第百二十七姉「いや、だって、流れ的にそんな感じじゃなかった!?俺!?俺がおかしいの!?」
剣をチャキと構えるゲンガー一味。
そっちがその気なら仕方ない。
そして俺は切り札を、やつらにとっての死神を切った!
俺は息を吸い込み、世界最高最強の呪文を唱える!
「ノエルさぁぁぁぁぁん助けてぇぇぇぇぇ!殺されるぅぅぅぅぅ!」
ダダダダダダドガァァァァァァァァン!
「どうしたヒイロ!何があった!」
ドアを蹴飛ばし、ノエルさんが現れた。
そう、ここは教会だったのだ。
今日はノエルさんはアメリアさんとお茶会であるというスケジュールを把握していたため、ここを目指したのさ!これも仲良し家族だからこそ出来る芸当よ!
そしてこれがメテオ、ホーリーに続く第三の究極魔法『英雄召還』!
消費MP0でセイバー、ライダー、キャスター、バーサーカーの四つのクラスを兼ね備える超強力な英雄を召還する大技だ!
欠点として『大声を出すため喉が痛くなる』『ノエルさんが近くにいないと意味がない』『傍から見ると身長170台後半の大の男が女性の名を叫び、その結果幼女が助けに来るという究極的なダサさ』があるため、多用はできない。
でも命にはかえられないからね。
「ヒイロ、一体どうしたんだ?こいつらは?」
「いきなり襲ってきて、俺のことを殺すって・・・」
「・・・ほぅ。」
何が起こったのかわからずオロオロしていたノエルさんだが、俺の怯えた態度とその言葉、やつらの手にある剣と殺気を感じ取ると気配が切り替わる。
「誰が、誰を、殺すって?」
ノエルさんの魔力が一気に噴出し、教会内の気温が一瞬にして上昇する。
にも関わらず、体の震えが止まらない。
四人の男達だけでなく、俺も。
「誰かを殺そうとしたんだ。殺される覚悟もあったんだろう?ならその覚悟に殉じろ。」
そう言うと、魔法袋から光り輝く剣を取り出し構えるノエルさん。
・・・ちっちゃな体なのに、見上げるほどの巨人と錯覚してしまいそうな威圧感。四人組は真っ青な顔になっている。
すると。
「お、お待ちくださいノエル様!私達はあなたに敵対するつもりはありません!」
ゲンガー隊長が帽子を取り、剣を床に置くと膝を付く。
「・・・お前は?」
「私はトポリス王国近衛騎士団所属、ゲンガー・パトリオット上級騎士と申します。私どもは姫を誘拐した犯罪者を断罪すべくここに来た次第であり、貴女様に敵対する意思はございません!」
「・・・どういうことだ?」
「知らないです!」ブンブンブンブン!
ノエルさんの問いかけに思いっきり否定する。
「ふぅ。とりあえず双方武器を収めろ。話を聞かなければわからん。」
「話なぞ必要ない!その男を引き渡せ!」
「・・・私はお願いをしているのではなく、お前らのために提案をしてやったのだがな。それならそれで構わんよ。私は全面的にヒイロを支持するだけだ。」
「ま、待ってください!武器を収めます!」
「隊長、何を弱気なことを!」「そうです!」「我らの忠義を見せるときです!」
なんだ、やる気か。うちのおばあちゃんなめんなよ?
「バカモノ!あの方は『破軍炎剣』のノエル・エルメリア様だ!我らが束になったところでかすり傷一つつけられん!」
「バ、『破軍炎剣』!?」「あの、生ける伝説と言われるS級冒険者の・・・」「生魔大戦の英雄・・・」
隊長の言葉に、すぐに剣を収めひざをつく男達。
あー、本当はこんな感じなんだ。ばーにんぐぴあす(笑)とかいってごめんなさい。
「では、ヒイロから。」
「は、はい。えっと、この貴族のみーこが迷子になっていたので保護していたんです。アルゼンが初めてみたいだから色々案内してたら、この人たちの仲間がいきなり襲い掛かってきて・・・」
「姫様にたいしてなんたる無礼!」
「・・・姫様、なの?」
みーこに問いかける。
「・・・はい。今まで黙っていて申し訳ありませんでした。私の本当の名前はミレイユ・ヴァン・ガスト・トポリス。この国の第四王女です。」
「はーなるほどー。どうりでしっかりしてるわけだ。」
「・・・次に、お前達。」
「・・・はっ。姫様を連れて外遊している際、アルゼンに立ち寄りました。ほんの少し目を離した隙に姫様の姿が見えなくなり、血眼になって探しているところにこの小僧と娘が姫様をさらっている場面に出くわしました。」
「ち、ちがうのですゲンガー!この方達は私を助けてくださったのです!」
みーこ、いや、ミレイユ王女が必死に説明してくれる。
まとめると、話はこうだ。
王位継承権はかなり低いらしいが、それでもみーこも王女様。
重要度が低く、比較的安全であるアルゼン周辺を視察する外遊にでた。
その外遊も終わりに近づき、アルゼンに着いて少し目を離した隙にミレイユ姫が姿を消した。
探し回っている時に見知らぬ冒険者風の男女(つまり俺達だ)が姫を連れていたのを見て、姫が誘拐されたと思った。
話し合えばよかったのだが、姫を発見した騎士が忠義に厚く、根がたんじゅ、真っ直ぐすぎたために『姫が誘拐された→犯人発見→殺す!』となったらしい。超短絡的!
そして護衛総出で誘拐犯を追い、なんとかこの教会に追い詰めた。
と思ったらノエルさんが出てきて殺されかけた、ということだ。
「姫様、なぜ我らから離れたのです。」
「ごめんなさいゲンガー。でも私は決められた道を通り、決められた人に会い、決められた言葉を話すのではなく、その土地に暮らす人々の心からの声が聞きたかったのです。」
「ひ、姫様!」「なんと健気な!」「ご立派でございます!」
護衛さんたち大号泣。
「まぁこれもいい経験じゃない?女だろうが男だろうが、人生、時にはちょっとした冒険も必要よ?」
「さきねぇの場合、ついていく俺は綱渡りレベルの冒険だらけだけどね!」
追いついたさきねぇに文句をつける。あなた、常に冒険してるよね。
「ムラサキ様、ヒイロ様、ご迷惑をおかけしました。今日の出来事は一生忘れません。」
「こちらこそ、お姫様と一緒に観光するなんて珍しい体験ができたよ。」
「みーこ、次にアルゼン来たらまた一緒に遊びましょうね。次はもっとびっくりどっきりコースを用意しておくわ!」
シャレにならなくて怖いよ。
そしてお姫様をみーこ呼ばわりしたせいか、護衛の人たちがすごい目で睨んでくる。
「ムラサキ様、少し屈んでください。」
「? こう?」
近づいてきたみーこが、屈んださきねぇの頬にちゅっとキスをする。
「あら。んふふ、じゃあ私も、ちゅー!」
二人で頬にキスをしあう。
さて、次は俺の番か。やれやれ、幼女にキスされて喜ぶ性癖はないが、お礼とあれば仕方ない。
逃亡中のお姫様を助けて、最後にキスをして別れるとかファンタジーの王道だしね!
幼女とはいえ、ボーイミーツガールでお姫様に惚れられちゃうのも王道だし!仕方ないね!
さきねぇの横に屈むと、みーこはすたすたと護衛さんたちのところへ戻っていく。
「え?」
戻ったみーこと目が合う。
「アレ!?俺は!?」
つい口が滑ってしまった!まずい!
急いで口をふさぎ、あたりを見渡す。
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
みーこ以外の全ての人間から『この変態ペド野郎・・・』という冷たい視線を浴びせられる。
俺は無実だ!冤罪なんだ!お願いだ、弁護士を呼んでくれ!俺は嵌められたんだ!
「・・・ヒロ?」
「いや、だって、流れ的にそんな感じじゃなかった!?俺!?俺がおかしいの!?」
挙動不審MAXな俺に、みーこがすまなそうな顔をする。
「申し訳ありませんヒイロ様・・・いくら恩人といえど、ゼフィお兄様とルバーニお兄様以外の男性とキスをするのは、ちょっと。」
「だ、だよねだよね!わかるわかる!俺もさきねぇ以外の人とキスするのはちょっとね!うん、わかるわー!」
こいつもブラコンなのか。この世界のシスコンブラコン率高ぇな。
類は友を呼んじゃう感じなんだろうか。
「では、ムラサキ様、ヒイロ様。本当にありがとうございました。またいつか、必ずお会いしましょう!お元気で!」
「みーこも元気でなー!」「風邪ひかないようにねー!」
大きく手を振りながら、護衛の人たちと一緒に少しずつ離れていくみーこ。
・・・そして、ついに姿が見えなくなった。
「・・・いっちゃったわね。」
「・・・そうだね。」
「一日しかいなかったけど、なんか寂しいわね。」
「まぁいつか会えるよ。」
「今度私が王都に呼ばれたら、二人も一緒にいくか。王城に入るからきっと会えるぞ?」
「さすがノエルさん!すごい権力!」
「でもまた門番に『お嬢ちゃん、いい子だから帰ろうね?』とか言われて顔真っ赤になるんでしょ?」
「そ、そんなことはない!・・・はず、だ。」
ちょっと自信なさげなノエルさん。
みーこがいなくなってちょっと寂しいから今日はいつも以上にノエルさんを目で愛でるか。
「さて、帰ろうか。」
「ですね。」「うぃ~。」
三人並んで家路につく。
「・・・ヒロ、うまく誤魔化せたと思ってるかもしれないけど、帰ったらお仕置きだからね。」
「あ、あばばばばばばば・・・」
その後、みーこは『ホーンラビットの串焼きとお子様ランチの好きな庶民派王女様』として国民から末永く愛されることになる。
ある時、一人の貴族が『王女がなぜ串焼きとお子様ランチを好むのか』と聞いた。
するとみーこは『大切な友人との思い出の食べ物だからです!』と輝くような笑顔で答えたそうな。
(不可抗力なのにお仕置きされた俺以外は)めでたしめでたし。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
これにて姫との遭遇編の終了です。
あねおれは王道ファンタジーではないのでヒロくんがお姫様に惚れられて、なんて展開はもちろんありません。困ったもんだ。




