にし大人しくなる。
「まぁまぁ。みんな、仕方ないよ。ここは俺たちが紳士であるということをわかってもらうためにも大人しくしておこう。」
ラウルさんの言葉にしぶしぶ土で出来た大コテージに収容させられる冒険者たち。
なんか今日はラウルさんの株が爆上げだ。何かの前触れなのか。
「こそこそ(いいか、このコテージは土だ。全力で攻撃すれば破壊できるはず。ヒイロが水を張って、風呂方面から女性たちのスウィートボイスが聞こえてきた瞬間に四方を破壊し風呂場へ突撃するんだ。かなりの犠牲がでるだろうが、やつらは所詮三人。誰かが突破すればいい!)」
「こそこそ(ラウルさん、最高です!)」
「こそこそ(一生ついていきます!)」
「何をこそこそしている!」
「「「「「イイエ、ナニモ。」」」」」
やはり何かをたくらんでいるな。
とりあえずさきねぇとノエルさんは死守、カチュアさんもついでに守ってやるべきだろう。
マリーシアさんは・・・臨機応変で。
「さて、全員入りましたかー?」
「「「「「入りましたー!」」」」」
「さぁヒイロくん、俺たちには遠慮せずに風呂に水を張ってきてくれ!」
「・・・ありがとうございますラウルさん。じゃあ、そんなあなたたちにちょっとしてプレゼントです。受け取ってください。」
「? プレゼント?」
俺以外の男性が全員コテージに入ったのを確認する。
さて、俺の独自魔法の見せ所ですね。
「・・・世界よ、凍れ。お前は誰よりも輝いている!≪氷結世界≫!」
俺の結界魔法によってパキパキとコテージ全体が氷に包まれる。
透き通った氷の向こうには何かをギャーギャーわめいているヤローどもと、こちらを向き親指を立てているヴォルフの姿。
俺もグッ!と親指を立て返し、その場を去った。
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