第百三十六姉 番外編『夢幻のごとくなり』
番外編ですが、あねおれにしては珍しくちょっと痛々しい場面があります。
後々そこだけ表現を変更するかもしれません。
俺の名前はマルス・スターリンク。B級冒険者だ。
幼馴染三人とともにチームを組んでいて、それなりに有名だと自負している。
俺たちはA級昇格の最低条件の一つとされているベヒモスの討伐に来ていた。
周囲や仲間からは止められたが、俺達四人の力を合わせればベヒモスだって絶対に倒せると思っていた。
仲間たちも俺がそうまで言うのならば、とベヒモス討伐に賛成してくれた。
そしてベヒモスが生息しているという噂のザギン山を歩き回り、ついにベヒモスを発見し、戦闘を開始した。
だが・・・
「グオォォォォォォォ!」
「クソッ・・・」
ベヒモスは体中から血を流してはいるが、いまだ戦意は衰えていない。むしろ、絶対に俺たちを殺すという殺意が迸っている。
重戦士のアランが攻撃を受け止め、弓使いのミディアが牽制し、魔法使いのリンダが攻撃し、俺が倒すというコンビネーションを得意としているが、今はもうそれもできない。
アランはベヒモスの攻撃を何度も受け、ついには吹き飛ばされて大木に叩きつけられて動けない。
ミディアも離れた場所で倒れ伏している。
「マルス・・・あなただけでも逃げて・・・」
「馬鹿なことを言うな!みんなを置いて逃げられるか!」
「でも、このままじゃ全滅しちゃう・・・」
「なら、リンダ。君だけでも逃げてくれ。俺が時間を稼ぐ。」
「ありがとう・・・でも、無理なんだ。」
「無理って、なん・・・」
後ろを振り向くと、俺は体から血の気の引く音を聞いた。
座り込んだリンダには、片足がなかった。
さっきのベヒモスの爪でやられたのか・・・
「えへへ、ドジっちゃったよ。もう、動けない。あなただけでも逃げて。」
「絶対に逃げない!俺があいつを倒す!そして皆で山を降りるぞ!」
自分ではそう叫びながらも、頭の片隅でそれは無理だろうと思っていた。
俺の左腕は折れていて垂れ下がっている。仲間もボロボロだ。
しかし、ポーションはもう尽きた。
山の中には魔物も多い。普段であれば問題ないレベルでも、今の状態では戦えるかどうか。
それに、そもそもベヒモスが俺たちを見逃してくれるとも思えなかった。
あたりを見回す。
血まみれで大木の根元に座り込んでいるアラン。
片足を失ったリンダ。
生きているのかどうかもわからない、地面に伏したままのミディア。
・・・全て、俺のせいだ。
俺は天才剣士なんて呼ばれて調子に乗っていた。
みんなはベヒモス討伐なんてまだ早いと反対してたのに、無理についてこさせた結果がこれだ。
「グルルルルル・・・グラァァァァァァァァァ!」
ベヒモスの前方に魔力の塊が生まれた。
あんな高密度の魔力弾をぶつけられたら、ひとたまりもないだろう。
・・・全滅。アランも、ミディアも、リンダも、俺も。
ここで死ぬのか。こんなところで死ぬのか。
精霊王様、お願いします。どうか助けてください。
みんな俺の大切な仲間なんだ。子供の頃からずっと一緒だった幼馴染で親友なんだ。
そんな願いも空しく、魔力弾はさらに大きくなっていく。
そして、魔力弾の膨張が終わった。
ベヒモスがニヤリと笑ったような気がした。
もう、だめだ。
俺の目に涙が溢れた。
俺が死ぬのはいい。自業自得だ。
でも、あいつらは違うんだ。俺が巻き込んだだけなんだ。
誰か・・・
「精霊王でも魔王でも誰でもいい!俺はどうなってもいい!どんなことでもする!だから、皆を助けてくれぇぇぇぇぇ!」
祈りが通じたのかどうかはわからない。
だがその時、場違いにもほどがある明るくでかい声が響いた。
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁ!」
な、なんだ?上から聞こえたような気が・・・
見上げると、人影が空から降ってきた。
あれは、天使なのか?
「ちぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
天使はまっすぐにベヒモスに向かって落下した。
そして。
ドガァァァァァァァァァァァァン!
激しい音と凄まじい爆風と砂埃が巻き起こった。
とっさに右腕で顔を守る。
何だ?何が起こってる?
「ゲホッ、ゲホッ。砂すごいわね。やんなっちゃうわもう!早くお風呂入りたいー!・・・むむむむ、≪神風二式≫!」
ナニカの声が聞こえると、突風が吹き荒れ砂埃を彼方へと飛ばす。
すごい魔力だ。一体何者なんだ。
「いやーやっぱノブナガ様もたまには全力で振らないとかわいそうよね!技名はどうしようかしら。≪落下星≫とか!?千葉県民らしく!・・・ダセぇ!」
姿を現したのは見惚れるほど美しい女性だった。
しかも、身の丈を超えるような巨大な大剣を片手で肩に担いでいる。
その隣には、頭と胴が分断された巨大な魔物の躯が転がっている。
あのベヒモスを、たった一撃で?
「まぁあとでいっか。いやーしかしでかい豚ね。おいしいのかし・・・お?」
女性と目があう。
「あ、あの・・・助けていただいてありがとうございました!」
「たす・・・?」
女性はかわいい仕草で首を傾げる。
すると、きょろきょろあたりを見渡すと思い出したかのように大声を上げた。
「あ、あーあーあーあー!うんそうよ!私が助けてあげたの!大丈夫だったかしら!?そこはかとないピンチっぽかったわねきっと!キリッ!」
「はい、助かりました。・・・あの!無礼を承知でお尋ねしますが、ポーションをお持ちではないでしょうか!?仲間が、仲間が危険なんです!」
「ポーション?あーごめーん。私ポーション持ち歩かない主義なんだわ。ゴメンネ!」
「そ、そうですか・・・」
「そんなやばいの?」
「すぐにでも回復しないと手遅れになってしまう状況なんです・・・」
「あい、了解。・・・カモーンマイブラザー!ちょっときてー!なんかやばいってー!」
女性は切り立った崖に向かって大声を上げる。
誰かいるのか?
崖の上を見ると、男性らしき人物が見える。
すると、突然その男性が崖から飛び降りた!
・・・かのように見えたが、ロープか何かを体に巻きつけていたらしい。
跳ねるように崖を下ってくる。
崖を降りきると、こちらへ全力で走ってきた。
「大変申し訳ありません!うちの姉がご迷惑おかけしましたぁぁぁぁぁ!」
開口一番体を直角に曲げて謝罪する男性。
今にも地面に平伏しそうな勢いだ。
「い、いえ!こちらの女性に助けていただかなければすでに俺たちは全滅していました。頭を下げるのはこちらのほうです。」
「あ、そ、そうですか?いやーよかった。いきなり『でかい豚がいるわ!ちょっぱやで捕獲してチャーシューにしましょう!』とかいって崖から飛び降りたもんだから、てっきり誰かを踏んづけたとか戦いに横槍入れたとかそんな感じかと。」
「ぶ、ぶた?」
もしかしてベヒモスのことか?
ベヒモスはB級魔物の中でも最上位。そのベヒモスを豚扱いって、この人たちはもしやA級冒険者なんだろうか。
「んで、やばいってなにが?」
「んー?あーそうそう。このにーちゃんの仲間がゲロヤバって話らしいのよ。」
「ゲ、ゲロヤバ?」
「そ、そうなんです!ポーションがあったら譲っていただけませんか!?仲間が大変なんです!」
俺のその言葉を聞くと、男性の雰囲気がガラッと変わる。
「わかりました。・・・まずそこの女性から診ましょう。洒落にならないレベルっぽいですし。ちょっとお姉さま!他の二人もこっち持ってきて!やばそうならそのまま!」」
「あいよ~。」
男性と俺がリンダに駆け寄ると、リンダの顔色は真っ青だった。
「リンダ!しっかりするんだ!」
「・・・ぁ。まる、す。ぶじだったんだね、よかった・・・」
「これはまずいな。彼女の足を捜して持ってきてくれないか?」
「あ、足?足を捜せばいいのか?」
「早く!時間がない!」
彼に急かされ辺りを見回すと、すぐに彼女の片足を見つけた。
すぐに彼の元へ持っていく。
「これをどうするんだ?」
「いいからこの足の断面にくっつけて。」
「え!?・・・こ、こうか?」
「そう、そのままね。ふぅぅ・・・我は水。我は黒。我は生と死を司るモノ。我は世界に零れ落ちた、命の始まりの一滴・・・≪神聖杯水≫!」
その掛け声とともに、彼の手元から水が溢れ零れだす。
その水がリンダの足にかかると。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「リンダ!」
「抑えてろ!」
「でも痛がってる!」
「だから抑えてろって言われてんでしょーが。」
「ガッ!?」
いつのまにかアランとミディアを運んできた女性に頭を殴られる。
「いいから見てろバカ。私の弟なめんな。」
「・・・わかった。」
すると、あれだけ痛がっていたリンダの悲鳴が弱まる。
そして。
「ふぃぃぃぃ、なんとか繋がったな。きれいに切断されていたのが不幸中の幸いでしたね。」
「・・・え?」
「・・・嘘、でしょ?」
驚くことに、リンダの足はくっついていた。
まるで怪我なんてなかったかのように。
「とりあえずくっつけただけだから、激しい運動は当分控えてね。あとはこれ飲んで。≪聖杯水≫!」
「ま、まさかこんなところに高位の司祭様がいらっしゃるなんて・・・」
「奇跡だ・・・」
「司祭?いや、俺単なる冒険者っすよ?」
「・・・え!?」
俺たちは呆然としていた。
切断された足をくっつけるなんて高度な回復魔法を扱える冒険者なんて数えるほどしかいないはず。
そんな回復魔法が使えるならば教会で即司祭になれるようなレベルだ。
当然冒険者よりも地位も名誉も金も、全てにおいて上回っている。
そのため、強力な回復魔法の使い手はほとんど教会に就職するのだが・・・
その後、俺達四人とも彼に回復してもらった。
最初はとても痛熱いが、すぐに傷がふさがった。
なるほど、こんなすごい回復魔法の使い手がいるのだ。彼女がポーションを持たないのも頷ける。
「助かりました。なんとお礼をいえばよいかわかりません。」
「まぁまぁ。お互い冒険者なんだから助け合い精神ですよ。」
「でも、ほんとにタダでいいんですか?教会でお願いしたら、それこそ10万パルでも足りないですよ?」
「単なる通りすがりですから。縁は異なもの味なものってね。」
そう、彼は治療費はいらないというのだ。
こんな山奥で全滅寸前のチームを救い、さらには全員を完全回復させたのだ。
本来なら10万パルどころか、100万パル請求されてもおかしくない。
お金に困ってはいないということか。
「もしや、お二人はA級冒険者の≪水晶結界≫アラド殿と≪飛翔戦姫≫ゼオラ殿では?」
「「誰それ。」」
「あ、違いましたか・・・」
人違いだったか。
ちょっと恥ずかしいな。
「自己紹介が遅れました。俺たちはB級チーム≪星の煌き≫のマルスです。」
「同じく、火魔法使いのリンダです。」
「同じく、重戦士のアランだ。」
「同じく、弓使いのミディアですわ。」
「あ、これはこれはご丁寧に。俺たちはC級冒険者でヒ「「「「C級!?」」」」
C級?今、C級といったか?
俺達四人がかりで倒せなかったベヒモスを(弱っていたとはいえ)一撃で斬り殺した女剣士と、ベヒモスの爪で切断された足を元通りに復元するほどの回復魔法の使い手が、C級?
「はい。今年C級になったばかりなんですよ。」
「とはいえ、冒険者暦二年だけどね!なんつーの?溢れる才能ってやつかしら!わっはっはっは!」
「そ、そうか・・・俺たちもそれなりに才能ある冒険者だと思っていたが、上には上がいるんだな・・・」
「これも何かのご縁ということで、今後ともよろしくお願いします。あ、そうだそうだ。まだ名前言ってませんでしたね。俺たちは~」
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「という夢だったわ!」
「・・・突っ込みどころ満載ですねお姉さま。なんでベヒーモス一撃で殺してんだよ。ダメージ9999じゃねーか。風魔手裏剣か。」
「というか、なぜそのマルスとかいう男の視点なんだ。意味がわからん。」
「まぁ夢なんてそんなもんでしょ。」
「ま、そりゃそうだ。」
「「「あはははははははは!」」」
この夢がその後正夢になるとは、今の時点ではまだ誰も知らない。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
というわけで、第百三十一姉でムラサキさんが見た夢の内容でした。
本来はあねおれ完結後の『あれから○年後』みたいな外伝のつもりで考えていたものです。でも書いちゃう。書きたかったから。
次の更新はちょっと時間かかるかもです。というのも、いちゃラブオンリー話を書こうと思ったらまぁ難しいこと。どうなることやら。
超他人事!




