第百二十三姉 番外編『ヒロくん、森の中で亀さんと出会うの巻』
今回は本編に関係ない上に、設定話でもありません。
珍しくヒロくんピン話ですが『書きたくなったから書いた。後悔はしていない。』って感じです。
よかったら読んでやってください。
俺は今、一人でノエルの森(仮)の奥にきている。
目的は秘密特訓である。
ここでひたすら魔法を使ったり、新魔法を創造したり、ひたすら考え込んだりするのがマイブームだ。
とはいえ、さきねぇが俺から離れたがらないのであまり頻繁ではないけどね。
今日はさきねぇが珍しく駄々をこねずに『男が一人でやると決めたら見守るのが良い女ってもんよ!』とか言って街に遊びにいっている。
ノエルさんとマリーシアさんとカチュアさんで女子会らしい。
ノエルさんとマリーシアさんもいるのに『女子』会?とも思ったが、優しさでそこには触れなかった。
そして一人で特訓すること数時間。
さすがに疲れたし魔法量もカツカツになってきたので終了としようかね。
「さて、最後に川で水浴びでもして戻りますか。」
水浴び、心身ともにさっぱりするんだよね。
なぜなら全裸で入るからさ!
ここはノエルの森(仮)なので、人目を気にしないでいいのが素晴らしい。
俺はウキウキと川へ向かった。
少し歩くと川に到着、したのだが・・・
「なんだアレ?」
なにやらでかい物体が川に横付けされている。
数日前まではあんなのなかったけど・・・ノエルさんが持ってきたのかな?
不思議に思いながら近づく。
岩かこれ?小屋っつーか百人乗っても大丈夫な物置っつーか、それくらいの大きさがある。
・・・しかも、よく見ると小刻みに動いてる。それに、何か声が聞こえるような?
俺は巨大な岩の周りをグルッと回る。
すると。
「朱雀のやつ、ふざけやがって・・・何が『俺んちに集まってゲームやりましょうよ!』だよ。お前が来いよ。なんで一番足が遅い水陸タイプの俺が空飛べるお前ん家までいかなきゃなんねぇんだよ・・・」
声の元をさぐると、そこには巨大な頭がニョキッと岩から生えていた。
・・・もしかして、これ、亀か?
そこには、ゾウ亀なんて目じゃないレベルのでかさの亀がなにやらぶつぶつ呟いていた。
「つーかさー青竜も青竜だよ。お前速いんだから俺迎えに来いよっつー話だよ。白虎は、まぁ仕方ないよ?あいつも四神最速とはいえ陸上メインだからね?でもさー青竜は飛べんだからさー迎えこいよマジでー。ほんと気ぃきかないわあいつ。」
なんか、同僚っつーか友達の愚痴をひたすら零してるな。
「あーもう天気良すぎて甲羅もすっかり乾いちゃったしよー。カラッカラだよ。川じゃなくて湖とかで一服してぇよ。」
ふむ、人語を話すってことはニュニコーンさんと同じ霊獣の類か。
弱い魔物だったらこの森に入れないし、強い魔物なら結界が反応してるはずだし。
ちょっと話しかけてみるか。
「あのー。すいませーん。」
「あいつら俺のとこは寒いから行きたくないとかマジ生意気だよ。好きで北守ってんじゃねーっつーの。精霊王にいって部署替えしてもらおうかなーマジで。」
「あのー!すいませーん!近くに大きな泉があるんで案内しましょうかー!」
俺がでかい声で話しかけると、亀さんの独り言がピタリと止み、キョロキョロ見渡すと俺と目が合う。
「・・・・・・え、もしかして俺に言ってる?」
「えっと、はい。もしよかったら案内しましょうか?」
「・・・・・・・・・お前、俺のこと見えんの?」
「え!?見えちゃいけない系の方でしたか!?すいません、すぐに去りますので殺さないでください!」
「いやいやいやいや!別に殺さねぇから!いやー俺のこと見える人間とか久しぶりだわーマジで。何十年ぶりくらいだろうな。あんまよく覚えてねーけど。ほら、俺って亀じゃん?けっこう長生きなのよ。だから時間間隔とか曜日感覚とかけっこう適当でさー。」
「はぁ。」
ずいぶんフランクでマイペースな亀さんだな。
「えっと、自己紹介がまだでしたね。自分はヒイロ・ウイヅキっていいます。人間族っす。」
「お、名乗っちゃう?名乗っちゃう?じゃあ俺も名乗っちゃおうかな!んんっ・・・」
亀さんは大きな顔を数回揺らし、名前を口にする。
「我は水!我は黒!我は生と死を司るモノ!我は四神の一にして北を守護せしモノ!我が名は、玄武なり!」
「・・・おぉ~。」 パチパチパチパチ
亀さん、というか玄武さんは『決まった!』って感じのドヤ顔だ。
この世界の年よりはドヤ顔好き多いな。とりあえず拍手はしとこう。
「いやーまさか有名な玄武さんと会えるなんて恐縮っす。握手してもらっていいですか?」
「お?握手?いいぞいいぞ。ホレ。」
玄武さんが右前足をゆっくり動かすと、地面がズズン!と音を立てる。
重量感半端ないっすわ。
「しっかし珍しいなお前。今まで何人かの人間に会ったけど、全員いきなり斬りかかってきたけどな。玄武っつっても『知らん!』とか言われるし。けっこう傷ついたわ。あ、心の話ね。俺の体めっちゃ硬いから。傷とかマジつかないから。」
「いやー玄武さんったら有名じゃないっすか。四神の一人で北守ってるんですよね?四神の中で一番穏やかで一番最初に力貸してくれる優しい神様って評判っすよ!」
ゲームの話だけど。
「おいおいお前わかってんじゃん!人間の小僧のくせにわかってんじゃん!」
「いやー自分がわかってるっつーより、周りが玄武さんのことわかってないってだけっすよ。なんでしょうね、あの『朱雀が四神のリーダー!一番かっこいい!』みたいな風潮。フェニックスと違って火の鳥の癖に死ぬでしょあの人。」
「そう!そうなんだよ!マジ理解できないわ。あいつ鳥頭だからすぐ忘れるし、単なるゲーム好きのバカだから!」
「へ~。じゃあ青竜さんと白虎さんはどんな感じなんすか。」
「お前マジで詳しいな。そうなー、青竜はすげーナルシスト。『世界で一番我輩がかっこよくて強い!すごすぎる自分が怖い!』とかリアルでいっちゃうやつ。キモいけど扱いやすくて助かる。『世界で一番強くてかっこいい青竜くん、ちょっと魔物増えてきたから消してきて。お前が頼りだ!』とかいえば喜んで突っ込んでいくから。さすがB型。」
「四神にも血液型とかあるんすか!?」
「そりゃあるよ。」
衝撃の事実!青竜の血液型は『B』!
「んで白虎はー、四神で一番真面目かな。融通きかんけどあいつらよりは全然好き。同じ陸上メインだし。」
「白虎さんは完全にA型っすね。四神っても色々あるんすねー。」
そしてこの『気のいい普通のあんちゃん』としゃべってるような感覚。いいね。
後で白虎さんは紹介してもらいたいな。気が合いそう。
「しっかしお前はアレだな。俺が今まで出会った人間の中で一番才能ないなー。地味だし。びっくりするくらいオーラを感じないわ。」
「それ気にしてんすよーきついっすわー。」
神様までそういうこというの?泣くよ?
「あははは、わりぃわりぃ。よっし、お前のこと気に入ったし、なんかやるよ。何がいい?あ、力は無理な。お前じゃ俺の力のひとかけらでも受け取った瞬間に破裂するから。」
「こわっ!なんすかそれ。怖すぎていらないっすよ。」
「まぁまぁ。力以外ならなんでもいいよ。金でも地位でも名誉でも女でも。」
「玄武さんパワー、パネェっすね!」
でも、金・・・必要十分にはもってるしな。地位も名誉も、それに付随する責任とかがだるいし。女なんてそれこそいらんしなー。
「ん~、ありがたいお話ですけど、大丈夫っす。」
「マジで?なんでもいいんだぞ?」
「じゃあ・・・家族と友達が楽しく幸せに暮らせますように。」パンパン、ペコリ
手を二回叩き、玄武さんに向かって拝む。
「・・・わかった。一応精霊王に伝えておくわ。どうなるかはわからんけどな。(魂の揺らぎを感じないってことは、マジでそう思ってるってことか?人間族の小僧にしちゃ出来すぎというか、達観しすぎだろ。どんな人生歩んでんだこいつ。)」
「精霊王様とも知り合いなんすか!?やばいっすね!」
「知り合いっつーかサボリ魔の上司と優秀な部下みたいなもんだ。もちろん俺が優秀なほうな。」
会社?会社なの?株式会社iSEKAIの社員なの?
それから泉に案内する傍ら、色々話をしたり玄武さんの甲羅にのっけてもらったりした。
そして俺たち姉弟とノエルさんが初めて出会ったあの泉へ到着する。
「ここはどうっすか?」
「おーいいじゃんいいじゃん。多少手狭だが、川に比べりゃ全然マシ。ここでちょっと休んでくわ。」
「気に入ってもらえてよかったです。それじゃあ、俺はこれで。」
「おう、ありがとな。人間族の短い寿命じゃ二度と会うこともあるまいが、達者でな。あ、それと、一応俺と会ったことは誰にもナイショな。」
「わかりました。それでは、玄武さんもお元気で!」
玄武さんに挨拶をし、背を向け歩き出す。
いやーまさかあの玄武に会えるとは。さきねぇに自慢したいが、口止めされちゃったしな。残念。
「・・・・・・・・・ちょいまて!」
「え?」
急に玄武さんに呼び止められる。
「どうしたんですか?」
「んっと、えーどこやったかな・・・あ、あった。」
玄武さんが右前足を出し入れすると、爪の先にお守りがあった。
お守りの真ん中には、丸の中に『亀』と書いてある。
亀仙流かよ。
「これやるよ。俺が昔暇つぶしに作ったやつ。俺謹製で霊験あらたかなやつだから肌身離さずもっとけ。」
「いいんですか?わーありがとうございます!大切にします!」
「おう、そんだけだわ。じゃあな。」
「ありがとうございました!またどこかで!」
「・・・おう、会えたらな!」
こうして、俺と玄武さんは出会い、別れたのだった。
そして、その日の夕食後。
「・・・あれ?ヒロ、≪聖杯水≫の作り方変えた?」
「え?いや、いつもどおり作ったけど。なんか変?」
「変っつーか、なんかいつもより美味しい気が・・・?」
「そう?ノエルさんはどうですか?」
「ん~言われてみれば確かに美味しくなった、かも?」
「いや、絶対美味しくなってるって。聖杯水マイスターの私が言うんだから間違いない!」
「・・・うさんくさいけど、さきねぇがそういうんなら美味しくなったんだろうね。」
「魔法使いとしての腕が上がったということさ。やったなヒイロ!」
「えへへ、ありがとうございます。」
≪聖杯水≫がいつもよりちょっと美味しくなったとさ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
久しぶりに東京魔人学園をやっていたら、急に玄武の話を書きたくなりました。
玄武さんの「好きで北守ってんじゃねぇっつーの。」はとても気に入ってる台詞です。書いたの自分ですけど。
玄武さんからもらったお守りをヒロくんは≪聖杯水≫がちょっと美味しくなるもの程度にしか思っていませんが、実際は
【玄武のお守り レベル1/5】
・所有者の水・氷魔法の威力が5%アップ(レベルMAXで25%)
・所有者の水・氷魔法の魔力消費量が5%ダウン(レベルMAXで25%)
・所有者の水・氷魔法防御力が5%アップ(レベルMAXで25%)
・所有者の体力・魔法量回復速度が5%アップ(レベルMAXで25%)
・所有者の成長とともにお守りの効果も上昇する。
・非売品かつ一点もの(今のところ所有者は大陸の歴史上ヒロくんのみ)
という超絶レアアイテムです。ノエルさん所有の物ですら15%アップが限界です。
もちろんヒロくんはそのへん鈍感なので死ぬまで気付きませんが(笑




