第百二十九姉「先生、バニャニャはおやつに入りますか!?」
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自分の作品を待っていてくれる人がいる、というのは涙がでそうになるくらい嬉しいです。ありがとうございました。
「お疲れさまでーす。」「お疲れちゃーん。」
「あ、ヒイロさんムラサキさん!お疲れ様です!ブルーハーブいっぱい採れましたか!?」
「砂漠に植林でもするの?ってくらいに森の奥地でがっつり採ってきましたよ。」
「さすが鈍器姉弟ですね!すごい!」
疲れた顔でギルドに入った俺たち姉弟を、マリーシアさんが笑顔で迎えてくれる。
いやー今日もがんばって働きました。
なぜかブルーハーブの発見率が落ち込み、ブルーポーション(通称ぶるぽ)の流通数が少なくなってきたとかいう理由でブルーハーブ収集にでかけていたのだ。
当初はさきねぇが『その依頼を受けることによって私たちに得があるの?ああ、この依頼を受けてよかったなーっていう満足感と幸福感はあるの?』という難癖をふっかけて断ろうとしたのだ。
そもそも俺たち姉弟には≪聖杯水≫があるからポーションなんて必要ないしね。
しかし、マリーシアさんの見事な空中二回転半土下座(着地は顔面)を目の当たりにし、首を縦に振らざるを得なかった。
さきねぇは『私でさえやったことのないような大技を・・・悔しい!』とか言ってライバル心を燃やしていた。
芸人じゃないんだから、そういうので張り合わなくていいのよ?
「ちょう疲れた!もう当分ブルーハーブ採取なんてやんないからね私!スーにでもいかせなさいよ全くもぅ!」
「いや、スレイたちも含めて、いける人総出でブルーハーブ採取に出てるんだってば・・・」
「じゃあ私たちの分も含めて今の五倍くらい働かせなさい。」
「あんた鬼か。」
さきねぇの鬼上司のような発言に、周囲の冒険者も『悪魔だ・・・』『美しい女魔王を発見してしまった・・・』と顔を青ざめていた。
「え、えっと・・・あ!そういえばノエル様宛にお手紙が届いてるんです!ヒイロさん、お渡ししてもらってもいいですか?」
「ええ、わかりました。持っていきますよ。」
本来ならば本人以外に手紙などを渡してはいけない決まりになっているのだが、ノエルさんはギルドにほとんど顔を出さない上に自宅は結界が張ってあり普通の人では入れない。
そのため、ノエルさんの許可をもらい準家族の俺たちに郵便物を手渡すことになったのだ。
「じゃあ郵便物を渡しますので手をだしてください。」
「? はぁ。」
よくわからないが手を差し出す。
すると、俺の手をぎゅっと握りながら手紙を渡すマリーシアさん。
なにがしたいのこの人。
「あ、ごめーんマリすけ!体が滑っちゃった!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い!ほんっとに痛い!やばいですそれ!それやばい!」
どう体が滑ったらこうなるのか全くわからないが、さきねぇのコブラツイストがマリーシアさんに完全に決まっていた。
「タイトルをつけるなら『美しき蛇の女神と哀れな生贄』でどうだろうか。」
「タイトルとか!どうでも!いいですから!誰か助けてぇぇぇぇぇ!」
「「「「「わははははははは!」」」」」
「笑ってんじゃねーぞてめぇらぁぁぁぁぁぁ!」
今日も平和な冒険者ギルド・アルゼン支部だった。
そして、実家に帰る途中。
「でも、珍しいわね。エルエルあんまり友達いないっぽいのに手紙が届くなんて。もしや迷惑DMとかだったりしてね。ぷくく。」
「ノエルさんに迷惑DM出すような命知らずがいるとは思えんが・・・」
ノエルさんに迷惑DMなんて送ったら、大陸の果てにいようと一ヶ月以内に特定されて何もかも燃やされると思う。
「まぁノエルさんに渡せばわかるでしょ。」
「それもそうね。」
「ただいま帰りましたー!」「ただーまー!」
「あぁ、おかえり。今日は遅かったな。もう夕食の準備はできてるぞ?」
フリフリのエプロンをつけたノエルさんがおたま片手に出迎えてくれる。
ベリーベリーかわいいですね。
「あ、ノエルさん。なんかお手紙が届いてましたよ。これです。」
「ん?ああ、すまんな。」
ノエルさんに手紙を渡す。これでミッションコンプリート。
「なんかぶるぽが足りないとかいって駆り出されてさー。もうちょうめんどくさかった!」
「ああ、ハーブ採集にいっていたのか。たまにあるんだよ、そういう時期が。」
「ブルーハーブは森の奥地じゃないと見つかりづらいから、アルゼンだと流通が少なくなっても仕方ないですしね。」
「そういうこ、あ、こら!ムラサキ!つまみ食いするな!まず手を洗ってきなさい!」
「うぇ~い。」
そんなこんなで夕食をとり、日課の洗い物に精を出す。
ノエルさんはリビングで手紙を読み、さきねぇはなぜか1人で黙々とエアギターの練習をしていた。
楽器やラジカセのようなものはないので口で『ギュィーーーン!』とか言ってる。
あんな技を仕入れてどこで使うんだろうか。そもそもこの世界にギターはあるのだろうか。
「・・・ふむ。やっときたか。」
そんなことを思っていると、ノエルさんが手紙を読み終えたようだ。
洗物も終わったので、手を拭きながらノエルさんに話しかける。
「その様子だと、緊急事態を知らせる文ではないみたいですね。」
「ああ、そういうのじゃないよ。頼んでおいたものがやっと届いたというだけだ。」
「懸賞品?確かにエルエルの場合、雑誌とかで明らかに使わなそうなお皿とかトースターとか応募してそうよね。おかんっぽいから。」
「何を言ってるのかよくわからんが・・・それより二人とも。明日以降で何か用事はあるか?」
「えーっと、特には「ある!」・・・あったっけ?」
「ヒロといちゃいちゃするという、山より高く、ドラゴンの炎より熱い用事があるわ。」
「・・・つまり、ないんだな。」
「まぁぶっちゃけるとないわね。」
「なんで無駄に見栄張ったし・・・」
まぁ姉とのスキンシップとか、大切な用事には違いないけどね!
「では、明日にでもいってみるか。」
「? どこにですか?」
「ふふふふふふ・・・ダンジョン、だよ。」
「「・・・ダンジョン!?」」
まさか本当にダンジョンにもぐる事になろうとは。
中で死んだら生き返れるんだろうか。かわいい魔物が入り口まで運んで蹴り飛ばしてくれるんだろうか。
心配でたまらない。ドキがムネムネしちゃう。
「腕が鳴るわね!目指すは黄金鳥の捕獲よ!」
「ノ、ノエルさん!ダンジョンにはアイテム持ち込み可能ですか!?20個までとか制限ありますか!?制限あるなら壷をいっぱい購入してこないと!」
「・・・なぜ壷?」
ノエルさん困惑。
「だ、だって壷がなかったら大変じゃないですか!武器と盾と矢とアクセサリー以外は全て壷に入れるのが基本ですよ!?」
「・・・あー、ヒイロが何を心配しているのか全くわからないしどこの世界の基本なのかもわからないが、アイテムの持込制限なんてないぞ?そんなものがあったらダンジョン攻略が困難になるだけだし。」
「そ、そうですか。そうですよね、持込制限なんて馬鹿らしいですもんね。あと、えと、あ!ほ、方眼用紙!方眼用紙って売ってますか!?あれがないとマッピングが!?」
「ホウガンヨウシって何!?」
「先生、バニャニャはおやつに入りますか!?」
「知るか!」
いつもどおり、混沌としている我が家だった。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、アルゼンダンジョンは簡単だから。お前たち二人なら着の身着のままでもクリアできると思うぞ?ダンジョンの雰囲気を味わうだけだし、私も付き添いで付いていくから。」
「えー、エルエル別についてこな「姉さん、付いてきてもらおうね?」三人で仲良くいきましょ!」
「なら決まりだな。今日はゆっくり休んで明日に備えなさい。」
「うぃっす。」「はーい!」
ということで、早めの就寝。
「いやー楽しみね!今日眠れるかしら!」
「遠足前の小学生じゃないんだから・・・俺は逆に全てのトラップにひっかかる気しかしなくて眠れる気がしないよ・・・」
「心配性ねーヒロは。ダイジョブダイジョブー!」
「その明るさと前向きさを一割でいいから俺もほしかったよ・・・」
そして 夜が明けた !
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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