第百二十六姉「そうなんですか。早くよくなってくださいね?」
感想いただきました。ありがとうございます。
さすがに子供はできません(笑)まだその時ではない・・・今はまだ、な。
「いらっしゃいませー!なんめ、ってヒイロさんたちですね!こちらへどーぞ!・・・って、ノエル様、ちょっと縮まれました?」
「いや、別人別人。」
「・・・・・・わかってますよぉ、嫌だなーもー!」
絶対わかってなかっただろ。
「はい、こちらメニューになりまーす!決まったら呼んでくださいねー!」
「ありがとー。みーこ、文字読める?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあこれどーぞ。」
「私のおすすめはねぇ~・・・」
さきねぇとみーこが二人仲良くメニューの覗き込んでキャイキャイやってる。
・・・なんかいいなこういうの。
もしさきねぇと俺の間に子供でもできたらこんな感じなんだろうか。
そしたらめっちゃかわいがるな。
『今日はパパと一緒にお風呂入るー!』とか『おっきくなったらパパと結婚するのー!』とか。
やばい、ミニさきねぇからそんなこと言われたら鼻血出して倒れそう。
そして大きくなったら『パパ、私、好きな人が出来たの・・・』って
「どこの馬の骨だ!」
「「「「「「何が!?」」」」」」
さきねぇとみーこだけでなく、ウェイトレスさんや近くの客たちからも突っ込まれてしまった。
ふぅ~クールダウン~。
「よし、冷却完了~。」
「あの、ムラサキ様?ヒイロ様は一体・・・?」
「ちょっと頭の病気なのよ。暖かい目で見守ってあげて。」
「そうなんですか。早くよくなってくださいね?」
「うぉ、まぶしっ!」
幼女にマジ心配される、哀れな俺だった。
「あ、お子様ランチあんじゃん。すげーな異世界。みーこはこれね。」
「あ、はい。ムラサキ様にお任せします。」
「俺はハンバーグル(大)にしようかな。」
「じゃあ私は・・・はらぺこ定食!ライスで!」
「マジかよ・・・よく食えるなあんなの。」
ハンバーグルとはハンバーグをベーグルっぽいパンで挟んだもの。
つまるところハンバーガーだ。この世界ではどちらかといえば高級メニューである。
はらぺこ定食はお腹をすかせた大食漢冒険者の為に用意されたメニューで、パンorごはんがドーン!お肉バーン!野菜ボーン!のシンプルな大盛りメニュー。
俺は食べるのが遅いタイプなので、アレ、途中で味飽きちゃうんだよね。
「すいませーん!注文お願いしまーす!」
「はいどーもぉ!何にします?」
「えっと、お子様ランチとハンバーグルの大とはらぺこ定食で。」
「承りましたー!はらぺこ定食大好きですねー!」
「ほっとけ。」
それから程なくして、みーこは届いたお子様ランチに目を輝かせ、『王国の宝!』を連発していた。かわいいのぅ。
さきねぇのはらぺこ定食の食べっぷりに拍手が送られる中、俺とみーこはゆっくりまったりと食事を済ませた。
会計を済ませ、店を出る。
「どうよ、みーこ。貴族の豪勢な食事もいいけど、街の定食屋もばかにできないでしょ?」
「はい!とても美味しかったです!」
「次は・・・ユリシロでもいく?庶民がどんなもん着てるかとか気にならない?」
「なります!」
「じゃあユリシ「いたぞ!」
その言葉とともに、軽鎧を装備した戦士っぽい男がこっちに向かってきた。
あ、お迎えかな?
みーこを見ると、さっと俺の後ろに隠れた。
ありゃ、まだ遊び足りないか。
そんなことを思い、向かってくる男を見ると・・・え、剣抜いてる!?
「おいおいおいおい、どういうことだよ!?」
「ヒロ、下がりなさい!」
さきねぇが俺とみーこの前に出る。
「死ね!」
その声とともに男が剣を振る。・・・速い!
こいつ、けっこう強いぞ。少なくともD級以上の実力はある。
とはいえ、相手が悪かったな。
「・・・ムラサキ流奥義、白虎砲・改!」
「ぐはっ!」
棒立ちのさきねぇの姿が一瞬ブレたかと思ったら、男が吹っ飛んでいた。
・・・見えなかったよ?
「さきねぇ、体は大丈夫なの?いきなりスリープモードは勘弁だよ?」
「あれは前のと違って出力抑えたバージョンだからね。平気平気。」
「・・・みーこ、あいつ「いたぞ!こっちだ!」
ち、さっきのやつの仲間か!
「ヒロ、後ろに向かって全速前進よ!」
「イエス、マム!」
後ろに向かって全速前進とは、つまり全力で逃亡することなのだが、さきねぇの辞書に『媚びる』『退く』『省みる』という文字は存在しないため仕方ないのだ。
せめて『省みる』くらいは登録してもらいたいもんだが。
俺はみーこをお姫様抱っこして走り出した。
「ど、どうするさきねぇ!あいつら追ってきてる!もしかしてみーこを誘拐しようとしてるんじゃ!?」
「とりあえずこのまま走るわよ!あそこにいけばなんとかなるわ!」
「なるほど、了解!」
「つーか私以外の女をお姫様抱っこなんて!あとでひどい目にあわせる!」
「ヒィィィ!緊急避難、緊急避難!カルアネデスの板!」
「うん、カルネアデスの板だけどね。どんだけ姉好きやねん。」
走り続けると、広場に出た。
まずい、今日は大市場!人ごみが半端ない!
後ろを見ると、人ごみを掻き分けている分だけ少しずつ差を縮められているのがわかる。
「どうするさきねぇ!」
「・・・私が少しの間だけ時間を止めるわ。その隙にあそこへ!」
「・・・えっと、よくわからないけど、わかった!頼んだ!」
さきねぇは俺達から離れ、人間離れした動きで建物を登っていく。
「ヒ、ヒイロ様!ムラサキ様は一体何を・・・!?」
「わからん!でも任せるしかない!」
あそこまで自信満々なんだ、なんとかなるだろう。
しかし、いつのまにスタンド使いになったんだあの人。
そんなことを考えながらも人ごみを掻き分けていると、さきねぇが建物の屋上についたようだ。
仁王立ちで思い切り息を吸っている。
そして!
「お・っ・ぱ・い!!!」
「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」
さきねぇの『ちょっと待ったー!』みたいなポーズから発せられた超大音量かつ意味不明なカミングアウトに、広場が静寂に包まれる。
・・・うん、確かに時間止まったわ。
何言ってんのあの姉。今まで気付かなかったけど、ひょっとして本当に病気なんじゃないだろうか。
「あ、あの、ヒイロ様?動かなくていいのですか?」
「・・・はっ!?そうだった!いこう!」
お姫様抱っこのまま走り出す俺。
まだ広場の時間は止まっているようだ。
さらに後ろからさきねぇの声が聞こえてくる。
「えー、これよりムラサキ・ウイヅキお笑いゲリラライブ、笑う角には福来るを開催します!まずは一発目、ツン3:デレ7の割合でしゃべるいっこく堂!CV伊藤静!」
なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!ちょうききてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
そんな新ネタあるんだったら最初に俺に聞かせろよこのデコスケ野郎!
俺にしては珍しく、心の中で血涙を流しながら罵声を浴びせつつ走り続けるのだった。
そのまま走り続けることしばし。
「よし、もうすぐ目的地だ!もうちょっと我慢してな!」
「あ、あの、ヒイ「いたぞ!ゲンガー隊長、こっちです!」
ちっ、もう追ってきやがったか!
襲ってきた男の仲間っぽいやつらが追っかけてきたようだ。
チラッと後ろを確認する。
あ、やば。ゲンガー隊長、霊圧超高そう。卍解使える可能性もありうる。少なくとも俺がどうこうできるレベルじゃないのを肌で感じる。
早く、速く!
俺は転がり込むように一つの建物の中に入る。
俺達が入ったすぐあと、追ってきたやつらも入ってくる。
俺はみーこをかばうように前に出る。
「手詰まりだな小僧。覚悟は出来ているな。」
「・・・チェックメイト。俺の勝ちです。黙って退くのであれば追いません。どうします?」
「何を言っている?こちらとの実力差もわからんのか?」
「いえ、わかりますよ。あなたと戦ったら即死でしょうし、他の方と一対一でやったとしても勝てるかどうか。」
「・・・にも関わらず、その余裕はなんだ?」
「いったでしょう。チェックメイト、と。積んだゲームを前にして、なぜ怯える必要が?」
「ふん、強がるな。こんな場所で何が出来る。それに、私がお前を誅するのに何秒もかからん。」
「・・・間違っている。間違っているぞゲンガー!」
「なに?」
俺のどこぞの廃嫡王子のようなセリフに眉をひそめるゲンガー一味。
「お前たちは俺たちをここに追い詰めたと思っているが、逆だ。俺がお前たちをここに誘導したんだ。」
「世迷いごとを。気でも狂ったか?」
「残念ながら正気です。もう一度聞きます。退く気はありませんか?」
「・・・もういい黙れ。」
剣をチャキと構えるゲンガー一味。
そっちがその気なら仕方ない。
そして俺は切り札を、やつらにとっての死神を切った!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
はい、この章はムラサキお姉ちゃんのアレが書きたくて書きました。それだけです。反省はしておりません。




