第百十七姉「・・・なんか明日の朝になったら殺されてそうな台詞ね。」
待ってくださっている方がいらっしゃるかはわかりませんが、お待たせしました。
新章でございますが、次話以降はアホな会話しかしません。
このノリについてこれるかな?
それと、次の更新は二月からとかいったくせに我慢できずに更新してしまいました。稀によくある。
「コホッ・・・ん、んん。」
「ん? エルエルどったん?」
「いや、なんかのどの調子がちょっとな。」
「風邪ですか?最近流行ってるみたいですし。とりあえず≪聖杯水≫飲みますか?」
「ありがとうな。なに、きっと誰かが私の噂をしているんだろう。」
「うん、きっと危険なロリペド野郎でしょうね。」
「「なぜそこに限定する!?」」
そんな感じでいつものようにワイワイやりながら過ごしていた。
その時はまだ、事態が深刻化するとは思っていなかったのだ。
「ゴホッゴホッ・・・」
「ちょっと、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ・・・ゴホッ。」
数日して、ノエルさんの咳の回数が目に見えて多くなってきた。
「ノエルさん、教会にいって治療を受けたほうがいいんじゃ・・・」
「いや、こんなもの時間が経てばすぐ治る。二人には申し訳ないが、移ると悪いからあまり近づかないほうがいいぞ。」
「いまさらマラサイでしょ。今日の家事はヒロがやっておくからゆっくり寝てなさい。ゴーベッド!」
「いや、さきねぇもご飯くらいは作ってね?」
「二人にそんな負担ゴホッゴホッ!」
「ほらほら、いいからおばあちゃんは暖かくして横になってなさいな。」
「ノエルさんは働きすぎなんですよ。体調が悪い日くらい俺達に任せてください。」
「・・・すまんな。ではお言葉に甘えてちょっと横になってくるか。」
「一人でいけます?おぶっていきましょうか?」
「バ、バカモノ!そんな恥ずかしい真似できるか!私は一人で部屋に戻る!」
「・・・なんか明日の朝になったら殺されてそうな台詞ね。」
「なぜだ!?」
それが様式美というものなのです。
ふらふらしながらも、部屋に向かい歩いていくノエルさん。
「むぅ、心配だね。どうすればいいんだろうか。ポーションでは治らないだろうし・・・」
「まぁ暖かくして栄養あるもの食べてゆっくり寝てれば治るでしょ。」
「そだね。」
なんだかんだいいながら、さきねぇも普段の姿からは想像もつかないような美味しさと栄養を両立させた超姉料理を用意して振舞ったのだった。
そして次の日の朝。なにか物音で目が覚める。
ノエルさんが元気になって徘徊、いや、動き出したんだろうか。
心配なのでちょっと様子を見に行く。
リビングにつくと、そこには。
「ノ、ノエルさん!?」
「はぁ・・・はぁ・・・」
床に倒れているノエルさんの姿があった。
急いでノエルさんをソファに横にしたあと、さきねぇを起こす。
お湯を用意したり氷枕を作ったりしてノエルさんの容態が一時的に安定したあと、ノエルさんをさきねぇに任せ、すぐにアルゼンに向かう。
向かう先は教会。アメリアさんのところだ。
本来なら病院に緊急搬送するべきなのだろうが、日本でいうところの病院というものは王都などの栄えた大都会などのごく一部にしか存在しないのだ。
その点、大抵の街に教会はあるし、教会には回復魔法の使い手が常駐しているし、薬士もいる。
地方の診療所的な意味合いもあるらしい。
だから何かあったら教会にいけ、と前にノエルさんから教わった。
まさか自分達ではなくノエルさんのために教会に突撃する事になるとは。
≪水命強化≫の魔法を併用して全力で走るため、普段は1時間かかるアルゼン道も30分かからずに門に到着する。
「おお、ヒイロくんじゃないか。どうした朝っぱらからそんな血相を変えて。」
「すいません今急いでるんで!」
「お、あ、ああ。」
門番さんたちへの挨拶もそこそこに教会目指して突っ走る。
人を避けながらも全力疾走する今の俺の動きはアイシールド21と間違われても仕方ないレベルだ。
そして、体当たりする勢いで教会の門を開ける。
どうもお祈りの時間だったらしく、大勢が目を丸くして俺を見ている。
でもそんなの関係ねぇ!
「すいません!アメリアさんいますか!緊急事態です!すぐ来てください!」
「あら、ヒイロくんじゃない。どうしたのこんな朝早く。」
「アメリアさん!ボソッ(すぐにきてください!ノエルさんが倒れたんです!どうしたらいいかわからなくて!)」
アメリアさんは俺の言葉に一瞬目を丸くしたと思ったら、太ましい肉体に反比例した鋭い動きを見せる。
「すぐ用意をするわ!ヒイロくんは外で待ってて!」
「はい!お願いします!」
いわれたとおり外で待っていると、宣言どおりすぐに用意を終えたアメリアさんが馬に乗ってきた。
「ヒイロくん、乗って!すぐに向かうわよ!」
「いえ、俺は走っていきますからすぐにいってください!二人乗りより一人乗りのほうが早いでしょ!?」
「それは・・・わかったわ。先にいってるわ!気をつけてね!」
「アメリアさんもお気をつけて!」
馬を走らせたアメリアさんの後を走って追いかける俺。
後で聞いた話だが、疾走する馬と併走する俺を見た街の人々は『鈍器姉弟は姉だけじゃなくて弟もすごかったんだな』と口にし、俺の評価が上がったらしいが今はそれは割愛する。
結局最後までは体力が持たず、アメリアさんに遅れること10分、息も絶え絶えにノエルさん邸に戻る。
さきねぇは難しい顔でノエルさんの部屋の前で佇んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・どうだった?」
「まだ。今部屋で診察してるわ。」
「はぁ、はぁ、そっか・・・」
診察が終わるまでできることはないと悟った俺達姉弟はリビングに戻り、お茶を飲んで一息つくことにした。
いざなにか動こうとしたときに疲れていて動けませんでした、では意味がないのだ。
休めるときに休む。冒険者の鉄則だ。
「ノエルさん、大丈夫かな・・・」
「まぁ全身の穴という穴から血が噴出してる、とかじゃないから大丈夫でしょ。」
「全身の穴という穴から血が噴出してたら、それはもう手遅れ以外何者でもないだろ。」
姉弟でそんな恐ろしい話をしているとアメリアさんがこちらにやってきた。
「どうでした?なにか危険な病気とかじゃないですよね?」
「う~ん、そうねぇ・・・」
困った顔をして歯切れの悪い返事をするアメリアさん。
「メリおばちゃん、ちゃんと話して。じゃないと何をすればいいのかもわかんないわ。」
「・・・わかったわ。ノエル様は嫌がるでしょうけど、あなた達にはちゃんと話しましょうか。」
アメリアさんにもお茶を入れ、三人でいったん落ち着く。
「じゃあ、話す前にちょっと聞くわね。ノエル様はどれくらいから体調が悪かったの?」
「えっと、三日くらい前から咳をしだして・・・」
「んで昨日は体調悪そうだったから部屋で休ませてたのよ。」
「そしたら、朝になって床に倒れてるノエルさんを発見して。すぐにアメリアさんを呼んだ次第です。」
「なるほどね~。」
ずずっとお茶を飲むアメリアさん。
なんでこんな落ち着いてるんだよ。なんかむかついてきた。
「ノエル様はなんて仰ってた?」
「時間が経てば治るから心配するな、と・・・」
「具体的にどんな病気とかはいってなかったのね?」
「はい。・・・だからなんなんですか!早く教え「ヒロ。落ち着きなさい。私達が騒いだところでどうにもなんないでしょ?手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に、よ。」
・・・いわれてみれば確かにそうだ。
アメリアさんとの会話もきっと必要な事情聴取なんだろう。
なにやってんだ俺は。医者に喧嘩売ってどうすんだ。
「・・・すいませんアメリアさん。ついカッとなって。」
「ふふふ、いいのよ。ノエル様を思ってのことだもの。じゃあ結論から言うわね。ノエル様は・・・」
喉がゴクリと鳴る。
俺か、さきねぇか、もしくは両方か。
「ノエル様は、『エルフ風邪』よ。」
「「・・・えるふかぜ?」」
「ええ。エルフだけがかかる珍しい病気ね。」
「な、治るんですか?」
「当然よ。エルフしかかからないってだけで、単なる風邪だもの。」
「「・・・はぁ~。」」
一気に気が抜けた。よかったよぅ!
「ノエル様も気付いてたのよ。だから時間が経てばすぐ治るって仰ったんだと思うわ。」
「そっか・・・でも、それだったらそうといってくれればいいのに。」
「あーそれに関してはノエル様のプライドというか・・・」
プライド?どう関係が?
「エルフ風邪の主な患者は未成年のエルフ、つまりエルフの子供がかかる病気なのよ。大人はまずかからないんだけど・・・」
「・・・えっと、つまりノエルさんは、子供しかひかないエルフ風邪をひいたから、恥ずかしくて言い出せなかった、と?」
「ええ、多分そうでしょうね・・・」
苦笑いするアメリアさんの前で同時にこめかみを押さえる俺達姉弟だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
不治の病かと思った?ただの風邪だよ!
私は『なんの伏線もなく唐突に不治の病にかかるor不治の病持ちだったことが判明する』展開が好きではありません。特にいちゃラブ作品ではダメ!絶対!
ヒロくんは基本的に冷静で穏やかですが、家族(両親、ムラサキさんに加えノエルさん)に関する大事だと簡単にキレます。瞬間沸騰機です。
逆にムラサキさんは普段から喜怒哀楽120%でゴーイングマイウェイですが、ヒロくんの状態が不安定な場合のみ安西先生並みの圧倒的な安定感を発揮します。




