第百四十一姉 番外編『初月姉弟の新技披露会』
ブクマが1234突破したよ~。やったよ~。次々章のネタが浮かばないけど頑張るよ~。
ヒロくんメインのバトル回にしようとしたら、めっちゃシリアスになってしまったので没に。急遽こっちに交代となりました。
ある昼下がり。
実家でゴロゴロしていると、家主から声をかけられる。
「そういえばヒイロ。よく森で自主練習をしているようだが、成果のほうはどうだ。」
「ん~、まぁぼちぼちかな、と。いくつか新魔法は出来ましたけど、実戦投入できるかどうかはまだですね。」
「あら、じゃあ今日はヒロの魔法ディナーショーにしましょうよ!見てしんぜよう!」
「今真昼間やん。」
とはいえ、今日は掃除も皿洗いも終わっているため、特にやることもない。
ノエルさんの意見も聞きたかったし、ちょうどいいか。
「じゃあちょっと見てもらえます?」
「うむ。ヒイロの魔法は独創的なので見ているこっちも面白いし、勉強になるからな。」
「よーし、なら私も新技を披露しちゃおうかしら!」
「「えぇ~・・・」」
「そこは『おぉー!』でしょ!」
さきねぇはぷんぷん顔もかわいい。
そして俺とノエルさんは顔を見合わせる。
「でも・・・なぁ?」
「また自爆するんじゃないの?」
「失礼しちゃうわ!むふふふ、今回のはね~ムラサキ流奥義じゃないのよ?」
「「?」」
「まぁ見てのお楽しみってやつよ!さぁれっつぱーりー!」
テンション高いな~。
そんな感じで三人でノエルの森(仮)の奥に向かう。
そこには広場があり、真ん中にはワゴン車くらいの大きさがある岩が鎮座している。
これはノエルさんが俺の修行用に用意してくれた岩だ。
とても硬く、≪円水斬≫レベルの威力がないと傷もつかない上に、自己再生する特殊な岩なので的にちょうどいい感じ。
「よし、では見ててくださいねー。」パチパチパチパチ!
さて、気合は十分、魔法量も十分!
いっちょいきますか!
「唸れ、俺の上腕二頭筋!吼えろ、俺の上腕三頭筋!ハァァァァァ!」
魔力が水となって俺の右腕にからみつく。
まるで螺旋のように。
その螺旋がどんどん速度を増していく。
そして、俺の魔法が姿を現す。
その姿は。
「ド、ドリルだぁー!!」
さきねぇが大声をあげ、目をキラキラ輝かせる。
そう、俺が作ったのは簡単に言えば水製ドリルなのだ。
この姉、こういうのめっちゃ好きだからな。
「いくぞぉぉぉ!≪水尖撃≫!」
走り出した俺は、その勢いのまま岩にドリルを突き刺す。
ガガガガガガガガガ!
岩を削る音がする・・・にはするんだが、あまり深くは掘れていないようだ。
魔法を解除し、できた穴を見る。
「・・・あんま掘れてないな。」
「・・・そうだな。」
「あれじゃない、きれいな円錐じゃダメなんじゃない?」
「あーなんかドリルの表面に凹凸あった気がする。でもよく思い出せないなー。」
「まぁドリルに詳しい人間とか専門職くらいでしょうからねぇ。でも浪漫はあったわ!」
「ふむ。面白くはあったが、要改善といったところか。」
「ですねー。」
なかなかうまくはいかないにゃー。
「よーし、じゃあ次は私の番かしらね!」
「うい。頑張ってお姉さまー。」
「ゴーメンクダサーイ!」
「なんで今それ言った?」
「ふいんき。なぜか変換できない。」
「はぁ・・・よくわからんがわかったからさっさとやれ。」
さきねぇから離れる俺とノエルさん。
「ふっふっふっふ・・・私がこの日のために昨日から研いでいた隠し技を見せてあげるわ。」
「いや、全然研げてないよねそれ。付け焼刃も甚だしいよね。」
「そんな口を叩けるのも今のうちよ!いっくわよー!・・・ムラサキ流忍法!≪神風≫!」
「うわぁーーーー!」
「む・・・!」
さきねぇを中心に強烈な突風が吹き荒れる!
俺は後ろに数メートルほど吹っ飛び転がってしまう。
ノエルさんは仁王立ちのまま微動だにしていない。すげぇな。
そして、風が止む。
「さきねぇ!すごいじゃん!なんで忍法なのかについては触れないけど!」
「あっはっはっは!そうでしょうそうでしょう!もっとおねえちゃんを褒めるのデース!フォロミー!」
立ち上がりさきねぇがいた方に目を向けるも、姿が見えない。
「あれ?どこいった?」
「・・・そこだ。」
ノエルさんが指差したほうには。
草むらから頭だけをぴょこんと覗かせたさきねぇの姿が。
「・・・つまり、自爆ですねわかります。」
「ち、違うわよ!言うなれば全方位攻撃(ただし敵味方区別なし)ってやつよ!」
「敵味方どころか自分まで吹っ飛んでんじゃねぇか。」
「そこがウケるんじゃない!」
「体を張って笑いを取るな!そういう芸風じゃないでしょ!そういうのはマリーシアさんに譲ってあげるの!」
「ヒイロ、お前もけっこう言うな・・・」
とりあえずさきねぇを草むらから引っこ抜く。
「お!ヒロ、見てみて。とかげー。」
「拾ってこなくてよいの!」
こんなにかわいいのにねー?とか言いながらトカゲを放すさきねぇ。
つーか異世界にもトカゲいるんやな。新発見。
ちなみにさきねぇは爬虫類とか問題なく触れる人だ。
苦手なのは女の子らしく毛虫とかクモとかGなど虫系の一部。
苦手といっても『きゃー怖ーい!』ではなく『ぎゃー!キモいんだよ死ねぇ!』だけど。
「さて、ヒイロ。他には何かないのか?」
「うーん、あるにはあるんですが、ちょっと地味というか。」
「いいじゃない、『良い地味』に定評のあるヒロがお姉ちゃん大好きよ?」
「・・・ありがとう。」
なんか釈然としねぇな。まぁいいか。
「威力がちょっと弱いんで、あそこの木に向かってやりますね。」
「うむ。」
「えるおーぶいいーひ・い・ろ!ぶいあいしーてぃーおあーるわい!」
「懐かしいな!」
中学生の時の運動会の女子応援団の掛け声じゃねぇか。
「では、いきます。ふぅー・・・≪千本桜≫!」
俺は胸をそらし、両腕を大きく後ろに構える。
その後、一気に前方の木に向けて氷の針を投げつけた。
ドドドドド!
木に十本の氷の針が突き刺さる。
「「おおぉ~」」パチパチパチパチ!
「えへへ。」
「「・・・・・・・・・」」
さきねぇとノエルさんは木の方向をずっと見ていたが、こっちに顔を向ける。
「・・・・・・で、これからどうなんの?木が爆発するの?」
「いや、しないよ。」
「これからどうなるんだ?」
「え、終わりです。」
「「え?」」
「これで終わりです。」
「「・・・・・・地味ぃ!!」」
だから地味だって言ったじゃんよ。
「・・・ハッ!?ちょっとエルエル、うちのヒロを地味とか悪口言うのやめてくれない?困るんですけどそういうの。」
「なっ!? お、お前だって言っただろうが!」
「言ってませんー。」
「い、言いましたぁー!絶対言いましたぁー!」
「絶対言ってませんー。もし言ったとしても良い意味での『地味』ですー。」
「わ、わたしだって良い意味の『地味』ですぅー!」
「違いますーエルエルのは悪意が篭った『地味』でしたー。」
「あ、悪意なんか篭ってないですぅー!デタラメですぅー!ムラサキは嘘を言ってますぅー!」
「あーヒロかわいそー。エルエルのせいー。いーってやろーいってやろーせーんせーにーいってやろー。」
「ち、ちがっ!ほ、ほんとに違うぞヒイロ!私は悪意があって『地味』と言ったわけではないぞ!」
「・・・とりあえず地味地味連呼するのやめてくれません?泣きそうなんですけど。」
体育座りでひざを抱えた俺が二人の説得により立ち直るのに、それから数分の時を要した。
「・・・まぁあれは対生物用の魔法なので、木とか岩には効果は薄いんですけどね。」
「むぅ。しかし、あれくらいでは生物にだって効果は薄いと思うぞ?」
「名前の割りには、たしかにねぇ?」
「あの氷の針は中が空洞になってるんです。生物に刺さるとそこを通って血がぶしゃーって吹き出る設計で。返しもついてるから抜こうとしても抜けないし。直撃=失血死みたいなイメージで創造しました。」
「「見た目からは想像できない凶悪魔法だった!!」」
イメージは『敵を毒状態にした後、何十ターンもかけてじわじわとなぶり殺す』感じですね。
「・・・これ、あんまり使わないほうがいいぞヒイロ。」
「ダメですかやっぱり。」
ノエルさんからダメだしが入った。
シュン・・・
「ダメというより、禁呪に近いから危険視される可能性が高い。」
「禁呪?」「禁呪なんてあるの?」
「ああ。『人を殺す事に特化した魔法』は禁呪として扱われる。生魔大戦が終わって人同士の戦争がなくなった時に定められたんだ。今の魔法もそう捉えかねられん。」
「なるほど。なら使わないほうがいいですね。誰かに見られる前にノエルさんに教えてもらえてよかった。」
せっかく創造したけど、≪千本桜≫はお蔵入りか。
あ、じゃあ≪死鱗世界≫も無理だな。相手が生物で未知未見なら確殺だし。ちぇ。
「やるわね、ヒロ!さすがは我が最愛の弟!ならば私も姉として本気を出さざるを得ない!」
なぜかやる気メーターがMAXになってしまったさきねぇ。
腕をぐるんぐるん回しながら岩の前に立つ。
「いっくわよー!ムラサキ流奥義!紫式爆連打ぁぁぁ!」
さきねぇの両拳が真っ赤に燃え上がったかと思うと、すさまじい速さで岩を殴りつける。
ドガガガガガガガガガガガガ!
岩にどんどん亀裂が入る。手は痛くないんだろうか。
つーか・・・
「あの、ノエルさん。さきねぇの腕が残像で四本くらいに見えるんすけど。」
「うむ、かなり早いな。≪炎力強化≫と≪風速強化≫に加え、≪熱掌≫の上位魔法である≪炎拳≫も同時に創造している。私が言うのもなんだが、本当に化け物だなあいつは。」
口がヒクヒクしている俺と呆れた顔をしているノエルさん。
「まぁ、でも・・・」
そのノエルさんの言葉と同時にさきねぇの動きがピタリと止まる。
そして。
ゴンッ!
前のめりに倒れて岩に頭をぶつけるさきねぇ。
「すぴー、すぴー・・・」
「ね、寝とる・・・」
「はぁ・・・ムラサキの魔法量なら当然の結果だ。なんかもう、アレだ。すごい。すごい・・・バカ。」
「つまりバカですねわかります。風邪をひいたらかわいそうだし、帰りましょう。」
眠ってしまったさきねぇを背負い、家に戻る準備をする。
「ムラサキはな~≪炎力強化≫とか≪風速強化≫みたいな魔力を体内に留める魔法の制御は神がかってるんだがな~。外に出すとすぐ魔力が暴走するのはな~。」
「あ、やっぱ暴走なんですかあの自爆。」
「ああ。強すぎる魔力は暴走しやすいんだ。私も昔はよく制御に失敗して半殺しのつもりが9.5割殺しになったもんだ。」
「へ、へぇ~・・・」
9.5割殺しって、ほぼ殺してるんじゃ・・・いや、深くは考えまい。
「こればっかりは少しずつ練習していくしかないんだが、毎回自爆されてもな~。」
「まぁ幸い俺がいつもそばにいますんで、回復に関しては問題ないのが救いですね。」
「だな。性格といい属性といい性質といい、ほんとにお前たち姉弟は上手く出来てるもんだ。」
「これでも双子、一心同体、光と影ですから。」
「うむ。仲良きことは美しき哉、だな。」
「「あははははは!」」
結局、特訓の成果はほとんど発揮できませんでしたが、今日も良い一日でした。まる。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
次章はやっとあの子が再登場します。密かにお気に入りだったので嬉しい。




