第百三十四姉「栄えある一航戦ですので。このくらいは当然です。」
今回のトラップがわかる人は間違いなくPS最初期世代のおっさんです。
「色々仮説はあるみたいだが、どれが正しいかは不明だな。というより冒険者にとっては『なぜ魔物は階段を使わないのか』という疑問より『魔物は階段を使わない』という事実のほうが重要だしな。」
「まぁわかったところで『それがどうした』って気もするしねー?」
俺たちはそんな会話をしながら地下への階段を下りていった。
~2階層~
「お、ほんとに薄暗くなったわね。」
「俺の中光石台車と小光石たすきの本領発揮だね!」
さっきまでは普通に照明ついてるんじゃないの?ってくらい明るかったが、ここは薄暗い。
まぁ光台車のおかげで前方はめっちゃ明るいから、用心するとしたら後ろからの奇襲くらいか。
さっきよりもちょっと緊張しながら先に進むと、前方に影が。
あれは・・・
「げっ。ヘドロンじゃんやだー。」
ヘドロンは泥状のE級魔物で、E級の中では耐久力が高い部類に入る。
とはいえ俺達姉弟にとってはそんなに強くない魔物なのだが、こいつはやっかいなところはそんなところではない。
こいつはとても臭いのだ。近づくと匂いが移るくらいに。
しかもヘドロンの泥は服につくと落ちにくく、洗濯にとても手間がかかるのだ。
主夫としてそんな敵と近接戦闘なんてありえない。
アウトレンジで決めるぜ!
「見えるぞ・・・俺にも敵が見える!」
ニュータイプになった気になりながら≪水矢≫を放つ。
ヒュ・・・・・・・・・・・・・ザシュ!
水の矢が刺さったヘドロンがどろどろと溶け出した。
「あた~り~。」
さきねぇの声に一礼する。
弓道は基本的に弓道場で声をあげてはいけないのだ。
まぁここは弓道場じゃないんだけど。
さきねぇがエアマイクインタビューをしてくる。
「素晴らしい一射でしたね。」
「栄えある一航戦ですので。このくらいは当然です。」
「大きくでたわね~。」
そんな感じで先に進むと、今度は不気味な物体が3つ、カタカタと音を立てながらこっちに向かってくるのが見えた。
「おー、懐かしのスケルトンちゃんね。」
「どっちやる?」
「ここは私に任せてもらいましょうか!」
さきねぇはミカエルくんを肩に担ぐと、ズンズンと前に進む。
と、突然引き返してきた。
「どうしたの?」
「いや、今ふと気になったんだけど・・・スケルトンってどうやって動いてるの?」
「え?あれじゃない?魔力的な何かじゃないの?」
「いや、そういうことじゃなくて。あいつらさ、骨だけじゃん?筋肉ないじゃん?どうやって歩いたり武器持ったりしてんの?」
「・・・おー、言われてみれば確かに。謎だね。」
「なぜこのタイミングでそんな意味のわからんところに注目するんだ・・・」
ノエルさんが感心してるんだか呆れてるんだかよくわからない声を出す。
好奇心旺盛なもので。
「・・・並外れたボディバランスで支えてるのかしら?」
「うーん・・・実は骨の中に筋肉があるんじゃないの?」
「キモッ!」
見れば見るほど、考えれば考えるほど謎は深まるばかり・・・
とか言ってたらもうスケルトン三体は目前まで迫ってきていた。
「おおぅ、いつのまに!」
「まさか、これがやつらの作戦!?」
「いや、普通に歩いてきてたが・・・」
まぁ当然さきねぇのダッシュラリアットで三体まとめてKOしたんだけどさ。
「二人とも、色々なことに興味を持つことは結構だが、やることをやってからにしなさい。」
「「はぁ~い。」」
落ち着きのない小学生みたいな怒られ方をしてしまった。
さらに進むと、直進と右の分かれ道にでる。
さきねぇがお宝の匂いを嗅いでいる間に、氷の彫刻を作る。
ねずみの次は牛やな。
コトッと分岐点に置く。
「おお、今度こそぶ「牛です。」ぅし!牛だな!すぐにわかったぞ!」
子供の落書きを見せられて『なにをかいたかわかる?』と質問されたおばあちゃんのようだ。
大変だなぁ。
まっすぐに進んでいくと、それなりの広さがある部屋に出た。
部屋の真ん中には宝箱がぽつんと一個ある。
これだけの広さの部屋に、一個だけ宝箱。しかも真ん中に。
・・・あやしい。
「罠・・・ですかね?」
「多分あるだろうな。あからさますぎる。慎重にな。」
「はい。」
「気をつけてねー!」
俺はスマート棍棒を取り出し、周囲の床を叩きながら少しずつ宝箱に向かって歩を進める。
今のところは何もないな。考えすぎか?
いや、用心するに越したことはないからな。
ちらっと後ろを振り返ると、(魔法袋から取り出した)イスに座りテーブルにお茶菓子を置き、優雅に紅茶を嗜むさきねぇとノエルさんの姿が。
・・・お腹すいたな。さっさと宝箱の中身を確認してあそこに混ざりたいぜ。
そしてなんとか宝箱前に到着する。
スマート棍棒で宝箱をつつくが、反応なし。ふー、思い過ごしか。
「大丈夫だったー!宝箱開けるねー!」
「おねがーい!」
宝箱を開けると、そこにはズッシリと重量感のある石版が。
取り出す。
「よいしょっと。」ガコン
え?ガコン?
「ブフォ!ゲホッゲホッ・・・ヒロー!上ー!!」
「え!?」
紅茶を噴出したさきねぇの言葉を聞き上を見上げると、天井の一部が開き、そこから大きなクレーンが!
・・・クレーン?
まさか。
ガション!
「ギャー!挟まれたー!」
「ぶわははははははは!」
「ぬ、抜けない・・・!」
胴体をクレーンに挟まれた俺は、そのまま持ち上げられ宙ぶらりんの状態になっている。
ゲームセンターの景品になった気分。
そして。
グォングォングォングォン
俺の捕まえたままぐるぐる回り始めた。
「た~すけて~。」
「ヒ、ヒロがほかくされたわ!はやくたすけないと!」
早く助けないととか言ってる割に、俺を指差して大爆笑しとる。
ノエルさんは笑顔で手を振ってるし。
なんというKUTUJOKU!
結局十数回ほど回された後、クレーンがカパッと開く。
当然重力下なので落ちる。
「着地!」
華麗な着地を決めると、さきねぇがダダダ!と走り寄ってくる。
「なにあれすごい楽しそうなアトラクションだったわね!私もやりたい!」
「あー宝箱に入ってる石版を持ち上げると発動するっぽいよ。」
「マジで!?いってきます!」
まだお茶を飲んでるノエルさんの下にいき、一杯ご馳走になる。
「なんなんですかアレ。人間を恥ずか死させる拷問器具ですか。」
「あはははは。まぁアレは事前知識がないとなかなか避けられないな。」
「きゃー!宇宙人に捕まったー!キャトルミューテレーションされるー!」
後ろを見ると、クレーンに吊るされて回転しながらテンションアゲアゲなさきねぇの姿が。
「ダメージとか全然なかったですけど、結局あれはどういう意図の罠なんですか?」
「まだまだ甘いなヒイロ。集中して自分の魔法量を把握してみなさい。」
「了解です。」
実は『自分の総魔法量の把握』という作業は魔法使いにとってかなり重要だ。
ゲームと違って『自分のMPはいくつ』で『この魔法はどれくらいMPを使う』といったことが数字ででないからだ。
よって普段から自分の総魔法量や創造する魔法の魔法使用量などはこまめに測らなくてはいけない。
最後に頼りになるのは反復練習と経験というお話。
目を閉じて集中する。
・・・あれ?
「なんか魔法量がちょびっとだけ減ってますね?」
「そう、それがあの魔法クレーンの効果さ。魔力が吸い取られるんだ。」
「あら。じゃあ魔法使いにとっては天敵ともいえる罠ですね。」
「そういうこと。まぁ魔法クレーンは大き目の部屋にしか設置されないから、今後は気をつけるように。もし魔境クラスのダンジョンでアレに引っかかったら、上級魔法使いでも一発で使い物にならなくなるからな。」
「気をつけます。」
あれ。魔力を吸い取るってことは、もしかして。
魔法量G(-)の人が少量とはいえ魔力を吸われたら。
「ただいまー。なんかめっちゃ眠くなってきたんだけど。」
「やっぱりか!ほら、グリーンエーテル飲みなさい。」
「それまずいから嫌いー。」
「じゃあ黒ポ飲むか?」
「喜んでエーテルを飲ませていただきます。」
ですよね。
エーテルを飲み終わり、なんとか眠気を振り払ったさきねぇを連れて元の分岐点に戻る。
「さすがのさきねぇの宝箱センサーでも『宝箱』には反応するけど『宝箱の中身』には反応しないんだね。」
「困ったもんね!」
全然困った顔をせずに笑ってるお姉さま。
まぁいいけど。かわいいし。
そのまま先に進むも、E級魔物がちょくちょくでてきて瞬殺だったので、またも割愛。
突き当たりの部屋で無事に下りる階段を発見した。
「次が最下層ね。」
「ボスとかいるのかな?」
「ここはE級の最上位か大量のE級魔物がいるかのどっちかだな。決まった魔物はいないはずだ。」
「できるならそれなりに強い魔物と戦いたいわね。」
「バトルマニアめ。」
「ちっちっちっ。甘いわね、ヒロ。私は戦うのが好きなんじゃないわ・・・勝つのが好きなのよ!」
「実にムラサキらしいな。」
そうして、階段を下りていくのだった。
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